学芸員の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「学芸員」とは
博物館や美術館で働く職員。資料収集、管理や展覧会の企画、広報活動まで幅広く担当する。
学芸員とは、博物館、美術館、動物園などにおいて、資料の収集、保管、展示などを担当する専門の職員のことです。
欧米では「キュレーター」と呼ばれる専門職ですが、日本の学芸員は数が少ないため、多岐にわたる業務を担当します。
具体的な業務内容は、資料の収集および整理・保管・修理、展示の企画、研究・分析、教育普及活動などです。
学芸員になるためには、大学で博物館に関する科目の単位を修得するなどして「学芸員」の資格を修得しなければなりません。
専門知識が必要となるため、大学院を卒業していることが望ましいとされています。
学芸員の採用人数は非常に少ないため、アルバイトとして学芸員の仕事をしながら、正社員の求人を探す人も多いです。
「学芸員」の仕事紹介
学芸員の仕事内容
博物館などの文化施設で多岐にわたる仕事をこなす
学芸員の一般的なイメージは、美術館や博物館で説明をしてくれるガイド・案内役というものでしょう。
来館者への対応も、たしかに学芸員の業務の一部ですが、それ以外にも学芸員は以下のように多様な業務を担当しています。
学芸員は、さまざまな文化施設(美術・科学・動物・植物等々)に勤務する専門職員として、学術振興や文化向上に貢献する役割を期待されます。
研究者と教育者の両面をもつ職業
学芸員は「研究者」と「教育者」の2つの側面をもっています。
研究者としては、各自の専門知識に基づいて、技官や作業の補助員、事務職員などとも協力しながら研究や分析を進めます。
資料について日々調査し研究を重ねることで新たな価値の発見に貢献しています。
その成果は論文や書籍、解説書などにまとめて、学術分野に貢献し、博物館の質の向上にも努めます。
また、地域の文化振興に深く関わっていくことも学芸員の役割であり、文化講座で講演を行ったり、子どもたちに向けて説明会やイベントを開催したりします。
学芸員になるには
学芸員養成課程のある大学への進学が一般的
学芸員として働くには、まず博物館などに関する高度な専門的知識を身につけて、学芸員の資格を取得する必要があります。
学芸員の資格取得にはいくつかのルートがありますが、一般的なのは「学芸員養成課程」のある大学等で必要科目を修得し、卒業する方法です。
新規で学芸員になる人の9割ほどは、このルートを選んでいるといわれています。
なかには大学院まで進学し、より専門分野に関する知識を深めてから学芸員としての就職を目指す人もいます。
学芸員養成課程以外で学芸員を目指す道も
学芸員養成課程以外のルートから、学芸員の資格取得を目指す方法のひとつが「学芸員資格認定試験」を受けるというものです。
この試験は、学士(大卒)の学位をもつ人であれば、過去に学芸員の勉強をしていなくても受験可能です。
ただし、学芸員試験認定に合格後、1年間「学芸員補」として実務経験を積まなくてはなりません。
もうひとつ、論文や業績によって判断される「資格認定審査」を経て学芸員を目指す道もありますが、こちらは特殊な方法といえます。
学芸員の学校・学費
学芸員養成課程のある大学で学ぶことが近道に
中学生や高校生が将来的に学芸員を目指すのであれば、学芸員養成課程のある大学へ進学するのが一番の近道といえるでしょう。
学芸員資格が取得できる大学は日本全国に300校ほどあるため、通いやすい地域の大学を選ぶことが可能です。
一部の大学には通信課程があるため、社会人が仕事をしながら学芸員の資格取得を目指せます。
人気のある文化施設を目指すなら難関大学への進学がおすすめ
学芸員は、資格を取ること自体はそこまで難しくありませんが、いざ就職しようとする場合には非常に厳しい競争が待ち受けています。
有名な文化施設では、倍率が数十倍以上になることもめずらしくありません。
このため、日本の芸術系大学の最高峰ともいわれている東京芸術大学や、さまざまな芸術家やクリエイターを輩出している多摩美術大学など、レベルの高い大学で専門知識を磨いておくほうが有利といわれています。
実際、人気のある博物館に採用される学芸員は、難関大学の出身者や、大学院で専門分野の研究を深めてきた人、あるいは海外留学経験がある人なども多いです。
また、学芸員は研究職でもあるため、学生時代の論文や卒業研究に十分に取り組んでおくことが将来の就職の成否を左右します。
関連記事学芸員になるにはどんな大学学部・大学院にいけばいい?
