不動産鑑定士試験の難易度・合格率は? 必要な勉強時間についても解説
司法試験、公認会計士試験とともに「3大国家試験」の一つとして知られており、最終合格率は5%程度と、非常に難易度の高いものとなっています。
この国家試験に合格し、さらに実務修習を終えるなどのステップを踏むことで、不動産鑑定士として実務に従事できるようになります。
この記事では、不動産鑑定士の試験の内容や難易度・合格率、勉強方法などについて詳しく解説しています。
・受験者層は30代がボリュームゾーン、働きながら試験合格を目指す人が多数
・合格までに必要な勉強時間は約2000時間、1年半~2年ほどの学習計画が一般的
・論文式の対策は独学では難しく、予備校や通信講座で勉強する人が多い
不動産鑑定士資格とは
ここでは、不動産鑑定士試験の資格の概要や試験内容について説明します。
不動産鑑定士とはどんな資格?
不動産鑑定士とは、「不動産の鑑定評価」を中心とした業務に携わる不動産分野の専門家で、国家資格に定められています。
不動産鑑定士資格を取得するためには、国土交通省が主宰する国家試験を受けて合格することが必要です。
不動産鑑定士試験は、毎年5月に行われる「短答式試験」、同じく8月に行われる「論文式試験」の二段階に分けて実施され、双方をパスすると最終合格となります。
加えて、不動産鑑定士として資格を登録し業務を行うためには、国家試験合格後に実施される「実務修習」を受けなければなりません。
1年~2年にわたる実務修習を受講しすべての単位を修得すると「修了考査」を受けることが可能となります。
修了考査に合格し、不動産鑑定士名簿への登録を済ませることで、ようやく不動産鑑定士として働くことができるようになります。
不動産鑑定士資格取得のメリットは?
不動産鑑定士の資格は国家資格であるため、取得をすれば社会的な信頼性や信用性が得られます。
また、地価公示や固定資産税標準宅地の鑑定評価といった「不動産の鑑定評価業務」は、不動産鑑定士の資格を持つ人しかできない「独占業務」にあたります。
不動産鑑定士はハイレベルな資格のため、誰もが簡単に取得し、この職業に就けるわけではありません。
そのため、この資格を得れば、不動産鑑定士の主要な就職先である不動産鑑定事務所のほか、不動産会社や金融機関などでも専門スキルを持つ人材として良い待遇で採用されることが多いです。
なお、「不動産に関するコンサルティング業務」も、不動産鑑定士の専門的な知識・経験を発揮できる業務です。
不動産鑑定の仕事は全国どの地域でも一定の需要があります。
不動産の分野で、とくに専門性の高い業務に携わりたい人にはチャレンジする価値のある資格といえるでしょう。
なかには「土地家屋調査士」「公認会計士」など他の士業系資格も取得し、強みを増やして活躍の場を広げながらキャリアアップしていく人もいます。
また、将来的には独立・開業し、自分の事務所を立ち上げることもできます。
不動産鑑定士試験の出題内容・形式
不動産鑑定士試験は、以下の2つの試験で構成されています。
不動産鑑定士の資格を取得するためには、この両方の試験に合格しなくてはなりません。
ちなみに論文式試験を受けることができるのは、すでに短答式試験に合格している人のみです。
なお、不動産鑑定士試験には、一度「短答式試験」に合格した人について、その合格発表日から2年以内に行われる短答式試験が申請によって免除される制度が設けられています。
この制度を見据えて、複数年にまたがって学習計画を立て、最終合格を目指す人もいます。
短答式試験
短答式試験では、以下の2つの科目が出題されます。
- 不動産に関する行政法規
- 不動産の鑑定評価に関する理論
出題形式は五肢択一のマークシート式となっています。
それぞれ40問100点満点で、合格基準は総合点でおおむね7割、それに加えて試験科目ごとに一定の得点も必要になります。
論文式試験
論文式試験では、以下の4つの科目が出題されます。
- 民法
- 経済学
- 会計学
- 不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)
出題形式は記述式で、鑑定理論に関しては論文問題と演習問題の2種類が出題されます。
合格基準は総合点でおおむね6割、それに加えて試験科目ごとに一定の得点が必要とされます。
不動産鑑定士試験の受験資格
不動産鑑定士試験には、かつては大卒などの受験資格が定められていましたが、受験者数の減少などを背景として、2006年から受験資格が撤廃されました。
したがって、現在では年齢や学歴に関係なく、誰でも不動産鑑定士試験を受けることができるようになっています。
実際には社会人の受験者が多いとされていますが、毎年の試験合格者をみると、下は10代後半から上は60代まで、幅広い年齢層の人が合格しています。
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不動産鑑定士試験の難易度はどれくらい?
