行政書士の仕事内容は? 資格取得後をイメージしやすい詳細解説
行政書士の守備範囲は広く、取り扱う書類は1万種類以上。同じ法律関係の資格である「弁護士」と比べると、わたしたちの暮らしにより身近な存在です。
この記事では、そんな行政書士の仕事について詳しく解説します。
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行政書士の仕事とは
行政書士の仕事は、身近な生活に関する相談から、ビジネスを進めるうえで必要な法的書類作成まで幅広いことが特徴です。
行政書士は得意分野を作り、専門性を深めていくことでキャリアを積みます。
この章では、行政書士が取り扱う仕事を以下の2つに分けて解説します。
- 暮らしに役立つ相談
- ビジネスに役立つ相談
さらに、近年ニーズが増えている、行政書士の新しい仕事についても紹介します。
行政書士になった後に、どんな分野の専門家を目指すかをイメージするのに役立ててください。
行政書士の仕事:暮らしに役立つ相談
行政書士は、わたしたちの生活に関わることに関する相談にのるなど「街の法律家」として身近な存在です。
たとえば、以下のような相談にのり、書類を作成する仕事があります。
【行政書士の仕事:暮らしに役立つ相談】
遺言・相続書類の作成 | 遺言書の作成支援、遺産分割協議書等の作成、相続人の確定調査 |
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契約書の作成 | 交通事故についての手続き、土地等の賃借契約、金銭の貸借契約など |
自動車関連 | 自動車ナンバー申請や税金、事故、保険等自動車に関わる書類作成 |
日本国籍取得 | 日本国籍を取得したい外国人からの相談や国際結婚、在留資格など |
土地活用 | 畑を駐車場にしたい、売りたいなど土地に関する申請手続き |
内容証明 | 債権債務、内容証明郵便、公正証書等の書類の作成など。 |
行政書士のなかには、自動車や事故・保険、在留資格などそれぞれを専門に扱う人もいます。
行政書士の仕事:ビジネスに役立つ相談
行政書士の仕事には、ビジネスを行う上での、専門家としてのアドバイスを行うこともあります。
たとえば、会計記帳や財務諸表作成といった会計業務や法的観点から、中小企業へのアドバイスをします。
【行政書士の仕事:ビジネスに役立つ相談】
法人関連手続 | 法人の設立手続と運営支援(定款作成、会計記帳など) |
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知的財産権の保護 | 著作権の文化庁への登録申請は行政書士の専管業務 |
外国人雇用関係 | 外国人を雇用する際に必要な入国管理局への申請手続 |
中小企業支援 | 中小企業経営を支援、知的資産経営導入とサポート |
運輸関連 | 運送業やタクシー営業の許可申請 |
電子申請・電子調達 | 電子署名を要求される申請・届出の代理手続き |
許認可申請 | 建設業や運送業、産業廃棄物処理業、飲食店等の許可申請手続 |
ビジネスを行う上では許認可申請が不可欠であり、行政書士の仕事はビジネスをスムーズに進めるサポートともいえます。
行政書士の新しい仕事:特定行政書士とは
行政書士の新たな仕事の種類として「特定行政書士」があります。
特定行政書士とは、普通の行政書士にはできない「不服申し立て」ができる行政書士を意味します。
研修を修了し、試験に合格することで、この資格を得ることができます。
2014年の法律改正でこれまで弁護士が行っていた不服申し立て業務を、行政書士が行えるようになりました。
「不服申し立て」を行う例としては、たとえば、建設業の営業許可申請が通らなかったときが挙げられます。
特定行政書士の人数は限られているため、認定されれば他の行政書士と差別化でき、仕事の幅が広がります。
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行政書士の業務の内容
ここからは、行政書士の仕事について、さらに具体的な業務内容と、仕事の流れについて解説します。
業務内容1.書類作成代行業務
行政書士業務の主なものは書類作成の代行で、「代書屋」と呼ばれることもあります。
手掛ける書類の数は膨大ですが、おおまかには「役所関係に提出するもの」と「それ以外」に分けられます。
役所に提出する書類には以下のようなものがあります。
【行政書士が作成する書類:役所へ提出するもの】
- 会社設立手続き
- 飲食店などの開業手続き
- 産業廃棄物関連手続き
