海上保安官の年収・給料はいくら? 潜水士や海上保安庁パイロットの給与も解説
海上保安学校、または海上保安大学校で学ぶ段階から国家公務員の扱いとなるため、学生でも給与をもらえるのが特徴です。
この記事では、海上保安官の給料や年収について詳しく解説します。
海上保安官の平均年収・給料の統計データ
国が公表しているデータも参考にしながら、海上保安官の平均年収や給料について紹介します。
海上保安官の平均年収・月収・ボーナス
海上保安官を目指す人は、まず「海上保安大学校」または「海上保安学校」へ入学し、海上保安官として働くための基礎教育を受けることになります。
「学校」とはいっても、入学をした時点で国家公務員の立場になるため、給与が支払われます。
在学中の給料は人事院による「行政職俸給表(一)」にもとづいて支給されますが、海上保安官として配属されると「公安職俸給表(二)」の給与が適用されます。
人事院が公表している令和4年国家公務員給与等実態調査報告書をもとにした、海上保安官の給料・年収は以下の図のとおりです。
平均給与月額は407,697円(俸給:338,103円)です。
ボーナスは「期末手当・勤勉手当」として6月・12月の年2回、合計して俸給等の4.3月分が支給されます。(令和4年4月13日現在)
以上のデータから年収を試算すると、海上保安官の平均年収は約665万円程度になると考えられます。
※平均年収は、きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額にて計算。
※本統計はサンプル数が少ないため、必ずしも実態を反映しているとは限りません。
したがって、このページで取り上げている給与データは参考程度に見てください。
海上保安官の初任給はどれくらい?高卒と大卒で違いがある?
海上保安官の初任給は、学歴や任官後の職種によっても変わります。
参考までに、海上保安学校を卒業後、巡視船勤務した場合の学歴別初任給例を紹介します。
207,700円
※俸給表:公安職(二)1級7号俸適用
227,500円
※俸給表:公安職(二)1級17号俸適用
なお、海上保安学校もしくは海上保安大学校に入学したばかりでも、国家公務員として行政職(一)にもとづく給与が支給されます。
150,600円
※俸給表:行政職(一)1級5号俸の場合
※2022年度4月1日の給与例
182,200円
※俸給表:行政職(一)1級25号俸の場合
※2022年度4月1日の給与例
基本的には、海上保安大学校では幹部職員候補として、海上保安学校では一般職員候補として養成されるため、海上保安大学校出身者のほうが給与は高いことが特徴です。
参考:海上保安学校 学生採用試験
参考:海上保安大学校 学生採用試験
参考:海上保安大学校(初任科) 大卒者対象課程 海上保安官採用試験
海上保安官の経験年数・学歴別の平均年収
海上保安官の俸給額は、経験年数や学歴によっても異なります。
以下の表は、公安職(二)の俸給を経験年数・学歴(高卒・大卒)別に表したものです。
また、俸給表や公表されている給与モデルから計算すると、年代別の年収・月収は以下のようになると考えられます。
20代
平均的な年収は約400~500円ほど、月収にすると25~30万円ほどとなります。
30代
平均的な年収は550~700円ほど、月収にすると35~45万円ほどとなります。
40代
平均的な年収は650~800円ほど、月収にすると40~50万円ほどとなります。
50代
平均的な年収は700~850円ほど、月収にすると50~55万円ほどとなります。
海上保安官(公安職(二))の級別平均俸給と経験年数
国家公務員の俸給は、各人の「級」によっても異なります。
海上保安官が該当する公安職(二)の俸給表において、それぞれの級の平均俸給を示したのが以下の表です。
海上保安官(公安職俸給表(二))の学歴別人数
公安職俸給表(二)の学歴別人数をグラフにしたものです。
公安職俸給表(二)が適用されるのは海上保安官だけではありませんが、高卒・短大卒・大卒とまんべんなく分布し、大卒者がやや多めとなっています。
