消防士になるには? 身長や視力にも条件がある? 高卒からも目指せる?
消防官採用試験の採用区分や難易度は自治体によって異なりますが、筆記や面接などが行われており、十分な対策をして臨むことが大事です。
ここでは、消防士になるための方法やルートを詳しく解説します。
消防士になるには
学校卒業後、消防士になるまでの道のりを紹介していきます。
消防官採用試験への合格を目指す
消防官になるためには、まずは「消防官(消防士)採用試験」に合格する必要があります。
消防業務は、原則として市町村単位で行われることになっており、消防官採用試験は、各市町村に設置された消防局や消防本部(以下、自治体と記します)ごとに実施されています。
なお、多くの自治体では難易度別などにいくつかの区分で募集をしています。
自治体によって試験日程や採用区分には違いがあるため、まずはどこで採用試験を受けるかを決めることが大事です。
なお、上記のような区分はあくまでも「試験の難易度」を示すものであり、最終学歴が高卒であっても年齢要件を満たしていればⅠ類を受験することも不可能ではありません。
消防士は学歴で業務上の有利・不利が決まるわけではありませんが、採用区分によって初任給、昇進・昇給のスピードや幅などに違いが出てきます。
まずは自分が消防士としてどの枠で働くのか、事前に情報収集しながらしっかりと目標を定めることが大切です。
消防士は人気の職業で、東京都消防官の採用倍率は例年いずれの区分も10倍以上になるような高倍率です。
専門系の消防士とは?
消防士採用の区分は通常、難易度別で分けられていますが、東京消防庁ではこれらの区分に加えて「専門系」という区分での採用を行っています。
高度の消防行政を担う中枢職員として、専門区分での知識を活用できる部署での活躍を期待しての採用区分から採用された人。
いわゆる「幹部候補」としてのキャリアを歩みます。
専門系の採用試験では、大卒程度の一般教養に加えて「法律、建築、電気、電子、通信、化学、物理、土木、機械など」に関する専門知識が問われます。
しかし、災害現場での消防活動に従事する消防官という点では、その他の消防官と違いはありません。
専門系で採用された場合、一般的に、配属先の消防署において、最初の数年はその他の消防士と同じく新人として実践的な訓練を受け、その後は事務や広報を中心とした業務に携わりながら、キャリアを積み上げます。
専門系消防官の採用枠は毎年10名程度と限られており、狭き門となっています。
採用者の一部は、将来的に消防本部の幹部吏員や消防総監のポストに就きます。
消防士の資格の難易度
消防士になる段階で、特別な資格が求められるわけではありません。
消防士採用試験のような公務員試験は広く開かれたものとなっており、自治体が行う消防士の採用試験に合格し、採用されれば、消防士として働き始めることができます。
ただし、消防士になってからは業務上さまざまな資格が必要になる場面が出てきます。
たとえば、消防士のなかでも救急車に乗って救急救命が必要な現場へと出動する「救急救命士」として働くためには、「救急救命士国家試験」に合格する必要があります。
この資格を得るには、基本的には高校卒業後に救急救命士養成所で2年間学ぶ必要がありますが、消防士になってから現場経験を積み、必要な講習を受けることで救急救命士の資格を取得する人も多くいます。
このほか、消防士として働き始めてからは、自身の配属場やキャリアなどに応じて、消防活動や救助活動で使う特別な車両を運転するための資格、消防設備などを安全に使うための資格など、多種多様な資格を取得していくことになります。
消防士になるための身体条件
消防士は、ときに危険な現場での厳しい業務を遂行するために、一定の体力や健康状態を備えていなくてはなりません。
そのため、消防士の採用試験においては視力、色覚、聴力などについて基準が設けられています。
消防士になるための身体基準としては、以下のようなものが設けられることがあります。
- 視力:矯正視力を含み、両眼で0.7以上、かつ、一眼でそれぞれ0.3以上
- 色覚:赤色、青色および黄色の色彩の識別ができること
- 聴力:左右とも正常であること
- その他:身体に職務遂行上の支障がないこと
※このほか、自治体によっては肺活量、握力、腹囲についても検査・基準を設けています。
なお、東京消防庁では、身長・体重・胸囲に関して以下の基準を設けています。
- 身長 男性:おおむね160cm以上、女性:おおむね155cm以上
- 体重 男性:おおむね50kg以上、女性:おおむね45kg以上
- 胸囲 身長のおおむね2分の1以上
「おおむね」の言葉の通り、厳密にこの数字通りでなければならないわけではありません。
ただし、基準値から大きくかけ離れている場合には、不合格になってしまう可能性もあります。
数値や基準は自治体によって異なるため、受験予定の募集要項をしっかりと確認しておきましょう。
消防士になるための学校の種類
消防士採用試験は、特定の学歴の人しか受けられないものではなく、幅広い学歴の人にとってチャンスがある試験です。
