歯科医師(歯医者)の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「歯科医師(歯医者)」とは
歯や舌、あごなど口腔内全般の診察・治療を行い、患者さんの口の健康と美を守る。
歯科医師とは、歯をはじめとする口腔内全般の診察・治療を専門とする医療従事者です。
虫歯や歯周病といった歯や歯ぐき、舌に関する病気全般や、あごの病気も歯科医師がカバーする領域です。
歯科にはさまざまな専門分野があり、歯の矯正やホワイトニングを行う「審美歯科」などもあります。
歯科医師は医師と同様、国家資格が必要な職業であり、大学の歯学部で6年間学んで歯科医師国家試験に合格することが必要です。
ここ数年は国家試験の難易度が上がり、合格率は全体で60%~70%となっています。
医療の専門職として高収入が望め、独立・開業も目指せる職業ですが、都市部では歯科医師数が飽和に近い状態にあり、経営に苦しむ医院が増えてきています。
「歯科医師(歯医者)」の仕事紹介
歯科医師(歯医者)の仕事内容
口腔内全般を専門に診療・治療する
歯科医師とは、虫歯や歯周病の治療を中心に、口腔ケアや審美歯科、歯列矯正など、口の中全般の診療・治療を行う医療従事者のことです。
また、歯科診療に伴う麻酔や呼吸管理、歯型による死亡診断書を書くなどといったことも歯科医師の業務の範囲内です。
医師との違いは、医師が歯科領域も含む全身の診療を認められているのに対し、歯科医師は歯牙、顎骨、口腔粘膜、舌の診療を専門とし、また補綴充填修復物の装着は歯科医師のみに認められていることです。
大学病院や総合病院では「一般歯科」「小児歯科」「歯科口腔外科」といったように専門分野が細分化されていることが多く、各歯科医師が専門分野をもって働きます。
経験を積むと開業医として働く人も多い
歯科医師は病院に雇われて働く「勤務医」よりも、自分で歯科医院を経営する「開業医」の割合が大きいのが特徴です。
開業した歯科医師は、一般歯科を中心に子どもから大人まで広く口腔内の診察を手掛けることも人もいれば、審美歯科などに特化して医院経営を行っていく人もいます。
現在はプラークコントロールなどによる予防的ケアが盛んに行われており、なるべく削らない・抜歯をしない診療方針の歯科医院が増えています。
歯科では、複数の歯科衛生士や歯科助手、受付事務のスタッフなどと連携して診療を行うことが重要であり、昔から「チーム医療」が自然と行われていた診療科でもあります。
歯科医師(歯医者)になるには
大学の歯学部で6年間学び、国家試験の合格を目指す
歯科医師として働くには、国家資格である歯科医師免許の取得が必須です。
ごくわずかの例外を除いて、歯科医師を目指す人は高校卒業後、大学の歯学部もしくは歯科大学に入学して6年間学び、歯科医師国家試験の受験資格を得ます。
国家試験に合格したたら1年以上の臨床研修を経て、ようやく歯科医師として働くことができます。
歯科系の大学や学部では、医師と同様に全身の解剖学や生理学、病理学の基礎を学び、人体解剖の授業も行われます。
高校在学中はとくに生物や化学の授業をしっかりと学習しておくとよいでしょう。
歯科医師は増えているが勤務先も多数
歯科は人間の口腔内の健康を守るために不可欠な診療科ですが、現在は地域によっては歯科医師が飽和状態にあり、開業をしても経営が立ち行かなくなっている歯科医院も増えているといわれます。
しかし、大学病院や総合病院、また一般の歯科クリニックでも、歯科医師免許を持っている人材は常に募集されています。
人によっては臨床よりも研究に力を入れて活動する人や、少数ではあるものの歯科医師免許を生かして、歯科関連機器の製造メーカーや検査機関といった一般企業へ就職する人もいます。
歯科医師(歯医者)の学校・学費
国公立大と私大では学費に大きな差がつく
歯科医師の国家試験受験資格を得るには、高校卒業後、歯学部に最低でも6年間は在籍する必要があります。
医学部と同じく人体解剖などの実習もするため、学費以外の設備費・実習費も医学部と同程度にかかります。
国公立大学の学費は入学年度により違いがありますが、6年間でおよそ350万円です。
一方、私立大学は学校によってまちまちで、最低でも卒業までに1500万円以上、高ければ3000万円以上はかかる場合がほとんどです。
こういった学費の面からも、国公立の歯学部や歯科大学は非常に人気が高いため、受験勉強はかなり真剣に打ち込む必要があるでしょう。