不動産鑑定士試験の合格率は5%
不動産鑑定士試験の合格率は、一次試験の短答式試験が毎年30~35%前後、二次試験の論文式試験が15%前後で、双方を突破した最終合格率は5%前後です。
非常に狭き門といえますが、これでも近年の合格率は上昇傾向です。
かつての合格率は3%以下という低水準であったため、これから不動産鑑定士を目指す人は、まだチャンスが大きくなっているといえるでしょう。
なお、実務修習終了後に行われる「修了考査」の合格率は85%前後となっています。
こちらも国家試験ほどではないものの、全員が合格できるという甘いものではありません。
いざ不動産鑑定士として登録するまでは、研修の一環と気を抜くことなく、しっかりした準備をすることが必要です。
不動産鑑定士試験の合格率が低い理由は?
不動産鑑定士試験は、司法試験、公認会計士試験と合わせて「3大国家試験」と呼ばれるほど難易度が高いことで知られています。
「宅建」「管理業務主任者」「マンション管理士」などの数ある不動産資格のなかでも、名実ともに最高峰といえるでしょう。
短答式試験で出題されるのは、不動産に関する行政法規と、不動産の鑑定評価理論の2科目ですが、この2つだけで宅建試験と同等か、それ以上の分量があるとされています。
さらに、論文式試験では民法、経済、会計の分野からも出題されるうえ、自分で解答を書き起こしていかなくてはならないことから、より詳細で確実な理解が求められます。
なお、不動産鑑定士試験では全試験に共通して、各科目で一定水準の点数が取れなければ、総合計で合格点に到達していても不合格になってしまいます。
広い試験範囲に対応し、まんべんなく理解を深めなくてはならないことも、不動産鑑定士試験の難しさのひとつです。
加えて、不動産鑑定士試験は「相対評価」であるため、合格基準に達した上で、できるだけ上位を目指す努力が必要になります。
不動産鑑定士試験の勉強時間・勉強方法
ここからは、不動産鑑定士試験合格のために必要な勉強時間や、勉強方法について紹介します。
不動産鑑定士試験の勉強方法の種類
予備校・スクールや通信講座で学ぶ人が多い
不動産鑑定士試験に臨む人の多くが、資格の予備校やスクールに通って対策をしています。
ただ、他の国家資格と比べると、不動産鑑定士試験の講座を開講している予備校・スクールはあまり多くありません。
基本的には大手の「TAC」と「LEC東京リーガルマインド」の2社から選ぶことになります。
どちらも有名ですが、とくにTACは受講者が多く、同社の公式ウェブサイトでは、12年間(2011年~2022年)累計のTAC講座生の論文式試験合格者占有率72.4%と掲載されています。
信頼度が高く、質の高い講義を受けたい人には向いているでしょう。
一方、LECはTACと比べて受講料を抑えやすく(受講講座にもよりますが10~15万円ほど安い場合も)、コストパフォーマンスにすぐれた講座として人気があります。
また、この2つの予備校は通信講座も開講しているため、時間や地理的な条件で学校に通うことができない人は、通信講座を活用して学ぶのもよいでしょう。
独学中心で進める人もいる
独学で不動産鑑定士試験合格を目指していく人もいます。
短答式試験については、暗記することが苦手でなく、コツコツと継続的に勉強できる自信があれば独学でも対応可能でしょう。
しかし、論文式試験については、一から自分で文章を書いていかなくてはならないため、独学での対策が難しいといわれています。
そのため、独学+予備校などの形で合格を目指していく人も多いです。
不動産鑑定士試験の勉強時間は約2000時間・勉強期間は1年半~2年
不動産鑑定士試験に合格するために必要となる勉強時間は、短答式試験・論文式試験合わせて2000時間ほど、1年半~2年ほどかけて勉強するのが目安とされています。
1日に平均5時間程度勉強するとしたら、ちょうど1年半~2年ほどかかる計算です。
ただし、人によってはこれよりも短期間での合格を目指すことも可能です。
たとえば、不動産鑑定士試験では、特定の国家資格取得者などに対して、論文式試験の一部の科目が免除される制度があります。
- 公認会計士合格者:会計学と、公認会計士試験において受験した科目
- 司法試験合格者:民法
すでに該当資格を持っている人であれば、そうでない人よりは早く合格を目指しやすいでしょう。
一方、不動産鑑定士試験の試験科目にほとんど触れたことがなく一から勉強をスタートする人や、1日に2~3時間程度しか勉強時間をとれない人などは、合格まで2年以上かかる可能性も考えられます。
なお、不動産鑑定士試験は二段階制となっており、短答式試験に合格すれば、その翌年、翌々年も試験は免除できます。
あえて同じ年での合格は目指さず、論文式試験は翌年に持ちこしてじっくり対策する、といった方法を取ることも可能です。
不動産鑑定士試験合格は独学で可能?
