「スクールカウンセラー」とは
心理学の専門家として、カウンセリング等を通じて学校に通う年齢の子どもの心をケアする。
スクールカウンセラーは、学校に通う年齢の子どもたちの心のケアを行う心理の専門家です。
子どもたちの話をしっかりと聞き、抱える問題を解決させるためのアドバイスや働きかけを行いながら、教師とは異なる第三者の立場として、子どもたちの健やかな学校生活をサポートします。
この仕事に就くために絶対に必要とされる資格はありませんが、実際には心理系の資格の最高峰といわれる「臨床心理士」の有資格者が優遇されています。
心の問題が多様化する現代は、国を挙げてスクールカウンセラーの必要性が訴えかけられていますが、まだまだこの職業の雇用環境や待遇は整備されておらず、「非常勤」として別の仕事と掛け持ちしながら生計を立てている人も少なくありません。
「スクールカウンセラー」の仕事紹介
スクールカウンセラーの仕事内容
児童・生徒の心の健康を守る仕事
スクールカウンセラーは、就学後の児童から青年期の生徒の心の健康を守る仕事です。
具体的には、相談室に来室した児童・生徒がどのようなことで悩んでいるのか、どのような方法でアプローチすべきかをアセスメント(評価)し、適切な心理療法を選択して実施します。
学校内でのいじめはもちろん、親には相談できないこと、心の病とまではいかないちょっとした悩み事や家庭事情などについても相談を受けるのがスクールカウンセラーです。
児童の年齢が低い場合には、言語をともなわない遊戯療法(遊びの中でアセスメントを行う)を用いることもあります。
言語を自由に操作できる年齢の生徒の場合には、クライエント中心療法と呼ばれる心理療法がよく用いられています。
スクールカウンセラーの就職先・活躍の場
学校現場および被災地でも活躍する
スクールカウンセラーの活躍の場は、主に小学校、中学校、高校、大学です。
文部科学省によると、平成7年度154校でスクールカウンセラーが全国に配置され、平成18年度において全国の中学校7,692校に配置されるとともに、中学校を拠点として小学校1,697校、高等学校769校にも派遣されています。
また、大学でも相談室を設け、スクールカウンセラーが配置されているところもあり、学生のいるところにスクールカウンセラーありという状況となっています。
また、学校だけではなく、地震や津波などの災害、事故被害などの場合にも、スクールカウンセラーが派遣されることがあります。
災害を体験したり、事故や事件で人が死に直面しているところを見たり、または自分が体験することで、心的に大きな負担がかかるからです。
スクールカウンセラーは、このように学校現場を越えて、心のケアを必要としている人のもとでも活躍しています。
スクールカウンセラーの1日
常勤スクールカウンセラーはお昼と放課後が多忙
8:30 出勤
まとめきれていない面接記録などがあれば、次の面接までにまとめます。
10:00 面接
相談室には、授業を受けられない不登校の生徒も来ます。
このような生徒は時間を選ばず予約するため、誰にも見られないよう配慮しながら面接を行います。
12:00 面接
お昼休みには相談室を開室し、通学児童・生徒の面接を行います。
新規の場合はアセスメントから、継続の場合は前回からの変化を見ます。
16:00 面接
放課後が、相談室が最も込み合う時間です。
18:00 退勤
予約の他に飛び込みの来談者がいなければ、当日の面接記録をまとめて定時で退勤できます。
スクールカウンセラーになるには
臨床心理士か公認心理師がないと厳しい
スクールカウンセラーになるためには、臨床心理士の資格が必須です。
精神科医や心療内科医でもなれることにはなれますが、このような資格所持者は医療機関に勤務することが多く、現実にはほぼスクールカウンセラーをめざす人がいません。
一方、スクールカウンセラーになるために臨床心理士の資格を取得する人は非常に多くなっています。
臨床心理士の資格を取得するには、大学卒業後、指定大学院(1種か2種)を修了した後に臨床心理士の試験に合格する必要があります。
あるいは、臨床心理士養成に関する専門職大学院を修了し、同じように試験に合格するという方法もあります。
諸外国で臨床心理学や精神医学など、指定大学院と同じような教育歴がある場合で、カウンセラーなどの心理臨床経験が2年以上ある人も受験可能です。
これ以外にも、既に医師免許があって、心理臨床経験が2年以上ある人も受験可能です。
臨床心理士試験までの道のりも長く険しいですが、スクールカウンセラーには圧倒的に臨床心理士が採用されており、学校現場での相談業務には必須資格だといえます。
しかし、スクールカウンセラーの資格要件としては臨床心理士に「限定」されておらず、大学教員や医師など、他の資格で相談室勤務を実現している人もまれにいます。
さらに、2018年に第1回目の試験が行われた公認心理師も、今後スクールカウンセラーとして活躍するために必要な資格となります。
公認心理師は民間資格で最も権威のある臨床心理士と違い、日本発の心理系国家資格です。
学校のような公的機関では特に、今後臨床心理士に加え、公認心理師を優先して雇用する教育委員会が増えていくでしょう。
スクールカウンセラーの学校・学費
臨床心理士か公認心理師の資格を取得
