理学療法士のリハビリの流れ(急性期・回復期・維持期)
理学療法士のリハビリの流れ
患者がけがを負ったり病気を発症したりして、治療を受け、再び日常生活に戻るまでには、通常いくつものステップを踏まなければなりません。
理学療法士が行うリハビリテーションについても、おおまかに急性期、回復期、維持期の3段階に分けて、各段階ごとに別々の治療目的に基づき、別々の治療方法が用いられます。
たとえば脚を骨折した患者の場合、まだ骨がくっついていない時期と、ギプスを外したばかりの時期、日常生活へ復帰するため歩く力を取り戻す時期とでは、リハビリの内容はまったく異なります。
理学療法士は、身体機能を取り戻すまでの一連の流れを理解し、各段階における患者の特徴を踏まえたうえで、物理療法や運動療法など、最適な治療法を選択することが必要です。
なお、近年は本格的な高齢化社会を迎えており、高齢者の身体機能を少しでも長く維持することが、医療における重要課題となっています。
このため、従来の3段階ではなく、その最初と最後に「予防期」と「終末期」を加えた合計5段階で、一貫したリハビリが行われるようになりつつあります。
急性期のリハビリ
急性期のリハビリの目的
病気の発症やけがなどからおおむね2、3週間前後の急性期については、安静にしておくことが最優先です。
しかし、過度に安静にしすぎると、短い時間の間に身体機能が大きく失われ、日常生活に戻るのに時間がかかったり、戻ること自体が困難になることもあります。
そこで、医師や看護師と協力しながら、ムリのない範囲で、座る、寝返りをうつといった日常動作を自力で行えるようサポートし、「早期離床」を促すことが急性期におけるリハビリの目的です。
急性期のリハビリの内容
手術直後など、自力で体を動かすことが困難な場合は、床ずれや痰が溜まることを防ぐため、体位の交換を行います。
容態が安定し、医師の許可が下りれば、徐々にベッド上で足を動かすなどのリハビリを開始します。
その後、ベッド上で上半身を起こし、座る姿勢を保つ訓練を行い、やがてベッドサイドに立つ訓練へと移行します。
あわせて、血行を良くしたり、痛みを緩和したり、あるいは精神的にリラックスさせるために、患部をさするマッサージなどの物理療法も積極的に導入します。
車椅子に自力で乗れるレベルまで回復した患者については、リハビリテーション室に移動し、後述する回復期と同内容のリハビリに取り組む場合もあります。
回復期のリハビリ
回復期のリハビリの目的
急性期の治療が終了してから1ヵ月~4ヵ月ほどの回復期は、最もリハビリテーションの効果が期待できる時期です。
急性期の病院からリハビリテーション専門の病院へ転院するか、あるいは総合病院などでは急性期病棟から亜急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟などの別セクションに移って治療を行います。
回復期におけるリハビリの目的は、退院して自宅に戻ること、そして社会復帰することです。
座る、歩くといった基本動作だけでなく、食べる、排せつする、入浴するなど、作業療法士や言語聴覚士とチームを組んで、日常生活を自力で送るための機能回復に努めます。
もちろん、症状や年齢次第では元のレベルにまで戻れないケースもありますが、残された身体機能を有効利用し、できる限り不自由なく生活できるよう指導することも、回復期リハの大事な目的です。
なお、患者によっては、退院した後も、通院しながらリハビリを継続するケースもあります。
回復期のリハビリの内容
回復期におけるリハビリは、リハビリテーション室において行う、マット、車椅子、ベンチ、手すり、平行棒などを用いた運動療法が主です。
患者にもよりますが、まずはマットの上を移動する訓練や、四つん這いになって姿勢を維持する訓練などを行い、低下してしまった筋力の回復を図ります。
ある程度のレベルまで筋力が戻ったら、次は手すりにつかまって立ち上がる、平行棒内で立ったままバランスをとるなどして、歩くための準備を行い、やがて歩行訓練へと進みます。
また、患者ごとの残された身体機能に応じて、車椅子の操作方法など、できる限り健常者に近い生活を送るための訓練も同時に行います。
さらに、高齢者に対しては、運動などの個別訓練以外に、趣味活動やレクリエーション、体操などの集団訓練も行って、寝たきりにならず、社会生活に復帰するための「離床活動」を実施することもあります。
退院後についても、自宅で安全に暮らすことができるよう、ケアマネージャーや作業療法士と共に患者の家庭を訪問し、理学療法士としての視点から生活環境の改善を提案したりします。
維持期のリハビリ
維持期のリハビリの目的
急性期における治療から4ヵ月~半年ほどが経過し、運動機能の回復スピードが緩やかになる維持期に入ると、そのまま施設に入院し続けて治療する人もいれば、自宅療養する人もいます。
また、高齢者については、退院しても自宅に戻らず、老人保健施設や老人ホームなどに入所してリハビリを続けるケースもあります。
一概にはいえませんが、脳卒中など、なんらかの後遺症で麻痺が残ってしまった人については、維持期に入ってもなかなかリハビリが思うように進まず、入院が長期的しやすい傾向にあります。
自然回復によって劇的に機能が改善することは望みにくい以上、維持期におけるリハビリの目的は、より精神的なケアの比重が大きくなるでしょう。
目に見えるような結果が出ず、つらいリハビリを続ける意欲を失ってしまう患者も少なくありませんので、訓練だけでなく、社会活動への参加など、生活を楽しむための取組みも必要になります。
諦めず、粘り強く反復動作訓練やADL(日常生活動作)訓練を行うことで、身体機能の改善がみられるケースもあります。
いかに患者それぞれの生活の質を高められるかが、リハビリの効果に大きく影響するといえるでしょう。
維持期のリハビリの内容
維持期のリハビリは、患者の症状や生活環境によってさまざまです。
入院患者に対しては、寝たきりになることを防ぐため、できるだけベッドから離れるよう働きかけたり、移動できる患者に対しては、回復期と同様の運動訓練を継続して行います。
自宅療養している患者に対しては、通院時の外来リハや、患者の自宅での訪問リハ、介護施設で生活している患者に対しては通所リハなどで、各人に合わせた物理療法や運動療法を行います。
ただし、入院時と比べると、どうしても治療できる時間は限られるため、機能を改善させたり、維持していくためには、各患者が自発的にリハビリに取り組むことが必要です。
自宅でできる訓練プログラムを指導したり、限られた身体機能でいかに不自由なく日常生活を送るかを患者と共に考えたりすることも、理学療法士が行うリハビリの一環といえるでしょう。