言語聴覚士が扱う症状とリハビリの方法(構音障害・失語症・摂食・嚥下障害)

言語聴覚士は、構音障害・失語症・摂食・嚥下障害とった症状を扱い、リハビリを行います。

リハビリを行うためには、症状の特徴・原因を知らなけらば難しいでしょう。

この記事では、言語聴覚士が扱う症状とリハビリの方法について紹介します。

構音障害

構音(こうおん)とは「言葉を発すること」です。

言いたい言葉が正しく発音できない状態のことを構音障害といい、原因などによって3種類に分けられます。

構音障害の種類
  • 運動性構音障害
  • 機能性構音障害
  • 器質性構音障害

運動性構音障害

脳の損傷などによっておこり、脳卒中や事故の後遺症としてよくみられます。

話をするのに必要な神経や筋肉が損なわれることによって、「ろれつがまわらない」状態になります。

また、声がしゃがれたり発音が不明瞭になったりして、会話をしていても相手に話が伝わりづらくなり、重度になると、「あ・い・う・え・お」の口の形もできなくなります。

脳卒中などの後遺症で起こる失語症とよく間違えられることがありますが、構音障害の場合は話すこと以外の「聞く・読む・書く」という言語能力は保たれています。

また、失語症は、言いたいことを言葉で考えることも難しくなりますが、構音障害ではそのようなことはありません。

機能性構音障害

病気や麻痺、口の中の異常やケガなどとは関係なく、発音がうまくいかない状態のことです。

原因ははっきりとわからず、幼少のころからみられますが、幼児の間は「あかちゃんことば」のように発音がうまくいかないことも多いので、見過ごされることがあります。

小学校高学年まで訓練をしないでいると、成人まで発音の異常が残るといわれています。

個人によってうまく発音できない音があり、そのほかの音は正常に発音できます。

たとえば、イの列「イ・キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リ」また、カ行やサ行、ラ行などに微妙なきしみのような音があらわれたり、特定の音が他の音に置き換わってしまう場合もあります。

器質性構音障害

口やのど、鼻などに何か病気などの問題があってうまく発音できない状態のことです。

原因としては、

  • 唇や口の上が裂ける口唇口蓋裂
  • 舌の形に問題がある巨舌症や小舌症
  • 脳性まひや聴覚障害

があげられます。

構音障害のリハビリ

構音障害の方へのリハビリテーション

脳卒中や交通事故などの後遺症としてよくみられる構音障害(運動性構音障害)の場合、脳の神経が損傷し、言葉を発するのに必要な神経や筋肉に不具合が生じるためにおこります。

