検疫官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「検疫官」とは

検疫官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

海外から伝染病が持ち込まれないよう阻止する

検疫官とは、海外から日本に入国したり、日本から出国したりする人たちの健康状態をチェックする仕事です。

空港や港で働き、海外から伝染病が持ち込まれないように阻止することが大きな役割です。

出国者には、海外で伝染病にかからないように予防接種を呼び掛けたり、体調不良の人が居た場合は、健康相談に応じたりします。

万一、感染症や伝染病の疑いがある場合は速やかに病院へ搬送し、健康状態をチェックします。

検疫官が伝染病を見逃してしまえば、国内に感染が広がり、最悪の場合死亡者が出てしまう恐れがあります。

また日本だけでなく海外にも大きな影響を及ぼすなど、常に危険と隣り合わせのため、緊張感を持ちながら仕事をしなくてはなりませんが、国内の安全を守る大切な仕事です。

検疫官になるには、日本国籍があること、看護師の資格を持ち、3年以上の臨床経験があることが条件です。

短時間で多くの検査をこなすため、集中力や責任感がある人に向いているでしょう。

厚生労働省所属の国家公務員の身分になれるため、安定して働きたい人、看護師の資格を活かして病院以外で働きたいという人にも向いています。

ちなみに、検疫官には看護師のほかにも、事務官などの行政職や医師、食品衛生監視員などの職種があります。

「検疫官」の仕事紹介

検疫官の仕事内容

検疫を行い、国内の安全を守る

検疫官の一番の役割は「検疫業務」です。

空港や港で、サーモグラフィーを通して熱がないか確認されたことがある人も多いでしょう。

これは、出入国者に発熱がないかをチェックし、体調不良者がいればすみやかに対応できるようにしているのです。

万一体調不良の人が居た場合は、危険な感染症がある地域からの出入国ではないかなどをチェックし、病院へと搬送します。

その次に大切なのが「衛生検査」です。

病気を媒介するのは人だけではなく、蚊などの昆虫やネズミなどの外来生物に由来するものも多いのです。

こうした動物が貨物に紛れていないかを検査し、衛星が保たれているかをチェックします。

これは看護師ではなく、一般職が行うことも多いです。

そのほか「舟舶衛生検査」もあります。

舟舶は長い間海上を走行することも多いため、害虫がいないか、食料や水は安全かをチェックし、消毒の設備などが整えられているかも確認します。

さらに、感染症が発生している地域に渡航する人がいれば、予防接種をすすめたり対策のパンフレットを渡したりといった地道な作業もあります。

また、各国の大使館や医療機関と連携し、感染症の発生や流行の状況を把握し、情報を共有、防止策を考えることも大切な仕事です。

様々な業務を通し、感染症を水際で食い止め、国内で混乱が起こらないようにする、まさに国の安全を守る仕事といっても過言ではないでしょう。

検疫官になるには

看護師を経験後検疫官の採用試験を受験する

検疫官となるには、まず看護師として経験を積まなくてはなりません。

看護師になるまでの道のりは、以下の2つがあります。

(1)高校卒業後に「看護師養成校(4年制大学、3年制の短大・専門学校)」で学ぶ
(2)中学校卒業後に「5年一貫制看護高校」で学ぶ

参考:公益社団法人日本看護協会

その後看護師国家試験を受験し、合格することで「看護師免許」が取得できます。

その後、病院や診療所、介護施設、企業などへ就職し、看護師として3年間臨床経験を積むことで、検疫官に応募することができます。

検疫官の正式名称は「厚生労働技官 検疫官」で、例年30名前後募集があります。

参考:厚生労働省 検疫官(看護師)

応募資格については、以下のようになっています。
(1)日本国籍を有する方
(2)看護師免許を取得している方
(3)応募時点で、3年以上の臨床経験(医療機関)のある方
(4)普通自動車免許を取得している方

採用試験は、まず書類選考のうえ、合格した人のみが人物試験(面接)に進むことができます。

看護師免許と普通自動車免許以外に特別な資格が求められることはありませんが、「感染管理認定看護師取得者」や「保健師」免許を取得していると、優遇されることもあります。

