消防士の仕事とは? 仕事内容や職種区分について詳しく解説
万が一の事態が発生したときには消防士が出動し、人々の生命や財産などを守るために力を尽くします。
この記事では、消防士の業務内容や勤務先、消防士の職種、仕事の流れなどについて詳しく解説していきます。
消防士の仕事とは
消防士は、地方自治体の消防本部や消防署に所属し、火災の消火や救急業務を行い、人々の安全な暮らしを守ります。
一般的に「消防士」というと、消火活動や人命救助を行う人のことをイメージするかもしれませんが、じつは「消防士」という名称は消防組織における階級の一つで、正式には消防の組織で働く人は「消防職員」といいます。
そのなかで、消火・救命に携わる職員は「消防吏員(しょうぼうりいん)」といい、消防吏員の最も下の階級にあたる人が「消防士」となります。
消防士には、大きく「消火」「救急」「救助」「防災」「予防」の5種類の業務があり、各消防士がそれぞれ任された業務に携わっています。
ただ火災現場で火を消すだけではなく、火災を未然に防ぐための啓蒙活動を行ったり、建物で火災を起こさないための設備が整っているかなどのチェックを行ったりするのも、消防士の大事な仕事の一部です。
消防士の業務の内容
消防士の業務内容は、大きく「消火」「救助」「救急」「防災」「予防」の5種類に分けることができます。
以下、それぞれについて紹介します。
業務1.消火活動
消防士の仕事というと真っ先に思い浮かべるのが「火を消す」仕事ではないでしょうか。
消化活動は火災の通報を受けると現場にいち早く出動し、火災現場からの出火をくい止めると同時に、現場や近隣住民の人命救助を行います。
また、延焼を最小限に抑えるため、出火状況や風向きなどを素早く把握し行動に移します。
消火活動では危険をともなう状況が続くため、近隣住民を安全な場所へ誘導したり、消火の妨げとなる活動現場の障害物を取り除いたりすることも重要な任務です。
火災の件数はそう多くありませんが、消防士たちは日頃から訓練を重ね、すぐ火災現場に駆けつけられるよう常に出動の準備をしています。
業務2.救急活動
救急活動とは、119番の通報を受けて、交通事故をはじめ、一般事故(転落事故など交通事故以外のもの)によってケガを負った人、また急病人に対して応急手当てを施し医療機関に搬送する任務です。
救急車には3人が乗車し、うち一人は「救急救命士」の国家資格をもつチームで動くのが一般的です。
現場における応急手当は高度な処置と的確な判断が必要となるため、特別な資格をもつ救急救命士が同乗し、処置にあたります。
業務3.救助活動
救助活動は、災害現場などで人命を救助する任務です。
主な活動現場は、火事、交通事故、山の崩落地、河川などです。
火災現場では逃げ遅れた人を救助し、交通事故の現場では車にはさまれたり閉じ込められたりした人を助け出します。
現場到着と同時に速やかに救出活動を行い、関係各所と連携して人命救助にあたります。
山の崩落現場では、崖崩れで生き埋めになった人、土砂の下敷きになった車両から人を助け出すことも重要な任務です。
また、夏場に多い河川地域での水難事故では、川遊びをしていて溺れてしまった人や、釣りをしていて中州に取り残された人などを救助します。
業務4.防災活動
防災活動では、火災が起きないように、啓蒙活動を行います。
災害を未然に防ぎ、被害を最小限にくい止めるために不可欠な任務です。
万一の事態に備えて、地域住民の防災に対する意識を高めると同時に、基本的な行動や避難路を知ってもらうため、町会・自治会を中心に、消火器や起震車などを活用して初期消火、身体防護、救出・救護等の訓練・指導を行います。
小学校などで防災訓練を行うこともあります。
そのほか、火災や地震のレベルを想定したり、地域の地形に基づく被災パターンを想定したり、地域の実状にあった訓練を行うことも大切な任務です。
業務5.予防活動
消防士の予防活動とは、建物の防火上の安全性や消防用設備等の設置について、現場の実状を厳格に審査・検査し、その結果に基づく指導を行う業務です。
竣工後の用途変更にともなう際にも同様の審査・検査・指導を実施し、建築物の防火と安全確保に努めます。
工事中や竣工時には、実際に建築現場に出向き、施工状態を確認したり、防火に対する基準を満たしているかなどを厳しく検査したりします。
