航海士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「航海士」とは

航海士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

作成した航海計画に基づき、気象や潮流の状況を踏まえて船を操縦し、船員の指揮をとる。

航海士とは、船に乗り、船の操縦や指揮、荷物の管理を行う仕事です。

肉眼やGPS、太陽や星の計測などによって、現在地を把握し、気象状況や潮流を考慮しながら、安全に航海できるよう指揮をします。

また、出入港の指示なども行います。

航海士になるためには、商船大学や海上技術短期大学校などで学び、海技士国家試験に合格したのち、船舶会社や商船会社の海上職採用試験に合格することが必要です。

航海士の勤務体系は、たとえば2ヵ月乗船して20日休みなど、長期勤務と長期休暇を繰り返すことが特徴です。

コスト削減の流れを受け、外国航路の船舶は人件費が安い東南アジア人の航海士が中心となっていますが、周囲を海に囲まれている島国の日本では、安定した需要がある職業です。

「航海士」の仕事紹介

航海士の仕事内容

船舶の操縦や荷物の運搬、管理などに携わる

航海士は、船の甲板で操縦や指揮をとる仕事です。

商船会社などに勤務し、船舶の操縦、船員への指示管理、荷物の運搬、その他の船舶運行に関わる総指揮などの業務に携わります。

航海士は、安全な航海が実行できるよう、事前に航路や気象状況を確認して、船内の機械類の専門家である「機関士」と一緒に航海計画を練ります。

航海中は常にGPSやレーダーで位置確認を行い、気象や潮流の状況を考慮しながら指揮をとり、出入港の際の指示も行います。

通常は複数名の航海士が乗船し、24時間体制で船の様子をチェックしています。

乗客や貨物の安全を守るという重要な役割を担っているため、責任感や判断力、冷静さなどが求められる仕事です。

海上勤務と陸上勤務がある

航海士は、航海によっては何ヵ月にもわたり海上での生活が続くことがあるため、船や気象、海に関する知識だけでなく、体力や忍耐力も求められる仕事です。

一方、この仕事では船に乗って海上に出るだけでなく、時期によって陸上勤務をすることもあります。

だいたい2~3年ごとに海上勤務と陸上勤務が繰り返されるのが一般的です。

陸上勤務中は、船の安全な運航のための計画を立てたり、環境対策や顧客対応など幅広い業務に携わります。

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航海士になるには

まずは「海技士(航海)」の免許を取得

航海士として働くためには、国家資格である「海技士(航海)」の免許を取得する必要があります。

海技士の免許は航行する区域や船の大きさなどにより、いくつかの等級に分かれています。

外交船員(国際航海を行う船員)になりたい場合には、中学校卒業後に商船高等専門学校に進学するか、高校卒業後に海事系大学へ進学する道があります。

一方、内航船員(国内航海を行う船員)になりたい場合には、中学校卒業後に海上技術学校(本科)に進学するか、高校卒業後に海上技術短期大学校(専修科)に進学する道があります。

