宮大工の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「宮大工」とは

宮大工の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

神社や仏閣など、日本の伝統的な木造建築の新築や改築、修理などを手掛ける職人。

宮大工とは、神社や仏閣などの日本の伝統的な木造建築を専門に取り扱う大工です。

新築工事のほか改修工事にも携わり、貴重な文化財の解体や補修に携わることもあります。

宮大工は、日本の伝統的な建築工法である「木組み工法」という技術を習得し、手作業で仕事をしています。

宮大工を目指すには、まず神社仏閣の建築を手掛けている工務店に就職し、親方である「棟梁」の下で見習いから地道に修業を重ねなくてはなりません。

宮大工は、日本の伝統的技法を継承し、後世に伝えていく役割も担っています。

一人前になるには長い時間がかかりますが、ベテランの腕のよい宮大工は各所で歓迎され、収入を上げることも可能です。

また宮大工としての木組み工法に現代的な工法を掛け合わせ、一般住宅や商業施設などを手掛けていくなど、多様な活躍の可能性があります。

「宮大工」の仕事紹介

宮大工の仕事内容

伝統的な工法を用いて神社仏閣などを建築する職人

宮大工とは、おもに神社や仏閣などの新築や改築、修理などを手がける職人のことをいいます。

神社や仏閣は、一般的な現代の木造建築物とは異なり、釘や補強金物などを一切使わずに組み立てる「木組み工法」という伝統的な技法が用いられています。

宮大工はその木組み工法に精通し、さらに神社仏閣の屋根や梁などに特徴的とされる、複雑な曲線や装飾を造り上げる技術にも長けています。

宮大工は、日本各地に伝統的な建物の修繕を行って後世に残していく「伝統の継承者」という側面も持ち合わせています。

一般住宅などを手掛けることもある

宮大工は、神社仏閣以外では、城をはじめとした国の文化財の解体や補修に携わったり、神輿の組み立てなども行います。

さらに、近年では歴史ある木組み工法で自分の家を建てたいという人も増えており、宮大工が一般住宅を手掛けるケースもあります。

木組み工法は、現在主流になっている在来工法に比べて時間やコストもかかりますが、日本の風土に適した耐久性が高く評価されているのです。

なお、仕事で使用する木材の加工は、すべて宮大工自身の手作業で行います。

木材の特性を十分に見極める力や、木組みの高度な技術を習得していなければ成り立たない職業です。

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宮大工になるには

宮大工の修業ができる工務店で働く

宮大工は学歴不問であり、仕事の場で、宮大工としての確かな知識と技術を身につけることが最も重要視されます。

初めてこの世界に入る人は、まず親方である「棟梁」の下で修業を積まなくてはなりません。

早い人は中学校や高校を卒業した後、すぐ神社仏閣や城郭の建築を手掛けている工務店に就職し、修業をスタートしています。

一般的な大工と比べると、宮大工の求人数は限られているため、求人誌やインターネットなどを活用して情報を地道に集める必要があるでしょう。

採用情報が出ていない場合、神社仏閣を手掛ける工務店に直接問い合わせてみるのも有効でしょう。

建築系の学校に進学することは必須ではない

基本的に、宮大工を目指す上で進学すべき学校はありません。

宮大工の世界では、高い学歴があるかどうかよりも、できるだけ早く修業をスタートして現場経験を積むことのほうが重視されています。

建築関係の大学や専門学校などに進学し、建築全般の知識や在来工法の技術を学ぶことは可能ですが、一刻も早く職人として活躍したいのであれば、中卒や高卒ですぐに就職するほうがよいかもしれません。

自分の理想の働き方やキャリアビジョンをイメージして、進路を考えていきましょう。

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宮大工の学校・学費

学歴不問だが、大学や専門学校で建築を学ぶ道も

宮大工は学歴不問の職業であり、棟梁に弟子入りをし、修業を積んで一人前の職人を目指すというルートが一般的となっています。

10代のうちに修業をスタートする人も少なくありません。

ただ、建築系の学校を出ることで、建築全般の専門的な知識を身に就けることができ、プロとしての下地を作ることができます。

また、もし将来的に大工以外の道も考えていく可能性があるのであれば、専門学校や大学に進学して広く学んでおくほうがメリットが大きいかもしれません。

一般的な建築の学校では「建築士」を目指す人が多く通っていますが、そのような勉強をしたいか、それとも1日でも早く宮大工の修業をスタートしたいか、よく考えて進路を決定することをおすすめします。

