弁理士の仕事とは? わかりやすく仕事内容を紹介
弁理士の仕事とは
弁理士は、特許や意匠、商標、実用新案といった知的財産権全般を取り扱う法律のスペシャリストです。
おもな仕事は、法人企業や個人事業者から依頼を受けて、新たに発明された知的財産権を特許庁に申請することと、特許権の侵害など、既存の知的財産権に関わる争いを解決することです。
業務を行うためには国家資格が必要で、知的財産法をはじめ、著作権法、不正競争防止法、さらにはパリ協定やジュネーブ協定といった国際条約まで、幅広い法律知識を備えていなければなりません。
また、複雑かつ専門的な科学技術・工業技術を理解するための理系知識も求められます。
近年は、社会全体がグローバル化し、国内企業の海外進出・海外企業の日本進出が相次いでいるため、海外で特許を取得したり、海外企業と法廷で争ったりと、弁理士の活躍も国際化しています。
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弁理士の業務の内容
知的財産権の取得業務
知的財産には、新しい技術や製品の独自性を認める「特許」、モノのデザインや外観に関する「意匠」、ロゴマークなどの「商標」、モノの形状や構造に関する「実用新案」など、複数の種類があります。
それら知的財産を権利化するための手続きは、きわめて複雑です。
出願から権利取得に至るまでには、多くの手間と時間、そして高度な専門知識が必要になります。
この背景には、新たに発明された知的財産が、本当に画期的かつ独創的であり「権利」として認めるにふさわしいかどうかを客観的に証明するのが難しいことがあります。
そこで、知的財産の専門家である弁理士は、クライアントから依頼を受けて書類作成や問題解決などのすべての手続きを代行し、少しでも発明者側に有利な権利が取得できるよう、全面的にサポートします。
なお、特許庁に対して特許などの知的財産権を申請できるのは弁理士だけであり、このような業務は一般的に「独占業務」と呼ばれます。
知的財産権の紛争解決業務
特許や商標などを登録しているにもかかわらず、権利者に無断で使用するというケースは決して少なくありません。
また反対に、個々の権利の範囲は複雑であるため、自分でも気づかないうちに他人の知的財産権を侵害してしまっているというケースもあります。
そのような知的財産をめぐるトラブルが発生した場合、弁理士はクライアントの代理人となって、紛争解決業務を行います。
事態を収拾する方法はさまざまです。
裁判所に対して訴訟手続きを申請することもあれば、「ADR」と呼ばれる裁判外紛争解決手続を行うこともあり、あるいは当事者間の交渉で片が付くこともあります。
昨今は海外企業との争いも増加傾向にあるため、外国語での交渉を得意とする「国際弁理士」も増えつつあります。
弁理士の役割
弁理士の役割は、知的財産を権利化したり、知的財産をめぐる紛争を解決したりすることで、発明者の利益を保護することです。
新しい技術や商品は日々生み出されていきますが、それらの研究開発には莫大な費用がかけられており、企業や個人が営むビジネスの根幹を成していることも珍しくありません。
もしもそれらの権利が法律で守られなければ、簡単に第三者に盗用されることになり、大きな経済的損失を被るばかりでなく、最悪の場合、事業自体が立ち行かなくなることもあります。
それぞれの知的財産を守ることで、弁理士は産業活動の健全化に貢献しているといえるでしょう。
また、知的財産に関する豊富な知識を生かして、クライアントの競合他社を分析したり、市場調査や技術調査を行ったりして、事業戦略をアドバイスすることも弁理士の重要な役割です。
近年は、出願件数自体が減少傾向にある影響もあって、単なる知的財産権の申請代行に留まらず、コンサルティング業務まで手掛ける弁理士が増えています。
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弁理士の勤務先
弁理士の勤務先として代表的なのは特許事務所ですが、業務内容は事業規模によって違いがあります。
事業規模の大きい事務所では、特許や商標登録、意匠など、幅広い分野の知的財産を手掛ける一方、中小規模の事務所では、いくつかの分野に取り扱いを絞っていることが一般的です。
クライアントの種類も、大きな事務所ほど上場クラスの法人企業が多くなり、小規模の事務所ほど中小企業や個人が多くなる傾向にあります。
また、一般企業に就職して「企業内弁理士」として活躍している人も少なくありません。
その場合の勤務先は、多数の技術や権利を自社で保有する大規模メーカーが多く、知的財産部門に所属する会社員として、知的財産の管理運営を行ったり、製品開発や事業戦略立案に関わったりします。
そのほか、大学や研究所などに勤務して技術の産業移転を手掛ける人や、知的財産活用専門のコンサルティング会社に勤める人もいます。
特許事務所で働く弁理士
ひとくちに特許事務所といっても、その事業規模はさまざまであり、100名以上のスタッフを抱える大きな事務所もあれば、代表弁理士と数名のスタッフだけで運営している小規模な事務所もあります。
