裁判官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「裁判官」とは
裁判所において刑事・民事訴訟のあらゆる証拠を調べたうえで、法に照らして判決を下す。
裁判官は、全国各地の裁判所において、刑事訴訟や民事訴訟などの判決を下す人のことです。
事前に提出された資料を読み込んで裁判に臨み、当事者や弁護士、検察官、証人などの話を聞き、証拠が妥当なものかを調べ、法に照らして判断を下します。
裁判官になるためには、まず司法試験に合格することが必要です。
合格後、司法修習の間に裁判官の採用面接が行われ、成績や人格などを総合的に判断したうえで、裁判官になれるかどうかが決まります。
日本における裁判官の数は、先進国のなかでは非常に少ないといわれており、一人あたりの裁判官に対する仕事量は膨大です。
高い社会的地位や給料が望める職業ではありますが、心身ともにハードな職務をまっとうする覚悟や熱意が求められます。
「裁判官」の仕事紹介
裁判官の仕事内容
法に照らし合わせ、さまざまな裁判における判決を言い渡す
裁判官は、裁判所で開かれる裁判を取り仕切り、判決を下す職業です。
裁判にあたっては、事前に提出された資料を読み込み、当事者や弁護士、検察官、証人などから話を聞き、証拠が妥当なものかを調べ上げ、法に照らし合わせて判断を下します。
裁判には大きくわけて「民事裁判」と「刑事裁判」の2種類があり、どちらを担当するかによって仕事内容は異なります。
民事裁判の場合は、原告(訴えた側)と被告(訴えられた側)との争いの間に立つ「調停者」としての役割が大きくなり、双方の言い分を考慮して判決を導き出します。
刑事裁判の場合、罪を犯したとして検察官に起訴された者(被告人)が、本当に罪を犯したのかどうか、また有罪の場合はどのような量刑が適切かを判断します。
裁判官の仕事が社会に与える影響は大きい
民事・刑事裁判のほか、家庭裁判所における離婚調停などの「家事事件」や、非行少年の処遇を決定する「少年審判」も担当します。
いずれの裁判でも、裁判官の判決は当事者の人生を左右する重大なものであり、また判例として、後に行われていく裁判にも影響を与えます。
社会的に非常に大きな責任をともなう仕事に携わるのが、裁判官という職業です。
裁判官になるには
難関の司法試験合格が第一歩となる
裁判官になるには、まず国家試験である「司法試験」に合格することが第一歩です。
司法試験の受験資格を得る方法は、大きく以下の2つです。
1.大学を卒業後、法科大学院に進み、法学の既修者は2年間、未修者は3年間の専門教育を修了する
2.司法試験予備試験に合格する
司法試験に合格したら、次は1年間の「司法修習」を受け、その終わりに「司法修習生考試(通称:二回試験)」に合格すると、ようやく裁判官になるための資格を得ることができます。
ひときわ優秀でまじめな人材が任官される
司法修習考試にまで合格した人は、いわゆる法曹三者として「裁判官」「検察官」「弁護士」のいずれかの道に進むことが可能です。
その後、裁判官に任官されるためには、さらに審査に通らなくてはなりません。
裁判官は、ひときわまじめで優秀な人材が任官されるケースが多いため、修習中の試験も上位で突破する必要があります。
加えて、教官からの推薦状があれば、なお選ばれやすいとされているため、司法試験の勉強中も、その後も、常に自己研鑽に励む姿勢が求められます。
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裁判官の学校・学費
法科大学院へ進学する道が一般的
司法試験の受験資格を得るには「法科大学院の卒業」もしくは「予備試験の合格」のどちらかが必要です。
法科大学院へは、4年制大学の法学部を卒業後に進学する人が多いです。
法学部以外から進学することも可能ですが、その場合、法学部出身者よりも1年長く、3年間通う必要があります。
法科大学院は複数ありますが、なかでも有名で、毎年多数の司法試験合格者を輩出しているのは、慶應義塾大法科大学院、東京大法科大学院、京都大法科大学院、中央大法科大学院、早稲田大法科大学院などです。
一方、予備試験に関しては、高卒以上の学歴であれば誰でも受験できます。
しかし合格には3000~10000時間もの膨大な勉強量が必要とされており、長い準備期間を要するため、厳しい道のりです。
