鳶職人の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「鳶職人」とは
建設現場において、高所での作業に携わる職人。足場作りや骨組みの取り付けを中心に行う。
鳶職人とは、建設現場の作業員の中でも、高所での作業が多く、危険が伴う専門性の高い職種であり、現場でも一目置かれる存在です。
携わる作業によって、建設現場の足場を組む「足場鳶」、鉄骨造の建物の骨組みを組み立てる「鉄骨鳶」、建物内部の大型機械などの重量物の据え付けなどを行う「重量鳶」と分類されることもあります。
鳶職人は、新築の工事現場に限らず、改修工事の現場でも活躍し、建設現場においては欠かすことのできない存在です。
建物の完成イメージを図面から読み取り、建築工事が効率よく行われるように考えながら、高所作業を行う鳶職人は、体力だけではなく創造力も必要とされる仕事です。
日給制であることが多いですが、資格を取得してステップアップしていくことも可能です。
鳶職人は建設現場においては非常に需要が高く、人材不足が課題となっている会社も出ているようです。
経験が生きる仕事ですが、熟練職人の高齢化が課題となっているため、熱意を持った若手の活躍が望まれています。
「鳶職人」の仕事紹介
鳶職人の仕事内容
建設現場で高所作業を専門に行う職人
建設現場には欠かせない高所作業のプロフェッショナル
鳶職人とは、建物や橋梁(きょうりょう)などの建設現場の作業員の中でも、高所での作業を中心に行う仕事です。
「鳶」とはもともと鳥のことを指し、バランスを保つことさえ難しい高所を、鳥のようにさっそうと飛び回ることから、「鳶職人」と呼ばれたといわれます。
建設作業に必要な足場を組み立てたり、鉄骨造の建物の骨組みをつくったり、重量物をすえつけたりと、いずれも危険度の高い専門的な作業を担います。
危険が伴う仕事であるため、強い集中力と経験、技術が求められるだけでなく、頭の良さも求められる難しい仕事です。
近年の鳶職人は、建物の新築だけでなく、リフォームや修繕などの工事を手がけるケースも増えており、需要は増加傾向にあります。
鳶職人の業務内容の違い
携わる作業によって、建設現場の足場を組む「足場鳶」、鉄骨造の建物の骨組みを組み立てる「鉄骨鳶」、建物内部の大型機械などの重量物の据え付けなどを行う「重量鳶」と分けられることもあります。
ある程度のキャリアを積んだ鳶職人は、「職長」としてほかの職人の上に立ち、現場で指示を出したり、工事管理や施工管理、安全管理といった監督としての仕事を手がけたりするようになります。
さらに年齢を重ねて、体力や運動神経がおとろえてくると、徐々に現場での作業は減り、変わって各種書類作成などのデスクワークが増えます。
このように、鳶職人は経験や年齢によって仕事内容が徐々に変わっていく仕事ともいえます。
関連記事鳶(とび)職人の仕事とは? わかりやすく仕事内容を紹介
鳶職人になるには
現場で技術を身につけていくことが中心
18歳未満は高所作業が禁止されている
鳶職人は、学歴も資格も不問の職業であり、サブコンなどの建設会社に就職すれば、誰でも鳶職人としてのキャリアをスタートできます。
鳶職人は現場で技術を身につけていくことが中心となるため、まずは見習いからのスタートです。
中学校もしくは高校卒業後、鳶職人や土工関連の建設会社(サブコン)に入社し、仕事を覚えていきます。
ただし、法律により18歳未満は高所作業が禁止されており、その年齢になるまでは運搬などの業務を行います。
先輩職人のサポートや、現場清掃、資材運搬などの雑用をこなしつつ、さまざまな知識や技術、心がまえなどをコツコツと身につけていかなくてはなりません。
一人前の鳶職人になるまでには何年もかかりますが、常に努力し続けることと、高い場所を恐れない気持ちも必要とされます。
一人前の鳶職人になってから
ある程度のキャリアを積み、年齢要件もクリアしたら、少しずつ高所での作業をまかされるようになります。
20代や30代のうちは、体力もあり経験を積んでくるため、鳶職人として一番活躍できる時期です。
1人前の鳶職人になったあとは、資格を取得して職長にキャリアアップしたり、より待遇のよいところへ転職したり、親方として独立開業したりする人もいます。