- 車両登録などの自動車関連手続き
- 国籍・戸籍関連手続き
上記の書類には、行政書士にしかできない「独占業務」と呼ばれる仕事も多数存在しています。
一方、行政書士が作成する書類で役所への提出以外の目的のものは以下のようなものがあります。
【行政書士が作成する書類:役所への提出以外が目的のもの】
- 遺産分割協議書や遺言書といった相続に関する書類
- 民間取引の各種契約書、内容証明
- 株主総会議事録など
このように、権利義務を明らかにしたり、事実関係を証明したりする書類を作成します。
どちらの分野についても、まだまだ未開拓の業務が残されています。
業務内容2.コンサルティング業務
近年では、市民サービスの向上や行政負担の軽減を目的として、公的手続きの簡素化・電子化が進んでいます。
これにともなって、かつては行政書士に代行していた申請などの諸手続きを自分で行う人も増えつつあり、行政書士への依頼は減少傾向です。
このため、昨今では以前にも増して、単なる事務手続きに留まらず、依頼者が最適な法手続きを取れるようにコンサルティングを行うことが重要になっています。
依頼者が抱える悩みや課題はさまざまであり、すぐには解決策が見つからないケースも決して珍しくはありません。
そんなときでも、法律知識や過去の経験などを駆使して、どうすれば許認可が下りるのか、どうすれば問題が解決するのか、粘り強く、依頼者に親身になって仕事を進めていく行政書士が求められています。
行政書士の仕事の流れ
行政書士事務所で働く行政書士が、クライアントから依頼を受けて許認可申請を代行する場合の、大まかな仕事の流れを紹介します。
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1.相談を受ける
一連の仕事は、まず依頼者からの相談を受け付けるところからスタートします。 -
2.受注
依頼者との打ち合わせを重ねて、ニーズや課題を共有してから取るべき手続きが定まると、正式に手続きの代行業務を受注します。 -
3.書類作成・役所へ提出
提出書類を作成したり、申請のために必要となる公的証明書などを収集して、すべての書類が揃ったら役所に提出します。たいていの書類は手続きの段階ごとに提出期限が定められているため、依頼者の希望するスケジュールによっては、急いで作業を進めなければなりません。
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4.許認可が下りる
申請手続きが問題なく処理され、官公署より許認可が下りたら依頼者へ連絡し、報酬を受け取って業務は完了です。
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行政書士の役割
私たちが日常生活を送っていくなかで、あるいは会社などの法人を運営していくなかで、許認可申請など官公署での諸手続きが必要になる機会は多々あります。
しかし、それらの手続きは、ときに煩雑であったり、書類作成のために専門的な知識が必要であったりするため、一般人では対応が難しいケースも多々あります。
そういったなか、行政書士の社会的な役割は、豊富な法律知識に基づいて、正確かつスムーズにそれらの手続きを代行することで人々の権利を守ることです。
また、行政事務のプロである行政書士が介入することで、書類の記載内容に誤記があったり、申請に不備が生じたりすることがなくなるため、行政運営を効率化させるという役割も同時に担っているといえます。
行政書士の勤務先
行政書士には、いくつかの勤務先があります。
ここでは、代表的な場と、それぞれの特徴を紹介します。
行政書士事務所
行政書士の勤務先としてまず挙げられるのは、行政書士事務所です。
ただし、行政書士事務所は小規模のところが多く、行政書士資格の保有者は代表者一人だけというところが大半です。
そのため、正社員の求人情報はそれほど多いとはいえず、就職先がすぐに見つからないケースもあるでしょう。
行政書士を本業とするなら、自分で行政書士事務所を開業することが必要かもしれません。
一般企業、別の士業事務所
一般企業でも、行政書士は専門的な知識を生かして活躍することができます。
行政書士資格を生かしやすい企業の例は、建設会社や不動産関連会社です。
それらの企業では、建設関連の営業許可を毎年更新することが義務付けられていたり、公共事業の入札書類を作成する頻度が高かったりするため、行政書士資格を持っていると歓迎されることがあるでしょう。
このほか、さまざまな企業の法務部と総務部といった法律関係の仕事が多い部署でも、行政書士が活躍することがあります。