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歯科医師(歯医者)の資格・試験の難易度
試験が難化し、合格率は年々下がっている傾向
歯科医師として働くには、歯科医師養成課程のある大学の歯学部で6年間のカリキュラムを修了し、歯科医師国家試験に合格する必要があります。
昨今の歯科医師国家試験の合格率は、全体で60%~70%、新卒者のみでも80%ほどと、ほかの医療系職種の国家試験と比べても低めです。
この背景には、増えすぎた歯科医師の数を抑えるために、国家試験の内容そのものを難化させていると考えられます。
既卒者の合格率はさらに低め
歯科医師国家試験には、年齢や性別、回数制限等の受験資格はありません。
そのため、万が一、最初の受験で不合格になってしまった場合でも、再度チャレンジすることは可能です。
しかし、新卒者の合格率が80%前後なのに対して、既卒者は40%程度まで低くなっています。
できるだけ新卒で合格できるよう、在学中は大学での勉強に集中し、国家試験対策を十分に行っていく必要があると考えておいたほうがよいでしょう。
歯科医師(歯医者)の給料・年収
保険外診療を行う開業医は高年収の傾向
厚生労働省の令和元年度賃金構造基本統計調査によれば、歯科医師の平均年収は、36歳で570万円ほどとなっています。
民間の一般的な会社員の平均年収よりも高収入が見込めますが、実際の給料は勤務先や働き方、キャリアなどによっても幅があります。
勤務医の歯科医師の給料は、常勤で平均年収450万円~800万円程度が相場となっています。
国家資格取得後の研修医時代は月給が手取りで10万円少々にしかならない場合もあり、やや厳しい生活になるかもしれません。
ただし年齢を重ねるごとに収入は伸びていき、30代で年収500万円以上に達する人が多いようです。
開業医として働く歯科医師の収入は?
歯科医師は開業医として働く人も多くいます。
この場合の収入は、診療内容や患者さんの来院数によって大きく変わってきます。
たとえば、保健外診療の歯列矯正やインプラント等の専門技術を有していたり、人気の高い医院の歯科医師は、より多くの収入を得やすく、年収1000万円以上を得ることも不可能ではありません。
しかし、歯科医院では高額な医療用機材の設備投資も必要ですし、地域によっては競争が激化しているため、赤字経営に追い込まれている医院も少なくありません。
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歯科医師(歯医者)の現状と将来性・今後の見通し
競争が激化しているため、自身の目指すキャリアをよく考えておく
近年、日本の歯科医師は供給過多になっているといわれます。
実際、歯科医師国家試験では毎年2000人以上の人が合格し、歯科医師免許の交付を受けています。
地域によっては競争が激化し、やむなく廃業に追い込まれる医院も増えています。
厳しい状況は今後も続くものと考えられるため、歯科医師はいかにして他の歯科医師やクリニックとの差別化を図り、患者さんに支持してもらえるかが重要な課題となっています。
歯科医師はたしかに専門性が高い職業であり、医療従事者としての権威性や安定性もありますが、「国家資格を取得すれば安泰」というわけではないことは理解しておく必要があるでしょう。
歯科医師としての立場を確立できれば、この仕事には定年もありませんし、長きにわたって第一線で活躍し続けることができます。
歯科医師(歯医者)の就職先・活躍の場
大学病院や総合病院の歯科・口腔外科、あるいは開業など
国家資格を取得したばかりの歯科医師の多くは、大学の附属病院や総合病院などの歯科・口腔外科で経験を積みます。
その後のキャリアは人によってさまざまで、規模の大きな病院で長く働く人もいれば、地域の歯科医院・クリニックで働く人もいます。
あるいは自分で新規に歯科医院を独立・開業する人、また親など親族の歯科医師の跡を継いで、医院の経営者となる人もいます。
大病院の歯科や口腔外科ではさまざまな症例に当たることができ、また自分の追求したいテーマを決めて研究をしたり、論文を書いたりする機会にも恵まれます。
一方、開業医になれば医院の診療方針を自分で決定することが可能です。
たとえば審美歯科の領域で自費診療を取り入れたり、最新の機器を取り入れたりもできます。
歯科医師(歯医者)の1日
地域の歯科医院は決まった時間で働けることが多い
歯科医師の1日の流れは、勤務先の病院によっても異なります。