学芸員の資格・試験の難易度
資格の取得自体はそこまで難しくはないが、就職は厳しい
学芸員資格を取得するスタンダードな方法は、学芸員養成課程のある大学で所定のカリキュラムを修了することです。
学芸員を目指す場合、通常の学部の講義と並行して履修していかなければならないため、一般の学生よりも日々の生活は忙しくなる覚悟が求められます。
ただし、きちんと履修すれば誰でも資格が得られるという点では、取得の難易度はそこまで高くありません。
就職活動は厳しい道のりになることが多い
学芸員を目指す人が苦労するのは、資格取得よりも、その後の博物館等への就職活動です。
正規職員としての求人がほとんど出ないため、いくら高い志や目標をもって努力しても、なかなかよいタイミングで採用に至らない場合があります。
人によってはアルバイトなど非正規雇用で文化施設で働きながら、正規雇用のチャンスを狙うこともあります。
関連記事学芸員資格認定の難易度はどれくらい? 受験資格や合格率を解説
学芸員の給料・年収
安定した収入を得ている学芸員はあまり多くない
学芸員は専門職ではあるものの、収入はそこまで高いわけではなく、平均年収は250万円~400万円程度といわれています。
ただし、公立の文化施設勤務の場合は基本的に公務員の身分となり、休暇制度や手当、福利厚生などは安定しています。
私立の文化施設に勤務する場合は、各施設の規模や方針によって待遇が異なってきます。
全体として、学芸員は正規雇用の求人が非常に少なく、アルバイト・パート、臨時職員、嘱託職員といった非正規雇用が多くを占めています。
安定した労働条件で、満足のいく収入が得られている正規雇用の学芸員は、ごく一部と考えておいたほうがよいでしょう。
学芸員が収入をアップさせるには
学芸員は人気の職種ですが、先に挙げたように、正規雇用の求人が圧倒的に少ないのが実情です。
有期雇用契約で働くケースもあり、なかなか長期的なキャリアプランをイメージしづらい場合があります。
ただし、人によっては非正規からスタートし、その後、仕事ぶりが認められて正規雇用に変わるケースもあるようです。
学芸員には研究者的な側面があるため、よい条件で雇用されるためにも、まずは自分の専門性を磨く努力が重要といえます。
関連記事学芸員の給料・年収はいくら? 収入について詳しく解説
学芸員の現状と将来性・今後の見通し
安定した需要は見込めるものの、非正規雇用が主体となっている
日本国内の博物館数は昔に比べると増加し、それにともなって学芸員として働く人の数も増加傾向が続いていました。
博物館などの文化施設は、貴重な文化財の保存や社会に対する教育的な役割を担うこともあり、そこで働く人にとっても安定した需要が見込める職場といえます。
もともと文化施設は公立のところも多くありましたが、最近では公共施設の運用を外部に委託する流れが進みつつあります。
また、公務員の世界でもコスト削減が重要な課題として位置づけられており、正規雇用ではなく、臨時職員や嘱託職員の採用が主体となっています。
学芸員の需要が一切なくなるとは考えにくいものの、正規雇用の採用が少ないため、学芸員としてよい条件で就職するには厳しい状況です。
学芸員の就職先・活躍の場
博物館法で規定されている博物館を中心に活躍
学芸員の就職先・活躍の場は、博物館法によって規定されている博物館が中心です。
ここでいう博物館とは、恐竜の骨や土器などを展示するような、一般的にイメージされる博物館はもちろん、美術館や動物園、植物園、水族館、科学館、史料館なども含まれています。
博物館では、動物や植物、魚、古文書、宝飾品、絵画など、さまざまな文化的資料を地域や国の財産として大切に保管し、これらを通して市民の文化振興に役立てていきます。
また、博物館には「私立」の施設と「国公立」の施設があり、私立は民間企業が運営しているため、そこで働く学芸員は各社の社員です。
一方、国公立の博物館は自治体の職員として採用されるため、地方公務員の身分となります。
公務員として採用された場合には、必ずしも施設勤務になるとは限らず、教育委員会で調査研究や展示などを担当する可能性もあります。
学芸員の1日
各施設の開館時間を中心に働く
文化施設に勤務する学芸員は、各施設の開館時間である朝から夕方にかけての時間帯で仕事をすることが多いです。