短答式なら可能、論文式は難しい
不動産鑑定士試験は、完全に独学で合格するのは難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
その理由として、大きく以下のことが挙げられます。
- 短答式試験では全科目でおおむね7割とらなくてはならない(苦手科目をなくす必要あり)
- 鑑定評価理論は独自の思考法の習得が必要
- 論文式試験の対策が難しい
短答式試験の一部科目など、知識の丸暗記で対応できるものは独学でも勉強を進められるはずです。
しかし、最も配点比率が大きな鑑定評価理論は、この分野特有の思考法を身につける必要があります。
初めて勉強する人にとっては難易度が高く、独学だと行き詰まる可能性が高いです。
さらに、論文式試験の対策は、独学が最も難しい部分といわれています。
この試験は白紙の状態から自分で文章をまとめていかなくてはならず、関連知識の深い理解に加えて、文章構成力も必要になるからです。
自分では「よく書けた」と思っても、その内容が本当に正しいのか、きちんと説明できているのかを自ら客観的に判断するのは非常に難しいものです。
したがって、とくに論文式の対策については予備校・通信講座などを活用し、講師に添削してもらいながら合格を目指す人が大半となっています。
独学の注意点
不動産鑑定士試験に向けて独学をする際にまず気をつけたいのは、最新の試験に対応した教材を探すことです。
というのも、不動産鑑定士試験の試験科目では、しばしば法改正が行われているからです。
改正以前の教材を使うと間違った知識を身につけてしまう可能性もあるため、十分注意しなくてはなりません。
各科目の最新の改正情報について調べ、その内容に対応している教材を探すか、変更後の内容をキャッチアップしてください。
また、繰り返しにはなりますが、論文式試験の対策は完全独学では難しいため、講座を利用して確かな知識をもつ第三者に添削してもらいましょう。
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不動産鑑定士試験の合格実績
国土交通省が発表した不動産鑑定士試験結果によると、合格者の年齢分布は以下のようになっています。
- 30歳未満:受験者数180名、合格者数46名、合格率25.6%
- 30歳以上35歳未満:受験者数154名、合格者数40名、合格率26.0%
- 35歳以上40歳未満:受験者数144名、合格者数26名、合格率18.1%
- 40歳以上45歳未満:受験者数98名、合格者数14名、合格率14.3%
- 45歳以上50歳未満:受験者数112名、合格者数14名、合格率12.5%
- 50歳以上55歳未満:受験者数69名、合格者数4名、合格率5.8%
- 55歳以上60歳未満:受験者数58名、合格者数1名、合格率1.7%
- 60歳以上:受験者数70名、合格者数1名、合格率1.4%
- 合 計:受験者数885名、合格者数146名、合格率16.5%
出典:合格者の属性等について(令和5年不動産鑑定士試験論文式試験)
不動産鑑定士試験の受験者数・合格率
ここからは、不動産鑑定士試験の受験数や合格率について、実際のデータも含めて図で紹介します。
不動産鑑定士試験受験者数
不動産鑑定士試験合格者数
不動産鑑定士試験合格率
令和5年度 不動産鑑定士試験合格者男女別構成
令和6年度 不動産鑑定士試験の概要
試験日 | ・短答式試験 令和6年5月19日(日) ・論文式試験 令和6年8月3日(土)、8月4日(日) 、8月5日(月) |
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受付期間 | 令和6年2月8日(木)~3月8日(金) |
試験地 | ・短答式試験:北海道、宮城、東京、新潟、愛知、大阪、広島、香川、、福岡、沖縄 ・論文式試験:東京、大阪、福岡 |
受験資格 | 年齢、学歴、国籍、実務経験等に関係なく受験できます。 論文式試験は、本年実施の短答式試験に合格した者及び令和4年又は令和5年の短答式試験 の合格者のうち本年の受験申請において短答式試験の免除申請をした者が受験できます。 |