そのため構音障害のリハビリは、うまく働かない部分をできるだけ元のように動かせるよう訓練します。

また、回復が難しい場合は、その人にあった他の手段を考え日常生活においてコミュニケーションができるようにしていきます。

構音障害の検査

リハビリを行う前に、まずはどのような問題があるかを検査します。

検査は主に言語聴覚士が行い、歯科医が行うこともあります。

話した内容について、

  • 聞き手がわかる方
  • 時々わからない単語がある方
  • まったく了解ができない方

など聞き手がどのくらい理解できるかを5段階で判断します。

また、声の粗さや息づかいなど声の質や、「パ行」「サ行」など代表的な音を繰りかえし言ってもらい、発声、舌や唇の動きなどを調べます。

構音障害のリハビリの内容

誰でも緊張するとうまくしゃべれないことがあるため、まずは言語聴覚士とコミュニケーションをとりゆっくりリラックスできる環境をつくります

また、脳卒中や怪我の後遺症などでしっかりした姿勢をとることがむずかしい場合もありますが、頭とあごの安定を確保してリハビリを行います。

呼吸の訓練では、急に息を止めたり吐いたり、できるだけ長く息を出せるように練習します。

唇や舌、頬などを動かして正しい発音の形をさがし一つひとつ音を出していく、というようなこともします。

また、コミュケーションの手段としてメモ帳やホワイトボードなどの活用をしたり、重症の方の場合には身振りや五十音図の使い方を練習したりします。

失語症とは

失語症は「言葉を失う」という障害で、発症すると「言葉を作り出す・理解する能力」が損なわれます

この様子は、言葉がわからない外国へ行ったときの状態にたとえられ、

  • 言いたいことが話せない
  • 書けない
  • 話されていること
  • 書かれていることがわからない

といったことが起こります。

失語症にはさまざまな症状があり、

  • 聴く
  • 話す
  • 読む
  • 書く
  • 計算

という側面から検査を行い、症状と重症度をはかります。

1つの能力だけが低下しているというのはまれで、いくつかの症状が重なったり、すべての能力が低下したりします。

失語症の原因

言語機能をつかさどるのは、大脳の言語中枢という場所です。

ここが脳梗塞や脳内出血などで障害されると失語症がおこります

脳への酸素は血液が運んでおり、血管がつまったり破れたりして酸素が供給されなくなった場所では、脳細胞が死んでしまいます。

どのくらいの広さで言語中枢の場所が損なわれるかによって、失語症の重症度がきまってくるといわれています。

前頭葉にある言語野ではおもに

  • 言葉を作り出す機能
  • 側頭葉の言語野では言葉を聞いて理解する機能
  • 頭頂にある言語野では文字や計算の意味を理解したり書いたりする機能

があり、損傷する場所によってどのような症状が出るか変わってくると考えられています。

失語症のリハビリ

訓練により言語機能を回復させる

よく誤解されますが、「外国語を勉強するように、再び言葉を覚えていく」ことが失語症のリハビリではありません。

失語症は、脳卒中などで脳の言語中枢が損なわれることによって、言葉を作り出す・理解する能力が低下する病気で、脳の神経細胞は一度破壊されてしまうと再生しません。

しかし、別の場所にある神経細胞のネットワークが、代わりをつとめるようになることもわかってきています。

失語症のリハビリテーションは、訓練によって刺激を与え言語機能のネットワークが再形成するのを助けることだと考えられ、近年では長い期間の積極的な訓練によって、失語症により失った言語の機能を大幅に回復させる可能性があるとわかってきています。

失語症の検査

まずは言語訓練によって脳に適切な刺激を与えるために、患者さんが持っている・失っている能力を検査します。

脳神経外科などで失語症と診断された後に、

  • 聴く
  • 話す
  • 読む
  • 書く
  • 計算

という観点から26項目にわたって残っている機能をはかります。

「聴く」検査では、たとえば、「リンゴ」という単語を聞いてリンゴの絵を指させるか、「ハサミを灰皿の上に置いてください」という文を聞いてその動作が理解できるかどうか、などをテストします。

失語症のリハビリの内容

失語症のリハビリは発症してからできるだけ早く開始することが望ましいとされ、救急病院などに言語療法士の配置が増えています。

多くは発症後の症状が重く、容体が安定するとリハビリ体制がある病院に転院し、あらためて検査をしてからカリキュラムを組み、本格的なリハビリを開始します。

その際、できることから訓練をはじめる方がよいとされています。

たとえば、ひらがな・カタカナより漢字の方が読みやすい場合は、漢字を介してコミュニケーションをとります。

発症してから数ヶ月はリハビリによる回復がみられ、しだいに回復の傾向は緩やかになるため、言語だけでなく生活に適応する訓練などを行い、総合的なコミュニケーション能力の向上・維持を目指します