開館時間中は来館者への対応をしながら、自分の担当している企画を運営したり、マスコミの取材に対応したりします。
以下では、美術館で働く学芸員のある1日のスケジュール例を紹介します。
学芸員のやりがい、楽しさ
貴重な資料に触れて豊かな気持ちになれる
学芸員の仕事のやりがいのひとつは、人類の歴史や文化に深く接しながら、自分の興味がある分野の知識を深めていけることです。
仕事を通じて、貴重な資料や歴史的に価値のある発掘物などに多々触れることができますし、新しい研究結果をいち早く知ることもできます。
こうした点にロマンを感じる人が多いようです。
また、学芸員が展示を企画することもよくありますが、自分が関わった展示会に多くの来場者が訪れ、楽しんでもらえている姿を間近で見たときにもやりがいを感じます。
子どもたちなど、一人でも多くの人が展示品をきっかけに、文化的な資料や歴史に興味をもってくれることを目標としている学芸員もいます。
学芸員のつらいこと、大変なこと
待遇に恵まれず、理想と現実にギャップに悩む人も
学芸員を目指す人はたくさんいますが、正規雇用で、よい待遇を受けて働ける例はあまり多くありません。
長く働いてもあまり大きな収入アップは望みにくい仕事であり、経済的に充実していないと感じて、仕事のモチベーションを保てなくなってしまう人もいるようです。
専門性が求められ、仕事に対して高い意識をもっている人が多いからこそ、待遇面で見返りがないと感じてしまえば長く続けるのが難しい場合があります。
また、学芸員は勤務先によっては、収蔵品の保存や修復をはじめ、発掘作業、展示会の企画考案、動物の世話など、非常に幅広い業務を抱えます。
想像以上のハードワークで、理想と現実のギャップがあまりに大きいと、つらいと感じることがあるかもしれません。
学芸員に向いている人・適性
専門知識に加え、器用さや豊かな人間性も求められる
学芸員は専門性が重視される職業であり、歴史や社会学、教育学、民俗学などの分野に関して知識を深めていくことが必用です。
文化的な領域への関心が強く、仕事に就いてからも勉強を続けられる人は学芸員に向いています。
なお、各施設では展示や保管に関する業務はもちろん、来館者への応対や案内、対外的な交渉、事務手続きなど、多様な業務を担当することが多いです。
他の職員や関連機関などとコミュニケーションをとる場面がそれなりに多いため、社会性も備えていることが大切になってきます。
また、「博物館に来館する人たちを楽しませたい」というサービス精神のようなものがある人も、学芸員に向いているでしょう。
学芸員志望動機・目指すきっかけ
歴史や絵画などが好きな気持ちがきっかけに
博物館や美術館をはじめとする文化的な施設に足しげく通っていた人、歴史や絵画を見ることが好きという人にとって、学芸員は憧れの職業になり得ます。
一方、通っている大学でたまたま学芸員の資格をとれることを知り、初めて職業として意識するケースもあります。
学芸員は、幅広い知識や教養が求められる職業であり、学んだことを仕事に生かせるという点で魅力を感じる人もいるようです。
ただし、学芸員は単なる研究者ではなく、得た知識を施設の運営に生かし、来館者のためになる形で還元できねばなりません。
志望動機を考える際には、学芸員の役割をよく理解し、自分がどのように貢献していきたのかを明確に語れるように準備しておきましょう。
関連記事学芸員の志望動機・例文|「美術館」や「博物館」の志望理由の考え方
学芸員の雇用形態・働き方
非正規雇用で働く人が増えている
学芸員の雇用形態は、正社員などの「正規雇用」と、アルバイト・パートや派遣社員、臨時職員などの「非正規雇用」の2種類があります。
私立の文化施設では、各施設を運営する企業が採用活動を行っており、雇用形態を含めた求人の内容はその時々で異なります。
一方、国公立の文化施設では、各地方自治体が実施する採用試験を受けることになります。
もともと学芸員の採用枠は少なく、人員が欠けたときに「若干名」のみの募集が行われることがほとんどです。
また、近年では学芸員の正規雇用の求人は減少傾向にあるため、仕方なく非正規雇用で働きながら、正規雇用で働けるチャンスを探る人もいます。
学芸員として雇用される場合、雇用形態に関わらず学芸員の資格は必要です。
