理学療法士の年収・給料はいくら? 勤務先別の年収も解説
とはいえ、医師や看護師など他の医療関係の職業と比べてみると、特別に高収入が目指せる職業ではないともいわれます。
ここでは、理学療法士の年収や待遇について、勤務先別の違いにも触れながら詳しく解説します。
理学療法士の平均年収・給料の統計データ
理学療法士は、医療や介護の現場において、リハビリを先導する重要な立場にある職業です。
専門知識を身につけて、国家資格を取得しなければ就くことはできません。
このため、収入面でも期待する人もいるかもしれませんが、理学療法士の平均年収は一般的な会社員と同程度です。
他の医療関係の職業と比べても、特別に高給が得られる職業とはいえません。
ただし、高齢者が急速に増加する中でリハビリのニーズの拡大が見込まれているため、今後は理学療法士の給料や待遇が改善される可能性もあります。
理学療法士の平均年収・月収・ボーナス
賃金構造基本統計調査
厚生労働省の令和5年度賃金構造基本統計調査によると、理学療法士・作業療法士の平均年収は、35.6歳で433万円ほどとなっています。
出典:厚生労働省「令和5年度 賃金構造基本統計調査」
※平均年収は、きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額にて計算。
※本統計はサンプル数が少ないため、必ずしも実態を反映しているとは限りません。
理学療法士の手取りの平均月収・年収・ボーナスは
厚生労働省の統計調査から、ボーナスは月収の約2.5か月分と推定されます。
理学療法士の平均年収を430万円として計算すると、平均月収は約29万円、ボーナスは約70万円となります。
そこから住民税や所得税、社会保険料などを差し引いた手取りは、仮に扶養者のいない独身の場合、月に約23~4万円、ボーナスが約56万円です。
実際の手取りを見るとさほど高くないように見えますが、これは理学療法士は他の職業に比べると20代~30代の割合が非常に高いことが原因と考えられます。
若年層が大半を占めているため、職業全体としては年収が低く見えがちですが、同世代の年収を比べると特別手取り額が少ないわけではありません。
理学療法士の初任給はどれくらい?
理学療法士の初任給は、施設によって多少の差があるものの、約21~23万円が相場とされています。
職業全体で見た際の大卒者の平均初任給が22万円前後、専門学校卒業者が20万円前後であることを踏まえても、理学療法士は同等の初任給がもらえるといえるでしょう。
しかし、理学療法士の収入の特徴として、年齢が上がっても大きく昇給しづらい面があるといわれています。
また、理学療法士の就職先の多くは医療機関ですが、国公立病院の初任給は、私立の施設に比べて低めである傾向があります。
一方で、勤続した場合の昇給率は傾向にあり、長年働いていると私立病院の年収を抜く場合があります。
私立病院では初任給は高めに設定されていますが、国公立の病院に比べて昇給率は低い傾向にあるため、注意が必要です。
理学療法士の勤務先の年齢別の年収(令和5年度)
理学療法士の年収を年齢別に見ると、年齢の上昇にしたがって、年収も上がっています。最も年収が高い世代は、55~59歳の589万円です。
全年代の平均年収は433万円となっています。
上記グラフの基タイトルは「理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士」で作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士など他職業を含むデータです。
理学療法士の勤務先の規模別の年収(令和5年度)
理学療法士の年収は、勤務先の規模によってあまり変化がありません。
10〜99人規模の事業所に勤める理学療法士の平均年収は436万円、100〜999人規模は427万円、1,000人以上規模は442万円、10人以上規模平均は433万円となっています。
上記グラフの基タイトルは「理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士」で作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士など他職業を含むデータです。
※賃金構造基本統計調査より作成。本統計は調査の母数が少ないため、必ずしも実態を反映していない可能性があります。
理学療法士の福利厚生の特徴は?