運動能力がおとろえてくる40歳くらいから、徐々に現場に出る機会は減り、デスクワークなどの内勤が増えていきます。
鳶職人の学校・学費
学歴は必要ないが、土木や建築の勉強をしておくと有利に
鳶職人になるための学校としては、土木系・建築系の高校や高専、専門学校、大学などが挙げられます。
これらの学校に通えば、鳶職人に必要な基礎知識や技能を学べ、資格取得に必要な実務経験年数が短くなるというメリットもあります。
鳶職人は学歴不問の職業とはいえ、進学することは決して遠回りではありません。
足場の強度計算をしたり、工事施工計画書を作成したりと、学校で習ったことが役に立つシーンも多いので、できれば進学しこうした専門知識を身に付けておく望ましいでしょう。
社内で「職業訓練校」と呼ばれる専門の教育施設を設置し、ゼロからていねいに指導してくれる企業もあります。
就職する際には、社員教育に力を入れている会社を選ぶとよいでしょう。
鳶職人の資格・試験の難易度
キャリアを積むにつれ資格が必要になることも
鳶職人として働き始めるにあたって資格は不要ですが、キャリアを積んでいくにつれて、資格が必要になることもあります。
代表的なのは、「足場の組立て等作業主任者」「建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者」「玉掛(たまがけ)作業者」の3つで、これらは、鳶職人の「3種の神器」といわれることもある資格です。
後輩の職人をたばねる職長になる際に必須とする会社もあります。
いずれも学科や実技などの講習をきちんと受ければ合格できるレベルですが、講習を受講するには学歴に応じた数年単位の実務経験が必要です。
ほかにも鳶職人としてのレベルを判定する「とび技能士」という国家技能検定制度があります。
鳶職人の給料・年収
建設現場で働く作業員の中でも比較的高額
日給月給制を採用しているところが多い
鳶職人の給料は、一般的なサラリーマンのように固定の月給制ではなく、日給月給制の職場が多いことが大きな特徴です。
経験やスキルによって社員ごとに日給単価が定められており、その日給に実際に働いた勤務日数をかけて、月々の給料が算出されます。
雨などの天候不順で休みになると収入が減りますし、体調不良などの自己都合で休んでもマイナスされるので、給料は不安定になりがちですが、休みなくがんばって働き続ければ、高収入を得ることも可能です。
また鳶職人の給料は、40代後半あたりでピークを迎えます。
これは鳶職人に求められる運動能力がハイレベルであり、年齢を重ねた鳶職人は、体力の衰えとともに、徐々に現場仕事からはなれるためです。
福利厚生は手厚いことが多い
鳶職人の福利厚生は、かなり恵まれています。
元々勤務先に大きな企業が多いうえ、近年は鳶職人の減少によって、福利厚生面を充実させて人員の確保を図ろうとする動きが目立ちます。
交通費の支給や資格手当などはもちろん、社員専用の社宅や寮を完備している企業も珍しくありません。
なかには、食費と家賃、水道光熱費がすべて無料で、生活費が一切かからないというところもありますし、危険な仕事であることを考慮して、労災保険などの補償制度も充実しています。
給料はそこまで高水準とはいえませんが、福利厚生面を考えると、生活の心配なく、安心して仕事に打ち込めるといえるでしょう。
鳶職人の現状と将来性・今後の見通し
業界全体で人手不足に陥っている
近年は鳶職人全体の高齢化が進み、ベテラン職人の引退が相次いでいます。
若者は、危険、きつい、汚いという、いわゆる「3K」の職業をきらう傾向にあるため、どこの企業も採用に苦戦しています。
業界全体で人手不足に陥っているのが鳶職人の現状で、企業同士で職人の奪い合いとなっているケースも見受けられます。
また鳶職人は、「職人」と名が付くことからも明らかなように、経験と技術が求められる専門性の高い職業です。
一人前の鳶職人を育てるには数年単位の時間がかかるで、早期に状況が改善される見込みもなく、当面は人手不足が継続する見通しです。
売り手市場が続く状況をみても、ある程度の腕前をもった鳶職人の将来性は非常に明るいでしょう。
鳶職人の就職先・活躍の場
建設会社のなかには業務を限定しているところもある