摂食・嚥下障害とは

嚥下(えんげ)とは食べたものを噛んで飲みこむことです。

摂食・嚥下障害とは、ものを食べたり飲んだりするときにむせて飲みこめなくなったり、食事の後でも口の中にものが残っていたり声がしゃがれたりすることです。

摂食・嚥下障害の原因

摂食・嚥下障害は、

  • 食べ物をかむ
  • 飲み込んだりする筋肉の力が弱まる
  • 食べたものを舌でまとめる力が落ちる

といった場合におこります。

加齢をはじめ、

  • 歯の状態が悪い
  • 神経や筋肉の病気によって麻痺がある
  • 脳卒中の後、ガンなどで舌や喉に腫瘍ができた場合

などに生じ、薬を複数飲んでいる場合、その副作用でおきることがあります

また認知症によって、食べ物を食べ物としてわからない場合も摂食・嚥下障害にふくまれます。

接触・嚥下障害がすすむと、飲み物や水分の多いものを取りたがらなくなったり、食事をするとすぐ疲れてしまうため食欲が低下したりすることもあります。

誤嚥性肺炎の危険性

摂食・嚥下障害の際に、一番気をつけなければならないのが誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)です。

ふつう食べ物が食道ではなく気管に入ってしまうと、それを取り出そうという反射(嚥下反射)が働き、むせて咳きこみ気管から排出しますが、嚥下機能が低下して反射がうまく働かないと気管に入り肺炎を起こしてしまうことがあります。

これを誤嚥性肺炎といい、食べ物だけでなく唾液が気管に入っても発症することがあります。

また、嚥下反射の機能が低下していると夜眠っている間に少しずつ唾液が気管の中に入ってしまうことがあり、体力がない患者さんや高齢者の方の場合、生死に関わる大変危険な病気です。

摂食・嚥下障害のリハビリ

さまざまなスタッフと連携

摂食・嚥下障害では、さまざまな医療スタッフが治療やリハビリテーションに携わります

全身状態の管理する医師をはじめ、

  • 歯など口腔ケアをする歯科衛生士
  • とろみのついた嚥下食など食事を管理する栄養士
  • 患者さんの全体的なケアをする看護師

などが総合的にケアしていきます。

その中で言語療法士は、実際に食事をとれるように訓練を行います。

食事は命の支えとなり生きる上での喜びとなる一方、うまく嚥下ができないと生死に直結する誤嚥性肺炎を引き起こす危険性もあります。

嚥下訓練は丁寧さとねばり強さが求められる仕事で、患者さんの状態をよく見ながら、食事の形態や量を医師や栄養士と検討していきます。

摂食・嚥下障害のリハビリ内容

摂食・嚥下障害の場合、まず食べることに必要な器官を動かし、機能を高める基本的な訓練を行います

食事中にむせる方は呼吸が浅いことが多いので、

  • 大きく息を吸って吐き出す呼吸訓練
  • 喉の動きをよくするために唾をためて飲みこむ訓練
  • 痰がきちんと出せるよう咳をする訓練

をします。

また飲みこみの機能を改善するため、言語療法と共通の訓練も行います。

実際に食べ物を用いて訓練することもあります。

ゼラチンゼリーのようなものからはじめ、少しずつとろみがあって喉の通りがよい食べ物の種類を増やしていきます。

食事の訓練をする際は、患者さんの身体の状態にあわせ、食べ物が気管に入り込まないような体位をさがしたり、食べやすい食器を吟味したりすることも大切です。

またできるだけ食欲をさそい、リラックスして訓練にのぞめるような雰囲気づくりも重要です。

「言語聴覚士が扱う症状とリハビリの方法」のまとめ

言語聴覚士が扱う症状として、構音障害や失語症、摂食・嚥下障害が挙げられます。

構音障害のリハビリ方法として、コミュニケーションをとり、ゆっくりリラックスできる環境で行います。

呼吸の訓練では急に息を止めたり吐いたり、できるだけ長く息を出せるように練習します。

失語症のリハビリ方法として、訓練によって刺激を与え、言語機能のネットワークが再形成するのを助けることが重要です。

摂食・嚥下障害のリハビリ方法として、食べることに必要な器官を動かし機能を高める基本的な訓練を行い、実際に食べ物を用いることもあります。