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宮大工の資格・試験の難易度

資格は必要ないが、習得する技術は高難度

宮大工の仕事には資格や免許はありません。

現場で培った技術、自身の腕前こそがすべての職人の世界です。

宮大工の仕事の代名詞ともいえる「木組み工法」では、通常のように工場であらかじめ加工された木材を用いるのではなく、現場で木材を切断し、継ぎ手などを削り出します。

このため、現在主流になっている在来工法よりも格段に技術の難易度は高く、習得するには数年単位の長い修業が必要です。

また、神社や仏閣の内装・外装には美術品のような装飾を施すケースも多いため、手先の器用さや芸術的センスも問われることになるでしょう。

修業の日々を乗り越えていく覚悟が求められます。

宮大工の給料・年収

見習い時代の給料は低め

宮大工を含めた大工は、現場系の職人の中では比較的高収入を実現しやすいといわれています。

ただし、収入を最も左右するのは経験年数や実力です。

初心者から大工を目指す人は必ず「見習い」からスタートし、その期間は給料が低めです。

通常、見習い時代の月給は16万円~17万円ほどで、そこまで高い収入は得られません。

現場では雑用中心に任され、ときに先輩たちに叱られながら体力的にもハードな日々を過ごすことに、厳しさを感じる人もいるでしょう。

一人前になるまでは生活はややきついかもしれませんが、最近は福利厚生を手厚くしている工務店も増えています。

見習い以降は段階的に昇給が望める

見習い期間を終えた宮大工は、その後、経験を重ねることで段階的に昇給します。

一人前の宮大工になると年収600万円程度、さらに専門性を持ったベテラン宮大工のなかには年収1000万円を超える人もいます。

独立して自分の工務店を構えると、さらに高収入を得られるケースもありますが、神社仏閣関係の仕事はどうしても数が限られてきます。

神社や仏閣のみでなく、一般住宅の建築も請け負うなど、幅広い事業を手掛けることが必要になるでしょう。

どのような働き方を選択するとしても、宮大工として成功したいのなら、職人としての高度な技術を磨き続ける努力が不可欠です。

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宮大工の現状と将来性・今後の見通し

伝統の担い手として宮大工は必要な存在

現代の建築業界ではRC造や鉄骨造が広く普及し、木造建築においても宮大工の「木組み工法」が取り入れられる機会はずっと減りました。

そのため、宮大工の需要は一般の大工に比べて少なく、また減少傾向にあるといえます。

しかしながら、宮大工は古くから守られてきた文化財を将来へ残していくために、欠かせない存在です。

この先も、歴史的建造物の解体や修理における宮大工の需要がなくなることはまず考えられず、一定数の職人が必要とされ続けるでしょう。

また、昨今は新たな宮大工の志望者が減っているため、これからこの職を目指す若者にとっては大きなチャンスともいえます。

宮大工を本気で目指す気概さえあれば、積極的に受け入れてきちんと教育したいと考えている棟梁や工務店もいます。

チャレンジする価値は十分にある職業といえるでしょう。

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宮大工の就職先・活躍の場

専門の工務店に就職するケースが一般的

宮大工の就職先は、神社や仏閣などを手掛ける工務店が一般的です。

宮大工が在籍している工務店は、一般住宅を手掛ける工務店に比べると数は少ないですが、日本各地に存在しています。

なお、工務店によっては神社仏閣や文化財修繕関連の仕事だけでは十分な受注量を得られないため、並行して戸建て住宅などの一般建築物を取り扱うこともあります。

就職先によっては、たとえ宮大工であっても一般的な在来工法の技術習得まで求められる可能性があるでしょう。

ただ、昨今は一般の注文住宅に宮大工の技術を取り入れるニーズが増えており、宮大工の活躍の場は広がっています。

宮大工の1日

日中は現場で、暗くなると研ぎ場で作業する

宮大工は1日のうち、日の出ている明るい時間帯しか作業することができません。

作業終了後は「研ぎ場」と呼ばれる場所で、商売道具である工具の手入れに時間を費やします。

また、日中の作業は肉体を酷使するため、休憩時間がこまめに設定されており、安全に作業ができるように配慮されています。

7:30 事務所集合・現場に移動
8:30 朝礼・作業開始
10:00 小休憩
12:00 昼食
13:00 作業再開
15:00 小休憩
17:30 作業終了
18:00 事務所に戻る・工具の手入れ
19:00 退社