医療機関で働くことが多い理学療法士は、各種手当をはじめ、福利厚生は比較的恵まれた環境で働くことができます。
以下で、理学療法士の福利厚生の特徴について紹介します。
福利厚生は充実しているケースが多い
医師や看護師をはじめとする医療スタッフは、高いスキルをもつ専門資格職であり、代替が効きにくいため、労働団体の権力が経営陣よりも強いという職場が大半です。
このため、理学療法士についても、その福利厚生制度は充実しているケースが多いといえます。
交通費が支給されるのはもちろん、資格手当や住宅手当などが付くところも珍しくありません。
さらに、施設によっては、白衣や靴の支給があったり、制服のクリーニング代の補助があったり、勤務先病院の診察を無償で受けられたりすることもあるようです。
こうした費用が自己負担かそうでないかは、長い目で見ると年収の総額に大きく影響します。
就職先を選ぶ際には、単純に給料の額面だけを見るのではなく、こうした福利厚生制度まで踏まえて「実際に手元に残る金額」を比較検討してみることも大切です。
国公立病院の方が福利厚生が手厚い傾向
医療法人などが運営する民間施設よりも、国や地方自治体が運営する公的施設のほうが、各種福利厚生制度が手厚い傾向にあります。
とくに公的施設のほうが、講習会や研修への参加を公費として支出してくれたり、補助金を出してくれたりすることも多いです。
新しい知識や技術を身につけるために、職場がどのくらい支援してくれるかという点も、就職先を選ぶ重要なポイントになるでしょう。
理学療法士の給料・年収の特徴
ここからは、理学療法士の給料・年収の特徴について、さらに詳しく説明していきます。
特徴1.国公立病院と私立病院で傾向が異なる
病院は、理学療法士全体の約6割が勤める、最もメジャーな就職先です。
ただし、大学病院や市立病院、厚生年金病院などの公立病院と、医療法人が運営する民間の私立病院では、給料事情に異なる傾向がみられます。
公立の施設では、初任給については私立施設を下回ることが多い一方、その後の昇給率については、私立施設より高い傾向にあります。
反対に、私立施設では、公立施設より初任給が高く設定されている一方、その後の給料の伸びはあまり期待しにくいようです。
どちらのほうがいいというわけではないため、自分の働き方やライフスタイルに合った就職先を選択しましょう。
ひとつのところに長く勤め続けたいという意志が固いなら公立施設のほうが、複数の職場を経験して多様なスキルを学んでいきたいなら民間施設のほうが、それぞれ適しているといえるかもしれません。
特徴2.学歴による待遇差はほぼない
一般的な職業の場合、大卒や高卒といった最終学歴によって、ある程度は待遇に差がつけられているケースがほとんどです。
しかし、理学療法士については、国家資格を取得した時点で各人の保有する知識やスキルは横一線とみなされるため、そうした傾向はほとんど見られません。
ある意味では非常に平等な制度といえますが、大卒者についてはやや不満が残るかもしれません。
ただ、国立病院をはじめとした公的施設では、そもそも大卒でないと採用にエントリーできないケースもよく見られるため、4年制大学を卒業するメリットがないわけではありません。
大学病院や厚生年金病院、労災病院、市民病院といったより大きな病院で働きたいという場合は、4年制大学を卒業しておいたほうがよいでしょう。
特徴3.能力給を取り入れている職場もある
理学療法士の給料は年功序列の傾向が強く、基本的に勤続年数に応じて昇給していきますが、民間施設のなかには、理学療法士の給料の一部に能力給を導入しているところも見られます。
就職説明の際に提示された年収プランが相場よりだいぶ高い場合、この能力給を含めた数字となっている可能性があります。
過去の昇給例や人事評価制度などをあらかじめ確認したほうがよいでしょう。
能力給の場合、採用時に高い年収を提示されていたとしても、毎年安定して昇給できるわけではありません。
リスクがあるのは間違いありませんが、その反面チャンスも大きく、実力次第では同世代の理学療法士より高収入を得ることもできるかもしれません。
年齢別に見る理学療法士の給料・年収
理学療法士の給料・年収は、年代によっても変わってきます。
20代から40代までの理学療法士の収入の特徴を説明します。
20代の理学療法士の場合
賃金構造基本統計調査より、理学療法士の年収を年齢別に見ると、20~24歳の平均年収は342万円、25~29歳の平均年収は387万円です。
