「ビオトープ管理士」とは

地域の野生の生きものたちが生息・生育する空間「ビオトープ」を保護し、再生、創出する。
ビオトープ管理士は、地域の野生の生きものたちが生息・生育する空間「ビオトープ」を保護し、再生、創出していく仕事です。
とくに造園や土木の分野において、ビオトープの概念を導入しながら自然環境の造成や復元、地域計画や都市計画などに携わり、人間と自然が共存しながら長く安定的に暮らせる環境をつくります。
「ビオトープ管理士資格」を取得し、造園会社や土木会社などの企業へ就職したり、環境省などの中央省庁や地方自治体などで公務員として働く人が多いとされています。
平均年収は一般的な会社員のものと大きくは変わらないようですが、業務に関連する国家資格等を併せて取得したり、実務経験を積みスキルを磨くことによって、収入アップにつなげることは可能です。
世の中全体で環境への関心は依然として高く、「持続可能」や「生物多様性」という言葉がさらに重要視されている現代社会において、重要な役割を担っていく仕事です。
「ビオトープ管理士」の仕事紹介
ビオトープ管理士の仕事内容
野生生物が生きる環境を守る自然の専門家
私たちの生活は、いくら科学が発展したとはいえ、昔と変わらず自然の恵みによる恩恵を受けて成り立っている部分が非常に大きいといえます。
自然が豊かであるためには、自然で暮らす生物たちの生態系が健全に保たれ、多種多様な生物が共存した状態にあることが必要です。
ビオトープ管理士の「ビオトープ」とは、ドイツ語で生物を意味する「BIO」と場所を意味する「TOP」を組み合わせた言葉です。
生物たちが暮らす自然を守り、生態系を健全に維持していくことが、ビオトープ管理士の役割です。
具体的には、官公庁や地方自治体がインフラ整備などの公共事業を行う際に、当該地の自然生態系を守り、維持していけるよう、計画策定に携わったり、実際の施工を支援したりします。
また環境保護の大切さを伝える授業や講演を行うことも、ビオトープ管理士の大切な仕事です。
ビオトープ管理士の就職先・活躍の場
公的な仕事を中心に活躍
ビオトープ管理士の就職先は建設会社や造園業者、ハウスメーカーや材料メーカーなどがあります。
特に地方自治体の発注する公共工事を請け負っている建設業者などは、工事の受注にビオトープ管理士の資格保有者が在籍していることが条件となっている場合もあり、積極的に求められるようです。
ただし、現状の資格保有者は、その資格だけで働いているわけではありません。
それぞれの勤務先で普通の社員と同じようにさまざまな業務をこなしながら、ビオトープ管理士としての知識や技能を生かした仕事も同時並行で行っているというのが実情です。
ビオトープ管理士の1日
勤務先によってスケジュールはさまざま
ビオトープ管理士は、土木、造園、建設など、自然と密接に関わるさまざまな業種で活躍することができるため、1日のスケジュールは勤務先によって異なります。
この仕事は、環境調査や都市計画・地域計画、造園などの領域で、さまざまな業務を担当しながらビオトープ管理士としての専門性も生かして働くことがメインとなります。
そのため、関わっていく業務によっても忙しさはだいぶ変わってくるようです。
<造園会社で働くビオトープ管理士の1日>
8:30 出社
8:50 朝礼
9:00 ミーティング
10:30 現場で作業
13:00 昼休憩
15:00 帰社
16:00 社内研修
17:30 日報作成
18:00 退社
ビオトープ管理士になるには
4種類の資格によって業務が異なる
ビオトープ管理士になるには日本生態系協会が実施する試験を受け、資格を取得しなくてはなりません。
資格には「ビオトープ計画管理士」「ビオトープ施工管理士」という2種類があり、それぞれに1級、2級が設けられていますので、都合4種類の資格があることになります。
「ビオトープ計画管理士」は都市開発などにおける計画策定時に、自然生態系を保護できるよう都市計画をプランニングする仕事が主になります。