多くの自治体で複数区分での採用試験を実施しており、年齢さえ満たしていれば学歴関係なく受けられる場合も多くあります。
また、専門的な知識や技能が求められる消防士は、高校や大学などの学校で何を学んできたかよりも、消防士になりたいという熱意や、現場で正しく動くことができる資質が重視されやすい職業です。
現役消防士を見ても人によって学歴はまちまちで、幼いころから消防士を目指している人は、1年でも早く現場に出たいという思いで、高卒後すぐ消防士採用試験を受けるケースも多いようです。
一方、大学に進んで幅広い勉強をし、見聞を広めてから消防士を目指す人もいます。
「専門系」の区分で試験を受けない限り、消防士になるのに特別有利になる学部・学科もないため、誰にでもチャンスはあります。
つまり消防士になるために必ず進学しなくてはならない学校はありませんが、消防士は人気職で、各自治体の消防官採用試験の倍率も高くなりがちです。
こうしたことから、最近では消防官採用試験の合格を目的とした専門学校やスクールが首都圏や関西を中心にいくつも設立されています。
消防士を目指す人のなかには、こうしたスクールを活用して、より効率的に採用試験対策を行っている人もいます。
消防士になるためにはどんな学校に行けばいい?(大学・専門学校・予備校)
消防士に向いている人
ここからは、消防士には、どんな人が向いているかを紹介します。
ここに挙げたものがすべてではありませんが、自身の適性を判断するうえで参考にしてみてください。
仲間と協力して行動できる人
消防士の仕事は、自分一人だけでできるものではありません。
消防士は、常に他の消防士たちとチーム(隊)を組んで行動するため、チームの方針や指示に従う必要があります。
どれだけ自分が「こうしたい」と思っていても、自分の考えや判断だけで勝手な行動をとるわけにはいかないのです。
消防士は、自分の考えで自由に行動したいという人よりは、ルールをきちんと守り、チームワーク重視で行動するのが好きな人に向いている仕事といえるでしょう。
冷静に状況を判断し物事を考えられる人
消防士の仕事では、危険な場所や状況に直面する機会も多く出てきます。
慣れないうちは火災の現場や人が倒れている場面に出くわすと、焦ってしまったりパニックになりそうになることもあるかもしれません。
そんなときでも、消防士はどれだけ冷静に状況を判断し、適切な行動をとれるかが大事です。
もし冷静さを失ってしまえば現場がより混乱することにもなりかねませんから、ちょっとしたことで大騒ぎしてしまう人よりは、周囲の状況をよく見て、落ち着いて行動したり物事を考えたりできる人に向いている仕事です。
心身ともに強さを持っている人
災害現場で救助活動を行う際には、台風で水かさを増した濁流に飛び込んだり、地滑りの危険が伴う山に入っていったりと、己の勇気と判断力を問われる場面が多々あります。
そうした災害現場や火災現場などで活動したときに判断を誤り、自分自身が危険な目に遭遇すると、トラウマを抱えて働けなくなってしまう消防士もいるようです。
厳しい現場で働く消防士は、屈強な体力に加えて、どんな難しい局面においても自分を見失わない、強いメンタルを持った人が向いているといえるでしょう。
消防士のキャリアプラン・キャリアパス
消防士は採用試験を受けて採用された後、消防学校という特別な学校で、消防士としての基礎的な知識などを学びます。
その後も現場で働きながらスキルを磨き、より難しい、責任のある業務にも携わることができるようになります。
採用後は消防学校へ入学する
消防官採用試験に合格した人は、各自治体の「消防学校」に入学し、消防の基本的な知識や機材の扱い方など、消防士に必要な知識や技能を学ぶことになります。
消防学校は全寮制になっており、訓練・学習は基本的には半年間で修了します。
「学校」といっても、いわゆる一般の高校や大学などとは異なり、消防隊員としての立場で学んでいくことになります。
そのため、学校に在籍中でも、各自治体から消防隊員としての給与・手当等が支給されます。
消防署へ配属される
消防学校を卒業後は各自治体の消防署へと配属され、本格的に現場の消防士として働くことになります。
消防士にはさまざまな業務がありますが、最初は「消防隊員」として働き、地域の消火活動などの業務にあたるのが一般的です。
先輩とチーム(隊)を組んで行動し、消防士としての知識や技術をより高めていきます。
実務に携わりながら、さらなるスキルアップを目指す
消防士の仕事は他人の命を助けると同時に、常に自分の身を危険にさらす仕事です。
命を救う技能を磨くため、消防署に配属後は実務経験を積みながら業務に関連する資格取得などを目指し、さらにスキルアップをすることも求められてきます。
- 救急救命士
- 消防設備士
- 防火管理者
- 自衛消防技術認定
これらの取得を目指していくことで、自分のパフォーマンスのレベルを向上させることができます。
また、地方公務員である消防士は管轄の地域内での異動・転勤もあり、さまざまな業務に関わりながら消防士としてさらなるステップアップを目指していきます。
消防士を目指せる年齢は?