進学する学校によって、受験可能な海技士国家試験に違いがあるため、事前に調べておきましょう。

航海士として働ける企業などへ就職する

上記に挙げたような学校で海技士になるための勉強をすると同時に、就職先を考えていかなくてはなりません。

航海士の多くは船舶会社や商船会社といった企業の「海上職」の採用試験を受け、社員として採用されて働きます。

客船を運航する会社はそこまで多くなく、募集も少なめです。

企業によって扱う船の種類が異なるため、どのような船に乗りたいのかを考えておくとよいでしょう。

一方、公務員の海上保安官として船に乗りたい場合には、海上保安学校または海上保安学校を卒業するなどの方法で、海上保安官として採用される必要があります。

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航海士の学校・学費

進学先の候補は複数ある

航海士になるための学校は複数あります。

中学卒業後に進学できるのが、商船高等専門学校と海上技術学校(本科)、また、高校卒業後に進学できるのが、海事系大学と海上技術短期大学校(専修科)です。

少しでも早く海技士免許を取得したいのであれば、海上技術学校(本科)が候補に挙がります。

ただ、海事系大学に進学すれば「大卒」の学歴を得ることが可能になります。

大手の商船会社で活躍している航海士は、これらの大学の卒業生であることが多いことから、同じ学校の卒業生であれば就職にも有利になるかもしれません。

目指す進路やキャリアに応じて、進学先を決めていくとよいでしょう。

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航海士の資格・試験の難易度

所定の学校で学び、海技士試験の受験資格を得る

航海士として働く時に必要となる「海技士(航海)」の免許は、航行する区域や船の大きさなどにより、1級から6級に分かれています。

数字が小さいほどランクは上です。

航海士の勉強ができる学校で学び、外航船員になるためには3級、内航船員になるためには4級の資格を取得するのが一般的です。

より上の免許を取得するには、所定の乗船履歴が必要になります。

海技士国家試験の内容

海技士の国家試験は年に4回行われ、試験内容は筆記試験、口述試験(質疑応答や面接)、身体検査(視力、聴力、疾患の有無)の3つで構成されています。

級が上がるにつれ、口述試験は英語で行う必要があるなど英語力を試す科目が課せられます。

また、それぞれの受験資格を得るためには、所定の学校で学ばなくてはなりません。

どの進路を選ぶにしても、実際に試験に合格できるかどうかは自分の努力次第です。

受験勉強を効率よく、根気よく続けた人だけが海技士試験に合格することができます。

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航海士の給料・年収

職務の特性上、給与水準は高め

航海士の平均年収は700万円前後と考えられ、一般企業の会社員の金額に比べてかなり高めです。

新卒初任給は30万円を超えることもそう珍しくはありません。

この背景には、航海士の仕事が常に危険と隣り合わせであることや、特殊な勤務体系であることなどが考えられます。

航海士は数ヵ月連続して船に乗り続けることもあり、その間、陸上での日常生活とは異なる毎日を過ごすことになります。

役職が上がり、責任が重くなる船長クラスになると、年収が1000万円を超す人も出てきます。

航海士ならではの福利厚生も

危険な作業の多い航海士の仕事では、「船員保険」と呼ばれる独自の保険制度が用意されます。

年金制度についても、一般の厚生年金や国民年金とは違った独自の制度があることから、保険や年金の補償は手厚く行われているといえます。

乗船を終えた長期休みの期間にも給料は支給されます。

航海士は、この仕事ならではの苦労も多いですが、その分、待遇面は充実しているといえるでしょう。

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航海士の現状と将来性・今後の見通し

なり手が減りつつあり、熱意ある若者が求められている

海に囲まれた島国の日本では、海運業は非常に重要な産業のひとつとなっています。

航海士の求人は、海洋関連会社や貿易会社、エネルギー関連会社などさまざまな企業で見られ、この先も、安定した需要が見込める仕事といえるでしょう。

航海士に必要な海技士資格は国家資格のため、一度手にしていれば転職先に困ることは少なく、キャリアアップも目指しやすいです。

航海士のなり手も減少傾向にあるといわれており、これからこの仕事を目指す人にとってはチャンスはまだまだあります。

とはいえ、船の上で長期間働くことも多く、危険とも隣り合わせの厳しい職業であることは間違いありません。

とても安易な気持ちで長く続けていけるような仕事ではありませんから、知識や技術への努力を惜しむことなく、航海士としての目標をしっかりともてるかどうかが重要です。

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航海士の就職先・活躍の場

おもに船舶会社や商船会社で働く

航海士が活躍する場所は、「船」を使用する、さまざまなところにあります。

おもな活躍の場は船舶会社や商船会社です。

タンカー船やコンテナ船など、ビジネス上で使用される船に乗ることが多いですが、なかにはクルーズ船やフェリーのような客船に乗船するケースもあります。

また、海上保安庁の航海士として活躍する人もいます。

海上保安庁に採用された場合は、公務員の「海上保安官」として巡視船艇の乗組員として働くのが一般的です。

その他、マグロ漁船など大型の船に乗船する航海士や、海洋に関する調査活動を行う機関に所属して調査船や研究船に乗る航海士もいます。

航路や所属する企業によって、国内だけの船に乗る場合と、海外にも出ていく船に乗る場合があります。

航海士の1日

船の上では特殊な勤務時間が設定される

航海士の船上での勤務時間は、1日の24時間を「4時間×2の8時間」にて設定されるのが一般的です。

航海士によって働く時間帯に違いがあり、たとえばある航海士の場合、8時から12時と、20時から24時が勤務時間となります。

交代で働くことで、誰かが必ず見張り番をしている状態にします。

ただし緊急時や人出が足りないときには当直以外の時間に働くこともあります。

ここでは、商船会社に所属し、海上で働くある三等航海士の1日を紹介します。

6:00 起床・点呼
甲板部分の掃除も念入りに行います。
7:00 朝食
8:00 当直開始(1回目)
12:00 昼食
13:00 休憩
釣りをしたり、自由に過ごします。
18:00 夕食
20:00 当直開始(2回目)
船長や機関長から指示を受けながら仕事を覚えます。
24:00 就寝
翌朝も同じ時間帯で働くため、きちんと睡眠をとります。