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宮大工のやりがい、楽しさ

歴史ある伝統建築物を自分の手で修繕し、未来につないでいくこと

全国各地にある神社や仏閣は、ものによっては数百年、あるいは千年以上も前に建築されています。

それらが元の姿を留めたまま現代に存在しているのは、各時代を生きる宮大工が、その都度、修繕作業を繰り返してきたからに他なりません。

長きにわたって守られてきた伝統建築物を受け継ぎ、次の時代へ引き渡していくという宮大工の役割は、非常に尊いものです。

貴重な文化財を目の当たりにできること、そして自分が習得した技術を発揮して仕事ができることに、やりがいを感じている職人が多くいます。

また、最近では一般の木造住宅や施設でも、宮大工の技術に注目されるケースが増えており、さまざまな活躍が期待できるのも魅力といえるでしょう。

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宮大工のつらいこと、大変なこと

修業期間が長く、地道な下積み生活の日々を送る覚悟が必要

宮大工は、一般的な大工よりも下積み期間が長くなります。

宮大工特有の「木組み工法」の難易度もさることながら、カンナやノミなどの工具の手入れ、それらの研ぎの技術を習得するのも、決して簡単なことではありません。

現場での工法を一通り会得するまでには最低でも7年から10年はかかるとされ、棟梁によっては「20年でようやく一人前」と話す人もいます。

これだけ長期間にわたって下積み生活を送り、日々地道に自己研鑽に励み続けるには、相当な熱意と覚悟が必要です。

実際に、途中で挫折して辞めてしまう人も決して少なくありません。

宮大工として一人前になれるかどうかは、本人の意思次第といえるでしょう。

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宮大工に向いている人・適性

忍耐力があり、宮大工としての技術習得に対する意欲が強い人

宮大工は、見習いの間は掃除や刃物研ぎ、材料の運搬など、とにかく地味で根気を要する単純作業の連続です。

忍耐力のある人でなければ、長くつらい修業期間を乗り越えることはできないでしょう。

また、木組み工法を用いた建築では、在来工法よりもはるかに長い工期が必要で、短くても2年、長いものでは完工までに10年以上かかることもあり、仕事のために移住するケースもあります。

一人前の宮大工となった後も、その作業には根気や忍耐が必要ですから、長期的な視野に立って働ける粘り強い人が宮大工に向いているでしょう。

宮大工の技術そのものへの関心が強く、それを究めていくことに喜びを感じられる人でないと、なかなか続けられない仕事です。

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宮大工志望動機・目指すきっかけ

宮大工の技術、伝統文化や歴史に関心のある人が多い

大工を目指す人の多くは、もともと建築やものづくりが好きという人で、大工仕事に魅力を感じています。

なかでも宮大工を志望するのは、とくに神社や仏閣などの伝統建築が好きだったり、歴史への興味が強かったりする人です。

何百年も前から連綿と受け継がれてきた技術を継承し、次世代につないでいくという宮大工の役割に魅力を感じる人が多いようです。

もともと一般の大工として働いていた人が、宮大工の技術を習得したいと考えるようになり、キャリアチェンジを決意するケースもあります。

「大工」全般にいえることですが、自分の腕を磨くことに喜びを見出せる職人気質の強い人が、この仕事を志す傾向にあります。

宮大工の雇用形態・働き方

見習い時代は工務店に雇われるが、その後は独立する人も

工務店に雇われている宮大工の多くは、正社員として雇用されています。

見習い中はアルバイトとして雇われるケースもありますが、最近では新人でも正社員として採用し、働きやすい環境を整えている工務店も増えています。

経験を積んだ宮大工は、独立して個人で仕事をする人もいます。

なお、大工仕事の中心は肉体労働であるため、どうしても男性の活躍が目立ちます。

しかし、女性が宮大工になれないわけではなく、過去には女性の宮大工が経験を積み、棟梁にまでなったケースもあります。

宮大工の仕事に対する思い入れが強く、修業を積む覚悟さえあれば、どのような人でも宮大工を目指せるといえるでしょう。

宮大工の勤務時間・休日・生活

決められたスケジュールに沿って安全重視で作業を行う

宮大工は、基本的に8時から18時頃まで現場作業を行い、その後は事務所に戻って工具の手入れなどを行います。

宮大工の作業は高い集中力を要するもので、さらに刃物を取り扱ったり高所での作業だったりと、ケガや事故などの危険性をともなうため、12時のお昼休憩以外に10時と15時にも小休憩をとります。