開業医を含む歯科医院に勤務する場合、診察は基本的に診療時間内の予約制で行うため、予定の時間から大きくずれることはありません。
一方、チーム医療で進める大学病院や総合病院などで勤務する歯科医師は、休日出勤や夜勤などが発生する場合もあります。
ここでは、地域で歯科医院を開業している歯科医師の1日を例に挙げてみます。
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歯科医師(歯医者)のやりがい、楽しさ
世の中や人々から必要とされる専門的な仕事ができる
「口腔」は人間の「食べる」という行為とも密接に結びついているため、生涯にわたってその健康状態を維持していくことが重視されています。
歯は皮膚などとは異なり、一度大きく損傷すると自然に再生したり、治癒したりすることはありません。
そのため、今ある歯をいかに大切に使って健康なまま残すか、適切な治療をして口腔内の不具合を解消するかが大事になります。
歯科医師は、口の中の痛みや炎症、虫歯を適切に治療することで、食べることの楽しみや、人々の全身の健康を保ち続けることに貢献できるところが魅力のひとつです。
また、医療の専門職として常にスキルアップを目指すからこそ、難易度の高い治療を無事に終えることができたときにもやりがいを感じられます。
歯科医師(歯医者)のつらいこと、大変なこと
開業しても経営がうまくいくとは限らない
歯科医師に対して「稼げそう」「安定していそう」というイメージを抱く人は多いですが、実際には簡単に高収入が得られる仕事ではありません。
現在、都心部ではコンビニエンスストアよりも歯科医院の数のほうが多いといわれます。
それだけ歯科医師の数が増えて競争は厳しくなっており、開業しても経営が軌道にのるとは限らないのが厳しい一面です。
また歯科は、内科や整形外科などのほかの診療科以上に、患者さんから苦手意識を持たれやすい領域です。
できるだけ患者さんに不安を与えないよう細心の注意を払って治療を進めていきますが、さまざまな患者さんと上手にコミュニケーションをとるのも大変です。
近年はインターネットで歯科クリニックの評判がすぐに広まるため、患者さんのちょっとした不満や感想が知らぬ間に出回り、医院の評判を落とすこともあります。
歯科医師(歯医者)に向いている人・適性
手先を動かす細かな作業が得意で、思いやりをもてる人
歯科医師の仕事では、歯を削ったり、噛み合わせを調整したりと、非常に細かな作業をする機会が多くあります。
0.1ミリ単位で細かな調整を行うような作業もあるため、手先を細かく動かすのが好きな人、得意な人に向いている職業です。
また、患者さんは歯科医院の雰囲気や治療を苦手にする人も多く、より丁寧な対応が求められるようになっています。
粗雑な治療を行えば患者さんの体にも悪影響を及ぼしかねませんし、つらい思いをさせてしまいます。
歯科医師は、もちろん専門職としての誇りや責任をもつことも大事ですが、同時に患者さんの気持ちを察して接していかなくてはなりません。
思いやりをもち、他人の立場に立って物事を考えられるタイプの人も、歯科医師としての適性があるといえます。
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歯科医師(歯医者)志望動機・目指すきっかけ
歯科医師として何を目指しているのかは人それぞれ異なる
歯科医師の志望動機はさまざまです。
たとえば、幼少期に歯医者さんが苦手だった思い出から「患者さんに気持ちよく通ってもらえる歯科医を目指したいと考えるようになった」という人。
あるいは医療系の職種のなかでも「とくに手先を動かす繊細な作業が多いことが自分に合うと思った」と話す人もいます。
また、早い段階で、目指す歯科診療の専門領域をイメージしている人もいます。
広い世代の虫歯の予防や治療に主眼を置いている人、歯列矯正など審美歯科領域を中心に扱っていきたい人、あるいは子どもを扱う小児歯科がよいという人などです。
ちなみに、歯科医師は代々この職業に就くというケースも目立ち、親や祖父母の影響で歯科医師になる人も少なくありません。
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歯科医師(歯医者)の雇用形態・働き方
正社員やアルバイト、派遣、開業まで多彩
歯科医師には、正社員(正職員)やアルバイト、派遣、また開業医まで、さまざまな働き方があります。
街の歯科医院や大学病院など、多くの施設が正社員の求人を出しています。