このような現実もあり、法科大学院に進学するほうが一般的となっています。
裁判官の資格・試験の難易度
難関の法科大学院出身者でも合格率は50%程度
裁判官になるための司法試験は、数ある国家試験のなかでも「最難関」といわれています。
法科大学院で2年間ないし3年間専門的に十分な勉強をしてきた人であっても、そう簡単に合格できる試験ではありません。
たとえば、東京大学や京都大学などの名門法科大学院の卒業生であっても、合格率は例年50%程度です。
一方、地方の法科大学院の多くでは20%前後となっており、合格率ひとケタ台の大学院も散見されます。
法科大学院に入ること自体も決して簡単ではないですが、その後も厳しい競争試験に勝ち抜いていくための努力が求められます。
最終的に裁判官に任官される人はごくわずか
裁判官となれるのは、司法試験合格者のなかでも上位数パーセントほどのきわめて優秀な成績を収めた人に限られます。
ここまで含めた最終的な裁判官の採用倍率は、非常に高いといえます。
裁判官を目指すのであれば、できるだけ難易度の高い法科大学院に入るほうがよいでしょう。
そして司法試験突破のために必要な勉強時間は、一般的には3,000時間~8,000時間程度、なかには10,000時間程度は必要という意見もあります。
相当な勉強量をこなしていく覚悟、強い志を備えておきましょう。
裁判官の給料・年収
難易度の高い仕事に見合った収入を得られる
裁判官の給料は「裁判官の報酬等に関する法律」で定められています。
また、裁判官はキャリアに応じた「階級」が細かく分けられており、最も下の「判事補十二号」では月額報酬が23万円程度ですが、最上級である「最高裁判所長官」の月額報酬は200万円程度と非常に高額です。
階級をトップまで上げていった先に得られる収入は、公務員のなかでも最高レベルとなっており、非常に高額な収入と安定した待遇が望めます。
しかしながら、人を裁くという難易度の高い職務に就くことや、仕事で背負う責任やプレッシャーの大きさを考えると、決して楽な仕事とはいえないかもしれません。
裁判官の立場は法律で守られている
特殊な立場である裁判官は、憲法によってあらゆる行政機関から政治的な圧力を受けないように守られています。
そのため、裁判においても、他人からの圧力や干渉を受けずに自らの良心に基づいて判決を下すことが可能です。
また、身分としては国家公務員であるため、各種手当や各種休暇制度、その他の福利厚生も充実しています。
待遇面では一般の公務員と同様、安定しているといえるでしょう。
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裁判官の現状と将来性・今後の見通し
強い覚悟や意思が問われる仕事
「裁判員裁判制度」が導入されるなど、裁判を取り巻く環境は徐々に変わりつつあります。
しかし、裁判が人の一生を左右する重大なものである点に変わりはなく、その場で判決を下す裁判官には、大きなプレッシャーやストレスに耐えうる精神力が求められます。
現状の日本では、一人の裁判官が担う裁判件数が非常に多く、日々難しい法律や判例の勉強・分析を行いながら、職務をまっとうしなくてはなりません。
裁判官は社会秩序を保つためには不可欠の存在であり、また特別職の国家公務員として、安定した身分が保障されています。
しかし、誰もが気軽に務められる仕事とはいえないため、裁判員として生きていく強い覚悟が問われます。
裁判官の就職先・活躍の場
全国各地に存在する裁判所に勤務する
裁判官は、日本全国の裁判所に勤務します。
裁判所は東京にある「最高裁判所」のほか、各地に「高等裁判所」「地方裁判所」「簡易裁判所」「家庭裁判所」などがあり、それぞれ役割が異なります。
地方裁判所は、原則として47都道府県に1カ所ずつあり、また本局以外に複数の支部・出張所を抱える地域もあるため、それらを合計した裁判所の総数は数百にのぼります。
また、裁判官は一定のキャリアを積むと、自身の知見を深めるために「外部経験」と呼ばれる制度により、外に出て仕事をします。
具体的な内容は、民間企業での勤務、法律事務所での弁護士としての活動、法務省などの省庁へ出向、あるいは海外のロースクールへの留学など、さまざまです。
裁判官の1日
裁判に加え、書面作成や調査などデスクワークも多い
裁判所によっても異なりますが、刑事事件を担当する場合は「合議審」が週2件、「単独審」が週1件のペースで開廷されます。