鳶職人の主な勤務先は、建築工事や土木工事を請け負っている建設会社です。
鳶職人は、高層ビルなどの大型建築を手がけることが多いため、勤務先としては、ゼネコン(総合建設会社)の下請けとして工事を手がける、「サブコン」と呼ばれる企業が目立ちます。
ある程度の規模の大きな企業では、あらゆる鳶工事をあつかっているところもありますが、多くの建設会社は、足場鳶、鉄骨鳶、重量鳶のいずれかの業務にしぼっています。
就職する際には、自身が身につけたいスキルや、将来像をイメージして企業を選ぶことが大切です。
鳶職人の勤務先には、土木作業員も在籍しているケースが一般的であり、土木作業員から鳶職人にキャリアチェンジする人もいます。
鳶職人の1日
こまめに休憩をはさみながら集中力を保って働く
鳶(とび)職人は1日のほとんどすべてを現場作業についやします。
高い場所での作業は危険性が高く、ほんのわずかなミスが命取りなることもあります。
昼休憩に加えて15分~30分程度の小休憩をはさみ、体力と気力を回復させながら、慎重に働きます。
<足場鳶として働く鳶職人の1日>
関連記事鳶職人の1日のスケジュール・勤務時間や休日についても解説
鳶職人のやりがい、楽しさ
自分の作った建物が完成したとき
鳶職人が最もやりがいを感じる瞬間、それは自分がつくった足場や建物が完成した姿を見たときです。
ビルなどの高層建築物をつくるためには、鳶職人は厳しくつらい作業をコツコツとくり返さなければなりません。
すべての作業を終えて、地上からその完成物を見たときには、驚きと大きな感動が得られるといいます。
建築工事からある程度の時が過ぎて、その建物を目にしたときも、「自分も建築にたずさわったんだ」という大きな誇りを感じるでしょう。
また、高所で働くという特殊な環境だからこそ、鳶職人にしか感じられない解放感があります。
その名のとおり高い場所を飛び回っているとき、鳥のように自由を感じるという職人も少なくありません。
鳶職人のつらいこと、大変なこと
暑さ寒さ、雨など気候や天気による苦労が多い
鳶職人の仕事の大変なところは、気候や天候に左右される仕事であるということです。
夏は炎天下のなか、強い日差しを全身に浴びて、汗を流しながらの重労働に追われます。
冬は冬で、手足がかじかむような寒さのなかで、長時間にわたる作業をこなさなければなりません。
ある程度は働いていくうちに自然と慣れていきますが、それでも鳶職人が耐えないといけない暑さ・寒さは、非常に厳しいでしょう。
また雨の日は、足場が濡れて滑りやすくなるうえ視界も悪くなり、ただでさえ危険な仕事がさらに危険になります。
大雨であれば、安全を考慮して仕事自体がなくなることもありますが、工期の関係もあって雨量しだいでは休みになるとも限らず、厳しい状況下で働かないといけないことも多いようです。
鳶職人に向いている人・適性
高いところが好きで、身体を鍛えるのが好きな人
鳶職人にとって大切なことは、高い場所が得意であることです。
高いところにいるだけで楽しい、ワクワクするという人は、それだけ鳶職人としての技術の上達も早く、いつまでも楽しく続けられるでしょう。
また鳶職人は、力仕事が中心となるハードな仕事です。
代表的な仕事である「荷上げ」は、ひとつ10kg以上もある鉄製の足場を、高いところで作業している先輩職人に向かって、垂直に投げ上げます。
鳶職人の仕事は筋力を酷使する作業の連続で、まさに日々筋トレしていると言っても過言ではありません。
スポーツなどできたえた肉体に自信があり、筋力を生かした仕事がしたいという人にぴったりの職業でしょう。
鳶職人志望動機・目指すきっかけ
一緒に働きたいと思ってもらえることが大切
鳶職人の志望動機は、大きなものづくりにたずさわりたい、体力や根性に自信がある、デスクワークよりも身体を動かして働くほうが好きなど、些細なきっかけが多いようです。
面接において、まず注意すべきなのは挨拶や服装、言葉づかいなど礼儀作法です。
鳶職人に限った話ではありませんが、職人の世界は礼儀が重んじられるため、先輩や上司に対して失礼な態度を取る人は、どの企業でも不採用です。
目上の人に対する敬意を忘れず、「一緒に働きやすそうだ」と思ってもらえるようにしましょう。
