海上保安官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「海上保安官」とは
日本の海域を常に監視し、不審船の取締りや海洋情報を収集して海の治安と安全を守る。
海上保安官は「海の警察官」として、日本の海域を巡視船や航空機を使って監視し、海の治安と安全を守ります。
身分は海上保安庁に所属する国家公務員です。
おもな業務は、不審船の取り締まりなどを行う「警備救難業務」、安全な航海のための情報を集める「海洋情報業務」、海上交通の管理をする「海上交通業務」があります。
海上保安官になるための一般的なルートは「海上保安大学校」もしくは「海上保安学校」に入学し、1年~4年かけて所定の教育を受けることです。
在学中は学生でありながらも国家公務員の身分となり、給与をもらいながら海上保安官として必要な知識・技術を高めていきます。
広い領海をもつ島国の日本において、海の治安を守る海上保安官は高い需要のある職業です。
「海上保安官」の仕事紹介
海上保安官の仕事内容
海上の安全を守る「海の警察官」として働く
海上保安官は、巡視船や航空機を使って日本の海域を監視し、海の治安と安全を守る、いわば「海の警察官」です。
身分としては、国土交通省の外局(中央省庁に属する組織でありながら、独立的な業務を担う機関のこと)である「海上保安庁」に所属する国家公務員となります。
海上保安官の業務は海上で行うものが中心ですが、それ以外に陸上、あるいは空上でのものもあります。
海上では、全国の海上保安部署に配置されている警備救難業務用船や海洋情報業務用船などに乗船し、パトロールや、不審船の取り締まりなどに携わります。
また、安全な航海のための情報を集めたり、海上交通を管理したりすることも重要な業務の一部です。
海上保安官と海上自衛隊の違い
海上保安官と同様、海を守る組織に「海上自衛隊」があります。
一部業務は重複していますが、両者の役割は明確に異なっており、海上自衛隊が外部の侵略からの防衛を目的としているのに対し、海上保安官は警察官や消防隊員のような治安保全の役割を担います。
このため、海上保安官は不審船の乗組員に対し、警察官と同じように「逮捕権」も有していることが特徴です。
海上保安官になるには
一般職員を目指すか、幹部を目指すかによって道が異なる
海上保安官になる一般的なルートは、目指すキャリアに応じて「海上保安学校」もしくは「海上保安大学校」のいずれかに進学することです。
「海上保安学校」は、一般職員を養成する教育施設です。
船舶運航システムや航空システム、航空機の操縦技術などの実践的な知識・スキルを身につけ、1~2年の学習期間を経たのち、海上保安官として配属されます。
一方の「海上保安大学校」は、幹部候補生のための育成機関です。
海上保安行政に必要な知識を本科で4年間、その後は専攻科で6ヵ月、国際業務課程で3ヵ月、計4年9ヵ月かけてより深く学び、卒業後には幹部を目指すための道を歩んでいきます。
どちらも中卒での入学はできず、高等学校または中等教育学校(中高一貫校)の卒業が最低条件です。
女性の採用も積極的に行われている
海上保安官の学校に入る時点で、特別な資格が求められることはありません。
ただし、海上保安官になってから活動するためには職種ごとに必要な資格があるため、海上保安大学校または海上保安学校で訓練を行いながら資格取得を目指します。
なお、海上保安官は女性も多く採用されており、男性と同様、多様な業務に従事できますし、最近では女性が幹部を目指すキャリアパスの可能性も広がっています。
海上保安官の学校・学費
海上保安官を育成するための学校は2種類
海上保安官を目指す人が進学する「海上保安学校」と「海上保安大学校」は、どちらも「高卒以上」の学歴であれば入学試験を受けることができ、両校の併願受験も可能です。
ただし、受験できる期間が定められているほか、身長や体重、視力、聴力などの条件を満たす必要もあるため、事前に最新の募集要項を確認しておきましょう。
なお、幹部候補者が通う海上保安大学校は、卒業すると日本で唯一の学位である「学士(海上保安)」が与えられます。