20代の内は経験や年齢による昇給がなされていないことが多く、一般的な職業と比べると年収が低めになっています。
30代の理学療法士の場合
30~34歳の平均年収は421万円、35~39歳の平均年収は458万円です。
理学療法士としてのキャリアを形成する時期であり、徐々に年収は上がってきます。
ただし、ほかの職業に比べると、理学療法士は経験年数が増えても昇給率がアップすることは少なく、年収は大幅に上がることはなく、昇給率もゆるやかです。
40代の理学療法士の場合
40~44歳の平均年収は471万円、45~49歳の平均年収は505万円です。
勤務先によって条件は異なりますが、この年代でも昇給率はゆるやかであり、経験を重ねても大きな年収アップはありません。
一方で、リーダーや管理者などの立場になると手当が増え、給料がアップすることがあります。
施設別に見る理学療法士の給料・年収
理学療法士には、医療機関を中心に、さまざまな勤務先があります。
ここでは、代表的な勤務先別の給料・収入の特徴を説明します。
医療施設・病院勤務の理学療法士の場合
総合病院やリハビリテーション病院、ケアミックス病院、クリニックなどの医療施設に勤務する理学療法士の年収は、350万円~450万円が相場です。
大学病院や厚生年金病院、労災病院、市民病院など、より規模の大きな職場だと、年収が高くなる傾向があります。
10年以上勤め続ければ、年収500万円前後に達するケースもありますが、それ以上大きく収入を伸ばすためには、役職者に昇進することが条件となるでしょう。
介護施設勤務の理学療法士の場合
介護老人保健施設や有料老人ホーム、グループホームなど、介護施設で働く理学療法士の年収は、400万円~550万円前後が相場となっており、全体的に医療施設よりも高給です。
その要因は主に需要と供給のバランスにあります。
高齢化の進展によって介護ニーズが高まり、理学療法士の求人数も増加傾向にある一方、介護業界はつらい、しんどいというイメージが強く、就職希望者の数はあまり伸びていません。
このため、資格さえあればいきなり年収400万円前後が得られるところも珍しくなく、とくに体力的負担の大きい訪問介護系・訪問リハビリ系の事業所は、高待遇のところが目立ちます。
高収入を狙うなら、介護施設への就職は非常に有効な選択肢のひとつです。
また、介護施設で働く場合には、介護支援専門員(ケアマネージャー)などの介護関連の専門資格を持っていると手当が加算されるほか、就職の際も有利となります。
福祉施設勤務の理学療法士の場合
児童福祉施設や障がい者支援施設など、福祉事業関係の事務所に勤める理学療法士の年収は、300万円~400万円くらいが相場であり、医療施設よりもやや見劣りする水準です。
また、求人募集の大半はアルバイトやパートなどの非正規雇用であるため、経済的には安定しにくいかもしれません。
ただ、近年は障がいを抱える子どもについて、学校の授業終了後から保護者が仕事を終えるまで預かる「放課後等デイサービス事業」のニーズが高まっています。
そのようなサービスを提供する施設で、理学療法士資格を持つ正規雇用の募集も増加傾向にあります。
理学療法士の年収が低いといわれる理由は?
理学療法士は「年収が低い、長く働いても収入があまり増えない」といわれることがあります。
ここでは、その要因について見ていきましょう。
理学療法士の国家資格所有者が増え続けている
理学療法士の国家資格所有者は毎年10000人以上おり、近年は需要に対して理学療法士が多くなっています。
日本理学療法士協会と厚生労働省の調査によると、2011年には累計9万人程度であった理学療法士は、2023年度には213,735人と約2.4倍になっています。
理学療法士の需要は年々高まりつつありますが、現在では供給過多になってしまっていることから、理学療法士の年収が減少傾向にあると考えられています。
厚生労働省「民間給与実態統計調査(e-Stat)国家試験合格発表」
法律によって決まる給料
理学療法士が施術をして得られる報酬は、「診療報酬制度」という制度で決まっています。
診療報酬制度は、厚生労働大臣が定めた医療行為一つひとつの医療点数にもとづいて、報酬金額が決まるしくみです。
しかし国の医療費は少子高齢化により年々増加し、財政を圧迫していることから、診療報酬は近年下がる傾向にあります。
そのため理学療法士の給料が上がりづらい状況となり、年収が低めのまま推移していると考えられます。
理学療法士が収入を上げるためには?
