土地家屋調査士の仕事とは? わかりやすく仕事内容を紹介
土地家屋調査士の仕事とは
土地家屋調査士は、不動産に関する面積、形状、用途、所有者といった情報を、法務局における登記情報に正確に反映させるために、土地や建物の測量・調査を行う専門職です。
土地家屋調査士の代表的な仕事は、依頼者が建物を新しく建てたり、土地を分筆したり、合筆したりする際に必要となる「表題登記」手続きを代行することです。
また、土地と土地の境界が曖昧である場合、所有者間で揉め事が発生するケースがありますが、そうした紛争を解決する「筆界特定」を行うことも、土地家屋調査士の重要な仕事のひとつです。
これらは、土地家屋調査士の国家資格保有者だけが行うことを認められた業務であり、一般的に「独占業務」と呼ばれるものです。
土地家屋調査士は、測量などの高い技術や、法律に関する知識などを備えた不動産のプロであり、私たちの大事な財産である土地や建物を守ることを使命としています。
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土地家屋調査士の業務の内容
表題登記業務
不動産登記とは、土地や建物に関する情報を公的に明らかにし、誰でも閲覧できるようにするため、国家機関である法務局に登録することです。
登記情報には、所有者の名前や住所などが記載されている「権利部(甲区)」、抵当権設定状況などの「権利部(乙区)」の前に、所在地や用途、構造、階数、面積などの情報が載っている「表題部」があります。
すべての不動産には、この表題部を登記することが義務付けられていますが、たとえば建物を新築した場合、竣工時点では表題登記が存在しません。
そこで、土地家屋調査士は、顧客からの依頼に基づいて、対象物件を調査したり、測量したりして表題部を作成し、依頼者に代わって、法務局への申請手続きを行います。
表題登記を行うことで、所有者は第三者に対して正当にその持ち主であることを証明できたり、銀行から住宅ローンを借りたりできるようになります。
筆界特定業務
筆界とは、法務局に登記された土地と土地の境い目のことですが、土地によっては、境界を識別するポイントがなかったり、あるいは現況と違っていたりして、境界線がはっきりしないことがあります。
かつては、そうした敷地の境界を巡る土地所有者同士のトラブルは、当人同士が話し合うか、あるいは裁判を起こす以外に解決する手段がありませんでした。
しかし、そのような方法は長い時間と大きな手間がかかるうえに、隣地所有者が誰かわからないなど、そもそも解決しようがないケースもめずらしくありません。
そこで、2006年から導入されたのが「筆界特定制度」で、この制度では、土地家屋調査士は所有者および関係者、外部専門委員の意見を聴取したうえで、現地調査や測量作業を実施します。
そうして収集したデータや、過去の土地台帳、登記記録などを総合的に判断し、法務局の筆界特定登記官が筆界を確定させます。
筆界特定制度であれば、相手が非協力的だったり、所有者が誰か不明であっても、境界を確定させられますし、裁判と比べると時間も費用も大きく節約することが可能で、精神的な負担もありません。
また、法務大臣からの認定を受けた土地家屋調査士については、弁護士と共同で、裁判外における「民間紛争解決手続(ADR)」を受任し、筆界特定制度とは違う方法で、当事者間のトラブルを調停することもできます。
土地家屋調査士の役割
日本の不動産登記制度は、古く明治時代の地租改正に端を発していますが、発足から130年以上が経過しているために、上述したような境界紛争をはじめ、現在ではさまざまな問題が生じています。
なかには、明治時代で縄を使って計測したデータがいまだに用いられている土地もあり、形状や面積は非常に不正確です。
また、「地租」と呼ばれる土地にかかる税金を安くするため、意図的に面積が過少申告されている土地も少なくありません。
このため、登記情報が実態とかけ離れてしまっており、売買や相続に支障をきたすケースが近年増加しています。
土地家屋調査士は、そうした過去の登記を訂正したり、新築された建物を新しく登記したりすることで各人が所有する不動産の情報を正確にし、健全な不動産取引に貢献します。
また、土地家屋調査士は、不動産の登記情報を正しくすることで、私たちの大切な財産である土地や建物を、不正から守っているということもできるでしょう。
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土地家屋調査士の勤務先の種類・活躍の場
土地家屋調査士の勤務先の種類
土地家屋調査士の勤務先としては、土地家屋調査士事務所や登記測量事務所、測量会社など、個人形態・法人形態を問わず、測量業務を手掛ける組織が代表的です。
また、そのほかにも、土木建設会社や建設コンサルタントといった建設業界の企業や、地図製作会社で働く人もいます。
しかし、土地家屋調査士は、どこかに勤務するというよりも、自身の土地家屋調査士事務所・登記測量事務所を開業するか、あるいは親が開業した事務所を継ぐ人が大半です。
土地家屋調査士には、資格保有者しかできない「独占業務」が複数あること、そして、必要になる機材などがさほど多くなく、開業資金を抑えられることなどが、独立する人が非常に多い要因となっています。
ただし、一人でやっていくには、ある程度の実務スキルが必要になりますし、安定的に依頼を獲得するためのコネクションも必要です。
そのため、資格取得後にいきなり独立することも不可能ではありませんが、まずはいずれかの事務所や企業に所属して、将来的な独立を見据えて経験を積むケースが一般的です。
以下では、土地家屋調査士の代表的な勤務先について、それぞれの特徴をご紹介します。
個人事務所で働く土地家屋調査士
