生物学者(研究者)になるには? 仕事内容や年収、資格も解説

「生物学者」とは

生物学者(研究者)になるには? 仕事内容や年収、資格も解説

さまざまな生物の生態を解き明かし、生命の不思議に迫る

生物学者は、生物の体の仕組みや成長の過程、生命現象などについて研究する人のことです。

地球上には現在1000万種以上の生物がいるといわれています。

生物学者は、人間や哺乳類はもちろん、植物や微生物などあらゆる生物に対し、独自の観点やテーマを設定し、研究を行います。

とくに近年は遺伝子を解析する技術がすすみ、生命の誕生や本質を遺伝子から解析しようという研究が進んでいます。

また生物学は生態そのものの研究だけでなく、生理学や行動学、環境学などとも深いかかわりがあり、研究のテーマは人によって多種多様です。

生物学者になる場合は、大学院に進学後に研究者として大学に残ったり、公的な研究機関に入ったりする人が多いです。

また、民間企業の研究室で研究をしたり、生物学の知識を生かして、医薬品や化粧品、食品などの開発をしたりする人も少なくありません。

近年はIPS細胞(人工多能性幹細胞)に代表されるバイオテクノロジー(生物工学)が非常に注目を集めており、これまで治療することができなかった病気への対応など、医療分野への応用が期待されています。

「生物学者」の仕事紹介

生物学者の仕事内容

生物に関するさまざまな研究をし、論文を発表する

地球上に存在するさまざまな生物に対し、生態や成長過程を調べたり、身体の仕組みを解き明かしたりするのが生物学者です。

生物学者の研究対象は、動物や植物、微生物、そして人間など幅広く、現代でも解明されていない事柄がたくさんあります。

こうした生物を調査し、データを集め、新しい発見をすることが生物学者の主な仕事です。

生物学にはさまざまなアプローチの仕方があり、生物を分類する「分類学」、進化のしくみやその過程を研究する「進化学」、生物の生態に迫る「生態学」、生物の動きや行動を研究する「行動学」などがあります。

そのほかには、生物や生命の誕生に迫る「発生学」、遺伝子を解明する「遺伝子学」、細胞を専門に研究する「細胞生物学」といったものもあります。

とくに近年は遺伝子解析の分野が非常に発展し、バイオテクノロジーやクローン、ゲノムなどこれまでにない研究分野も増えてきました。

研究内容によっては、何日も研究室に泊まり込んで観察をすることも珍しくありません。

また、実際に海や森など生態が存在するフィールドに足を運び、サンプルを採集したり、生物を観察したりすることも多くあります。

生物学が生かせる場所は多く、大半は大学の研究室で研究を続けますが、民間の研究施設や開発職として研究を続ける人も非常に多いです。

生物学の研究をしながら、薬や化粧品、食品などの開発に携わる人もいます。

生物学者になるには

大学で働くか、民間企業の研究職になるか

生物学者になるには、大学で生物学を学ぶ必要があります。

生物学には、動物、植物、人間、細胞など対象となるものが多くあります。

さらに、生態、進化、分類、遺伝子などさまざまな研究テーマに分かれるため、進学の際には自分がどんな研究をしたいのかを具体的に考えておく必要があります。

自身が研究したい対象を扱う大学を調べておかなければ、進学後思ったような研究ができないこともあるため注意が必要です。

研究者を目指す人の大半は大学院に進学し、その後大学に残るか、ほかの研究機関等に就職するかを選択します。

大学に残って研究を続ける場合は、ほかの研究者と同様、「博士研究員」や「ポスドク」として経験を積みながら助教授や講師、准教授を経て教授を目指します。

一方、生物学はそのジャンルの広さから、ほかの学問よりも就職先が多種多様で、大学以外で働く人も非常に多いです。

とくにバイオテクノロジーを扱う場合は植物や食品、製薬の研究職として働ける場合もありますし、植物を扱う場合は農林水産関係の研究施設や植物園などで働くことも可能です。