厳しい状況の中でも、理学療法士が収入を上げたいと考えた場合、どのような行動をとればよいのでしょうか。
理学療法士が収入アップにつながる可能性がある方法を紹介します。
管理職にキャリアアップする
理学療法士が収入を上げるには、ひとつの場所に長年勤め続けて役職者に昇進する方法があります。
ただし、医療現場の高度化、専門分化に伴い、理学療法士は深い知識が求められています。
キャリアアップするには、資格を取って終わりではなく、常に研究・勉強していく姿勢が必要です。
認定理学療法士や専門理学療法士のような、さらに上位の資格を取得することも検討すると良いでしょう。
また、体力負担を求められる理学療法士を一生続ける方法として、施設のマネジメント業務に関わる道もあります。
その場合、リハビリ現場から離れることが多くなり、経理や経営など異なる分野の勉強が求められます。
転職する
理学療法士が収入アップするために、訪問介護事業所など、ハードだけれども高給が期待できるところに転職する方法も考えられます。
近年は高齢化にともなう老人福祉施設や介護施設での求人のほか、教育機関やスポーツ・フィットネスなどの保健関係など、理学療法士への幅広いニーズに応じて働く場も増えています。
医療現場で働く場合は専門・認定・専門理学療法士制度、介護施設で働く場合、介護支援専門員(ケアマネージャー)、スポーツ分野であればスポーツ医学など働く分野に応じた専門資格が有利となる可能性があります。
独立・開業する
リスク・難易度ともにかなり高くなりますが、理学療法士が独立・開業して経営者になることで、収入アップを目指す道もあります。
ただし、理学療法士が行うリハビリなどの施術は、必ず医師の指導に基づかなければなりません。
そのため、独立すると、基本的に理学療法士として働くことはできなくなります。
しかし、それまでに培った知識や経験をもとに、自身でデイサービスなどの事業所を立ち上げたり、整体院を開業したりして、大きく収入を伸ばしている人も一部います。
なお、アメリカでは、日本とは違って理学療法士にも独立が認められているため、海外でなら開業後、理学療法士の資格を使った仕事をすることも可能です。
理学療法士で年収1000万円を目指せる?
理学療法士の平均年収をみると、年収1000万円を超えることは難しいといえるでしょう。
一般の病院や医療施設で働く場合、年収1000万円を超えるケースはほとんど見られないのが現状です。
ただし、理学療法士として働いた経験をもとに病院の役職に就いたり、経営に携わったりした場合は、年収1000万円を超える可能性が考えられます。
また、理学療法士の経験から教員などにキャリアチェンジする道も考えられます。
大学などで教壇に立つことができれば、年収1000万円を超えることは珍しくありません。
理学療法士の年収の将来性は?
理学療法士の数は近年大きく増加しており、現在では資格保有者の数は20万人を超えています。
このため、理学療法士の人気が高い病院やクリニックといった医療施設への就職は、採用倍率が非常に高くなるケースも見られます。
希望する勤務先に就職できないだけでなく、年収が低めに抑えられてしまう可能性は大いにあります。
また、現在理学療法士は若手が中心であり、こうした年代が50代60代を迎えるころには、理学療法士の競争も激しくなることが予想されます。
そうすると管理者になることができる人も一握りとなり、その他大勢は給料が低いまま働かなくてはならないこともあるかもしれません。
理学療法士と関連する職業の年収の違い
ここでは、理学療法士と関連する職業として「作業療法士」と「スポーツトレーナー」と取り上げて、それぞれの年収の違いを紹介します。
理学療法士と作業療法士の年収はどちらが高い?
理学療法士と作業療法士の給料にはほとんど差がないといわれています。
実際に求人情報を見ても、ほぼ同等とされている施設が大半です。
なお、業種が近いこともあり、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」においても理学療法士と作業療法士のデータは同一となっています。
理学療法士とスポーツトレーナーの年収はどちらが高い?
理学療法士の平均年収が430万円であるのに対し、スポーツトレーナーの平均年収は460万円~650万円ほどがボリュームゾーンと考えられます。
しかし、スポーツトレーナーの年収は実力次第であり、新人時代は低めの年収になります。
近年は健康志向の高まりから、ジムやフィットネスクラブなどを利用する人も増え、理学療法士の資格を持ちながらこうした場所で働く人も増えています。
また、プロのスポーツ選手だけでなく、アマチュアチームでもスポーツトレーナーを利用する人が増えつつあるため、今後は理学療法士の有資格者がスポーツトレーナーとして活躍していくことも増えるでしょう。
「理学療法士の年収・給料」まとめ
理学療法士は現在有資格者が急増し、需要に対して人材が豊富にいることから、年収が低めに抑えられる傾向にあります。
また、理学療法士は若年層が大半を占めており、それが平均年収を下げる一因となっていると考えられます。
理学療法士の報酬額は診療報酬制度という法律で定められており、急激に年収をアップさせるのは難しいのが現状です。
年収アップを目指すには、勤続してキャリアアップしたり、医療・福祉系の資格取得をして専門性を高めたりする必要があるでしょう。