日本語教師として学生と心が繋がったとき(体験談)

執筆者:杏 40歳 女性 経験年数1年

勉強しない学生も多い

学生たちは、何らかの目的があって日本に来ています。私の勤めている学校では、大学や専門学校の前段階として通ってきている学生が多いですが、

中には、なんとなく日本が好きだから来たという学生や、家族が日本で働いていて、親に言われて仕方なく来たという学生もいます。

ですが多くの学生は大きな夢を持って来日していて、大学卒業後は、「日本語の翻訳者になりたい」「アニメーターになりたい」「国際貿易関係の仕事がしたい」など、大きな夢にワクワクしています。

それなのになぜでしょう。勉強をするのが嫌いな学生が多いのです。

覚えるために出す宿題はみんなで回して写します。

バングラディッシュの学生が、「私の国はネパールです。」という文を作って提出してきますので、すぐに誰が誰のを写したのかはわかります。

授業中の母国語によるおしゃべりは当たり前。本気で怒ると、しばらく授業に集中しますが、今度は集中力が切れて居眠りを始めます。

隠れて携帯でメールをやり取りする学生。私の気を引こうといたずらを仕掛けてくる学生。そんな学生たちとの格闘で毎日が過ぎていきます。

3ヶ月毎のテスト

手を替え品を替え、ようやっとクラス全体がまとまりかけるころにクラス替えがあります。

同時に、テストの時期がやってきます。学生たちは3ヶ月ごとにテストを受け、レベルごとのクラスに編成されるのです。

レベル別にクラスを分けることで、クラスの方針が決まり、何を教えて、何を省くかが決まりますし、だいたい同じぐらいのレベルの学生を集めることで授業もやりやすくなります。

ですが、この日本語を習得しやすくするためにしているはずのクラス替えではいろいろな問題が起こります。

上のクラスに行きたいがためにカンニングをする学生。結果、下のクラスに入れられたとことを怒り、授業放棄の態度を示す学生。

毎日、「上のクラスに入れてください。」と、お願いに来る学生…。

次の3ヶ月を自分がどのクラスで過ごすかがかかっているプレースメントテストは、学生たちにとって一世一代の真剣勝負の日です。

また、ここでつく成績は在学中の記録として残り、その後の進学にも影響するので、そういう意味でもこのテストは重要です。

ところが私はそんなテストの中で、大失敗をしてしまいました。

前代未聞の大失敗

テスト科目の一つに聴解試験というのがあります。聞き取りの試験です。

これはCD再生で行われ、デッキは各クラスごとにあり、CDも各クラスごとで流すのですが、スタートは全校放送による一斉スタートで始まります。

スタート時間、終了時間はもちろん決まっていて、すべて全校一斉でとり行います。

私たち教師はCDを流すだけで、スタートボタンを押したあとは試験の監督をするだけです。作業としてはとても簡単です。ところが私は大失敗をしてしまいました。

CD再生中に、うっかりデッキに触ってしまい、その際にCDが止まってしまったのです。再び再生ボタンを押すと、CDは最初に戻っていました。

早送りして再生しますが、戻るべき場所の見当がつきません。

学生たちが、「その問題はもう終わりました。」「違います。」「それももう終わりました。」と言い、ざわめきが起こりました。

隣のクラスからは順調に進むCDの音が聞こえ、私は真っ青になりました。普段厳しくして来た学生たちに平謝り。

震える手で早送りと再生を繰り返しながら、「ごめんなさい。」を繰り返しました。

学生に助けられたとき

すると、一番前に座っていたいつも私にいたずらを仕掛けてくる学生が言いました。「先生、大丈夫ね。」「大丈夫。」

顔を上げると、にっこりと優しい笑顔で私を見ています。他の学生たちも誰一人文句を言う者もなく、皆、CDが元に戻ることに協力してくれました。

クラス全員の協力のおかげでCDは5分ぐらいで元に戻り、テストも無事終了することができましたが、学生たちは休憩時間が5分短くなりました。それでも、文句を言う学生は一人もいませんでした。

私はいつもみんなを静かにさせようと、おとなしく授業を受けさせようと躍起になっていました。

でもこの時、学生たちはただ学校生活を楽しんでいただけ。授業妨害をされていると思い込み、憤慨したり躍起になっていたのは自分だけだったのかもしれないと思いました。

自分の思い込みがなくなると同時に、学生たちのありのままの姿が伝わってきて、残りのテストの間中、私は心の中で全員に「がんばれー!」とエールを送りました。