鳶職人になるには
鳶(とび)職人になるまでの道のり
鳶職人は、学歴も資格も不問の職業であり、サブコンなどの建設会社に就職すれば、誰でも鳶職人としてのキャリアをスタートできます。
近年は業界全体で人手不足におちいっているので、多くの企業が積極的に求人活動を行っています。
やる気があれば容易に就職できるでしょう。
まったくの未経験であっても、アルバイトならすぐに採用されますし、いきなり正社員として雇うというところも珍しくありません。
しかし、鳶職人は、働き始めることは簡単でも、働きだしてからが大変な職業です。
先輩職人のサポートや、現場清掃、資材運搬などの雑用をこなしつつ、さまざまな知識や技術、心がまえなどをコツコツと身につけていかなくてはなりません。
1人前の鳶職人になるには、そうした厳しい修業時代をくぐり抜けられる覚悟と根性が求められます。
これから鳶職人を目指す人は、見た目のかっこよさや給料の高さなどにつられて安易に就職するのではなく、きちんと腹をくくってから働き始めることが大切です。
20代で正社員への就職・転職
鳶職人になるための学校の種類
鳶職人になるための学校としては、土木系・建築系の高校や高専、専門学校、大学などが挙げられます。
これらの学校に通えば、鳶職人に必要な基礎知識や技能を学べ、資格取得に必要な実務経験年数が短くなるというメリットもあります。
鳶職人は学歴不問の職業とはいえ、進学することは決して遠回りではありません。
足場の強度計算をしたり、工事施工計画書を作成したりと、学校で習ったことが役に立つシーンも多いので、できれば進学するのが望ましいでしょう。
社内で「職業訓練校」と呼ばれる専門の教育施設を設置し、ゼロからていねいに指導してくれる企業もあります。
就職する際には、社員教育に力を入れている会社を選ぶとよいかもしれません。
鳶職人に向いている人
鳶職人は、足場の不安定な高所を飛び回りながら、重量物の組立や設置を行うという非常にハードな仕事です。
人並み以上の腕力や脚力、持久力が必要ですし、つらく厳しい仕事を続けていくには根性や忍耐力も必要です。
スポーツや武道などの経験によって得た筋力や精神力を生かしたい人は、鳶職人に向いているでしょう。
高いところにいるとワクワクする、自由を感じるという人も、鳶職人としての資質があるといえます。
高所が好きでなくても鳶職人として働くことは可能ですが、仕事に前向きに取り組める人のほうが、早く成長できるでしょう。
20代で正社員への就職・転職
鳶職人のキャリアプラン・キャリアパス
鳶職人のキャリアは、まず見習いとして地上での業務を担当するところから始まります。
法律によって18歳未満の高所作業は禁止されていますので、入職した年齢によっては、しばらくは高所作業ができません。
ある程度のキャリアを積み、年齢要件もクリアしたら、少しずつ高所での作業をまかされるようになります。
1人前の鳶職人になったあとは、資格を取得して職長にキャリアアップしたり、転職したり、親方として独立開業する人もいます。
運動能力がおとろえてくる40歳くらいから、徐々に現場に出る機会は減り、デスクワークなどの内勤が増えていきます。
鳶職人を目指せる年齢は?
鳶職人の求人情報をみると、「年齢不問」「年齢上限なし」という言葉が目立ちます。
ただ、未経験の40代や50代で、鳶職人としてのハードワークをこなすのは、よほど身体をきたえている人でないかぎり厳しいでしょう。
1人前の鳶職人になるには数年単位の時間がかかるので、あまり遅くから始めると、雑用にキャリアの大半をついやしてしまいます。
体力的な問題と、一人前として働ける年数を考えると、できれば20代、遅くとも30歳までには、鳶職人として就職しておくことが望ましいでしょう。
年齢の下限については制限はなく、中卒ですぐ鳶職人になる人も珍しくありませんでした。
しかし、法律による制限もあるので、18歳、つまり高校を卒業してから就職することをおすすめします。
鳶職人は女性でもなれる?