民間の研究施設や企業でも専門性を生かせる場所は多くあるため、自分の研究がどのような業界で役に立っているのか、あらかじめ調べておきましょう。

そのほか、中学や高校の教師、塾講師などとなり生物を教えながら、趣味や余暇として研究を続ける人もいます。

生物学者の学校・学費

研究内容によって学校を選ぶ

生物学は、ジャンルが広いためまず研究となる対象やテーマを選ぶことからはじまります。

そして自分がやりたい研究ができそうな大学や研究室を探しましょう。

生物学は、ほかの学問に比べると観察や実習・実験が非常に多いことが特徴です。

大学によっては研究する施設を独自に持っていたり、演習林やフィールドなどを所有していたりすることも多いため、大学選びの際には調べてみるとよいでしょう。

また、生物学者を目指すのであれば大学院に進学するのが必須といえます。

国公立大ではほとんどの大学に、また私立大でも約半数の大学に大学院がありますが、修士課程までか、博士課程のどちらなのかも検討する必要があります。

生物学者の資格・試験の難易度

実験や研究に必要な資格もある

生物学者になるために特別な資格は必要ありません。

また、就職の際に資格が特別に重要視されることも少なく、どちらかといえば研究や論文の内容、成果などの方が重視される傾向にあります。

ただし、生物学を学ぶ上で取得できる資格はさまざまあります。

多くの大学では、高等学校教諭一種免許状(理科や農業など)中学校教諭一種免許状(理科)や学芸員などを取得できるようになっています。

さらに、実際に研究を進める上で取得が必要な資格もあります。

研究テーマや扱う機器によっては、放射線取扱主任者や毒物劇物取扱責任者、実験動物技術士などを取得する必要があり、大学在学中に取得できるものもあります。

生物学者の給料・年収

研究職は高収入が期待できる

生物学者の給料はどこで研究をするのかによって多少の違いがありますが、おおむね高収入が期待できるといえます。

大学で研究をする場合は、大学の規模や実績、年齢によって幅がありますが、年収800万円〜1000万円を超えることも珍しくありません。

ただし、教授や准教授といったポストに就くまでは長い道のりがあり、いわゆるポスドクと呼ばれる新人のうちは、教授や学生のサポート業務が大半な上、給料も200~300万円ほどです。

大学における教授や研究室の数はある程度決まっているため、ポストが空くまで何年もチャンスを待たねばならず、苦しい生活を強いられることもあると知っておきましょう。

研究施設等に勤める場合、「理研」こと理科学研究所の研究職の給与は、年俸制で毎月48.7万円(社会保険料、税込み)とされており、おおよそこの金額が基準とされているようです。

また大学や研究所に勤める場合、多くは給料のほかに「研究費」という名目で予算が当てられています。

さらに所属先から配分される研究費のほかに、科学研究費補助金などの「外部研究費」を申請することができるため、研究に十分な予算は得られると考えてよいでしょう。

民間企業でも、研究職や開発職である場合、一般職と比べると年収が高めに設定されています。

修士課程修了や博士課程修了などの学歴で給料が上乗せがあることもあり、初任給も高めであるのが一般的です。

生物学者の現状と将来性・今後の見通し

よりよい環境が整うことが期待される

近年、人口減少や少子化などの影響から大学で研究をする人は減り、民間企業や民間の研究機関で働く研究者が増えています。

大学で研究するにしても、研究予算の削減などで満足な研究ができない研究室も少なくありません。

しかし、2012年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことから、生物学における研究も見直されつつあり、研究がしやすい環境が整えられていく流れになってきています。

海外の大学や研究機関に優秀な人材をとられてしまわないよう、国も力を入れ始めてきているため、今後生物学者を目指す人にとっては、よりよい環境で研究ができるようになるといえるでしょう。

生物学者の就職先・活躍の場

全国の大学や研究施設など

生物学者として一番多い就職先は大学で、大学院を卒業後、研究室に残り研究を続ける道です。

ただし、教授となれる人はごくわずかで、ポスドクや研究員など不安定な身分で研究をする人も少なくありません。

大学以外にも就職先は多く、そのほかには民間の研究所や農林水産関係の企業の開発職、食品や医薬品などを扱う会社の研究職などがあります。

また、公立や民間の試験所の職員、学校教師などとして生物学を生かして働く方法もあります。

それぞれの専門知識によって場所は変わりますが、活躍の場は比較的多いといえるでしょう

ただし民間の開発職や研究職でも修士課程修了者以上が対象となっているものが多いため、研究者への道を考える場合は大学院への進学は必須です。

生物学者の1日

授業や学生対応に追われる

生物学者の1日は、就職先によって違いがあります。
大学に勤める場合は、研究に没頭できる時間は少なく、授業や会議、学生対応などさまざまな仕事の合間に研究をすすめます。

10:00 出勤
授業に間に合うように出勤します。
きょうは2時限目からの授業なので、移動時間にメールのチェックなどを終えます。
10:30 授業
プロジェクターやDVD、場合によっては生態の実物を用意するなど、さまざまな工夫をしながら授業を進めます。
12:00 休憩
授業の反省をしながら研究室で昼食をとります。
学生が訪ねてくることもあります。
13:00 研究準備・学生対応
授業のコマ数は日によってさまざまで、空いた時間に研究の準備をします。
また生物学を専攻する学生の研究の相談に乗ったりします。
17:00 研究
夕方になると授業や学生対応も落ち着くので、集中して研究に取り組みます。
研究室で取り組んでいるプロジェクトの資料集めや、研究に参加するメンバーとミーティングをすることもあります。
20:00 勤務終了
帰宅時間は自由に決められるため、きりのいいところで切り上げます。
実権やデータ収集をする際は何日も研究室に泊まり込むこともあります。