また、対象となる顧客や業務内容も異なり、規模の大きな事務所は、クライアントは大手法人企業が中心であり、特許、商標、意匠など知的財産権全般を幅広く取り扱うことが一般的です。
一方、小規模な事務所の場合は、中小企業や個人の発明家をお客さまにすることが多く、商標だけ、意匠だけというように一部業務に特化しているところが目立ちます。
事務所の数としては、少人数の事務所が圧倒的多数を占めており、スタッフ50人以上の中規模で働く弁理士は全体の3%程度、100人以上の大規模事務所で働く弁理士に至っては0.2%程度にすぎません。
一般企業で働く弁理士
一般企業の法務部や知的財産部といった部署に所属し、サラリーマンとして弁理士資格を生かす「企業内弁理士」も少なくありません。
業種は製造業が多いものの、自社ブランド開発を手掛ける小売業も就職先候補となります。
メーカーにとって、新技術や新製品の開発は、会社の浮沈を左右する重要課題であり、知的財産の権利化がビジネスに与える影響は計り知れません。
このため、弁理士は企業内で重要ポストを任されることが多く、業務内容も、自社の知的財産の管理運営をはじめ、同業他社の動向調査、市場分析、新製品開発支援、経営戦略立案など多岐にわたります。
待遇は基本的に一般社員と変わりありませんが、基本給に加えて資格手当が支給されたり、出世が早まったりと、なんらかの方法でほかの社員との差別化が図られることが一般的です。
かつては、自社の特許申請などは外部の弁理士に依頼する企業が大半でしたが、研究段階から弁理士が関わることで開発後の戦略が立てやすくなるため、近年は自社で弁理士を抱えるケースが増えています。
技術移転機関(TLO)で働く弁理士
大学をはじめとした各種研究機関で行われた研究の成果を特許として権利化し、その権利を民間企業に移して、新たな産業の創出につなげる業務を「技術移転」といいます。
こうした業務を手掛ける組織が「技術移転機関(TLO)」であり、近年はTLOに勤めて、研究機関と民間企業との橋渡し役として活躍する弁理士も増加傾向にあります。
TLOは、大学初の新規産業を生み出し、そこから得られた収益の一部を研究者に還元することで、また新しい技術開発費用を捻出するという「知的創造サイクル」の中核を担っています。
平成10年の法律制定以降、TLO数は増加し続けており、「産」と「学」の仲介役としての活躍が期待されています。
弁理士の仕事の流れ
弁理士は、発明者から新たな知的財産の権利化を依頼されると、まずは案件ごとに事前調査を実施します。
既存の知的財産との間に類似性がないこと、権利化する大義名分があること、そして権利化できる見込みが十分にあることが鑑定されたら、申請書類の作成に入ります。
用いられている技術の理解などに不足があると、そこから第三者に権利を侵害されるリスクが高まるため、不備がないよう入念に申請書類をチェックした後、特許庁に出願します。
出願した後は、特許庁の担当者が一件ずつ申請内容を審査しますが、審査には少なくとも1年以上かかります。
その間に「拒絶理由通知書」が届くケースも珍しくないため、意見書や補正書といった追加書類を作成して、再審査に臨みます。
無事に権利の取得までたどり着けたら、一連の仕事はひとまず完了となりますが、その後も他者からの権利侵害に対抗するなど、フォロー業務が発生することも少なくありません。
弁理士と関連した職業
弁護士
弁護士は、弁理士と同じ法律系国家資格であり、裁判などを用いてトラブルを解決するという紛争解決業務にも共通性があります。
しかし、弁理士が技術やブランド、デザインといった知的財産の権利関係を争うのに対し、弁護士は人と人、企業と企業の間で発生した問題解決を請け負うという点が異なります。
ただし、他者に対して知的財産の使用を認める「ライセンス契約」の締結業務など、両者の資格保有者が協同で働く案件もあります。
なお、司法試験合格者については、弁理士試験において行われる短答式試験、論文式試験、口述式試験のうち、論文式試験の選択科目が免除されるというメリットがあります。
行政書士
行政書士は、クライアントから依頼をうけて、官公庁や役所に対する許認可手続きや権利関係の証明手続きなどを代行する職業であり、弁理士と同じ法律系資格に分類されます。
行政書士資格があれば、司法試験合格者と同じように論文式試験の一部が免除されますが、試験の難易度は行政書士試験のほうが司法試験よりもかなり下です。
このため、まずは行政書士資格を取得し、弁理士にステップアップする人も一定数見受けられます。
公認会計士
公認会計士は、上場クラスの法人企業に対して、会計処理が適切になされているか監査などを行う仕事です。
弁理士は、知的財産の取得や管理に関するエキスパートですが、近年はその活用方法を提案するスキルも求められるようになっているため、特許の価値を算定できる会計知識があれば非常に役に立ちます。
対象となるクライアントも弁理士と似通っているため、双方の資格を取得して「ダブルライセンス」で活躍している人もいるようです。
弁理士が独立・開業するには?