「〇〇土地家屋調査士事務所」「〇〇登記測量事務所」といった個人事務所は、スタッフ数名程度の小規模なところが大半であり、資格保有者である事務所代表者一人で経営しているところもめずらしくありません。
このため、個人事務所では代表者の指導の下、一連の業務すべてを経験しやすい点が特徴といえます。
また、代表者の働きぶりを間近に見ることで、独立後のイメージが湧きやすくなりますし、土地家屋調査士としてのスキルに加えて経営者としてのスキルも学べるでしょう。
ただし、個人事務所では、いずれ独立することが半ば前提となっており、あくまで見習いとみなされるため、給与などの待遇面については、それほど期待できないかもしれません。
個人事務所に勤めるなら、勤務している間は、やがて独立するための修業期間と割り切って、金銭面などの雇用条件を妥協することが必要になるでしょう。
測量会社で働く土地家屋調査士
測量法に基づき、調査や測量などを手掛ける企業を測量会社と呼びますが、測量会社の大半は自社内に土地家屋調査士を抱え、土地家屋調査士事務所としても登録しています。
このため、規模の大小を除けば、個人事務所と測量会社はほとんど同じといえますが、個人事務所と比べると、より大きな案件を手掛けやすい点が特徴的です。
とくに、国や地方自治体などの公的案件を手掛けたい人については、個人事務所よりも測量会社のほうが希望に合致した職場といえるでしょう。
また、給与や福利厚生などの待遇面についても、個人事務所よりも手厚いケースが目立ちます。
測量会社の場合、2年~3年ほどの実務経験を積んで独立する人もいれば、そのまま社内に留まって勤め続ける人もいます。
建設業界の企業で働く土地家屋調査士
土木建設会社や建設コンサルタントなど、建設業界の企業で働く土地家屋調査士もいます。
ある程度の規模の土木建設会社では、外注するのではなく、自社内で測量業務や登記業務まで完結させるほうがメリットがあるため、土地家屋調査士が募集されるケースがあります。
建設コンサルタントは、民間企業や官公庁をクライアントとして、計画や設計、調査などのアドバイザリー業務を行う企業です。
業務を行うためには、開発や防災、環境保護などに関する幅広い専門知識が必要になるため、土地家屋調査士の国家資格保有者が重宝されやすいようです。
コンサルタントとはいっても、単にアドバイスするだけでなく、実際の建設現場に赴き、測量設計業務や施工管理業務のサポートに携わるケースも少なくありません。
独立して働く土地家屋調査士
土地家屋調査士の独立形態としては、大きく3つのパターンがあります。
1つめは、単独で個人事務所を立ち上げる方法です。
手掛けられる案件は小規模となりますが、経営の自由度は最も高いといえますし、自宅を事務所と兼用するなどして、開業資金を節約することも可能です。
2つめは、ほかの土地家屋調査士とタッグを組んで合同事務所を立ち上げる方法です。
土地家屋調査士法人として会社化するケースもよく見られます。
経営の自由度は下がりますが、個人で経営するよりも大掛かりな案件を受注できる点が魅力です。
3つめは、税理士や司法書士、行政書士など、関連性の深い国家資格保有者と共同で事務所を設立する方法です。
こちらの方法では、他士業者と組むことによる相乗効果を狙います。
顧客にとっては、ワンストップで複数のサービスが受けられるメリットがあり、土地家屋調査士にとっては、案件を獲得しやすくなって、経営を安定化させられるメリットがあります。
土地家屋調査士の仕事の流れ
土地家屋調査士の仕事は、土地や建物の所有者から依頼を受け付けるところからスタートします。
まずは法務局に出向いて、対象不動産の現在の登記情報や測量図を閲覧したり、新築建物の場合は建設業者から図面を取り寄せたりして、情報収集を行います。
そのうえで、現地に赴き、境界ポイントを確認して専用の機材で測量作業を行ったり、周辺環境を調査したり、隣地所有者へのヒアリングを実施したりします。
そうしたフィールドワークを終えたら、事務所に帰って、収集したデータを整理・分析し、測量図や、法務局に申請するための書類を作成します。
すべての書類を揃えたら、法務局に提出し、後日法務局から送られてくる登記完了書類を依頼者に手交して、土地家屋調査士の一連の業務が完結します。
土地家屋調査士と関連した職業
測量士
「測量士」は、土地家屋調査士と同じく測量業務を行う専門家であり、使用する道具や作業服も似ているため、パッと街中で仕事風景を見ただけでは、どちらなのか判断がつかないこともあります。
両者の違いを端的に表すと「登記のために測量するかどうか」で、測量士は、地図や図面の作成など、登記以外を目的として測量作業を実施します。
このため、土地家屋調査士は、民間の所有する物件を測量するケースが多い一方、測量士は、道路や橋、トンネル、ダムなど、公共物件の測量を手掛けるケースが主です。
行政書士
「行政書士」は、会社設立や店舗開業など、官公署に対する各種許認可の申請手続きや、遺言や相続に関する手続きなどを代行する、公的文書作成の専門職です。
その業務範囲は非常に広いため、土地家屋調査士と関連性の深い業務も多く、両者が協働で手掛ける案件としては農地転用手続きや、土地の開発許可申請、風俗営業許可などが挙げられます。
このため、両者の国家資格を取得してダブルライセンスとなり、ワンストップでこれらの案件を受注している人も少なくありません。
司法書士
「司法書士」は、土地家屋調査士と同じく登記に関する専門職であり、不動産登記においては、上述した登記情報内の「権利部」に関する登記を手掛けます。
たとえば建物を新築した際には、両者が協力して、土地家屋調査士が構造や面積などの表題登記を、司法書士が所有権や抵当権などの登記を行います。
また、司法書士は、不動産登記のほか、法人企業などに関する情報を登録する「商業登記」や、過払い金請求などを行う「債務整理」といった業務も行います。