「宇宙飛行士」とは

国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、研究や実験を行って宇宙開発の一端を担う。
宇宙飛行士とは、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、ISSの運用や維持に携わりながら、宇宙開発の一端を担う仕事です。
ロボットアームを使った実験装置の設置や修理、地上とは異なる環境を利用した実験、また宇宙服を着ての船外活動も行います。
地上では、技術者や研究者たちと協力してISSで必要となる資料作成を行ったり、講演活動などを通して国民に宇宙開発の重要性や宇宙飛行士の役割を伝えています。
宇宙飛行士になるには自然科学系の大学を出て3年以上の実務経験を積み、100倍を超える厳しい試験にパスする必要がありますが、その後も何年もかけて多くの訓練を重ね、初めて飛行するまでに10年近くかかることもあります。
「宇宙飛行士」の仕事紹介
宇宙飛行士の仕事内容
国際宇宙ステーションで働く
宇宙飛行士とは、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、ISSの運用や維持に携わりながら、宇宙開発に関する仕事を行います。
基本的な役割は、ISSと「きぼう」の運用・維持です。
ロボットアームを使ったISSの修理、実験装置や試料の設置・交換、またロボットアームでは行えない船外活動、宇宙実験などを行っています。
こうした活動を通じ、宇宙に広がる謎を解明していくことで、技術発展による社会生活の向上を目指していきます
また、地上における業務も重要な仕事の一部です。
飛行業務に向けた訓練や、宇宙開発に関するデスクワークもこなしています。
必要に応じてメディア出演や講演活動などを通して、宇宙飛行士の仕事内容や宇宙開発の重要性などを国民にわかりやすく伝えることも大切な役割です。
宇宙飛行士の就職先・活躍の場
宇宙飛行士選抜試験に合格する
宇宙飛行士の就職先として代表的なものはJAXA(宇宙航空研究開発機構 )です。
ただし、宇宙飛行士選抜試験を受けて合格するためには長い時間がかかるため、別に仕事を持ちながら選抜試験を目指す人がほとんどで、過去には自衛官やパイロットなどが選ばれています。
宇宙飛行士選抜試験を突破すると晴れてJAXAの職員となり、宇宙飛行士になるための訓練がはじまります。
もちろんJAXAの職員も受験は可能で、過去にはJAXAの地上管制官と海上保安庁のパイロットが最終選考まで残ったという記録があります。
宇宙飛行士の1日
国際宇宙ステーションでの暮らし
国際宇宙ステーション(ISS)の中は、気圧や湿度、温度が管理され快適に過ごせるようになっています。
また生活に十分な機能が備わっていて、普段の仕事や生活に不便することはほとんどありません。
私物の持ち込みも可能なので、休憩時間は地上と同じようにリラックスして過ごすことができます。
一日の流れとしては、朝の支度を終え、地上との作業確認を2時間行います。
作業時間は午前と午後に設けられ、基本的に1日6.5時間と決められています。
また、無重力状態では筋力が衰えるため、体力トレーニングも欠かしません。
宇宙飛行士になるには
長い期間の過酷な試験を耐える
宇宙飛行士になるには、JAXAが実施する宇宙飛行士候補者選抜試験を受けなくてはなりません。
試験の実施時期は不定期で、専門性の高い仕事柄、年齢や身体のことなど応募条件も細かく設定されています。
選抜試験は約1年半の長い期間をかけて実施され、最終試験は狭い室内で他の受験者と長期間一緒に過ごすというストレスフルな環境の下、チームで課題を乗り越えていく様子をモニターでチェックされます。
候補者として選ばれた後も長期間の訓練を重ね、飛行メンバーに選出される日を待ち続けます。
合格してから実際に飛行できるまで、10年ほどかかるということも珍しくありません。