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航海士のやりがい、楽しさ

海の上で過ごす非日常的な仕事

海を相手に仕事をする航海士は、大海原のど真ん中に出て、自らの技量や精神力を試されることになります。

海の気象条件や、潮流は常に変化し続けます。

自然を相手にする厳しさを感じる瞬間は多々ありますが、とくにルーティンワークが苦手な人にとっては、毎日が刺激的でやりがいを感じられるでしょう。

さまざまな困難を乗り越えていくうちに、前回はできなかったことが次回の航海では対処できるようになったり、先輩や上司から評価されたりすることで、自らの成長も実感できます。

また、航海士は等級が明確に示されているため、自分の能力が高まれば担える仕事の範囲が大きくなり、それがモチベーションアップにつながります。

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航海士のつらいこと、大変なこと

特殊な勤務体系で何ヵ月も自宅に帰れないことも

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航海士に向いている人・適性

集団行動や厳しい上下関係を苦にしない人

一つの船には複数名の航海士が乗船し、24時間体制で運航しています。

安全な航海を行うためには上の立場の人が厳しく指示を出すことも多く、船員全体の強いチームワークが求められます。

ときに上下関係の厳しさを感じることもあり、年の若い航海士にとっては、この部分が最大のネックになることもあるようです。

狭い船の空間で長時間同じ人たちと一緒に過ごすわけですから、集団行動が苦手でない人のほうが、航海士には向いています。

また、船の上では、ちょっとしたミスが重大事故につながりかねないため、責任感が強く、ルールを守り、任された仕事をきっちりとこなせるタイプの人に適した仕事といえます。

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航海士志望動機・目指すきっかけ

船に関わる仕事がしたい

航海士を目指す人の多くは、幼い頃から海が好きだったり、自然と向き合える仕事がしたいといった思いを抱いています。

映画やドラマなどで見た航海士の姿に憧れて、自分も航海士になることを決意するような人もいるようです。

また、親など身近な人が船に乗る仕事をしており、航海士という職業が非常に身近なものだった人もいます。

このように、さまざまなきっかけで航海士になる人がいますが、実際に航海士として働く人は、自らの仕事に誇りをもって働いている人ばかりです。

経験を積んでいくことにより、一等航海士や船長などへキャリアアップすることもできます。

厳しい面も多々ある仕事ですが、夢や目標を抱けるかどうかは、航海士として働き続けるうえでは大事な要素です。

航海士の雇用形態・働き方

正社員として勤務する人が大半

危険で大きな責任を伴う航海士は、ほとんどが商船会社などにおいて「正社員」として働いています。

一度船に乗れば、港に戻るまではずっと海の上で過ごすことになるため、アルバイトやパートのような働き方は難しいです。

なお、もともとは男性が多い職場でしたが、近年では女性の航海士も少しずつではあるものの増えてきています。

とくにオペレーションなどの領域で、女性が活躍しやすくなっているようです。

たとえば、資材・荷物の積み下ろしを行うデッキクレーン、エンジンや燃料に関わるボイラー機器、船を操縦するためのレーダー機器など、複雑な操作が必要とされる専門機器を使いこなせるようになれば、女性でも航海士としての任務は立派に務めることができることでしょう。

航海士の勤務時間・休日・生活

オフィスワークとはまったく異なる特殊な勤務体系

航海士の勤務体制は、きわめて特殊といえます。

乗船中の業務は24時間体制で行わなくてはならないため、一人ひとりの航海士が、1回につき4時間の勤務を1日に2回担当するのが一般的です。

また、乗船する船にもよりますが、一度出向すれば寄港するのは燃料の補給や荷物の積み下ろし時だけで、何ヵ月も海の上で生活することになります。

船の上で仕事をしていないオフの時間には、釣りやレクリエーションなどを楽しんでいる人が多いです。

一回の連続勤務を終えると、まとまった休みがとれる場合が多いですが、いったん自宅を出れば次に帰るのは何ヵ月も先ということもあり得ます。

一般的なオフィスワークの会社員のような規則正しい働き方は難しいと考えておきましょう。

航海士として働くのであれば、こうした特殊な勤務体系への理解は不可欠です。

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航海士の求人・就職状況・需要

外航領域では日本人航海士の採用が減少傾向

航海士は経済状況にさほど影響を受けないため、求人数も安定しているといえます。

勤務先として人気があるのが、大型タンカーによる運輸会社、豪華客船を運航する会社、海上保安庁などです。

ただ、外航をおもに行う会社は、近年コスト削減などの目的で、外国人の航海士を積極的に採用する傾向にあります。

とはいえ、航海士は専門的な教育を受け、海技士の国家資格を取得した人でなければできない仕事が多々あるため、就職先を極端に選ばなければ働き口に困ることはないでしょう。