厳しい学生生活を乗り越えるための意思が求められる
海上保安学校と海上保安大学校は、どちらも入学金や授業料が不要なうえに、在学中でも身分は国家公務員となるため、一定の給与が支給されます。
金銭的な負担がない状態で、職務に必要な知識・技術を学べるのは大きなメリットといえるでしょう。
しかし、在校中は全員が寮生活を送り、厳しい規律やルールの下で日々を過ごします。
途中で脱落してしまう人もいるほどで、卒業を目指すには強い意思や覚悟が求められます。
海上保安官の資格・試験の難易度
海上保安官の学校に入るための入学試験がある
海上保安官を目指す人の多くは「海上保安学校」もしくは「海上保安大学校」に進学し、所定の教育を受けます。
どちらの学校でも入学試験が実施され、倍率は海上保安学校が3倍~10倍、海上保安大学校は6倍~10倍前後で推移しています。
海上保安学校にはいくつかのコースが設けられており、「情報システム課程」の競争倍率は相対的に低めの一方、パイロットを養成する「航空課程」には人気が集中する傾向です。
一方、海上保安大学校は将来の幹部候補を養成する場とあって、国立大学入学並みの学力が必要といわれており、難易度は高いほうといえるでしょう。
いずれの試験においても、筆記試験のほか個別面接や体力検査なども実施されており、海上保安官にふさわしい人柄や対人能力、体力などが求められます。
海上保安官の給料・年収
専門性の高さが考慮された給与体系になっている
国家公務員である海上保安官の給料は、法律によって決められています。
「海上保安学校」や「海上保安大学校」の在校中は「行政職俸給表(一)」の俸給表が、配属後には「公安職俸給表(二)」の俸給表が適用されます。
公安職の俸給表では、専門性が高い職務に就くため、一般的な行政事務を担当する職員よりも高めの給与体系となっているのが特徴です。
給料は年齢や職種などによって異なりますが、海上保安官全体の平均年収は640万円程度と推定されます。
海上保安官は職種が豊富で、勤務スタイルも海上勤務や陸上勤務、航空関連勤務などがあるため、収入パターンもさまざまです。
国家公務員としての手厚い待遇が期待できる
福利厚生に関しては、ほかの国家公務員と同様ボーナスの支給があり、扶養手当、地域手当、住居手当など各種手当が充実しています。
また、海上保安官特有の福利厚生として、国土交通省共済組合員としての社会保障が受けられます。
なお、海上保安官は全国転勤、もしくは採用管区内での転勤が必ずありますが、海上保安庁の宿舎も用意されているため、金銭面で大きく不便を感じることはないでしょう。
関連記事海上保安官の年収・給料はいくら? 潜水士や海上保安庁パイロットの給与も解説
海上保安官の現状と将来性・今後の見通し
海に囲まれた日本では不可欠な職業
四方を海に囲まれた島国である日本は、常に諸外国から船が不法侵入してくる可能性をはらんでいます。
また、近年は尖閣諸島などの領土問題をめぐって近隣諸国との緊張感が高まっているほか、国際犯罪組織による麻薬や覚せい剤などの密輸も相次いでおり、海上保安官の仕事は重要性を増しています。
国家公務員という安定した身分が得られますし、国際化が進むとともに、求められる役割や期待度はさらに高まっていくといえるでしょう。
近年では、海上保安学校や海上保安大学校を卒業する新任者の増員や、海上保安庁における中途採用も積極的に行われています。
今後は国際的に活躍する場も増えてくると考えられ、多様なキャリアパスが用意されています。
海上保安官の就職先・活躍の場
海上のみならず、陸上や空上で働くこともある
海上保安官は、日本領海の治安を守るために活躍します。
「海上」と名がついている通り、海での業務は多々ありますが、それ以外に「陸」や「空」においてもさまざまな業務を担っています。
たとえば陸上においては、霞が関にある海上保安庁や、全国に11ある管区本部に勤務し、海上保安行政の企画・立案、各省庁との調整、経理業務などに従事します。
通常、配属後の海上保安官は、陸上におけるデスクワークと、巡視船に勤務する海上保安業務を交互に繰り返します。