宇宙飛行士の学校・学費
大学(自然科学系)卒業以上が必須
宇宙飛行士候補者選抜試験の応募条件の一つとして「大学(自然科学系)卒業以上であること」が掲げられています。
大学の中でも理学部、工学部、医学部、歯学部、薬学部、農学部等で所定の単位を修得し、卒業しなければなりません。
さらに選抜試験のもう一つの応募条件には、「自然科学系分野における研究、設計、開発、製造、運用等に3年以上の実務経験を有すること」があります。
修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなされますが、おのおのの専門分野で深い知識を身につけ、研究者としてどれだけ熱心に研究に取り組んでいるかが、重要視されることがわかります。
宇宙飛行士の資格・試験の難易度
毎回100倍以上の高倍率
日本での宇宙飛行士候補者選抜試験は、2013年までに計5回実施されています。
若干名の募集人員に対し、毎回非常に高い倍率となっているのが特徴的です。
2008年、約10年ぶりに実施された第5回選抜試験では、「3名以内」の募集枠に対して、過去最高の963名の応募者が集まりました。
結局、油井亀美也さん、大西卓哉さん、金井宣茂さんの3人の採用が決まり、応募者に対する倍率は321倍となりました。
次の選抜試験がいつ実施されるかは未定ですが、今後も100倍を超える厳しい試験になるものと考えられます。
宇宙飛行士の給料・年収
給与はそれほど高いわけではない
宇宙飛行士の給料は、JAXA職員給与規程が適用されます。
採用時の本給は大卒30歳で約30万円、35歳で約36万円。専門的な職業ですが、給料はそれほど高くありません。
宇宙飛行士候補者として選ばれた人の中には、それまで医師やパイロットなどいわゆる「高給」と言われる職業に就いていた人も多く、宇宙飛行士になったことで収入が大きく下がるということは珍しくないようです。
それまでの地位や業績を捨てることができる人でなければ、到底務まらない仕事なのです。
宇宙飛行士のやりがい、楽しさ
未知の研究に携わる楽しさ
宇宙はまだ解明されていない部分も多く、人類の未知の領域を知るためにさまざまな実験や研究に取り組んでいく必要があります。
新しいことに挑戦していく過程は困難もありますが、その反面、大きなやりがいが感じられます。
まだ誰も知らない未知の領域を研究できる喜びが味わえるのは、宇宙飛行士ならではです。宇宙には、私たちの想像を超える感動が待っていることでしょう。
また宇宙ステーションでの生活や研究を通し、世界各国の多くの人と協力し、宇宙のことを考え続ける毎日は、とても刺激的なものとなるはずです。
宇宙飛行士のつらいこと、大変なこと
過酷な訓練を乗り越えて
見事宇宙飛行士候補者に選ばれても、その後は宇宙で仕事をこなすための基礎知識や技術を身につけるべく、長期間に渡る訓練が待っています。
精神的・肉体的にも厳しいいくつもの過酷な訓練を乗り越えていかなければなりません。
またこうした大変な訓練をこなしていっても、いつ自分が宇宙に行けるのかはわかりません。
多くの宇宙飛行士を抱えるNASAでは、宇宙飛行士になったはいいものの、一度も飛ばずに終わってしまう人もいるそうです。
先の見えない中、長い間、モチベーションを保って待ち続ける日々はとても大変なものです。
宇宙飛行士に向いている人・適性
適応能力とチームワーク
宇宙飛行士に求められる資質としては、長期間の宇宙滞在に身体的・精神的に適応できること、英語で充分コミュニケーションがはかれること(英検1級程度の英話力)があげられています。
そのほか、宇宙での長期滞在生活への適応能力、チームワークが重要です。
チームの一員として共同作業を遂行できる能力や協調性、異なる文化・価値観を受け入れ尊重できること、コミュニケーション能力に優れていることなどがあります。
「宇宙飛行士として」だけでなく「人間として」優れている人こそが宇宙飛行士になれるのです。
