「産業カウンセラー」とは
民間企業など、産業の現場で働く人のキャリアやメンタルヘルス対策についての援助を行う。
産業カウンセラーは、産業を取り巻く現場で働く人たちが抱えている問題を解決に導くためのサポートをする専門家です。
「メンタルヘルス対策への援助」や「キャリア開発の援助」、「職場における人間関係開発への援助」を主な仕事内容としており、公共職業安定所や学校のような公的な機関から、民間企業、医療機関などさまざまな場で活躍しています。
産業カウンセラーとして働くにあたっては、日本産業カウンセラー協会が認定している「産業カウンセラー」の資格を取得する人が多いようです。
今の日本の産業は先行き不透明な状況にあり、大手企業の倒産や非正規雇用の増大など、さまざまな問題が起きています。
こうした人たちのサポートをする産業カウンセラーは、これからの世の中でさらに必要とされる職業だといえるでしょう。
- 「産業カウンセラー」とは
- 産業カウンセラーの仕事内容
- 産業カウンセラーの就職先・活躍の場
- 産業カウンセラーの1日
- 産業カウンセラーになるには
- 産業カウンセラーの学校・学費
- 産業カウンセラーの資格・試験の難易度
- 産業カウンセラーの給料・年収
- 産業カウンセラーのやりがい、楽しさ
- 産業カウンセラーのつらいこと、大変なこと
- 産業カウンセラーに向いている人・適性
- 産業カウンセラー志望動機・目指すきっかけ
- 産業カウンセラーの雇用形態・働き方
- 産業カウンセラーの勤務時間・休日・生活
- 産業カウンセラーの求人・就職状況・需要
- 産業カウンセラーの転職状況・未経験採用
- 産業カウンセラーの現状と将来性・今後の見通し
- 記事一覧
- 関連の職業
- 職業カテゴリー
「産業カウンセラー」の仕事紹介
産業カウンセラーの仕事内容
公的機関や民間企業で活躍
産業カウンセラーは、産業を取り巻く現場で働く人たちが抱えている問題に対してアプローチを行い、問題解決に導くためのサポートをする専門家です。
「メンタルヘルス対策への援助」や「キャリア開発の援助」、「職場における人間関係開発への援助」を主な仕事内容としています。
公共職業安定所や学校のような公的な機関から、民間企業、医療機関などさまざまな場で働いています。
主な業務は業種によって異なります。
医療機関や民間企業では心理相談業務、職業安定所や人材派遣では職業相談などの業務を行っています。
働く人が心の病にかかってしまうケースが多いことや職場でパワハラやセクハラなどの不当な被害を受けてしまうことが問題視されるようになり、産業カウンセラーの必要性が認識されるようになりました。
働く人間が抱えている問題を引き出すためのカウンセリング能力を身につけていることにプラスして、労働基準法や雇用の動向に関する知識を持っているのが、産業カウンセラーの強みです。
産業カウンセラーの就職先・活躍の場
一般企業、公的機関、一部医療機関が産業カウンセラーの活躍の場です。
一般企業では、社内カウンセリングを行ったり、労務関連の資格保持者として働き方改革などを行ったり、就職・転職アドバイザーとして活躍することもあります。
医療機関では、来院した人のストレスチェックなどを行ったり、公務員になって公的機関の心理職として活躍したりすることもできます。
産業カウンセラーの資格が特定の仕事に結びつくというわけではなく、労務関連でカウンセリングが必要な場合、一般企業でも、医療機関でも活躍できると考えた方がよいでしょう。
産業カウンセラーの1日
企業内カウンセラーは、社員にカウンセリングを行うのが主たる業務です。
基本的に予約制ですが、飛び込みの案件もあるため、他の社員と同じように出勤・退勤します。
<企業内カウンセラーの1日>
9:00 出勤
メールチェックを行い、緊急の予約が入っていないか確認します。
10:00 面接
社員へのカウンセリングを行います。
12:00 面接
お昼休みは特に予約が入りやすく、複数のカウンセリングを行うこともあります。
14:00 産業医に連絡
カウンセリングの結果、医療的措置が必要だと思われる場合、産業医と連携をとります。
17:00 退勤
予約が入っていれば、この時間以降も開室することもあります。
産業カウンセラーになるには
学科試験と実技試験のクリアが必須
「産業カウンセラー」は、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定している民間資格です。
産業カウンセラーの資格を得るためには、まず受験資格を満たしてなければいけません。
受験資格とは、試験日に20歳以上になっていて、さらに日本産業カウンセラー協会が行う講座を修了していることです。
あるいは、4年制の大学か、大学院研究科において心理学又は心理学に隣接する科学系を専攻し、修了(取得科目に多くの指定があります)していることです。