また、空の業務に関しては、航空基地に勤務して飛行機やヘリコプターを操縦し、空から海難救助や犯罪取締を行うケースもあります。
海上保安官の1日
海上では数日間連続での勤務となる
海上保安官といっても配属先はさまざまであり、担当する職務によっても1日の過ごし方に違いがあります。
ここでは、一例として海上業務のスケジュールをご紹介します。
いったん巡視船に乗ると、最低でも10日間は陸に帰らず、連続してパトロール業務などにあたります。
海上保安官のやりがい、楽しさ
海上保安官にしかできない業務をやり遂げる達成感
海上保安官は、刻々と変化していく海の上という難しい環境で職務をまっとうするため、高度な専門知識や技術が要求されます。
海難現場を発見することも、荒れ狂う波の中で救助活動を行うことも、不審船を取り締まることも簡単にできるものではなく、緊迫した状況に直面することも少なくありません。
担う責任の重さや緊張感は大きなものとなりますが、海上保安官にしかできない業務が多々あるため、その点にやりがいや誇りを感じている人が多いです。
また、海上保安官になってからも経験を積み、特殊な訓練を積んでいくことによって、「潜水士」や「特殊救難隊」などのスペシャリストを目指すことも可能です。
海上保安官のつらいこと、大変なこと
常に危険が付きまとう場で働く機会が多い
海上保安官が働く現場は、常にプレッシャーや危険が付きまとう環境が多いです。
たとえば不審船に対して警告を出す際にも、相手がどのような対応をしてくるかわからないため、緊張感が張り詰めます。
また、海難救助の場面では、自分が事故に遭うなど二次災害を起こさないように慎重に事を進めなくてはなりません。
難しい業務が多いからこそ、常日頃からの訓練も厳しさがあります。
海上保安官として配属される前の、海上保安学校や海上保安大学校での生活も決して生易しいものではなく、この時期に耐え切れなくなって辞めてしまう人もいるほどです。
強い意思、使命感を保ち続けられる人でなければ、海上保安官として働くのは難しいかもしれません。
海上保安官に向いている人・適性
チームの中で自分の役割をきちんとまっとうできる人
海上保安官の海上業務は危険性をともなうこともあって、基本的に単独で作業を行うことはなく、班単位で連携して行動します。
このため、海上保安官には、チームとして個々の役割をまっとうする献身性と、周囲に気を配れる協調性に長けた人に向いています。
そうした資質は、海上保安学校や海上保安大学校における寮生活、集団生活でも試されることになります。
高校時代以前から、部活動や課外活動を通して、周囲と連携して物事に向き合う力をある程度養っておきましょう。
また、自分の力で日本の治安を守りたいと思える、責任感や使命感が強い人に向いている仕事です。
関連記事海上保安官に向いている人とは? 適性や必要な能力を紹介
海上保安官志望動機・目指すきっかけ
海が好きで、漫画や映画に影響を受けた人も
海上保安官を志望するのは、やはり「海が好き」という人が非常に多いです。
また、船舶の操縦に対する憧れがあったり、飛行機やヘリコプターなどのパイロットになりたいと考えたことから、海上保安官の仕事にめぐりあった人もいます。
最近では海上保安官の仕事が漫画や映画の題材として取り上げられることもあり、過酷な状況下で日本や人々を守る姿に魅了された人も増えているようです。
目指そうと決めたきっかけは人それぞれですが、海上保安官の本分といえる「誰かの役に立ちたい」という思いが原点にあるのでしょう。
面接試験では志望動機が重視される
海上保安学校・海上保安大学校いずれの入学試験においても、筆記試験を通過したあとには「人物試験」といわれる個別面接が行われます。
ここでは、どれだけ本気で海上保安官を目指そうと思っているのかが確認されるため、具体的な志望動機を述べられるよう準備しておきましょう。
とくに人命に関わる業務が多いことから、強い責任感をアピールすることが大切です。
単なる憧れの気持ちだけでは合格できない場合があるため、注意しましょう。
関連記事海上保安官の志望動機と例文・面接で気をつけるべきことは?