独立して働く弁理士
弁理士のなかには、特許事務所などに勤めて知識やスキルを磨いた後、独立開業して自分の事務所を経営する人もいます。
その場合の働き方や仕事内容は人によってさまざまで、数十人のスタッフを雇って大規模に事業を展開するケースもあれば、誰も雇用せず、一人ですべての業務をこなすケースもあります。
しかし、近年は弁理士数が1万人を超え、特許事務所が増加し続けている一方、新規の特許出願件数は減少傾向にあり、事務所間の案件獲得競争は激しくなっています。
どんな事業形態であっても、弁理士としての実務だけでなく、営業活動や広報宣伝活動、税務、事業戦略立案など、経営者としての仕事を行わなければならない点は共通しています。
このため、たとえ弁理士としては優秀であっても、それがそのまま経営者としても優秀であるということにはなりません。
弁理士を目指す人のなかには、独立することに憧れを抱いている人もいるかもしれませんが、本当に自分が独立開業に向いているのか、よく考えてから決断することが望ましいでしょう。
独立開業するまでのキャリアパス
将来的に独立開業を志す場合であっても、まずは特許事務所や企業の知財部門に勤めて実務経験を積むことや、コネクションを養っていくことが必要です。
「何年間勤務したら独立できる」という決まりがあるわけではありませんが、弁理士に求められるスキルレベルは非常に高く、一通りの業務をこなせるようになるには少なくとも3年はかかるといわれています。
独立を成功させるには、同時に営業力やコミュニケーションスキルも身につけていかなければならないため、5年単位・10年単位という中長期的スパンで計画を立てたほうがよいかもしれません。
また、近年は特許事務所数が増加していることもあって、新規参入者にとっては非常に厳しい環境となっています。
生き残っていくためには、他事務所との差別化を図ることが重要ですので、あらかじめ事業戦略については入念に練っておく必要があるでしょう。
これから伸びそうな技術の目星を付けて、その分野に特化して案件を請け負ったり、税理士などの他士業者とのパイプを太くして、顧客を斡旋してもらうといった戦略を取っている事務所もよく見られます。
弁理士が独立開業するメリット・デメリット
ほとんどの特許事務所では、事務所ごとにある程度手掛ける案件の分野が定まっており、やりたい案件をなんでも請け負えるというわけではありません。
また、一般的にどこの事務所も業務量が多く、長時間の残業や休日出勤をこなさないといけないところが目立ちます。
さらに、特許事務所は大半が東京・大阪・名古屋の大都市圏に集中しており、勤務地が非常に限定されるという点がネックです。
しかし、独立開業すれば請け負う案件の種類や仕事の量、働く時間帯や場所などは、自分で決めることができ、より自由な働き方ができるようになるということが、独立開業の最大のメリットです。
その代わり、勤務時とは異なって、仕事は自分自身の力で取ってこなければなりません。
さらに、事務所の家賃やスタッフなどの人件費、広告宣伝費などの経費もやり繰りしなければなりませんし、当然ながら自身の収入も一切保証されません。
営業能力や経営能力など、数多くのスキルが求められる点は、独立開業における大きなリスクといえるでしょう。
独立弁理士の給料・年収
弁理士は基本的に成果主義であり、各人の実力が収入に反映されやすいといえますが、独立開業すると、その傾向はより顕著になります。
開業直後は顧客獲得に苦労するケースが目立ち、そこまで多くの収入は見込めませんが、数年経って事業がある程度軌道に乗ってくると、年収1000万円程度に達する人も少なくありません。
培ってきた人脈を生かして、大手企業からの案件を継続的に受注している人や、多数の弁理士を雇って特許業務法人を経営している人のなかには、年収2000万円や3000万円を稼いでいる人もいます。
ただし、それらはあくまで独立が成功した場合のケースであり、勤務時代の収入を下回る人や、食べていくのがやっとという人、あるいは廃業を余儀なくされる人もいます。
とくに近年は、資格保有者数が増えた結果、資格そのものの価値が相対的に低下しており、稼げる弁理士と稼げない弁理士の二極化が進んでいます。
弁理士は副業・在宅でも働ける?