さらに、司法書士事務所や社労士事務所といった別の士業事務所なども、行政書士の勤務先として考えられます。
行政書士と関連した士業・職業との比較とダブルライセンス
行政書士には相性の良い資格があり、複数の資格を持って活躍する「ダブルライセンス」で活躍する人も多数存在します。
この章では、行政書士と関連する業務を行う士業・職業の紹介とダブルライセンスについて解説します。
司法書士
行政書士と同様、「書士」という呼称がつく書類作成のスペシャリストです。
依頼を受けて書類作成を代行するという一連の業務も行政書士と酷似していますが、行政書士が官公署への提出書類を作成するのに対し、司法書士は裁判所や法務局への提出書類を作成するという違いがあります。
行政書士のなかには、司法書士資格も取得し、「ダブルライセンス」で活躍している人も大勢います。
社労士(社会保険労務士)
社労士は、雇用保険や健康保険、社会保険、労務管理などに関する専門家であり、労働関係の書類作成や申請手続きを代行する仕事をします。
また、法人企業と顧問契約を締結し、人事面についてコンサルティングしたり給与計算を行ったりします。
行政書士と同じく法律関係の事務を取り扱う職業ですが、行政書士が「各種許認可申請」を得意としているのに対し、社労士の専門分野は「保険・年金・労務」であり、明確な役割分担がなされています。
宅建士(宅地建物取引士)
宅建士は、土地や建物といった不動産を売買・賃貸する際に、契約書や「重要事項説明書」と呼ばれる書類を作成したり、その内容についての説明を行う職業です。
不動産取引は複雑な権利関係が入り組みやすく、また金銭的にも高額となるケースが多いため、宅建士の働きが欠かせません。
相続など、不動産が絡む案件を手掛けることの多い行政書士との関連性が高い職業のひとつです。
行政書士の仕事はダブルライセンスで可能性が広がる
上述の通り、行政書士の仕事は電子化が進むに伴って減少傾向にあり、人口も減少していくため将来性としては厳しいといわれています。
それにもかかわらず、行政書士資格は受験資格が必要なくチャレンジしやすいく人気があり、行政書士の人数は増え続けています。
もしダブルライセンスを取得すれば他の行政書士と差別化でき、仕事の幅も広げやすいでしょう。
この先、AIの機能が拡充すれば事務仕事は自動化されていくことが予想されるため、専門性を生かしたコンサルティング業務を行える行政書士が生き残ることになるでしょう。
行政書士の仕事は楽しい?どんなやりがいがある?
この章では行政書士の仕事の魅力について紹介します。
行政書士の仕事は多岐にわたりますが、人の役に立てる実感が得やすい仕事です。
人の役に立つ楽しさがある
行政書士の仕事は、困っている人から依頼を受けて解決していく「人助け」の側面があります。
依頼人と直接顔を合わせて話し、問題を解決していくので「ありがとう」と感謝される機会も多いです。
誰かの役に立つ仕事をしたいと考えている人にとっては大きなやりがいを感じられるはずです。
チャレンジし続けることができる
行政書士がカバーできる領域は広く、なんと1万種類を超える業務に携わることができるといわれます。
さらに法律の改正があれば、それに伴う書類作成の仕事が増えるため常に勉強し続けることが大切です。
自分の得意分野を生かしやすい側面もあり、たとえば外国語が得意な人は、帰化申請や在留許可など外国人に関する分野を極めていくことで差別化し、新規事業が見えてきます。
このように、行政書士の仕事は自分次第で切り開いていける楽しさがあります。
行政書士になるには?難易度は高い?
行政書士になるまでの大まかなルートや、資格の難易度について紹介します。
行政書士試験を受けて資格を取得するのが一般的
行政書士は公務員として長期間勤務したり、以下の法律資格を取得することでも資格が取得できます。
しかし、一般的には行政書士試験に合格して資格を取得します。
ほかの資格試験のほうが難易度が高く、公務員から行政書士になるには時間がかかりすぎてしまうからです。
行政書士試験には年齢や学歴といった受験資格が一切なく、誰でも受験が可能です。
難易度は低くはないが独学も可能
行政書士試験の合格率は10%前後を推移しており、司法書士や社会保険労務士など他の法律系資格よりは難易度が低いといわれています。
合格までに必要となる勉強時間の目安は、おおむね500時間~800時間であり、仮に1日3時間勉強するとして5ヵ月~9ヵ月程度です。
行政書士の試験の難易度・合格率は? 他の資格試験と徹底比較!
行政書士が独立・開業するには?