受験資格を満たしたら、学科試験と実技試験を受けて、合格すれば晴れて産業カウンセラーの資格を取得することができます。
→参考:日本産業カウンセラー協会
2019年の試験は1月、申請は2018年11月となっているため、申し込みまでに受験資格を満たしておけるようにしましょう。
産業カウンセラーの学校・学費
未経験者は受講料がネックに
学歴を問わないため、何の勉強をしてきた人でも、中卒、高卒の人も、日本産業カウンセラー協会が行う講座さえ修了すれば、受験資格は得られます。
講座は通信が通学かを選択することができますが、291,600円の受講料(教材費・消費税込 ※2018年現在)がかかります。
一方、心理学系の大学卒業者、あるいは大学院修了者は、講座を受講しなくとも、すぐに受験できます。
それでも、学科試験の出題傾向や、実技試験の練習のために、講座を受講する人も多いようです。
産業カウンセラーの資格・試験の難易度
民間資格にしては難易度高め
産業カウンセラーの2017年の合格率は、65.7%でした。
受験者が全国で3,959名のところ、2,600名が合格しています。
学科試験の合格率が72.9%、実技試験の合格率が69.3%であることから、試験としては実技試験の方が、より難易度が高いことがわかります。
もちろんこの母数には、高額な受講料を支払って受験している人もたくさんおり、受講すれば必ず合格できるというものでもありません。
通信講座で受講するタイプの民間資格では、合格率80%以上の資格も多い中、民間資格にしては難易度は高めに設定されているといえます。
産業カウンセラーの給料・年収
組織に勤める産業カウンセラーの年収
産業カウンセラーにはさまざま勤務形態があり、それによって給料や年収も大きく異なります。
民間企業や医療機関、公的機関の人事部や総務部で正規雇用される場合、勤務先の給与体系に応じて固定給をもらうことができるので、最も安定した生活が送れるようです。
一般的な会社員と同じで、中小企業であれば年収200〜400万円、大企業であれば年収500万円以上になります。
これに時間外の面接が入れば、時間外手当がついて、年収はプラス50万円以上になることもあります。
また、派遣やパートタイマーなどの非正規雇用で働く産業カウンセラーの場合は、時給で1500〜1800円前後となるのが一般的です。
いずれにしても、とくに収入が高いというわけではありませんが、平均的な収入を得ることはできるといってもよいでしょう。
「週に3日だけ社員のメンタルヘルス相談に来てほしい」「期間限定の社員向けの研修プログラムをしてほしい」などの依頼も多いので、仕事量の少なさと比例して収入も少なくなってしまいます。
安定した収入を得たいのであれば、正規雇用の道を探すのが理想的でしょう。
独立開業するという選択肢もありますが、産業カウンセラーの資格だけで開業するのは困難であり、実際開業した人の収入データも公開されていません。
臨床心理士やキャリアコンサルタントなどと併用して、初めて独立の可能性が見えてくるというのが現実です。
産業カウンセラーのやりがい、楽しさ
キャリアに関する専門知識で職業人生を応援
産業カウンセラーの魅力は、臨床心理士が行うカウンセリングとは違い、職業人生(キャリア)に特化した仕事ができる点です。
仕事にまつわる人の悩みは、それだけでも幅広く、雇用問題から職場の人間関係、キャリアアップ・スキルアップ、ハラスメント問題など、専門知識を活かす場がたくさんあります。
労働人口は減少しているとはいえ、労働問題に悩む人はまだまだ尽きることはありません。
悩める務め人のために、話に耳を傾け、適切なアドバイスをできたときにやりがいを感じることができるでしょう。
産業カウンセラーのつらいこと、大変なこと
精神的にナーバスになっている人の対応が大変
産業カウンセラーは、人材派遣会社などで求人紹介をすることもあります。
その場合、次の仕事が決まっていない状態で来る人も多く、イライラしている人も少なくありません。
勉強したとおりに対応しても、相手の気にさわり、大きなクレームにつながることもあります。
また、企業内カウンセラーの場合も、ギリギリの精神状態になるまで我慢して来談する人もいるため、すぐに医療機関につなぎ、自分の仕事に疑問を持つこともあるでしょう。
産業カウンセラーに向いている人・適性
キャリアと心理の両方に興味がある人
基本的に対人援助職になるため、人に興味・関心があることが求められます。
その上で、人の心理だけではなく、職業人としての人生にも興味が持てる人は、産業カウンセラーに向いているといえるでしょう。
ハラスメント問題で悩んでいる人や、自分のキャリアのことで悩んでいる人、ストレスがたまっている人、上司には相談できない悩みを抱えている人など、仕事に関連する悩みが持ち込まれることが多いため、職業上の問題を解決できる専門知識があることが望ましいのです。