日中だけでは仕事が終わらず、家に資料を持ち帰って判決を書く人も多くいます。
ここでは、刑事事件を担当する裁判官のある1日を紹介します。
裁判官のやりがい、楽しさ
自らの信念に則って判決を下し、人々を救う
裁判官の独立は憲法によって保障されており、裁判官はどこから干渉されることも、また圧力を受けることもなく、自身の良識に基づいて法的判断を下すことができます。
裁判の内容は案件ごとに異なりますが、裁判官として長く働いていれば、社会的に注目を集めた重大な事案に関わる機会もあるでしょう。
自分の判決が社会全体や、関係者の人生に影響をおよぼすという非常に大きな責任がともなう一方、その重大な使命を担うことにやりがいを感じている裁判官は多くいます。
また、民事裁判は、当事者たちだけの話し合いで決着がつかず困り果てた人の救済の場にもなります。
裁判官という役割を担うことで社会的な立場を確保しながら、苦しんでいる人たちを助けることができるのも、裁判官の魅力です。
裁判官のつらいこと、大変なこと
人の人生を左右する判断を下す責任とプレッシャー
裁判における判決は、多かれ少なかれ、裁判を受ける当事者の人生を左右する重大なものです。
また、裁判官が下した判決は「判例」としてそれ以後の裁判の指標として用いられるため、社会的な責任も非常に大きい立場といえます。
民事裁判であれば、利害関係の対立する両者の落としどころをどう見出すか、刑事裁判であれば、証拠は本当に信用できるか、情状酌量の余地はないか、そもそも冤罪でないかなど、迷う局面は多々あります。
どちらの裁判を担当するにせよ、冷静な判断力や精神的強さが求められる非常に難しい仕事です。
裁判官に向いている人・適性
生涯にわたって勉強し続けられる人
裁判官になるためには、高校時代の受験勉強から数えれば、最短でも10年近い勉強時間が必要です。
また裁判官となった後も、民法や刑法などの六法はもちろん、担当事件に関係する種々の法律や関連知識、過去の判例、あるいは社会情勢など、非常に多くの事柄を勉強し続けなくてはなりません。
高等裁判所や地方裁判所などの裁判官は65歳、最高裁判所などでは70歳で定年となりますが、裁判官を辞するまでの長い期間、ほとんど生涯にわたって学び続けられる人が、裁判官に向いているでしょう。
また、裁判官は常に公平中立な立場でいなくてはならないため、あらゆる物事に対して常に冷静な目でとらえ、考えていくことができるタイプの人に向いているといえます。
裁判官志望動機・目指すきっかけ
社会正義のために働きたいと考える人が多い
裁判官は、法曹といわれる世界で働く職種のなかでも、とくに品行方正かつ公平であることが求められます。
高い正義感と倫理観があり、社会正義を守りたいと考える高潔な人が、裁判官を目指す傾向にあるようです。
司法修習後に行われる審査の場においても、人格的に優れていることが任官のための条件とされています。
裁判官になるには「裁判官になりたい」という意思に加え、主義主張や立場の異なる人を平等に裁く客観性、弱者に対する優しさ、社会に貢献したいという公共性など、メンタリティが重要になるといえます。
裁判官の雇用形態・働き方
特別職の国家公務員の身分になる
裁判官は、国家公務員のなかでも「特別職」という身分にあたります。
ここでいう特別職とは、三権分立の観点や職務の性質から、国家公務員法を適用することが適当ではないとみなされる国家公務員が該当します。
また、裁判官として任官された人たちは、一人ひとりが経験やキャリアに応じた階級に分かれて職務をまっとうします。
裁判官のおもな階級の種類は「最高裁判所長官」「最高裁判所判事」「高等裁判所長官」「判事」「判事補」「簡易裁判所判事」などです。
このうちの最高裁判所長官、最高裁判所判事については、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査を受け、最高裁の裁判官としてふさわしいかどうか、国民に問われることになります。
裁判官の勤務時間・休日・生活
決まった勤務時間はないが、多くの裁判官は多忙
裁判官には他の公務員や民間の会社員のように、所定の勤務時間が定められているわけではありません。
極端にいえば、自身の担当する裁判が開廷している間だけ法廷にいさえすれば、残りの執務時間は自由です。