<臨床心理士を取得する場合>
スクールカウンセラーになるための実質的な必須資格である臨床心理士を取得するためには、指定大学院を修了するか、専門職大学院を修了しなければいけません。
指定大学院には、第1種と第2種があります。
第1種の場合は、大学院修了後、すぐに臨床心理士資格審査を受験することができます。
一方、第2種の場合は大学院修了後、1年以上の実務経験を積まないと、臨床心理士資格審査を受験することができないのです。
専門職大学院の場合は、大学院修了後、すぐに臨床心理士資格審査を受験できる上に、一次試験として課せられるはずの小論文試験を免除されます。
大学院の学費は、1種2種関係なく、私立か国公立かで決まります。
国立で130万円~150万円程度、私立だと300万円前後かかることが多くなっていますが、私立で1種のところもあれば、国公立で2種の大学院もあるため、種別を事前によく確認しましょう。
専門職大学院の場合も、2年間で270~300万円ほどかかります。
<公認心理師を取得する場合>
公認心理師の試験を受験するには、大学(心理系以外でも可)を出て2年以上の心理職実務経験を積むか、あるいは臨床心理士と同様に指定大学院を修了する必要があります。
大学卒業の場合、通信教育(放送大学や東京福祉大学など限定されている)で4年間で100万円ほどかかります。
通学課程の場合は、250~400万円ほどの学費がかかります。
また、既に指定大学院を修了している人や、臨床心理士の資格を既に持っている人に関しては、特別措置としてそのまま受験することができます。
スクールカウンセラーの資格・試験の難易度
臨床心理士は高合格率でも採用試験が難しい
日本臨床心理士資格認定協会によると、平成29年度の臨床心理士資格取得者(=合格者)数は、1,590名と報告されています。
受験者が2,427名いたことから計算すると、合格率は65.5%となります。
しかし、ここからスクールカウンセラーを目指す人と、病院や施設勤務を目指す人などにわかれていきます。
スクールカウンセラーは、各自治体の教育委員会、あるいは私立学校の公募に応募しますが、採用が若干名であることが多く、競争率は高くなっています。
スクールカウンセラーの試験としては、書類審査を1次試験とし、面接を2次試験とする自治体がほとんどです。
首都圏や地方都市では、1人の採用枠に10人以上募集があるのは当たり前ですから、臨床心理士を取得してもなお、スクールカウンセラーへの道のりは遠いといえます。
一方、公認心理師の国家試験は、2018年9月に行われ、1度目の出題傾向を見ると、出題範囲にかなり偏りがあり、苦戦した人もいたようです。
この第1回目の結果によっては、あまりにも点数が高ければ足きりに遭う人も出るでしょうし、来年以降難易度が高くなるかもしれません。
スクールカウンセラーの給料・年収
非正規雇用で収入は掛け持ち本数次第
現在、小学校、中学校、高校のスクールカウンセラーとして働いている人の多くが「非常勤職員」という立場で働いています。
非常勤職員というのは、いわゆる非正規雇用にあたり、週に何日か決められた時間だけ学校に出勤するという働き方になります。
このため、給料に関しても月給制や年俸制ではなく、時給制であることのほうが圧倒的に多いようです。
それでは、非常勤のスクールカウンセラーとして勤務した場合、一時間にいくらもらえるものなのでしょうか。
この金額は勤務先によって変わりますが、臨床心理士の資格がある場合は5,000円ほどで、臨床心理士ではなく大学教員などの資格所持者の場合、時給は3,000円ほどにさがります。
時給としては一見すると高水準に見えますが、非常勤の場合勤務時間は1日4時間程度、週に2日勤務となると、月給は160,000円にしかなりません。
そのため、多くのスクールカウンセラーは、非常勤で2校~4校ほど掛け持ちしている人が多いようです。
スクールカウンセラーのやりがい、楽しさ
児童・生徒の面接を終結する時
スクールカウンセラーが忙しいということは、学校内に悩んでいる児童・生徒がたくさんいるということです。
スクールカウンセラーとしては、児童・生徒が悩んだり、不安なことがあったりしても、相談室の力を借りずに自分で解決できるようになる心を手に入れることがゴールです。
本来は、相談室は忙しくないほうが、学校としては健全な場であるといえます。
そのため、通室している児童・生徒が自分の悩みや不安を解決し、相談室の力を借りなくてもやっていけそうだというとき、「終結(面接の最終回)」、を迎えたときにやりがいを感じることができます。
廊下などで通室していた生徒が楽しそうに友だちと笑い合っているのを見るのもまた、相談室の存在意義が実感でき、やりがいを感じることができるでしょう。
スクールカウンセラーのつらいこと、大変なこと
学校に来ることもできなくなる生徒もいる
児童や生徒からの相談内容は、クラス内の人間関係、家庭問題、自身の性格や進路についてなど、さまざまです。
特にデリケートなのはいじめ問題であり、これは場合によって担任やその他職員との連携が必要になります。
しかしながら、学校側の対処が十分ではない場合、いじめが悪化し、相談室どころか学校にも通えなくなることもあります。
スクールカウンセラーが家庭訪問するケースはまれですが、文部科学省は家庭訪問自体を否定していません。