対して「ビオトープ施工管理士」は、河川を開発したり道路を設ける工事の際に、野生生物の生息空間が守られるよう、工事の設計、施工を管理する技術者に向けた資格です。
1級は責任者レベル、2級は現場作業者レベルという位置付けのようです。
ビオトープ管理士の学校・学費
受験には学歴に応じた実務経験が必要
計画管理士、施工管理士共に、2級は誰でも受験可能ですが、1級には受験資格があります。
・4年制大学を卒業した場合、実務経験7年以上
・関係する大学院を卒業した場合、実務経験5年以上
・短大、専門学校、高専卒の場合、実務経験9年以上
・高卒の場合、実務経験11年以上
中卒など、上記のいずれに当てはまらない場合でも、実務経験を14年以上積めば誰でも受験資格が得られます。
他にも「ビオトープ管理士2級資格取得後に実務経験7年以上を有する者」など、関係する保有資格によっては必要実務年数が短縮される場合があります。
ビオトープ管理士の資格・試験の難易度
勉強方法次第では十分に合格可能
ビオトープ管理士試験は、計画管理士か施工管理士かによって専門科目の出題範囲が異なりますが、1級の合格率は約30%、2級の合格率は約45%のようです。
2級は筆記試験のみ、1級は筆記試験と口述試験が課せられます。
試験では高校~大学レベルの生物知識に加え、環境関連の法律知識なども問われますので、カバーしなければならない範囲は広く、効率よく勉強しなければなりません。
合格への1番の近道は、試験を主宰する日本生態系協会がまとめたテキストで勉強することです。
基本的に過去問と類似した形式か出題されますので、公式テキストで過去問を中心に学習していけば、独学でも十分に合格への道が拓けるでしょう。
ビオトープ管理士の給料・年収
平均年収は500万円ほど
ビオトープ管理士はその資格のみで働いているわけではないため、職業としての年収を取りまとめることは困難です。
収入は基本的に勤務先の給与体系に準じることになりますが、資格保有者は主に上場クラスの大手土木会社や土地開発企業に勤めています。
それらの平均値から算出すると、年収は490万円~550万円くらいが目安となるようです。
ただし、中小の土木会社や造園業者に勤めている場合もありますので、勤務先によっては年収はもう少し下がるかもしれません。
ビオトープ管理士のやりがい、楽しさ
生態系を自分の手で守る
ビオトープ管理士は、実際に森や山を訪れたり、生物に触れたりする機会の非常に多い仕事です。
動物や植物が好きな人にとっては、自分の好きなことを仕事にできる点がなによりの魅力でしょうし、それらに関することなら勉強も苦にならないはずです。
また、生態系を守る仕事は、社会的責任の大きな仕事でもあります。
失われつつある自然を自分の手で守ることからは、働くための大きな意義とやりがいを見出せるでしょう。
ビオトープ管理士のつらいこと、大変なこと
認知度が低く、理解してもらうことが難しい
ビオトープ管理士という仕事自体が未だ一般に浸透しているとはいいがたく、ときには活動内容を理解してもらうのに困難を伴う場合もあります。
たとえば魚などの動物と同じように、花などの植物にも外来種があり、日本国内の在来種の生態系を脅かしているケースがあります。
そうした場合は外来種の植物を駆除しなければなりませんが、作業を目にした人から「どうしてきれいに咲いている花を取り除く必要があるのか」と疑問を投げかけられることがあります。
専門的な仕事であるために、業務内容の説明が大変であるときは決して少なくありません。
ビオトープ管理士に向いている人・適性
自然が好き、生き物が好きな人
ビオトープ管理士の業務は専門性が高く、自然生態系の保全や再生を行うことに特化しています。
このため、何よりもまずそうした自然保護への意識が高く、自然や生き物を守りたいという意思の強い人に適性があるといえます。