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海上保安官の給料・年収の特徴
ここからは、海上保安官の給料・年収の特徴を紹介します。
特徴1.教育を受けている段階から給与が支給される
海上保安官は、海上保安官としての能力を養成する特別な学校(海上保安学校か海上保安大学校、海上保安大学校<初任科>)で基礎教育を受けている段階から、国家公務員として扱われます。
そのため、学生でありながら給与や期末手当も支給される点が特徴的です。
さらに、海上保安学校、海上保安大学校、海上保安大学校(初任科)は、入学金・授業料等は一切不要です。
学生生活に必要な制服や寝具等は貸与されるため、生活費もほとんどかかりません。
ただし、本科・初任科ともに教科書代や食費、消耗品費等は別途必要となり、これらを差し引くと、毎月の手取りは8~9万円ほどになると考えられます。
特徴2.海上業務は陸上業務よりも手当が多くつく
海上保安官の仕事は、主に海上業務と陸上業務に分かれています。
海上業務は巡視船艇での勤務などを担い「公安系」と呼ばれ、陸上業務は主に東京にある本庁や地方の管区本部等での事務作業が中心です。
仕事の性質上、海上業務の方が年収は高くなっています。
また、海上業務には、この仕事ならではの手当も付きます。
たとえば海上保安学校卒業後、巡視船乗組員として勤務した場合、乗船手当が月に約35,000円、公開日当が9,000円、食事代が約35,000円上乗せされます。
月に15回航行したとすると、平均年収は26万円。一般的な事務職は約16万円ほどですので、海上業務を担う海上保安官は、約1.6倍も年収は高くなります。
特徴3.退職金は高めに設定されている
海上保安官の退職金は、定年まで勤め上げた場合、おおよそ2,000万円前後といわれます。
また、公安職の年金額は、通常の国家公務員よりも高めに設定されており、その点でも恵まれているといえます。
ただし、依願退職という形で途中で海上保安官を辞めてしまった場合、退職金は大幅に減額されます。
【参考】海上保安官の月収例
経歴 | 年齢・家族 | 月収 |
保安学校卒、大型巡視船の士補 | 25歳独身 | 約24万円 |
保安大学校卒、大型巡視船の主任 | 25歳独身 | 約26万円 |
保安学校卒、陸上勤務(海上保安部の係長) | 40歳既婚子供2人 | 約38万円 |
保安学校卒、巡視艇船長 | 40歳既婚子供2人 | 約40万円 |
保安大学校卒、陸上勤務(海上保安部の課長) | 40歳既婚子供2人 | 約42万円 |
参考:海上保安レポート2021
海上保安官の福利厚生の特徴は?
海上保安官は、国家公務員としての手厚い福利厚生も魅力です。
海上保安官が受けられる福利厚生は、国家公務員全体に対してのものと、海上保安官特有のものがあります。
- 扶養手当:配偶者の場合は最高で月6,500円、子10,000円支給
- 住居手当:借家に居住する場合は最高で月28,000円支給
- 単身赴任手当:やむを得ず家族と別居する場合は月30,000円~100,000円支給
- 地域手当:民間賃金の高い地域に勤務する場合に支給。一番支給割合が高い1級地が東京都特別区で支給割合は俸給などの20%、一番低いのが7級地(札幌市、前橋市など)の3%
そのほか、ワークライフバランスを支援する制度として以下のような制度もあります。
- 妊娠中の時差通勤制度や妊産婦検診のための職務専念義務免除の制度
- 出産に関わる入退院の付添いができる配偶者出産休暇や育児参加休暇
- 子育て期間中の育児短時間勤務、保育時間、早出遅出勤務、超過勤務制限
海上保安官特有の福利厚生
海上保安官は国土交通省の職員という立場になるため、国土交通省共済組合員としての社会保障を受けることができます。
本人・被扶養者の病気やけが、結婚や出産、子どもの進学、各種休業時など、あらゆるシーンで給付金を受け取ることができます。
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海上保安庁のスペシャリストの年収