しかし、ここまで来ると、中学や高校では3年という限られた時間で終結まで持っていくことは難しく、スクールカウンセラーの限界を感じる人もいます。
スクールカウンセラーに向いている人・適性
自分と向き合えることが必須条件
スクールカウンセラーの適性としては、自己一致ができていることが大切です。
自己一致とは、「自分とはこういう人間だ」という概念と、「実際の自分像」の間にギャップがなく、自分という人間としっかり向き合っていることを指します。
また、相談援助の場面が学校に限定されることから、小学校から大学生までの学童期から青年期までの発達過程に特に興味・関心がある人は向いています。
さらに、教職員や医療機関との連携をとるという役割をこなすこともあるため、多くの人と接することに抵抗がなく、主体性のある人に向いている仕事だといえます。
スクールカウンセラー志望動機・目指すきっかけ
自分も相談した経験がある人が多い
学生の頃、自分も人間関係に悩んでいて、学校に来ていた相談室の先生に助けられた…という人は、高い確率で心理学を学び、上位資格である臨床心理士・公認心理師を志し、スクールカウンセラーを目指します。
あるいは、校内で起きた事件などでスクールカウンセラーのお世話になった人が、今度は自分が助ける側になりたいと思い、スクールカウンセラーを志望することもあるのです。
誰かの支えになりたい、自分のように辛い思いをする人を減らしたいというきっかけが多いようです。
スクールカウンセラーの雇用形態・働き方
小中高では非常勤が圧倒的に多い
スクールカウンセラーは、ほとんどが非常勤職員であり、1週間に2日や3日だけ出勤します。
それでは生計が成り立たなくて困るという人は、複数校掛け持ちして、平日のすべてを勤務日にしていることもあります。
しかし、私立高校や専門学校、大学などでは、常勤職員としてスクールカウンセラーを配置しているところもあります。
それでも全体の求人数から見れば上記のような常勤職員という雇用形態はまれであり、現実には非常勤の掛け持ちが圧倒的に多くなっているのです。
スクールカウンセラーの勤務時間・休日・生活
掛け持ちする頻度によって調節可能
非常勤のスクールカウンセラーの場合、1日お昼休みをまたいで4時間〜6時間程度の勤務時間であることが多いようです。
非常勤なので残業もありませんし、予約がなければ空いた時間で面接記録をまとめることもできます。
給与面を重視して4校、5校と掛け持ちしたところで、勤務時間が短いため、プライベートの時間を削ってまで働くこともないのです。
学校が休みである土日・祝日は基本的に休みで、仕事が入ることはありません。
常勤職員になると、オープンスクール要員として土日に駆り出されることもありますが、手当も代休もつきます。
スクールカウンセラーの求人・就職状況・需要
教育委員会からの求人は秋頃にチェック
スクールカウンセラーは、1年契約の非常勤が多いことから、求人が出るのは9~10月頃が多くなっています。
各自治体の教育委員会のWEBサイトをよくチェックするようにしましょう。
私立や専門学校のスクールカウンセラーの場合、前任者が常勤を辞めない限りポストが空きにくく、求人が出回ることはまれです。
また、首都圏のスクールカウンセラーは、臨床心理士の資格所持者が多く、倍率も高くなっているようです。
地方都市でも首都圏からスクールカウンセラーをめざして来る人も多く、求人は少ないのに応募者が多いというのが現状です。
スクールカウンセラーの転職状況・未経験採用
老若男女問わず人気の転職先
臨床心理士の指定大学院では、現役の大学院生の姿だけではなく、既に医学博士を持っている人や、養護教諭として20年勤務してきた人、元看護師の人など、キャリアを重ねている人も少なくありません。
つまり、転職先としてスクールカウンセラーは人気の仕事であり、異業種からの志望者も多いということです。
その分、異分野から未経験でスクールカウンセラーになっていく人もいます。
もちろん、教育委員会からの採用を勝ち取るには、スクールカウンセラーとしての経験があるに越したことはありませんが、未経験者でも望みはあります。
スクールカウンセラーの現状と将来性・今後の見通し
確実に定着する需要、将来性は間違いなし
スクールカウンセラーの果たす役割は、社会の変化とともにさらに大きくなってきています。
子どもたちのいじめや不登校の問題に関わるのはもちろんのこと、最近では発達障害のある子どものサポートという面で力を発揮するスクールカウンセラーも多いようです。
また、教師や保護者のストレスも増大していてうつ病やノイローゼの一歩手前まできてしまうような人もいるため、こうした人たちの相談にのることでストレスを緩和するという役割も果たしています。
さらに、東日本大震災、2018年の台風21号のような大きな災害のあとや、子どもたちが巻き込まれる事件事故が発生したあと、傷ついた子どもたちの心をケアすることもあります。
今後は臨床心理士と公認心理師のダブル資格を持つ人が有利になる可能性はありますが、どちらの資格保持者でも、学校現場での相談経験を確実に積み上げることができます。
少子化で閉校する学校も増えてきていますが、心の問題を抱えている子どもは絶えませんから、今後も将来性は明るいといえるでしょう。