宇宙飛行士志望動機・目指すきっかけ
宇宙や航空分野に興味を持って
宇宙飛行士になった人のほとんどは、子どもの頃から宇宙や航空分野に興味があったようです。
戦後の日本では宇宙開発が積極的に行われたため、大学などで勉強後、宇宙で活躍したいと思うようになった人もいるようです。
宇宙飛行士の若田光一さんは、子どもの頃から飛行機が好きで、航空機のエンジニアになりたいと考えていたそうです。
同じく、宇宙飛行士の野口聡一さんは1981年のスペースシャトルの初飛行を見て衝撃を受け、自分も宇宙に関わる仕事をしたいと考えるようになったそうです。
宇宙飛行士の雇用形態・働き方
JAXAの規定に準ずる
宇宙飛行士選抜試験に合格した場合、JAXAの職員として雇用されます。
給与や休暇などはJAXAの規定が適用されます。
現在、日本人の宇宙飛行士は、全員日本国籍であり、JAXAの宇宙飛行士として採用され、NASAの中ではヨーロッパやロシアなどと同じように他国の宇宙飛行士としての扱いを受けています。
また、JAXA以外にNASAの宇宙飛行士になるという方法もありますが、こちらも選抜試験を受けた後はNASAの職員として雇用されます。
JAXAとは採用の規定も違い、NASAで宇宙飛行士になるにはアメリカ国籍があることが条件です。
宇宙飛行士の勤務時間・休日・生活
健康管理が大切
宇宙飛行士は基本的に週に5日間働きます。
土日は基本的に休みで、さらに祝日は、各国の祝日の中からクルーごとに決めます。
その間は自由時間が設けられるほか、船内の清掃や雑務などをこなします。
船外活動、シャトルやソユーズ宇宙船などとのドッキングがある場合は、休日や睡眠時間をずらすこともあります。
宇宙での滞在中はスケジュールがぎっしり組まれていますが、大切なのは健康管理です。
重力がかからない空間に長時間滞在すると、骨や筋肉が弱くなりやすいので、筋力を維持するために毎日運動の時間が設けられています。
宇宙飛行士の求人・就職状況・需要
採用は不定期で需要も少ない
宇宙飛行士の採用は不定期で、募集も「若干名」が多く、今後も大幅な人員増は考えにくいと言われています。
宇宙飛行士育成等には莫大なコストがかかるためで、これまでの選抜試験でも、1回の採用者は多くて3名程度です。
過去の選抜試験を振り返ると、3年程度の間隔で実施されたこともあれば、直近の第5回試験は約10年ぶりに実施されるなど、かなり不定期なものとなっています。
JAXAのホームページやニュース等を通し、積極的に情報を入手するのが良いでしょう。
宇宙飛行士の転職状況・未経験採用
宇宙や航空に関係する仕事を選ぶ
宇宙飛行士は、新卒採用があるわけではないので、全員が転職からの採用といってもよいでしょう。
ただし、まったく宇宙飛行士に関係のない仕事から宇宙飛行士を目指すのは無謀といえるでしょう。
過去に宇宙飛行士に採用された人の職業も、自衛官やパイロット、研究者など、宇宙飛行士になっても生かせる知識や技術・体力を持った人ばかりです。
宇宙飛行士を目指す場合、まずは宇宙や航空にかかわる仕事や研究をし、宇宙飛行士選抜試験のタイミングを待つというのが有力な方法です。
宇宙飛行士の現状と将来性・今後の見通し
民間の宇宙開発ビジネスが活発に
もともと各国の宇宙開発事業は、国策として莫大な費用がかけられてきました。
しかし現在、宇宙開発の先進国である米国などでは開発の民営化が進みつつあり、この先、日本においても宇宙開発ベンチャーが誕生するなど、宇宙開発のあり方も変わっていくものと考えられています。
現在の状況からして、日本で宇宙飛行士の数が何十人、何百人と増えていくことは考えにくいです。
しかし、今後宇宙開発ビジネスの形が変わっていけば、いずれ宇宙飛行士が「特別」な存在ではなくなる日がやってくるかもしれません。
また、まだ男性の多い宇宙の現場ですが、今後はますます女性の宇宙飛行士も増えていくと考えられます。