海上保安庁には、非常に高度な技術を習得したスペシャリストも活躍しています。
ここでは「潜水士」「パイロット」「特殊救難隊・機動救難士」の3つのスペシャリストを取り上げて、それぞれの年収目安を紹介します。
海上保安官の潜水士の年収
海上保安庁には海難救助をおこなう潜水士がおり、「海猿」の愛称で呼ばれています。
潜水士の場合、潜水手当が増えますが、基本的には俸給表に沿った給与が支給されるため、大幅な違いはありません。
平均年収は600万円〜700万円程度となるでしょう。
海上保安官として潜水士になれるのは、ごくわずかのエリートのみで、非常に「狭き門」といえます。
海上保安庁のパイロットの年収
海上保安官としてパイロットになると、パイロット手当や飛行手当がつくため非常に高額になります。
そのため、海上保安官のパイロットになると年収1000万円を超えることもあるといわれています。
ただし、海上保安官のパイロットになるには、海上保安大学校専攻科を修了し、本人の希望と適正により選抜されなくてはなりません。
選ばれた人のみがパイロットになる研修と訓練が受けられる非常に狭き門であり、難易度は高いといえるでしょう。
海上保安庁の特殊救難隊・機動救難士の年収
海上保安庁には、潜水士やパイロット以外の特殊任務につく人もいます。
機動救難士は、海難船舶の遭難者や海上で漂流する遭難者をヘリコプターにより迅速に救助する専門チームで、ヘリコプターからの降下技術や潜水等の救助技術のほか、大半は救急救命士の資格を持っています。
特殊救難隊は、危険物積載船の火災消火、転覆船や沈没船内からの人命の救出、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助など、高度で専門的な知識技能を必要とする「特殊海難」への対応を任務とするスペシャリストです。
潜水士が120名程度であるのに対し、機動救難士は約80名、特殊救難隊は約40名ほどしかいません。
これらの職種の年収は公表されていませんが、俸給表に沿った給与に手当がプラスされることを考えると、平均年収は700万円~800万円程度、ベテランとなるとさらに年収は増えると考えられます。
海上保安官が収入を上げるためには?
国家公務員である海上保安官は、基本的には長く働くにつれて給料が上がっていきます。
長く働いて階級を上げれば収入も上がる
海上保安官の給与は業績に左右されないのはもちろん、給与ベースとなる俸給表は法律で定められているため、給与を上げるには俸給の等級を上げるしかありません。
国家公務員は定期的に昇給が行われるため、ある程度の年齢までは不祥事を起こしたり、勤務内容に問題があったりしなければ給与はアップします。
海上保安官の業務内容は、自身はもちろん仲間の命に関わるような危険をともなうものも多いため、「なんとなく」という軽い気持ちで取り組む人はほぼいないはずです。
より高いレベルの技術や知識を身につける努力をするなかで階級を上げていけば、定期的な昇給以上に収入はアップするでしょう。
海上保安官は年収1000万円を目指せる?
公安職俸給表を見ると、最も高い階級・号俸でも年収1000万円を超えることはほぼ不可能と考えられます。
ただし、海上保安官としてパイロット職に就いた場合は特別なパイロット手当や飛行手当がつくため、年収1000万円に達するケースも考えられます。
また、高い成果を出し、一般の職員以上の階級にまで上がることでも大幅な収入アップが望めます。
「海上保安庁の給料・年収」まとめ
海上保安官は国家公務員として、法律で決められている「俸給表」に沿って給与が支払われます。
勤務内容や配属、勤続年数等によって収入は大きく変わりますが、任務の特殊性や危険性から、一般的な職業と比べてもやや高めの水準となっています。
基本的には経験を積み、階級を上げれば上げるほど収入はアップします。
年収1000万円以上を得る海上保安官は限られると考えられますが、国家公務員としての手当や福利厚生が充実しているため、安定した生活を送ることができるでしょう。