麻酔科医の仕事内容・なり方や必要な資格・給料を解説
麻酔科医の仕事内容
痛みをコントロールし手術成功のカギを握る
麻酔科医の仕事は、手術前に麻酔をかけて、患者の一部に作用する局所麻酔、患者の全身に作用して意識消失を目的とする全身麻酔をかける印象が強いでしょう。
しかし、麻酔科医の仕事内容はこれだけではありません。
手術前に外来診察、あるいは病棟内の回診を行い、手術を受ける患者のその日の様子や体調をチェックし、手術時にかける麻酔の強さなどについて患者に十分な説明を行います。
手術当日は、患者に寄り添い、当日の体調に変化はないか、睡眠はとれたかなどを確認します。
手術中には患者の心拍数や血圧などをチェックしながら、執刀医の近くで常に患者の様態を確認し、最もよい状態で手術を終わらせます。
手術後も麻酔がとれるまでリカバリールームで患者を観察し、意識の戻り具合や、痛みの度合いを確認します。
20代で正社員への就職・転職
麻酔科医の就職先、活躍の場
大病院からクリニックまで幅広く活躍できる
募集科目に「麻酔科」とある医療機関や、手術を行う医療機関なら、どこでも活躍できるのが麻酔科医のメリットです。
麻酔を必要とする手術は整形外科、脳血管外科、整形外科など幅広く、総合病院、大学病院はもちろんのこと、クリニックでも麻酔科医が活躍しています。
たとえば、近年増加傾向にあるペインクリニック(痛みを取り除くためのクリニック)や、緩和ケアクリニックは、今後の麻酔科医の就職先として選ばれることも増えてくるでしょう。
麻酔科医の1日
手術前・手術中・手術後すべてにかかわる
手術が頻繁に行われる大学病院などでは、手術前・最中・直後の患者の様態を見守ります。
また、複数の患者を掛け持ちすることもあります。
ここでは、大学病院に勤務する麻酔科医の1日について紹介します。
20代で正社員への就職・転職
麻酔科医になるには
医師免許をとった後2年間の研修が必要
麻酔科医になるには、医学部入学後、医師国家試験に合格して医師免許を取得する必要があります。
その後2年間以上、麻酔科専門医からの指導を受けて、麻酔科に専従します。
もしくは、2年間以上、「麻酔の実施を主に担当する医師」として気管への挿管による全身麻酔を300症例以上実施した経験が求められます。
いずれの場合も、医師免許を取得した後、麻酔に特化した医療行為に携わっていたということが肝心です。
通常、内科や皮膚科、外科といった科目では、医師免許を持ってさえいれば、自由に専門科目を標榜(自分の専門はこの科目ですと公言すること)できます。
しかし、麻酔科だけは上記のように、医師免許取得後に2年以上の指定されたプロセスを経た後、厚生労働省に麻酔科標榜医の申請を行い、書類審査の後、許可証を交付されるのです。
麻酔科医には、上位資格から順に、麻酔科指導医、麻酔科専門医、麻酔科認定医、麻酔科標榜医といった格があり、臨床経験や研究実績などによってキャリアアップすることが可能です。
麻酔科医の給料・年収
働き方によって年収には大差が出ることも
麻酔科医は、常勤、非常勤やアルバイト、フリーランスなど、多様な働き方ができます。
そのため、雇用形態によって年収には大差がつくこともあります。
たとえば常勤の麻酔科医の場合、年収1,200万円~2,000万円の求人が多くなっています。
非常勤の場合は日給で10万円~13万円の求人が多く、勤務日数によって月収が変動します。
フリーランスの場合は自分でとれる仕事の量によっても変動がありますが、中には年収3,000万円を達成した人もいます。
ただし、このような例ばかりではありません。
フリーランスの場合は社会保険や医療保険が自己管理となるので注意が必要です。
麻酔科医のやりがい、楽しさ、魅力
手術後、最初に感謝されるのが麻酔科医
麻酔科医は手術前の不安定な心理状況を受け止め、痛みを麻酔によってコントロールするため、患者との距離が執刀医よりも近いという特徴があります。
そのため、術後に患者の意識が回復した際、最初に「ありがとうございました」などと患者から直接感謝の意を表明されることが多く、そこにやりがいを感じている人も多くいます。
また、執刀医が手術しやすいよう、患者のダメージが最小限になるよう、チーム医療を陰ながら操縦しているような印象を与えることから、飛行機のパイロットに例えられることもあります。
手術の手綱を陰で握っている業務が多く、縁の下の力持ちのような存在であることも魅力のひとつです。
麻酔科医のつらいこと、大変なこと
オンコールでプライベート時間が確保できない
麻酔が必要となる手術ができる病院となると、入院患者の緊急手術が入ることも多く、そのたびに麻酔科医にも呼び出しがかかります。
そのため、オンコールに備えて遠出の旅行ができなかったり、子どものイベントや行事を欠席したりと、プライベートが犠牲になることも少なくありません。