弁理士の副業・在宅での働き方・仕事内容
弁理士の仕事は、明細書作成などのデスクワークが大半であり、基本的に単独で個々の案件を受け持ちます。
このため、一人で業務を完結できるスキルさえあれば、毎日決まった時間・決まった場所に出社して、ほかのスタッフと足並みを揃えて働く必要性はかなり低いといえます。
昨今は、政府が「働き方改革」を推進していることもあり在宅勤務に大きな注目が集まっていますが、こうした業務特性上、特許事務所などでは、昔から在宅勤務する人はさほど珍しくありませんでした。
働き方に融通が効くという意味合いにおいては、弁理士業界はほかの業界よりも先進的といえるかもしれません。
また、かつては、特許庁の窓口が開いている平日の日中にしか出願手続きなどは行えませんでしたが、近年は電子出願システムにより、ほぼすべての手続きをオンラインで済ませられます。
このため、会社員などの本業のかたわらに、資格を生かして副業で弁理士業務を行う人も増加傾向にあります。
弁理士は、副業・在宅という働き方と、非常に相性がよいということが理解できるでしょう。
副業の弁理士として働くには?
副業の弁理士として働くには、まず弁理士試験に合格することが必要ですが、資格を登録して業務を請け負うためには、資格取得後、「実務修習」を受けなければなりません。
もしも会社員などとして働きながら、新たに弁理士資格を取得した場合、この修習と本業をどう両立させるかは大きなネックとなるでしょう。
あわせて、後々のトラブルを防ぐためにも、勤務先の就業規則を参照し、副業を認めているかどうか確認することも重要といえます。
資格登録や就業規則の問題をクリアしたら、次に、どうやって案件を獲得するかを考える必要があります。
日本弁理士協会から紹介してもらう方法や、クラウドソーシングサービスを利用する方法などが代表的ですが、知り合いの特許事務所があれば、案件をまわしてもらうことも可能かもしれません。
自身のホームページを立ち上げて、Web上で直接お客さまとやり取りしている人もいるようです。
副業の弁理士のメリット・デメリット
副業のメリットとしては、空き時間を有効活用して収入を増やせるという点がまず挙げられますが、弁理士の場合、加えて自分の適性や能力を試せるという側面もあります。
弁理士は、資格を生かして独立開業することも可能な職業ですが、いきなり自分の事務所を持つことには大きなリスクが伴います。
しかし、会社員として勤めながら、あくまで副業として弁理士業を営むのであれば、リスクを最小限に留めつつ、実務経験や知識を積んだり、人脈づくりができます。
同時に、本当に自分が弁理士に向いているのか、安定的に依頼を獲得して事業として成り立たせられるのかなど、実験できるでしょう。
反対に、副業のデメリットとしては、本業と両立させるために、肉体的・精神的な負担がかなり大きくなるという点があります。
弁理士業務には重い責任がのしかかりますので、とくに締め切り間際などは、本業に支障が生じることもあるかもしれません。
人によっては、作業量が多くプレッシャーがかかりやすい特許出願案件は避けて、比較的短時間で仕事を完結させられる、商標関係の仕事を中心に手掛けるケースもあるようです。
副業の弁理士の給料・年収
弁理士の収入は、基本的に案件ごとの成果報酬形式であり、その点は副業でも変わりありません。
得られる報酬は業務内容によって異なり、特許出願で25万円~30万円、意匠出願で10万円~12万円、商標出願で6万円~8万円が相場とされています。
基本的には、報酬単価の高額なものほど作業量が多くなる傾向にありますので、収入は作業に充てられる時間の総量次第といえるでしょう。
また、弁理士資格があれば、大学などで講義をしたり、弁理士試験関係のテキストやコラムを執筆したりと、なかには年間数百万円の副業収入を得ている人もいるようです。