日本語教師の仕事で嬉しかったこと(体験談)

カンニングするのが当たり前の社会

とある貧しい国の学校で働いていたときのこと、その国の教育機関では、学生のカンニングやテストの点を教師から買うということが日常茶飯事でした。親の収入次第で、いくらでも点数を購入できるので、お金持ちの家族の学生は、あまり勉強をしません。

そんな国の風土から、テスト中のカンニングのコントロールはかなり大変でした。そもそも、カンニングすることが悪いと誰も考えていないので、テストとは何なのか、学生に納得してもらうように毎回の授業で伝えていくことから始めました。

テスト中は、筆記用具だけを机に出して、教科書はかばんの中に入れること。テストは時間厳守であることなど、日本の学校では当たり前のテストのルールは、この国ではそう簡単に受け入れてくれません。

それでも、学生や現地の教師たちも含めて、テストのルールについて何度も説明しました。しかし、あの手この手でカンニングをする学生たち。こっそりするのではなくて、テストの見まわりの教師の目を盗んで、堂々と集団で相図を送り合ってカンニングをするのです。

学生の成長に出会って

初級のクラスで漢字の授業を持っていました。授業内のテストを毎週行っていましたが、テストのカンニングの防止については、毎度学生たちとの戦いでした。

しかし、2カ月、3カ月と時が過ぎて、学生たちの態度に少しずつ変化が感じられました。自分で勉強することの大切さを粘り強く教えてきた成果が出てきたのです。

よくカンニングしていたお金持ちの家の男子学生、彼はいくらでもお金で点数を買えるのですが、昼休みもクラスの友だちと勉強するようになって、成績は徐々によくなっていきました。

ある女子学生も、日本語が全くしゃべれないにも関わらず、漢字を必死に覚えてきて、「先生、勉強した。」と笑顔で言いに来るようになりました。けれど、残念ながら成績にはなかなか反映されず、追試になってしまいました。

現地の教師は彼女に、金銭を払って成績を買うことをこっそりすすめていたようでしたが、彼女は自力で頑張って、なんとか合格点に到達したのです。彼女から「親のためにも、自分の力でがんばりたい。」と聞いたとき、学生の成長ぶりにとても感激しました。

こうした生徒の成長を見ることができるところが、日本語教師の仕事の醍醐味だと思います。