海上保安官の雇用形態・働き方
海上保安官の組織は階級で成り立っている
海上保安官として採用された人は、海上保安庁に所属する国家公務員の身分で働きます。
海上保安官の世界では、警察官と同じような「階級」という区分制度で成り立っています。
階級の呼称は、下から順に海上保安士、海上保安正、海上保安監、警備救難監、次長、海上保安庁長官です。
基本的には勤続年数に応じて徐々に昇進していきますが、職務成績などの個人能力も勘案され、階級によって給与面などの待遇もかなり差が生じます。
なお、海上保安学校卒の場合は「三等海上保安士」、海上保安大学校卒は「三等海上保安正」という階級からスタートします。
つまり出身学校によって初任時の階級には差があり、その後の昇進スピードも変わってきます。
海上保安官の勤務時間・休日・生活
海上勤務時は特殊な勤務スケジュールとなる
海上保安官の勤務時間は、基本的に1日8時間程度に定められていますが、陸上勤務か、海上勤務かで事情は大きく異なります。
陸上勤務の場合は、事務などを担当する公務員と同じように日勤になりますが、海上勤務の場合は24時間のシフト制を組み、「ワッチ」と呼ばれる勤務表に基づいて班ごとに操船やパトロールなどを行います。
休日についても、陸上勤務時は土日祝日を休みとする一方、海上勤務では乗船スケジュールなどによって不規則になります。
巡視船にいったん乗れば10日以上は帰ってこられない勤務もありますし、乗船中は休憩時間も限られた空間の船上で過ごします。
ただし、国家公務員としての休日・休暇はきちんと適用され、仕事を終えればオフの時間を十分に作ってリフレッシュすることは可能です。
海上保安官の求人・就職状況・需要
求人数は年度によって上下する傾向
海上保安学校の合格者数は年度によってかなりばらつきがありますが、全職種合計で200名~500名前後が合格している年が多いです。
とくに採用人数が多いのが「船舶運航システム課程」で、400名以上の合格者を出す年もあります。
一方、海上保安大学校の人数は80名前後で推移しています。
ただし、入学試験においては、辞退者を見込んで採用人数よりも多めに合格者が輩出されます。
成績上位者から順に採用が決まっていき、必ずしも「試験に合格した=採用」とはならない場合があるため注意が必要です。
なお、過去に海上保安官として現職で働いている人は男性がほとんどでしたが、近年は女性の試験合格者が増加傾向にあり、今後は女性の海上保安官比率が高まっていくと想定されます。
海上保安官の転職状況・未経験採用
海上保安官を目指す人向けの「海上保安学校」や「海上保安大学校」の入学試験には、受験資格(年齢制限)が設けられています。
最近は年齢制限の引き上げが実施され、海上保安学校に関しては20代の人も応募しやすくなっていますが、社会人から同校への進学を目指すならなるべく早期に決断しましょう。
なかでも海上保安大学校については、4年制大学の卒業後でも間に合わない点には注意が必要です。
ただ、最近では幹部職員を養成するための「大卒者向けの海上保安官採用試験」もスタートしているため、社会人が海上保安官に転職できる可能性は少し増えています。
転職希望者は、まずは希望のキャリアをよく考えて、各試験の年齢制限に引っかからないように気をつけて準備していきましょう。
海上保安官の階級
階級によって役割や職務が異なる
海上保安官の組織では、警察官や自衛官などと同じように「階級」が存在し、階級によって役割や職務が明確に分けられています。
組織のトップにあたるのが「長官」で、そこから最も下の「三等海上保安士」まで13階級あります。
職務を経験しながら徐々に昇進していきますが、どのような学校を出たかによって、海上保安官としてのキャリアのスタート時の階級が異なるのも特徴です。
たとえば、幹部候補として現場に出る海上保安大学校の卒業生は、中型巡視艇船長になれる「三等海上保安正」として配属されます。
一方、海上保安学校の卒業生は、航海士補、機関士補、主計士補といった専門職として活躍できる「三等海上保安士」として配属されます。
海上保安官の制服には、それぞれの階級に応じた「階級章」がついており、一目でどの階級かがわかるようになっています。
女性の海上保安官
女性も最前線で活躍できるフィールドがある
海上保安官は男性が圧倒的に多くはあるものの、女性の比率も時代を追うごとに徐々に高まっています。
平成31年4月1日現在では、海上保安庁において、全職員の6.9%にあたる979人の女性職員が活躍していると発表されています。
海上保安庁では、性別関係なく職務にあたることができる環境が整えられており、実際に女性の海上保安官は、語学力を生かした国際捜査官や船舶交通の安全を担う運用管制官、航空機でパトロールや救助活動を行うパイロットなどの最前線でも活躍しています。
一定の体力は必要な仕事ですが、日頃の訓練やトレーニングを重ねていけば、ついていけないことはないでしょう。
犯罪捜査などで、女性ならではの対応力を生かしてスムーズに事が進むケースもあるようです。
なお、海上保安庁ではワークライフバランスも重視しており、産前・産後休暇、育児休暇を経て復職した女性海上保安官は複数います。
パートナーや家族の理解・協力があれば、長く働き続けることも可能です。