また鳶職人はかなり離職率が高く、ごく短期で辞めてしまう人も少なくありません。
スポーツや習い事、趣味など、長く続けているものがあれば、積極的に面接でアピールするとよいでしょう。
鳶職人の雇用形態・働き方
正社員やアルバイトなど働き方はさまざま
鳶職人の求人は非常に豊富であり、正社員もあれば、短期のアルバイト募集もあります。
鳶職人は、がんばりしだいで大きく稼げるチャンスがある反面、仕事はかなりハードであり、離職率も決して低くはありません。
鳶職人になりたいけれど、本当に続けられるか自信がない、自分に向いているかわからないという場合、まずはアルバイトとして働くのも1つの方法です。
鳶職人の仕事に実際にふれてみて、自分の向き不向きを確かめてみるとよいでしょう。
アルバイトからでも真面目に仕事をこなしていれば、正社員に登用されるケースもあります。
また、企業によっては、18歳未満や新人のうちはアルバイトとして採用し、鳶の仕事を実際に任されるようになった時点で正社員とするケースもみられます。
鳶職人の勤務時間・休日・生活
スケジュールはシンプルで休憩を挟みながら働く
鳶職人のスケジュールは、始業時刻・終業時刻ともに、かなり固定的といえます。
1日のほとんどすべてを建設現場での作業に費やすため、業務スケジュールとしては非常にシンプルです。
事務所に出勤する日もあまりなく、自宅から現場に直行して、その日の仕事をこなし、そのまま現地で解散するという流れが一般的です。
正午前後の昼食休憩とは別に、午前と午後に1回ずつの小休憩が組まれており、体力を回復させて、高い集中力を保ちながら働きます。
周囲が暗くなると危険が増すので、定時を超えて作業することもまずありません。
鳶職人の求人・就職状況・需要
売り手市場が続きこれからチャレンジする人には有利な状況
鳶職人の求人は、一貫した売り手市場が継続している状況です。
近年は職人全体で高齢化が進み、ベテランの引退が相次いでいます。
かつて建築不況だった時期に採用をひかえていたため、次の主力となる中堅層の職人が十分に育っていません。
さらに、昨今の若年層は、危険できついというイメージの強い建設関係の仕事を嫌う傾向にあるため、新しい志願者の数も限られています。
こうした事情が重なって、現在はどこの企業も深刻な人手不足です。
採用のハードルはわりと低いので、未経験者や転職者であっても、やる気さえあれば歓迎されます。
今後についても、既存マンションの改修などで鳶職人の需要は増加していく見通しなので、企業の積極採用も当面続くでしょう。
鳶職人の転職状況・未経験採用
転職は体力のある若いうちの方がよい
鳶職人の求人情報をみると、「年齢不問」「年齢上限なし」という言葉が目立ちます。
ただ、未経験の40代や50代で、鳶職人としてのハードワークをこなすのは、よほど身体をきたえている人でないかぎり厳しいでしょう。
1人前の鳶職人になるには数年単位の時間がかかるので、あまり遅くから始めると、雑用にキャリアの大半をついやしてしまいます。
体力的な問題と、一人前として働ける年数を考えると、できれば20代、遅くとも30歳までには、鳶職人として就職しておくことが望ましいでしょう。
年齢の下限については制限はなく、中卒ですぐ鳶職人になる人も珍しくありませんでした。
しかし法律による制限もあるので、18歳、つまり高校を卒業してから就職するのがよいでしょう。
鳶職の語源や歴史は?
江戸自体には火消しとしても活躍した
鳶職の名前の由来に関しては「高いところで仕事をしているため、鳥の鳶に似ている」という説と、江戸時代に使われた「鳶口」という道具が語源になっているという2つの説があります。
鳶職という職業が生まれたのは江戸時代のことで、大工、左官とならぶ「江戸の花形」として広く世間に知られており、江戸の街づくりを担う職人として非常に人気が高い職業でした。
また、江戸時代は家を建てる以外にも、火災の現場でも活躍していました。
江戸時代の消防は「破壊消防」で、燃えそうな家を先回りして壊すために、家屋のことをよく知り、身のこなしが軽い鳶職人が先頭となり、消防の指揮をとっていました。
そのため給金も一般的な町民の2倍近い賃金が支払われるなど、非常に信頼される仕事だったようです。