試験内容 | 不動産鑑定士試験は、不動産鑑定士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有する かどうかを判定することをその目的として、短答式及び論文式による筆記の方法により行います。 |
試験科目 |
1.短答式試験試験科目: 2.論文式試験試験科目: |
合格基準 | 1. 短答式試験 総合点で概ね7割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点とする。ただし、総合点のほかに各試験科目について一定の得点を必要とするものとする。 2. 論文式試験 総合点で概ね6割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点とする。ただし、総合点 のほかに各試験科目について一定の得点を必要とするものとする。 なお、免除科目がある場合は、免除科目を除いた科目の合計得点を基に偏差値等を用いて算出した総合点に相応する点数を、その者の総合点として判定する。 |
合格率 | ・短答式試験:33.6%(令和5年度) ・論文式試験:16.5%(令和5年度) |
合格発表 | ・短答式試験:令和6年6月26日(水) ・論文式試験:令和6年10月18日(金) |
受験料 | 12,800円 |
詳細情報 | 国土交通省 |
働きながら不動産鑑定士試験に合格するには?
不動産鑑定士試験は30代や40代の合格者が多く、社会人として働きながら試験勉強に励んでいる人も大勢います。
ここからは、仕事と試験勉強を効率よく進め、合格に近づくためのヒントを説明します。
勉強時間確保のポイント
社会人が、働きながら不動産鑑定士試験合格を目指すにあたり、最大のネックとなるのは「どうやって膨大な勉強時間を確保するか」です。
不動産鑑定士試験に合格するためには2000時間ほどの勉強が必要とされており、人によっては5000時間ほどかかることもあります。
1日の大半を仕事に費やす社会人が集中して勉強に充てられるのは、仕事を終えた後の夜間や、休日などに限定されるでしょう。
そんな限られた時間の中でも合格に近づくためのポイントは、より長期の学習計画を立てて、自分のペースでコツコツと勉強を続けることです。
不動産鑑定士試験は、対策におよそ1年半~2年ほどの期間をかけるケースが一般的ですが、働きながら合格を目指すなら、3年~5年ほどの計画を立てることも検討してみましょう。
仮に、毎日仕事が終わった後に1日1時間ずつ勉強する場合、2000時間こなすには約5年半ほどかかる計算になります。
また、近年はWeb上で受講できる講義もあるため、通勤時間や休憩時間を有効活用するとよいでしょう。
そのほか、仕事終わりに予備校の夜間講座などに通って、経験豊かな講師から試験対策のコツを学ぶことで、勉強時間そのものを短縮する方法も考えられます。
モチベーション維持のポイント
不動産鑑定士試験は、質・量ともにハイレベルであり、途中で試験勉強を辞めたくなることもあるかもしれません。
モチベーションを維持し続けるためには「なぜ不動産鑑定士になりたいのか」「不動産鑑定士になって何がしたいのか」という動機を自分の中で明確にしておくことが大切です。
目標が具体的であればあるほど、途中で挫折する可能性は低くなるでしょう。
また、一人で勉強し続ける自信がなければ、予備校などに通学し、同じ道を志す受験者どうしで励まし合ったり、わからない箇所を教え合ったりすることも、ときには有効かもしれません。
なお、たとえ他人の意見がほしくても、インターネットの掲示板やSNSを検索する行為は要注意です。
Web上の発言には匿名性があり、発言者に責任が伴わない以上、根拠のない情報やデマも多く流れています。
モチベーションを保つにあたっては逆効果になってしまうおそれもあるため、注意して利用してください。
「不動産鑑定士試験の難易度・合格率」まとめ
3大国家試験の一つにあたる不動産鑑定士試験は、年齢や学歴などの受験資格は設けられていませんが、最終の合格率は5%程度で、非常に難易度が高いものとなっています。
とくに論文式試験の対策が難しく、多くの受験者が資格予備校やスクール、通信講座を活用して勉強を進めています。
合格までに必要な勉強時間は約2000時間程度といわれており、計画的に勉強を進めていくことが大切です。