海技士免許は、資格の種類やランクも複数あるため、自身の経験に応じたものを取得することで、さらなるステップアップにつなげていく人が多いです。

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航海士の転職状況・未経験採用

遅くとも20代までの転職が現実的

航海士を目指す人向けの学校は年齢制限の上限がないため、何歳になっても航海士への転職を目指すことは可能です。

しかしながら、体力や精神力を要し、経験が重視される航海士の仕事内容から考えると、10代や20代の若い世代からキャリアをスタートするのが通例です。

とくに船長にまでキャリアアップしている人は、若いころから航海士一本で活躍しています。

基本的に、航海士として働くには所定の学校で専門教育を受けなくてはなりません。

もし専門的な学校に通わない場合には、部員として、無資格でもできる雑務をこなさなくてはなりません。

部員の間は待遇も恵まれないため、ある程度の年齢を重ねてから航海士を目指すのはあまり現実的ではないと考えておいたほうがよいでしょう。

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一等航海士とは

船長に次いで重要な役割を担うポジション

航海士は明確な階級が定められている職業です。

航海士のなかでも「一等航海士」とは、「船長」の補佐的な役割を担う人のことを指しています。

船長は船の最高責任者として、常に全体を見ながら指揮命令に関する任務を幅広く担当しています。

そのため、現場での実質的な指揮命令をとるのは一等航海士になることが多いです。

具体的には、船長が決定した航海計画にもとづいて、航海当直や荷物の積み下ろしを監視したり、船体の整備作業の立案と実施に関する判断を行ったります。

船長に万が一のことがあったときには、一等航海士が代わりに船の指揮をとります。

非常に重い責任を担うため、一等航海士になるには一定の乗船履歴を積み、所定の資格を取得しなくてはなりません。

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海技士とは

大型船舶で職員として働くために必要な免状のこと

航海士と関連する職業として「海技士」があります。

どちらも似た職業と思われがちですが、正確には、海技士とは免状の種類のことを指し、海技士国家資格試験に合格することで手にできるものです。

大型船舶に船舶職員(船長・航海士、機関長・機関士、通信長・通信士)として働くには、海技士の資格が必須です。

つまり、大型船舶で航海士として働く人も「海技士」の免状を取得しています。

海技士免状の種類は、下記のように分かれています。

・海技士(航海) 海技士(航海) 1級~6級
・海技士(機関) 海技士(機関) 1級~6級
・海技士(通信) 海技士(通信) 1級~3級
・海技士(電子通信) 海技士(電子通信) 1級~4級

航行する区域や船の大きさなどによって、取得が必要となる資格の種類が異なります。

また、乗船履歴を積むことにより、上位の試験を受けられるようになります。

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航海士の階級の種類

航海士は一人ひとりに階級が割り当てられる

航海士として働く人は、一人ひとりに「階級」が割り当てられています。

階級によって携われる業務範囲が明確に示されており、個々がその通りに行動することで、船の安全を保ちます。

航海士のおもな階級と、必要な資格の種類、役割は下記の通りです。(カッコ書きのカタカナは、現場で実際に使われる英語名称です)

船長(キャプテン):1級海技士

船の最高責任者です。
航海計画を立て、船全体の安全と運航に責任を持ちます。

一等航海士(チーフオフィサー):2級海技士

一般の航海士の中で最上位のランクです。
船長が決定した航海計画にもとづき、安全に運航するための計画の策定や乗組員の配置を行います。

二等航海士(セカンドオフィサー):3級海技士

天候調査や航路図の確認、航海日誌の記入などの業務を担当し、一等航海士が効率よく任務を遂行できるように補佐をします。

三等航海士(サードオフィ):4級海技士

一等航海士や二等航海士が設定した航路を、効率よく運航するための諸業務を担当します。
船によっては三等航海士は乗務しません。

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