なお検疫官には看護師以外にも、行政職や食品衛生監視員、医師職などがあり、それぞれ採用に必要な条件や資格が異なります。

検疫官に興味のある人は、あらかじめ調べておくとよいでしょう。

検疫官の学校・学費

大学か専門学校で看護を学ぶ

看護師国家試験の受験資格を得るためには、文部科学大臣指定の学校、もしくは厚生労働大臣指定の看護師養成所を卒業する必要があります。

看護師になるための勉強ができる学校や養成所にはさまざまな種類があり、それぞれ学ぶ期間や学習内容、取得できる受験資格などが異なります。

高校卒業後に正看護師を目指す場合は、専門学校に3年通うか、4年制大学に通うことになります。

かつては専門学校を卒業するルートが一般的でしたが、近年は看護師にも高度な知識と学力が要求されるようになり、4年制の看護大学で学ぶ人が増えてきています。

学費は通う学校や看護師になるルートによって差が出ますが、看護専門学校が3年で300万円前後、4年制大学だと350万円〜700万円前後です。

検疫官の資格・試験の難易度

看護師試験の合格率は高い

看護師国家試験の合格率は、例年新卒・既卒合わせて90%以上と非常に高いです。

難易度は高いとされていますが、専門学校や大学で、しっかりと勉強していれば問題はないでしょう。

また、検疫官として働く場合は、「感染管理認定看護師取得者」や「保健師」の資格を所有していると優遇されることもあります。

感染管理認定看護師は、看護師としての経験がある人が、日本看護協会が認める教育機関での課程を修了し、認定審査(筆記試験)に合格する必要があります

また保健師の場合は、看護師免許と保健師免許がなくては働くことができません。

卒業と同時に2つの国家試験を目指せる4年制の大学や専門学校に入学するのが取得への近道です。

検疫官の給料・年収

国家公務員と同様の給料が支払われる

検疫官の給料は、国家公務員として一般職の職員の給与に関する法律で定められた給与が支払われます。

厚生労働省の採用ホームページを見ると、「192,400円~経験年数に応じて調整」と記載があります。

検疫官に限りませんが、国家公務員全体の平均年収は600万円~700万円前後で推移しており、日本人の平均から考えても高めの給料が支給されると考えてよいでしょう。

また、法律の規定による諸手当の支給もあります。

手当については、「扶養手当」「通勤手当」「住居手当」「単身赴任手当」「地域手当」「特殊勤務手当」などがあり、勤務地や職務などによって、該当する手当が基本給とは別に支給されます。

休暇制度も「年次休暇」「病気休暇」「特別休暇」「介護休暇」があり、さまざまな理由で取得できるようになっています。

さらに夜勤がある場合には「夜勤手当」がつきます。

1回につき数千円程度とされていて、夜勤を多くこなせば給料がアップする可能性もあります。

そのほか、異動が多いため現地の官舎・宿舎の利用を利用できたり、退職時には勤続年数や退職理由の別に応じた「退職金」が支給されたりするなど、福利厚生も充実しています。

国家公務員の給料は、基本的に年功序列の給与体系で勤続年数が長くなってくると民間に勤務する看護師よりも高額になることも少なくありません。

検疫官の現状と将来性・今後の見通し

人の動きが増え仕事量が増える

世界には、エボラ出血熱、新型インフルエンザ等感染症、中東呼吸器症候群(MERS)、ジカウイルス感染症、デング熱、マラリアなどさまざまな感染症があります。

現在は国内外に関わらず人の動きが活発になっており、こうした感染症がいつ日本にやってくるのかは誰もわかりません。

感染症の状況は日々変化しているため、国の安全を守る検疫官の役割は今後より重要なものになっていくでしょう。

また、海外旅行が身近なものになるにつれ、私たちも感染症に関わる機会が増えると考えられます。

感染症に対する正しい知識を提供し、一般の人々への感染予防・防止など啓もう活動をすることも重要な役目となっていくでしょう。

検疫官の就職先・活躍の場

全国の空港や港湾

検疫官の活躍の場は、全国の港湾・空港に設置された検疫所です。

本所は、小樽、仙台、成田空港、東京、横浜、新潟、名古屋、大阪、関西空港、神戸、広島、福岡、那覇にあり、そのほかに支所が海港7か所、空港7か所、出張所が海港62か所・空港21か所あります。

検疫所は全国に配置されていることから、異動も全国規模で、おおよそ2年から3年ごとに異動があります。

そのほか、人材育成のために、厚生労働本省、地方厚生局や試験研究機関などの関係部署にも勤務することがあります。

なお、検疫所では行政職、医師、看護師、食品衛生監視員といった職種の職員が勤務しています。

検疫官の1日

各検疫所で組まれたシフト勤務

検疫官は、1日7時間45分の交替制(シフト)勤務とされています。

ちなみに成田空港検疫所の検疫を担当する職員は、朝10時から翌朝10時までのシフト制勤務になっています。

9:30 出勤
9:45 業務の引き継ぎやメールチェックなど
10:00 勤務開始・検疫業務
11:00 休憩
12:00 検疫業務
17:00 休憩
18:00 検疫業務
22:00 その日の便がすべて終了すると勤務終了
22:30 メール対応や打ち合わせなどデスクワーク
23:30 休憩室で仮眠
5:30 起床、身支度を整える
6:00 始発の便が動き出すと業務開始・検疫業務
9:45 業務の引き継ぎ
10:00 勤務終了