それだけではなく、「この人には話してもいいかな」と思わせるような、人当りのよさも大切です。
産業カウンセラー志望動機・目指すきっかけ
悩んでいる人を助けたいという気持ち
産業カウンセラーを目指す理由はいくつかありますが、根底にあるのは、悩んでいる人を助けたい、支えたいからでしょう。
具体的には、現場のマネジメント職の人が、部下のメンタルヘルス・マネジメントのために取得を目指すこともあります。
また、自分が仕事で悩むことが多く、自分と同じような人を救いたいという思いで取得を目指す人もいます。
産業カウンセラーの難易度が、臨床心理士・公認心理師と比べて受験資格も幅広いことから、心理系の資格を取りたいけれど、臨床心理士・公認心理師はハードルが高いという理由で受験する人も多くなっています。
産業カウンセラーの雇用形態・働き方
ライフスタイルに合わせて選べる雇用形態
企業内カウンセラーとして勤務する場合、正社員の求人が多く、「この会社には社内カウンセラーが在籍しています」ということを売りにしている会社も増えています。
しかし、中小企業などではカウンセラーを常駐させるだけのコストが捻出できず、パートタイマーのように4~6時間程度時給制で雇用しているところもあります。
産業カウンセラーとして生計を立てるには正社員の方が望ましいでしょう。
しかし、家庭や育児、介護との両立を図りやすいのは、パートタイマーだといえます。
日本産業カウンセラー協会のホームページによると、実際、正規職員として勤務しているのは、産業カウンセラーのだけ49.6%で、あとは契約社員が12.3%となっています。
自分のライフスタイルに合わせて、雇用形態から働き方を選ぶことができるのです。
産業カウンセラーの勤務時間・休日・生活
休みは多め、時間外労働は発生しがち
企業内カウンセラーの場合、企業の休日に合わせてカウンセラーも休みになります。
企業の業種にもよりますが、多くは土日・祝日は休みになることが多いようです。
しかし、社員が仕事を終えてから来談するケースも多く、結局終業時間を過ぎてからカウンセリングを行うこともあり、時間外労働は発生しやすい環境です。
また、人材派遣会社のキャリアカウンセラーとして働く場合は、土日も出勤になる可能性があります。
多くの人は、平日は仕事をしていて、土日に転職相談に訪れることが多いからです。
産業カウンセラーの求人・就職状況・需要
産業カウンセラーを指定する求人は少ない
心理職として相談援助の仕事を募集する求人では、産業カウンセラーよりも、はやり最も権威のある資格である臨床心理士の条件を付けているものが目立ちます。
相談職の求人には、「臨床心理士必須」「産業カウンセラーも可」のような表記が多く、産業カウンセラーだけを指定してくる求人は多くありません。
それでも、人材派遣会社のキャリアカウンセラーなどは、「産業カウンセラーあれば尚可」などの表記のある求人もあるため、相談援助に限定しなければ就職はしやすいでしょう。
産業カウンセラーの転職状況・未経験採用
企業内カウンセラーは経験者優遇
相談業務にあたる企業内カウンセラーの場合、未経験者は採用されにくい傾向にあります。
経験者は反対に優遇される傾向にあり、年俸を決める際にも、「経験と希望金額を考慮の上決定」などの表記が多くなっています。
産業カウンセラーを取得しても、所持しているだけでカウンセラー業務を行っていない人も多いのが現状です。
カウンセラーとして働いている人は産業カウンセラー全体のわずか16%にとどまっています。
資格取得をきっかけにメンタルヘルスの知識を現場で活かす人が多いようです。
産業カウンセラーの現状と将来性・今後の見通し
50年以上の歴史のなかで
「産業カウンセラー」という職業は、もともとは海外で誕生したとされています。
日本においては1960年に日本産業カウンセラー協会が創立されており、50年以上の長い歴史と実績があることになります。
しかし、世間一般の人に「産業カウンセラー」という職業やその仕事内容が広く認知されているかというと、まだそれほどではないというのが実情なのではないでしょうか。
企業や公的機関で人事、総務などの仕事をしている人やメンタルヘルスの悩みを抱えている会社員にとって産業カウンセラーは身近な存在かもしれませんが、それ以外の一般の人からすると、なじみのない職業でもあるのです。
また、日本では「悩みを解決させるためにカウンセリングを受ける」という習慣や文化が浸透しておらず、友人や家族ではない第三者に相談をすることが非常にハードルの高いこととしてとらえられているという現状もあります。
今後、こうした現状を打破して、多くの人が気軽にカウンセラーのもとに相談に行くことができるように、もっともっと産業カウンセラーの存在意義や必要性を広く発信していく必要があるでしょう。