受験時だけでなく、資格を取得してビオトープ管理士として働きだした後も、さまざまな生物や生態に関する知識や環境に関連した法律知識を修得し続けねばなりません。
自然が好きで、自然に関することを意欲的に学び続けられる人が、ビオトープ管理士に向いているでしょう。
ビオトープ管理士志望動機・目指すきっかけ
さまざまなきっかけで環境保護への関心が芽生える
ビオトープ管理士を目指す動機はそれぞれで、地方自治体のまちづくりや土木工事事業に携わっている人が、環境問題に関心を抱いて、業務に活かすために資格取得を目指すケースもあります。
また、次世代を担う子どもたちのために、今ある豊かな自然や生物をできる限りそのままの形で未来へ残したいと考え、ビオトープ管理士を志望する人もいるようです。
いずれの場合も、ある程度社会人として長く働いていたり、結婚して子供をもっていたりする30代や40代が、資格を取得したいと考えることが多いようです。
ビオトープ管理士の雇用形態・働き方
企業に勤めながら、資格取得の勉強をする
1級ビオトープ管理士になるためには学歴に応じた実務経験が必要であるため、土木工事会社などに正社員として勤務し、経験を積みながら、試験合格に向けた勉強に励むという働き方が一般的です。
逆に就職する前に2級資格を取得できても、それだけで就職に有利になるとは限りませんし、また資格取得後も、その資格だけで独立できるわけでない点には留意しておく必要があるでしょう。
資格の種類や有無に関わらず、ビオトープ管理士として活躍するには企業に勤めることが前提条件です。
ビオトープ管理士の勤務時間・休日・生活
業界によって勤務時間は異なる
ビオトープ管理士の資格保有者は建設業界や不動産業界、あるいは官公庁など、さまざまな業界で働いていますので、勤める先によって勤務時間や残業時間の多寡、休日は異なります。
公務員であれば土日祝日は休みでしょうが、ビオトープ管理士として公民館などでワークショップを開催したり、環境に関する講義をすることもありますので、一概に完全に休日とはいえません。
環境保全の大切さを周知するためのボランティアに従事することなども、ビオトープ管理士の活動の一環です。
ビオトープ管理士の求人・就職状況・需要
ビオトープ管理士としての求人はほぼない
ビオトープ管理士という資格は公益財団法人の日本生態系協会が認証する民間資格ですので、行政書士や司法書士といった国家資格のように資格単体での求人はありません。
ビオトープ管理士としての資格を活かした仕事がしたいなら、土木関係の企業や土地開発会社、造園業者、あるいは官公庁や地方自治体の都市計画部門に就職する必要があります。
またそれらの企業では、就職後にビオトープ管理士の資格取得を奨励しているケースもあるようです。
ビオトープ管理士の転職状況・未経験採用
資格保有者というだけでは転職できない
ビオトープ管理士はあくまで民間資格ですので、資格を有しているだけで特別有利に転職できるわけではありません。
自然環境調査を行っている企業などでは資格保有者が優遇されるケースもあるようですが、単に資格を有しているだけでなく、調査などの実際の技術に長けた即戦力であることが求められるようです。
キャリアアップを目指すなら、「土木施工管理技士」などの関連する国家資格を取得することも視野に入れるとよいでしょう。
ビオトープ管理士の現状と将来性・今後の見通し
環境意識の高まりから、資格保有者の活躍が期待される
日本では高度経済成長期以降、環境破壊問題が重要視され続け、近年では行政だけでなく民間企業でも、環境保全に向けた取り組みが盛んになっています。
次世代、次々世代のために、今ある環境を残しながら開発を行う「持続可能社会」という言葉が一般的になった昨今、この分野の専門家であるビオトープ管理士は、今後ますますの活躍が期待されます。
1級ビオトープ管理士のみに許された公共工事が増えつつあるように、今後ビオトープ管理士の必要とされる場は拡がっていくと思われます。