検疫官のやりがい、楽しさ

一般的な看護師とは違う仕事

検疫官は、感染症を国内に持ち込まないためにさまざまな業務をしているため、感染症に興味がある人には、大きなやりがいを感じられる仕事です。

看護師として臨床に立ち会うことは少ないですが、感染症の予防や啓発活動など一般的な看護師とはまた違った業務に取り組むため、学生時代の知識や自分の興味関心を生かしたい人には向いているでしょう。

一方で、一般的な病院ではほとんど見ることができない感染症や伝染病などを見る機会も多いため、自分の知識をより深めたい、他の看護師とは違う仕事がしたいという人には魅力を感じられるでしょう。

感染症を未然に防ぎ、国を守るというスケールの大きな仕事であるため、責任感の強い人にもやりがいを感じられます。

検疫官のつらいこと、大変なこと

ミスが許されない責任の重い仕事

ミスが許されない責任の重い仕事

検疫官に向いている人・適性

感染症に興味がある人

検疫官に向いているのは、まず感染症に興味があり、勉強を続けたいという人です。

検疫官は常に世界の医療状況や情勢など、感染症の動向や人の動きをとらえながら感染症対策を行います。

そのため、検疫官になってからも常に医療や看護に関する勉強を続ける知識欲や向上心がある人が向いているでしょう。

また、検疫官は2~3年おきに異動があり、空港や港湾などがあれば全国各地に異動する可能性があります。

新しい環境でもすぐに馴染める、誰とでもすぐに打ち解けられる、コミュニケーション能力が高いといった順応性が高い人にも向いているといえます。

検疫官志望動機・目指すきっかけ

看護師としてのキャリアアップ

検疫官になるきっかけで多いものは、看護師としてのキャリアアップです。

もともと病院などに勤めていて、看護師としてさらに成長したいという人、病院で感染症の患者を診るうちに、より深く勉強したくなったという人もいます。

検疫官は国家公務員の身分で看護師として働けるため、給料がアップすることを期待して転職をする人も少なくありません。

検疫官は、人の健康や病気に関わる仕事でもありますが、患者を直接見るというよりも、感染症対策や防止、啓発活動などが中心で、一般的な看護師の仕事とは少し異なります。

看護師の知識を生かし、もう少し違った仕事にチャレンジしてみたいという思いで検疫官を目指す人も多いです。

検疫官の雇用形態・働き方

安定した身分で働ける

検疫官は国家公務員となり、給与や福利厚生面でも安定した環境が整っているといえます。

勤務時間は勤務先によって多少のばらつきがあり、シフト勤務や夜勤がある場合もありますが、日勤を採用しているところも多く、ワークライフバランスを保って働けるでしょう。

また全国各地に異動がありますが、公務員宿舎を利用できますし、僻地の場合は手当ても出るため、新しい環境に馴染める人であれば、さほど問題はないと考えられます。

ただし、感染症を守るという役割から自分自身も感染症のリスクを負ってしまうため、自分自身の感染対策も十分にしておく必要があります。

検疫官の勤務時間・休日・生活

空港や港湾の動きに合わせたシフト勤務が多い

検疫官の勤務時間は、「1日7時間45分」と定められています。

日勤が多いですが、早朝や深夜に到着する便のある空港勤務の場合は、夜勤や交代制勤務がある場合もあり各勤務先で定められたシフトにしたがって働きます。

土日祝日が休みの勤務先もありますが、空港や港湾は土日も動いていることが多いため、休日はシフトによることが多く、不規則になることもあります。

基本的に残業はあまりありませんが、世界的に感染症が大流行したり、国内で感染症が見つかったり、体調不良者がいたりした場合には、仕事量が増え全業をすることもあります。

検疫官の求人・就職状況・需要

毎年求人が行われる

検疫官は、毎年数十名新規に採用があります。

一斉採用が中心でしたが、2021年現在は随時募集となっており、履歴書などの必要書類を提出すればいつでも試験が受けられるようになっています。

詳しくは厚生労働省のホームページをチェックしてみましょう。

採用の際には、書類選考と人物検査があり、1,200字程度のレポート提出が必要です。

2021年現在提示されている書類選考のテーマは「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた感染症対策について」です。

レポートは定期的にテーマが変わるため、対策をしておく必要があるでしょう。

検疫官の転職状況・未経験採用

看護師からの転職が一般的

検疫官は看護師として臨床経験が3年以上必要なため、まずは看護師として病院などに勤め、そこから転職するのが一般的です。

もともと検疫官を目指して看護師になる人もいれば、看護師として勤務するうちに検疫官に興味を持ち、転職する人もいます。

とくに学校で感染症について深く学んだり、病院で感染症対策などに関わったりしているうちに、検疫官に興味を持つ人が多いようです。

新卒ですぐになれる職業ではないため、看護師資格を取得し、経験を積み、その後試験に合格しようやく検疫官になるという長い道のりがあります。

検疫官を目指すのであれば、しっかりと学生のうちから進路を考え準備をしておくとよいでしょう。