また、患者の全身状態が悪かったり、緊急手術で十分なカンファレンスがないままに手術に入ると、麻酔による偶発症(手術中の心停止、高度低血圧など)が起こりやすく、手術後の死亡率を高めることになります。
麻酔が原因で偶発症が起こる可能性は10万例に1例程度ですが、ゼロではないのです。
偶発症が起きるのではという不安は手術終了までぬぐいきれず、手術の前後や最終に常に神経を使うところは、麻酔科医のつらいところだといえます。
麻酔科医に向いている人、適性
ひたむきで共感性に優れた人
麻酔科医は医療チームの操縦を陰ながら行い、手術中も患者に寄り添う立場です。
そのためひたむきに患者と向き合い、不安を抱えた手術前後の患者に共感できる能力が必要です。
ひたむきさや共感能力は、患者だけではなく医療チームにも適用され、手術を一歩ひいた位置から見守り、その都度適切な報告・指示を出すことができます。
また、緩和ケア病棟の麻酔科医などは、予後の見通しが明るくない患者を相手にすることが多いものです。
死を身近に感じている患者の不安や苦痛を少しでも和らげるため、外科手術による痛みを局所麻酔でコントロールするのが仕事ですが、このとき、どれだけ苦痛なのか、不安なのかを汲み取るために、共感能力が必要になります。
麻酔科医の志望動機・目指すきっかけ
外科医志望者が目指すことが多い
手術の主役は患者と外科医(執刀医)です。
実際、麻酔科医として活躍している人の中には、本来外科医を目指していたけれど、外科医は花形で志望者も多く、自分より腕の立つ人も多く目にして挫折感を持つ人もいます。
そのようなとき、麻酔科医には高いニーズがあるのに、志望者が外科医よりも格段に少ないと気が付き、麻酔科医にキャリアチェンジする人も多いようです。
医師の性格的特徴として、自分はサポート的なポジションが性に合うと感じる人も、手術をサポートする立場である麻酔科医を目指します。
また、純粋に競争率の低い科目はなにかを探して科目を決める人もいます。
競争率の高い外科や内科には手をつけず、競争率の低い麻酔科で頭角をあらわしたいと考える人も、麻酔科医を目指すようです。
麻酔科医の雇用形態、働き方
雇用形態はさまざま、女医の働きやすさも
給与の項目でも紹介したように、麻酔科医は基本的に手術を伴う科目であればどこででも活躍できます。
そのため、常勤の他に非常勤、アルバイト、フリーランスという働き方もあります。
フリーランスの場合は、週5日、3病院を掛け持ちして土日は休みという働き方をしている人もいます。
また麻酔科医には女性も多く、ある大学病院では22人中12人が女性という麻酔科もあります。
大病院や大学病院なら配属されている医師数も多く、ローテーションの調整によって子どもの発熱など急な休みにも対応でき、女性が働きやすい環境が整っているといえます。
麻酔科医の勤務時間・休日・生活
当直がなければ休日多めで勤務時間も短い
たとえば常勤で総合病院勤務の麻酔科医の場合、月~金曜日まで9:00~17:00の勤務で当直がありません。
土曜日は午前中のみ出勤で、日曜・祝日は休みです。
しかもこの勤務日のうち、週1日研究日が設けられており、自分で任意の研究活動を行うことが認められています。
当直のある求人の場合、日中の日直、深夜帯の宿直があるため、生活リズムを整えることが困難になる場合もあります。
麻酔科医の求人・就職状況・需要
ニーズが高く求人数も増加
厚生労働省の診療科別必要医師数を見てみると、医師のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が高いとされている皮膚科は331名、心療内科は67名の医師を必要としているのに対し、麻酔科は1,204名の医師を必要としています。
花形の外科、QOLの高い皮膚科や眼科などに人気が集中し、麻酔科はニーズが高いのに医師が足りていない状況です。
そのため、手術を行う規模の病院やクリニックでは、麻酔科医への需要は高く、医師のキャリアチェンジの選択肢としては非常に現実的だといえます。
麻酔科医の転職状況・未経験採用
標榜医として研修終了後からすぐに働ける
外科医を目指していた人が、外科医になるには自分のスキルに自信が持てずに麻酔科医にキャリアチェンジする人もいます。
また、医師免許を取得した後2年間の研修を終えてすぐに、麻酔科標榜医として勤務することも可能です。
未経験で採用されるには、まずは医師免許の取得と、麻酔科専門医のもとでの研修を積む必要があります。
麻酔科医の現状と将来性・今後の見通し
昔は虫垂炎などの手術を行う際、腰椎麻酔は執刀医が担当、看護師が補助を行っていました。
しかし、最近では麻酔科医が執刀医、看護師に代わってすべての麻酔を担当していることから、麻酔科医の需要は高まっています。
日本麻酔科学会によると全身麻酔の件数は1996年の128,103件から、2005年の167,799件へと31%近く増加しており、麻酔科の将来性は明るいといえます。
今後、がんなどの緩和ケアクリニックでも勤務する麻酔科医も含めれば、ますます活躍の場は広がるでしょう。