業務6.その他(事務など)
消防署には、通報を受けて出動する隊員だけでなく、デスクワークを中心に行う事務職のスタッフも多数います。
書類を作成したり、経理や給与計算を行ったりといった事務作業を行います。
このように、裏方で署内のスタッフをサポートする消防職員も、消防組織には不可欠な存在です。
【参考】消防職団員の出動及び出向状況
消防士の役割
ここでは、消防士が社会においてどのような役割を果たすのかを紹介します。
火を消すことだけでなく、人命救助も行う
人々が生活を営む以上、火災の危険性は常に考えておかなくてはなりません。
火災が発生し、勢いを増した火はたちまち燃え広がり、多くの人の命や財産を奪うことにもつながってしまいます。
このような万が一の事態が発生した際に、即座に出動し、少しでも早く火を消すのが消防士です。
また、消防士が所属する消防組織では、火災時の出動以外にも災害時の人命救助や火災を起こさないための啓蒙活動などを行い、人々の貴重な生命や財産を守るために大きな役割を果たしています。
人々の命を救う仕事は世の中にいろいろありますが、消防士も、私たちが安全・安心に暮らしていくために欠かせない存在です。
災害現場での活躍にも注目が集まる
2011年に東日本大震災が発生した際、オレンジ色の救助服を着たレスキュー隊が犬を連れ、倒壊した家屋などから救助活動を行なっている様子がテレビで何度も放映されました。
大型車両の運転や救助資機材の捜査など、多様な特殊技術・専門知識を持ち、災害の際にいち早く現地に駆けつけるのは消防士です。
また、荒れ模様の海での水難救助や、豪雪の降り積もる山岳地帯での山岳救助の際にも、消防士が駆り出されます。
消防士は火災や交通事故などの日常的に発生するトラブルだけでなく、大規模な災害で私たちの生命や財産を守ってくれる大切な存在です。
消防士の勤務先・職種の種類
消防士は、各地方自治体に所属し、自治体で運営される消防本部や消防署に所属して働きます。
また、職種はさまざまなものがあり、各消防士たちが訓練で身につけた技能を生かし、協力して活動を続けています。
自治体の消防本部や消防署に勤務する
消防士として働くには、各地方自治体ごとに実施される採用試験を受け、合格し、採用される必要があります。
採用後の勤務先は、各地方自治体が運営する消防本部や消防署となります。
若手のうちは消防署に勤め、主な業務内容は火災や事故など災害現場での消火活動や救急活動です。
また、学校などで消火器の使用方法や応急手当の方法を指導したり、オフィスや商業施設でスプリンクラーやシャッターなどの防火設備の検査をすることもあります。
ある程度のキャリアを積んで相応の役職に就き、若手に比べて体力が衰えてくると消防本部などに異動してデスクワークを担うことが多くなります。
消防士の職種はさまざま
消防士の職種は、担う業務別に大きく以下のように分けることができます。
- 消防隊員
- はしご隊員
- レスキュー隊員
- 救急隊員
- 機関員
- 指揮隊
- 火災原因調査員
- 予防課員
- 航空隊員
- 指令係員
消防隊員
消防士採用試験に合格して採用された後、消防学校での教育を受けて最初に配属されるのが消防隊です。
火災発生時には消防隊員が即座に出動し、消火活動にあたると同時に、人命救助も行います。
はしご隊員
「はしご車」と呼ばれる車両に乗務し、高層ビルや高層マンションなど高い場所での消火活動や救助活動を行います。
レスキュー隊員
人命救助に関する専門的な知識と技術を持ったスペシャリストとして活躍します。
自治体によっては、さらに高度な救助部隊である「ハイパーレスキュー隊」などを置く組織もあります。
救急隊員
119番の通報を受けると救急車に乗って現場に向かい、当事者を病院へ搬送します。
隊の編成は通常3人ですが、そのうち1人は「救急救命士」の国家資格を持ちます。
機関員
消防組織で使用する車両を運転できる人のことをいいます。
「はしご車」「ポンプ車」など、車両ごとに必要な運転資格が異なります。
指揮隊
火災現場において、各部隊を指揮・統制する仕事です。
現場の正確な情報を集め、適切な指示を出しながら消火活動にあたる隊員たちがスムーズに動けるようにします。
火災原因調査員
火災が起こった現場の検証を行い、火災原因や損害状況を調査する仕事です。