消防官採用試験には、一般的な地方公務員試験とは異なる、独自の応募資格や年齢制限が設けられています。
具体的な内容は自治体によって異なりますが、年齢については、多くの自治体で18歳~30歳くらいまでとしています。
この背景には、消防士が体力を要する職業であることや、特殊なスキルが必要になる職業であることから、若いうちに採用して経験を積み、早く一人前の消防士になってもらいたいというねらいがあるといわれています。
受験を希望する自治体の採用情報にアクセスし、どの区分で何歳まで試験を受けられるのかを事前に調べておきましょう。
消防士は高卒から目指せる?
最近は、日本全体で大学進学者が増えていることや、より専門性の高い人材を集めたいといった思いから、大卒者向け試験区分の募集人数を増やしている自治体が増加傾向にあります。
とはいっても、自治体によっては大卒よりも高卒の消防士の割合のほうが大きいところもありますし、高卒だからといって消防士としての活動が不利になるわけでもありません。
消防士の採用試験には年齢制限はありますが、学歴についてはさほど重視されておらず、高卒の人がこの職業に就くことは決して難しくないといえます。
大卒者は、配属された時点では高卒者よりも高い初任給がもらえますが、その後のキャリアについては、高卒者が昇任試験を受けて大卒者より早く上にいくこともあり得ます。
また、レスキュー隊など、現場のなかでもとりわけ高度な技能が求められる業務に就くには、より若いうちから経験を積んでいる高卒の人のほうが有利といわれることもあります。
高卒から消防士になるのか、それとも大卒で消防士になるのかは、あくまでも本人の自由です。
何歳で消防士になりたいのか、学校でどのようなことを学んでから消防士になりたいのかをイメージし、進路を決めるとよいでしょう。
高卒で消防士になるのは難しい? 大卒との給与・仕事内容の違いとは?
消防士は女性でもなれる?
消防士というと、どうしても男性の姿が思い浮かべられることが多いようです。
しかし、女性でも男性と同じように消防官採用試験を受けて、消防士になることが可能です。
令和3年4月1日現在、消防吏員(消火活動中の緊急措置等、消防法上の権限を有する人のこと)全体に占める女性の割合は約3.2%とまだまだ少ない状況ですが、最近はどこの自治体でも女性の消防官の数が徐々に増加傾向にあります。
女性が消防士になるための流れは男性とまったく同じですが、一部の自治体では女性枠を設けています。
なお、男性と同じく、女性も消防官採用試験の受験資格として身長や体重の制限や、視力などの条件があるため、その点についてもよく確認しておきましょう。
消防士の業務内容やキャリアパスは多岐にわたり、公務員としての安定した待遇もあるため、消防の仕事がしたいのであれば、女性消防士が長く働き続けることは十分に可能だといえます。
【参考】消防士に関するデータ
消防職員数の推移
消防職員の数は一貫して増加を続けています。令和3年時点での消防職員の数は167,073人となっています。
消防職員の男女比
消防職員の男女比は男性161,188人(96.5%)、女性5,885人(3.5%)となっており、女性の比率が若干増えつつあるものの、ほとんどが男性で占められています。
「消防士になるには?」のまとめ
消防士になるには、まず各自治体が行っている消防官(消防士)採用試験に合格し、採用される必要があります。
採用区分や試験内容などは自治体によって異なるため、自分がどの自治体の試験を受けたいのかを考えて、必要な情報を集めていきましょう。