休日は、工事の受注状況や進捗状況によっても異なりますが、日曜日のみの週休1日となることが一般的です。

寺院の新築工事の場合、規模によって1~2年単位でひとつの現場が終わり、その後は次の仕事まで比較的長く休みをとることができる場合もあります。

普段の休みは少なめですが、残業はそこまで多くありません。

また、年末年始や盆休みなどは連休となり、ゆっくりと休日をとることができます。

宮大工の求人・就職状況・需要

一般に求人が出されることは少ないため、自分で情報を集める

神社や仏閣の建築・修繕需要は、一般建築物と比べてかなり少ないため、宮大工の求人数も限られてきます。

求人誌やハローワークなどに求人情報が掲載されることはきわめてまれで、通常の就職活動で宮大工になることは難しいかもしれません。

しかし、宮大工を抱える工務店のなかには、求人情報を出していなくても、門戸を叩けば志願者を受け入れてくれるところもあります。

インターネットを駆使すれば神社仏閣や城郭を手掛ける工務店を調べることは容易ですので、直接問い合わせてみることも有効な手段といえます。

宮大工の転職状況・未経験採用

転職者のほとんどは元大工

宮大工に転職する人は少なからずいますが、その大半は、一般建築物の「大工」として、ある程度知識と技術を身につけている経験者です。

まったくの未経験者から宮大工になりたいなら、まずは在来工法を手掛ける工務店で働き、基礎的な技術を習得してからのほうがよいでしょう。

一般的な工務店であれば、異業界からの転職や社会人未経験者でも、熱意と人柄次第で採用される可能性は十分あります。

宮大工専門の工務店は求人が少ないですが、年齢が若かったり、ちょうど人手不足だったりすれば、採用される可能性もあります。

なお、大工の世界では、給与面については前職(異業種)のキャリアは一切加味されません。

大工としての腕前がゼロの場合、大きく収入が下がることを覚悟しておく必要があります。

大工と宮大工の違い

どちらも木造建築物を手掛けるが、宮大工は伝統建築物が専門

「大工」と「宮大工」は、どちらも「木造建築物」の建築や修理に携わる職人です。

一般的な大工は、一般住宅を手掛けることがほとんどであるのに対し、宮大工は、主に神社や仏閣などの伝統建築を専門に手掛けます。

「大工」という大きな職業のくくりがあって、その中に伝統建築に特化した宮大工がいるイメージです。

宮大工の特徴は、釘や補強金物を使わず、木材を組み合わせる「木組み工法」で骨組みを作ることです。

使用する木材は手作業で整えていき、さらに使用する道具類もすべて職人自身が作るなど、非常に緻密で高度な技術が要求されます。

それに対し、一般的な大工は、必要に応じて釘や補強金物を使う「在来工法」によって、工期やコストを短縮しながら建築を手掛けます。

大工も宮大工も修業が必要ですが、宮大工のほうが一人前になるまでにより長い期間がかかります。

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宮大工の弟子入り

宮大工の弟子入りは必須、10年ほどの修業を積む

宮大工に限らず「大工」を目指す人は、すでに大工として第一線で働いている職人の下で修業を積むことになります。

事前に学校で大工に関連する勉強をする人もいますが、基本的にはどのような人も現場に入ってから、さらなる修業は必須です。

一般的な大工の修業期間は3年ほどといわれますが、宮大工の場合、10年ほどの修業期間が必要とされます。

宮大工の修業期間が長い理由のひとつは、「木組み工法」という伝統的な工法を習得する必要があるためです。

この伝統工法は現代の在来工法とは異なるもので、木材の特性を見極めながら適切に組み合わせていく、高度な職人技術を要します。

社寺や文化財など、ときに数百年も昔の建物の修繕に携わる宮大工は、覚えなくてはならない特殊な技法も多く、厳しい下積み時代を乗り越えていかなくてはなりません。