予防課員
建物における消防設備の設置に関する指導やチェックを行います。
火災が発生しないよう、また、万が一火災が発生した際には、被害を最小限に食い止めるために不可欠な仕事です。
航空隊員
比較的大きな消防本部では、ヘリコプターを使った消火活動や救助活動、救急搬送などを行っています。
訓練を受けてヘリコプターを操縦できる技術や資格を身につけ、空中からの消火や救助活動などにあたる仕事です。
指令係員
市民からの119番通報を受ける通信指令室に勤務し、災害の発生場所を特定して、出動指令を出す仕事です。
消防士の仕事の流れ
消防士の業務内容はさまざまで、役割・所属する隊などによって仕事の流れもまったく変わってくるといえます。
そのため、ここでご紹介する仕事の流れは、あくまでも一例として参考程度にとらえてください。
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1.出勤・引き継ぎ
消防隊員として働く消防士の場合、365日・24時間体制で交代しながら勤務をします。出勤後は、それまで勤務していた消防士から連絡事項などを聞き出し、引き継ぎます。 -
2.トレーニング・用具の準備
出動がない時間には車両の点検や用具のチェックなどを行ったり、訓練・トレーニングを行ったりします。 -
3.出動
ひとたび出動指令が出ると、ただちに現場へ向かいます。消防士は自分一人だけで動くわけではなく、必ずチーム(隊)を組んで、他の隊員と協力しながら消火活動や救助活動などにあたります。
下の位の消防士は隊長の指示を受けながら、消火栓を開けたりホースを取りまわしたりし、少しでも早く火が消せるように動きます。
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4.署へ戻る
無事に消火活動が終われば署へ戻り、決められた時間がくるまで用具の片付けや訓練などを行います。出動指令はいつ出るかわからないため、日によっては休む暇もないほど忙しくなります。
消防士と関連した職業
消防士と同じように、人命救助などにあたる職種として「救急救命士」と「自衛隊」をピックアップします。
仕事内容の違いを知るのに参考にしてみてください。
消防士と救急救命士の違い
消防士と救急救命士は、ともに消防組織に所属して働いています。
正確にいうと、消火活動や救助活動などを行う消防士のなかでも、救急救命に関する専門的な知識やスキルを身につけた一部の人が救急救命士として活躍します。
一部、警察組織や民間などで働く救急救命士もいますが、一般的に救急救命士という場合、この消防組織で働く人のことを指します。
救急救命士の仕事は、市民から119番通報を受けると現場へ直行し、当事者の状態を確認してただちに病院へ搬送することです。
また、病院までの搬送中に心肺停止などの緊急事態が起こったときに、医師の指示の下で救急救命の処置を行います。
救急救命士になるには、救急救命士の国家資格を取得しなくてはなりませんが、この資格は消防署に勤務してから講習を受けて取得する人も多くいます。
もともと消火活動にあたっていた消防士が、キャリアアップする過程で救急救命士になるといった事例も多いです。
消防士と自衛隊の違い
消防士と自衛隊は、大きな災害が起こった際にどちらも救助活動に出向くことがあることから、似たような仕事と考えられることがあるようです。
しかし、両者が所属する組織には明確な違いがあるのです。
消防士が所属する消防組織は日本全国の自治体に置かれたもので、地域住民の安全を守るための防災をおもな役割としています。
一方、自衛隊の役割は私たちが暮らす日本の防衛のために置かれた国の組織で、陸上・海上・航空それぞれから国を守ることです。
消防士は各自治体に採用される地方公務員ですが、自衛隊で働く自衛官は防衛省の自衛隊に所属する特別職の国家公務員という身分になります。
自衛隊の仕事
「消防士の仕事内容」まとめ
消防士の業務は大きく分けると、「消火」「救急」「救助」「防災」「予防」の5種類があり、各消防士がそれぞれ任された業務に携わっています。
所属する隊などによって仕事の流れは異なり、日によっては休む暇もないほど忙しいこともあります。
消防士の日々の働きのおかげで、わたしたちの安全な暮らしは守られているのです。