鳶職人として働く女性は、全国的にみても数えるほどしかいませんが、1級とび技能士資格まで取得し、第一線で活躍している女性鳶職人も存在します。
ただし、男性でも早々にあきらめて辞める人が後を絶たない仕事を、体力面や筋力面でハンデのある女性がこなすのは、かなり厳しいでしょう。
女性用の更衣室もトイレもありませんし、女性というだけで、年齢の高い先輩職人から下に見られることもあります。
女性が鳶職人を目指すなら強い覚悟が必要でしょう。
鳶職人の資格・難易度
鳶職人として働き始めるにあたって資格は不要ですが、キャリアを積んでいくにつれて、資格が必要になることもあります。
代表的なのは、「足場の組立て等作業主任者」「建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者」「玉掛(たまがけ)作業者」の3つです。
これらは、鳶職人の「3種の神器」といわれることもある資格です。
後輩の職人をたばねる職長になる際に必要とする会社もあります。
いずれも学科や実技などの講習をきちんと受ければ合格できるレベルですが、講習を受講するには学歴に応じた数年単位の実務経験が必要です。
参考:一般社団法人 労働技能講習協会 足場の組立て等作業主任者
参考:建設業労働災害防止協会 建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者
ほかにも鳶職人としてのレベルを判定する「とび技能士」という国家技能検定制度があります。
とび技能士は、1級から3級までの難易度があり、学科試験と実技試験の双方に合格することが、資格認定の条件です。
最難関の1級資格まで取得できれば、自他ともに認める一流の鳶職人になったといえるでしょう。
足場の組立て等作業主任者
足場の組立て等作業主任者は、厚生労働省が認定する国家資格です。
足場の組立て等作業主任者には、落下事故などの労働災害の防止が求められます。
吊り足場や張出し足場、または高さが5メートル以上の足場を組み立てる際、または解体する際には、有資格者を1名以上配置しなければなりません。
ほぼすべての足場工事の現場で、この作業主任者資格が必要になるでしょう。
資格を取るには、都道府県ごとに実施される技能講習を受けて修了することが必要ですが、受講するには学歴に応じた実務経験を積まなければなりません。
必要な実務年数は、大学や高専、高校で建築や土木について学んだ人については2年、それ以外の人については3年です。
なお、講習の最後には修了試験が課されますが、きちんと講師の話を聞いていれば合格できるレベルであり、受講生の合格率はほぼ100%です。
受講資格を得るまでが、実質的なハードルといえるでしょう。
参考:一般社団法人 労働技能講習協会 足場の組立て等作業主任者
建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者
建築物等の鉄骨の組立等作業主任者は、厚生労働省による作業主任者国家資格のうちのひとつです。
高さが5メートル以上の鉄骨建築物組立てや解体の際には、有資格者を配置しなければならないと法律で定められています。
受講資格も足場の作業主任者とほぼ同じで、学校で建築や土木を学んだ人は2年、それ以外の人は3年の実務経験が求められます。
難易度も足場資格と同レベルですので、足場鳶と鉄骨鳶、どちらのキャリアを目指すかによって、資格取得の優先順位は変わってくるでしょう。
参考:建設業労働災害防止協会 建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者
玉掛作業者
玉掛とは、クレーンで鉄骨などの重量物を吊り上げる際に、途中で落下したりしないよう、ワイヤーロープで荷を固定する作業のことです。
玉掛と、ロープをほどく玉外しは、非常に危険度が高く、専門的な技術が求められるため、運転などと同じく免許制となっています。
資格を取得するには、上記の作業主任者と同じく講習を修了することが条件となっていますが、実務経験などの要件はなく、18歳以上であれば誰でも受講することが可能です。
このため、三種の神器の資格のなかでは、1番初めに取得を目指すことになるでしょう。
修了試験では、学科試験に加えて、実際にクレーンを用いた実技試験も実施されますが、受講生合格率は95%ほどであり、難易度はやさしめです。
とび技能士
とび技能士は、厚生労働省が認定する技能検定制度の一種です。
取得すると担当できる仕事が増えるというタイプの資格ではありません。
鳶職人としての腕前がどのレベルにあるかを評価するための資格です。
とび技能士資格を得られれば、国に認められた鳶職人であることの証明となります。
資格には、難易度の異なる1級から3級までがあり、いずれも学科試験と実地作業試験の双方をパスすることで、資格が認定されます。
入門編となる3級に受験資格はありませんが、2級以上を受けるには、学歴に応じた数年の実務経験か、下の級の合格、あるいはその両方が必要になります。
それぞれの合格率は公表されていませんので、一概に難易度を述べることは困難ですが、きちんと日々の仕事をこなし、スキルと知識を磨かなけば合格できません。
1級まで取得できれば、名実ともに一流の鳶職人を名乗ることができます。
独立開業して親方になったり、職業訓練校で指導員として後輩の育成にあたるという道も開けます。