学芸員の勤務時間・休日・生活
勤務先によっては多忙な日々を送る
学芸員の勤務時間は、勤務する施設によって異なります。
国公立の施設で公務員として働く場合は、朝から夕方にかけて決まった時間帯で勤務することが一般的です。
私立の施設では、固定の時間帯で勤務することもありますが、開館時間が長めの施設では「シフト制勤務」が採用されていることもあります。
施設によって程度の差はあるものの、学芸員は時期によっては残業が増えます。
とくに、最近では都市部を中心に、夜間時間帯に美術鑑賞ができるイベント企画を行う美術館が増えていることから、必然的に勤務時間が長くなりがちですし、年に数回の展示会ごとに準備に追われます。
なお、文化施設は土日も開館しているところが多いため、休日は休館日を含めて平日に2日程度とるスタイルが一般的です。
学芸員の求人・就職状況・需要
新卒者を対象とした正規職員の採用数は非常に少ない
現代では、博物館の数自体は増加傾向ですが、だからといって学芸員の採用人数が増えているわけではありません。
公立・私立問わず、学芸員の雇用はコスト削減などを目的として「非正規職員」にシフトしています。
このため、正規雇用の求人数は非常に少なく、就職活動は厳しいものになるでしょう。
とくに、地方公務員の身分となる公立の学芸員は人気が高く、倍率が数十倍になることは当たり前で、人気のある水族館や有名博物館に至っては100倍から200倍近くに達することもあります。
学芸員資格の保持者も年々増えているなか、学芸員に求められる学識や人間性などの条件も厳しくなっているのが現実です。
学芸員の転職状況・未経験採用
実績や経験がない人の正規雇用での転職は厳しい
学芸員は、新卒採用にしても中途採用(転職)にしても、新規の採用枠が小さいため、常に高倍率となっています。
アルバイトなどの非正規雇用であればまだ働ける可能性はありますが、正規雇用を目指すとなると、厳しい競争を勝ち抜けるだけのアピールポイントが必要です。
前職で培った職務経験やスキル、あるいは大学・大学院で勉強してきたことが業務に生かせると見込んでもらえないと、なかなか採用されづらいのが現実です。
中途採用の場合、即戦力になれる人材が求められることから、基本的には他の博物館で経験を積んだ人や、研究者としての実績がある人が採用されることが多くなっています。
どうしても未経験からの転職を希望する場合は、非正規雇用で働ける場を探し、同時に地道に専門性を高めていく努力が求めれます。
学芸員補とは?
資格は存在せず、学芸員の業務を補佐していく役割を担う
学芸員補とは、その名の通り学芸員を補助していく役割をもつ人のことです。
学芸員と同じように、博物館法において定められた博物館に勤務し、施設内の資料の収集や研究を手助けするとともに、展示や保管、訪問客の応対など博物館業務の全般を担います。
学芸員の資格を取得するには、学芸員養成課程のある大学で学ぶなどの条件がありますが、学芸員補には資格がありません。
博物館で学芸員補として採用されれば、学芸員補として働きはじめることができます。
実態としては、業務範囲は学芸員とほとんど変わりませんが、待遇に違いが出やすく、非正規で雇用されて、同じ職場の学芸員よりも給与水準が低めである場合が多いです。
ただ、学芸員補として8年以上勤務すると、学芸員の審査認定を受けることができるため、学芸員補からステップアップを目指すことは可能です。
博物館の学芸員になるには
博物館に関連する専門知識を身につけておくと有利になることがある
学芸員とは、博物館における資料の収集・保管などに携わる専門の職員のことを意味します。
ただし、ここでいう「博物館」が扱うテーマは、歴史や芸術、民族、自然、科学、さらには植物や動物など非常に幅が広く、いわゆる「美術館」や「植物園」なども含まれます。
いわゆる恐竜の化石などを扱う、一般の人がイメージする博物館(例:東京国立博物館など)の学芸員を目指す方法は、その他の施設で働く学芸員を目指す場合と大きくは変わりません。
まずは学芸員養成課程のある大学に進学して、学芸員の資格を取得することが第一歩です。
ただし、大学や大学院で自然科学や古生物、地質学などを専門的に学んでおくと、専門知識が業務に生かせるとみなされ、採用時に有利になる可能性があります。