給料を含めた待遇面では最も恵まれており、勤務先によってはキャリアアップにともなってボーナスの支給額が増えたり、特別な手当がついたりすることもあります。
アルバイトは「非常勤」というかたちで募集されることもありますが、日数と時間に応じて給料を得られるワークスタイルです。
複数の歯科クリニックを掛け持ちしてスキルアップしたい人、あるいは開業前の準備期間に勉強や収入を確保する目的で、あえてアルバイトの形態を選択する人もいます。
即戦力になれる歯科医師を求めて、派遣としての求人が出ることもあります。
このほか、一定の経験を積んだ歯科医師は独立し、自分の歯科医院を開業する人も少なくありません。
歯科医師(歯医者)の勤務時間・休日・生活
歯科医院では診療日時に合わせて勤務する
開業医を含む、歯科医院に勤務する歯科医師は、診療時間に合わせて9:00~18:00前後の時間帯で働くのが一般的です。
歯科医院は「予約制」をとっているところが多いため、予定の時間を大幅に過ぎるようなことはめったにありません。
ただし、都市部のクリニックなどで夜間診療をしている場合は、21:00くらいまで働くこともあります。
休日は各歯科医院の休診日によりますが、一般的なのは水曜日・土曜日の午後と日曜日です。
ただし、休診日に学会や症例検討会、新人歯科医師の研修などが入ることもあり、上記のすべての日にフルで休めるとは限りません。
入院患者をもつ大学病院や総合病院では、街の医院よりもやや不規則な働き方となり、夜勤や休日出勤が入ることもあります。
歯科医師(歯医者)の求人・就職状況・需要
歯科医師の多くは歯科医院に勤務する
歯科医師の求人は、大きく分けると「歯科医院(クリニック)」と「大学附属病院や総合病院の歯科・口腔外科」があります。
このうち、歯科医師が勤務しているのが最も多い場が、地域の歯科医院です。
経験を積むと自分で開業する人も多いですが、規模が大きめの歯科医院では、院長以外に複数の歯科医師が勤務しており、新規で求人が出ることがあります。
一方、6年制の歯科大学や歯学部のある大学では、多くの場合は医学部(歯学部の附属病院がある場合も)附属病院を持っています。
新人の歯科医師は1年の臨床研修を終えたのち、そのまま系列病院の医局に入ったり大学院に進学したりするケースもあります。
また、市中の総合病院の歯科や口腔外科でも求人は出ます。
このほか、あまり数は多くありませんが、公立病院で働く公務員の歯科医師もいます。
公立病院勤務を目指す場合は、歯科医師免許に加えて各自治体の採用試験を受ける必要があります。
歯科医師(歯医者)の転職状況・未経験採用
転職・未経験採用ともに一定数ある
歯科医師は、自身のキャリアアップやスキルアップのため、またよりよい待遇や理想的な職場環境を求めて、別の歯科医院へ転職をする人もいます。
都市部では歯科医師の数が飽和気味といわれますが、それ以外の地域では、常に求人を出している歯科医院も多くあります。
歯科医師として一定のキャリアを築いた人であれば、転職はそこまで難しいものではないでしょう。
その先の独立・開業を視野に入れて、自分が突き詰めたい領域の専門的な診療ができる歯科医院を探す人もいます。
一方、まったく異なる職業から歯科医師への転職は簡単ではありません。
まずは歯科医師の国家資格を取るために歯学部に最低でも6年間通う必要があるため、一人前になる頃の年齢をよく考慮して、転職できるのかどうか考えていくほうがよいでしょう。
歯科医師と医師の違い
歯科医師は人間の口腔内を、医師は全身を対象とする
歯科医師と医師は、どちらも医療関連の専門知識・技術を備えた医療従事者です。
それぞれの職に就くためには「歯科医師」もしくは「医師」の養成課程(歯学部・医学部)で6年間学び、国家試験に合格する必要があります。
両者の仕事内容や役割は大きく異なり、歯科医師は虫歯・歯周病の治療をはじめ、歯列の矯正、インプラント手術など「口腔内」を専門にするという点が特徴です。
一方、医師は人間の「全身」を対象にすることが特徴で、個々の医師が「内科」「外科」「耳鼻科」「眼科」「産婦人科」「小児科」といった、専門分野をもって働きます。
養成課程での勉強内容に関しても、解剖学・生理学・病理学などの基礎科目は歯学部・医学部ともに学びますが、専門科目に関しては、歯学部ではおもに歯科保存学、歯科補綴学、口腔外科学など歯学の専門性に沿ったものが多いです。
こうしたことから、一般的に、歯学に特化して専門性を深めたい人は歯科医師を、人間の体全体を対象にしたい人は医師を目指すことになります。