しかし、裁判官の下す判決は決して間違いの許されない重大なものであるため、事件の把握や判例の調査、判決文の作成など、それぞれの作業に長時間を費やすため、多忙になりがちです。
とくに日本は裁判官の数が少ないため、一人あたりの仕事量が膨大になる場合があります。
裁判のない土日であっても事務作業に追われて、十分に休息を取れないケースは決してめずらしくありません。
裁判官の求人・就職状況・需要
裁判官の人数は需要に対して不足している
毎年、新たに法曹資格を得た人のほとんどが「弁護士」となっており、裁判官として新規任官されるのは100人にも満たないことがほとんどです。
日本全体では、現在3000人ほどの裁判官(簡易裁判所判事を除く)が活躍していますが、その数は決して十分とはいえず、他の先進国と比較しても人口あたりの裁判官数は低い水準にあります。
このため、裁判官一人あたりの業務量が多くなっており、とくに案件数に対して裁判官の少ない地方では、それぞれの裁判官にかかる負担が非常に重くなっています。
このような環境を是正するため、国は司法試験制度を改正し、法曹の人数増加に取り組んでいます。
これから裁判官を目指す人にとっては、チャンスが大きくなる可能性があるといえるでしょう。
裁判官の転職状況・未経験採用
裁判官に転職するケースはごく少数
国家公務員のなかでも「司法」に関わる裁判官は、非常に専門的かつ特殊な立場で職務にあたります。
そのため、民間企業で働く人のように、気軽に転職をすることは容易ではありません。
難関の司法試験を受験し、その後も決められた実務経験や試験をクリアして、ようやく裁判官になるための切符を手にすることができるのです。
しかし、数としては非常に少ないものの「弁護士」から裁判官へ転職する人はまれにいます。
たとえば民事調停や家事調停では、裁判官と同じ権限をもった「非常勤裁判官」として、現職の弁護士が法廷での手続きを取り仕切るケースがあり、その先に非常勤裁判官から常勤の裁判官へ任官される人もいます。
なお、最高裁判所判事については、法曹資格の有無にかかわらず、法律の素養がある民間の学識経験者などが任官されるケースもありますが、こちらも決して多くはありません。
裁判官の階級
上の階級に出世していけるのは一握りの人のみ
裁判官は、上から6つの階級に分かれており、それぞれ法律によって定員や権限が定められています。
・最高裁長官
・最高裁判事
・高裁長官(高等裁判所長官)
・判事
・判事補
・簡裁判事(簡易裁判所判事)
一般的に、司法試験に合格して採用された裁判官は、任官されてから10年未満は「判事補」の階級になります。
判事補は3人以上の裁判官による「合議審」に加わることが可能です。
なお、その下に位置する「簡裁判事」の多くは、通常「裁判所書記官」という職種からから内部試験で登用されています。
キャリアが10年を超えると「判事」に任命されるチャンスがあり、裁判長も務められるようになります。
判事に任命されてから10年ほどキャリアを積むと、人によって「部総括」に、さらにキャリア20年くらいになると「所長」になります。
高裁長官のポストは8つのみで、裁判官として活躍してきた人のうち、出世競争を勝ち抜いた人だけが就きます。
そして、最高裁判所長官に到達するのは限られたスーパーエリートです。
裁判官と弁護士と検察官の違い
同じ「法曹」の仕事だが、活躍の場も役割もまったく異なる
世間では「裁判官」と「弁護士」と「検察官」の3つの職業を合わせて「法曹三者」と呼びます。
法曹三者になるには、法科大学院への進学もしくは予備試験を経て、難関の司法試験に合格し、さらに司法修習生考試を終えなくてはならず、非常に険しい道のりです。
法曹資格を得た人は、先述した3つの職業のいずれかに進むケースがほとんどですが、大半は弁護士になります。
弁護士は、顧客から依頼を受けて、民事事件や刑事事件の調査や弁護活動をしたり、企業で法的な問題に関連する解決策を見出したりします。
一部、公務員になる人もいますが、多くは民間で働きます。
一方、検察官は国家公務員として検察庁に勤務し、事件や犯罪に関する捜査・公判や裁判執行時の指揮監督に携わります。
また、裁判官も身分は国家公務員であり、裁判の場において、当事者や弁護士・検察官・証人などの話を聞いて判決を下す役割を担います。
このように、3つの職業は、いずれも法律に関する深い専門的知識を駆使するものの、活躍の場や役割がまったく異なります。