生物学者のやりがい、楽しさ

生物の生態を知り社会に貢献する

生物学者にとって一番のやりがいは未知の生態を解き明かし、研究で成果をあげることです。

とくに生物学はほかの学問に比べると、観察や実験が多く、自分の目で生命の神秘を感じることも多くあります。

これまでわからなかった生態を知ったり、生命の起源や進化の一端に触れたりすることで非常にやりがいを感じることができるでしょう。

また生物学は、私たちの生活とも密接に関わっており、研究によって新たな病気の治療法が開発されたり、新しい薬や食品がつくられたりすることもあります。

自分の研究の結果によって、社会に貢献することができることも、生物学者のやりがいといえます。

生物学者のつらいこと、大変なこと

思うような研究ができないことも

思うような研究ができないことも

生物学者に向いている人・適性

動植物が好きで好奇心旺盛な人

生物学者に向いているのは、まず生物の生態・進化などに興味があり、生物学の研究をして社会貢献に役立てたいという人です。

生物学者になるきっかけとしても、多くの人が、動植物が好きでもっと深く勉強したいとおもったことが挙げられています。

生物学は動植物の生態だけでなく、バイオテクノロジーや遺伝子研究など未知の部分も多いため、好奇心旺盛で、新しいことにどんどんチャレンジしたいという人も向いています。

また、研究のために実験やフィールドワークをすることも多いことから、ひたすら論文を読み込むよりも身体を動かすのが好き、自分で手を動かして研究成果を出したいという人にも向いているでしょう。

生物学者志望動機・目指すきっかけ

生物の専門知識で社会貢献

生物学者を志す人は、もともと動物や植物などに興味があり、高校や大学で学ぶうちにより専門的に研究したいという人が多いようです。

近年では、生物学は医療の分野とも深くかかわりを持つようになり、再生医療や新薬の開発、バイオテクノロジーや細胞研究などに興味を持ったことから生物学を学ぶ人も増えています。

また、環境問題に関心のある人が、環境問題を解決したい、生物や自然を保護する活動をしたいという志望動機を持つ人もいます。

実際に多くの生物学者は、生物に対する専門的な知識と技術を持つことで、さまざまな形で社会に貢献しようと努力しています。

生物学者の雇用形態・働き方

就職先によって働き方に違いが

生物学者になるには、大学、研究機関、民間の研究職の3つの道が一般的です。

どれも学生時代の研究実績や研究に対する姿勢が評価されるため、学生のうちからしっかりと研究を進めておくことが大切です。

研究職に就くことができれば安定した雇用形態で働けますが、大学の正規職員となるためには長い道のりがあることを覚悟しておきましょう。

また生物学者は、新卒採用だけではなく中途採用も盛んに行われており、ひとつの大学や研究所にとどまり続ける人はさほど多くありません。

ただし民間企業の場合、研究職が他社に移動することで企業の研究内容が持ちだされてしまう可能性があり、同業への転職は禁止されている場合もあるため注意が必要です。

生物学者の勤務時間・休日・生活

それぞれの勤務先や研究内容に合わせた働き方

大学に勤める場合、勤務は流動的で、講義や実験をしながら自分の研究を行います。

さまざまな仕事がある一方で、決められた時間以外は自由にスケジュールを組むことができ、長期休暇の際はフォールドワークをしたり海外に行ったりすることもできます。

研究所に勤める場合、公務員のような規則的な勤務スケジュールで働き、土日や祝日は休みというパターンが一般的です。

民間企業に勤める場合は、一般的な会社員と同様ですが、フレックスタイム制を導入するなど研究に合わせ自由な働き方を認めているところもあります。

どの場合でも、研究がうまく進まないときや学会などが迫っているときは、休日出勤や残業をすることもあります。

有名な生物学者

さまざまな分野で活躍する日本の生物学者

生物学者の先駆けとしては、進化論を唱えたダーウィン、昆虫研究で知られるファーブル、日本では粘菌を研究した南方熊楠などが有名です。

2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥は、日本でいま一番有名な生物学者といえるでしょう。

iPS細胞研究の第一人者で、現在も京都大学 iPS細胞研究所で研究を続けています。

極地、辺境等の過酷環境に生存する生物の研究で知られる長沼毅は、研究のため日本政府から南極に派遣された経験もあり、著書も多数です。

上田泰己は、体内時計や生命の時間についての研究が専門の生物学者で、大学院生時代に理化学研究所のチームリーダーに抜擢されるなど、若手でありながら非常に注目を集めています。