行政書士は独立・開業型の資格であり、資格保有者にのみ行うことが認められている「独占業務」も多数あるため、資格を使って自分の事務所を持つことが可能です。
以下では、独立・開業した行政書士の仕事や、独立までのキャリアパス、給料事情などを紹介します。
独立した行政書士の仕事内容
独立行政書士は、勤務行政書士としての一連の業務に加えて、経営者としての業務も手掛けていかなくてはならないことが大きな特徴です。
つまり、具体的な仕事内容は、相談受付、書類作成、官公署への提出といった行政書士の本業だけでなく、顧客獲得のための営業活動やスタッフの管理、経理作業、税金対策などにまでおよびます。
行政書士事務所は、自分以外に有資格者を雇えるほど経済的余力があるケースはまれで、事務スタッフを含め数名体制で運営することが一般的であるため、一人で数多くの業務をこなさないといけないでしょう。
なお、近年は行政事務手続きの簡素化・電子化が進展しており、それにともなって行政書士への依頼件数が減少し、事務所間の競争はますます激しくなっています。
今後、独立行政書士が生き残っていくには、自身の専門性を磨いたり、独自のサービスを打ち出したり、他士業資格を取得したりといった、他者との差別化を図る努力が、いっそう重要になるでしょう。
独立・開業するまでのキャリアパス
行政書士が独立に至るまでのプロセスは、資格取得後にいったんどこかの事務所に勤める道と、資格取得して即時に開業する道の2パターンが考えられます。
実務経験ゼロのまま独立するのは大きなリスクが伴うため、できればどこかの事務所に勤めたほうが望ましいでしょう。
しかし、行政書士事務所は規模の小さいところが大半であり、求人数は限られています。
就職したくても、なかなか望む条件で働き口を見つけるのが難しいという事情もあります。
とくに正社員の求人数は非常に少ないため、アルバイトやパート待遇で働くことも視野に入れないといけないかもしれません。
ただ、たとえ雇用条件や待遇面が自分の意にそぐわなくても、「修業期間」として事務所などに勤めることはキャリア上、決して無駄にはならないでしょう。
なお、いきなり独立する場合「行政書士実務研修センター」で書類作成などの実践的な内容を学ぶ方法も考えられます。
独立行政書士のメリット・デメリット
行政書士が独立の道を選択する場合のメリットは、働く場所や時間帯、業務量などをある程度自分で決められることです。
高収入を目指して、土曜も日曜もなく働くこともできますし、反対に仕事量をセーブして、家事や育児、介護などとの両立を図ることもできるでしょう。
また、行政書士の業務は非常に幅広くあるため、在留ビザや帰化申請といった外国人関係の案件に特化するなど、特定の分野を集中的に手掛けることも可能です。
一方、独立する場合の最大のデメリットは、収入が保証されないことです。
独立開業というと華やかなイメージがあるかもしれませんが、顧客獲得に苦労する人もおり、意気込んで開業したものの、食べていくことさえままならないというケースもあり得ます。
成功するためには、行政書士としての知識やノウハウはもちろん、経営者としての事業センスが必要です。
独立行政書士の給料・年収
行政書士の収入は、一般企業の会社員や公務員よりも個人の実力が反映されやすいといえますが、独立するとその傾向はさらに強まります。
日本行政書士会連合会の統計によれば、全体の7割以上が年収500万円に届いていない一方、2000万円や3000万円を稼いでいる人も一定数おり、稼いでいる人とそうでない人の差が非常に大きくなっています。
ただし、収入が少ない人のなかには、会社員として働きながら副業で行政書士業をしている人や、定年退職後に趣味程度で行政書士をやっている人もいるため、一括りにできない部分もあります。
それでも、人口が減少している一方で、行政書士の資格保有者数が一貫して増加傾向にあることを考えれば、独立行政書士の事業環境が厳しさを増していることに変わりはありません。
経済的な成功を収めることがすべてではありませんが、高収入を得られる人は一握りです。
勤務時代の給料を下回る可能性も十分にあることを念頭に置いて独立したほうがよいでしょう。
「行政書士の仕事内容・役割」まとめ
行政書士は、人々の暮らしに身近な法律問題を扱ったり、法務的観点からビジネスのコンサルティングを行ったりと、非常に幅広いです。
行政書士としてスキルアップし、収入を上げるためには、特定の専門分野を極めたり、ダブルライセンスを取得したりして差別化していくことが重要です。
昨今は電子化が進むにつれ、書類作成業務が減少しているため、生き残るためにも専門的知見を生かして新規分野を開拓し、勉強し続けるチャレンジ精神が必要とされるでしょう。