胚培養士の年収はいくら? 仕事内容やなり方、つらいことなどを解説
胚培養士の仕事内容
人工授精技術で新たな命を生み出す
胚培養士は、生殖補助医療胚培養士、エンブリオロジストとも呼ばれる医療技術者です。
- 不妊治療にちなむ精液の採取・精液検査・精子の選別・処理・凍結
- 採取された卵細胞の培養・凍結
- 体外受精(患者さんの卵子と精子をシャーレで混ぜ、受精させる)
- 顕微授精(顕微鏡を使い、直接卵子に精子を注入して受精させる)
- 受精卵の培養液調整・インキュベーター(孵化器)の管理・培養した受精卵の凍結
などを行う、いわば体外受精のスペシャリスト的な存在です。
不妊に悩む患者さんと医師の協力を得て、新しい命を生む手助けをする仕事をしています。
それ以外に、研究機関で動物の生殖細胞を用いた実験にたずさわる人もいます。
なお、人の卵子の採取・受精卵の着床などは、医師免許がないとできません。
20代で正社員への就職・転職
胚培養士の就職先・活躍の場
高度な不妊治療を行うほか、研究の道も
胚培養士は、不妊治療をしている病院やクリニックに就職するのが一般的です。
不妊治療にもさまざまな方法がありますが、体外受精や顕微授精といったART(生殖補助医療)は、認可された施設でのみ可能です。
ですから、胚培養士の就職先は必然的にARTの認可を受けた病院やクリニック、不妊治療センターに絞られます。
また、動物の胚細胞を使用した実験を行う研究機関に就職し、研究職になる胚培養士もいます。
実験で扱う細胞は、人ではなく動物のものなので、医師の許可がなくても卵子の採取や人工授精を行うことができます。
不妊治療の業務には、患者さんとのカウンセリングなどが含まれることもあります。
胚培養士の1日
患者さんと細胞の両方に寄り添う
胚培養士は一にも二にも細胞の状態優先で動きます。
不妊治療を行う病院に勤務すると、午前中は医師が採卵した卵子の凍結や、人工授精・ARTの準備、午後はART業務を行います。
培養室の細胞管理のため、月に1〜2回の日曜出勤があることが多いです。
ここでは、不妊治療にたずさわる胚培養士の1日の例をご紹介します。
1日のタイムスケジュール
20代で正社員への就職・転職
胚培養士になるには
学歴も資格も不問だが、認定資格はある
胚培養士になるためは特別な資格は必要ありませんが、
- 日本哺乳動物卵子学会が認定する、胚培養士
- 日本臨床エンブリオロジスト学会が認定する、臨床エンブリオロジスト
上記2つが、胚培養士の認定資格として挙げられます。
どちらも同様の資格として見なされます。
認定資格を取得しないといけないわけではなく、知識や技術の水準を維持向上させるために導入されたものです。
胚培養士の学歴や経歴のばらつきは問題視されており、統一された国家資格にすることも検討されています。
胚培養士の学校・学歴・学費
胚培養士に特化した養成機関がある
胚培養士になる人のうち、大学・大学院卒の人が6割強、専門学校・短大卒の人が3割強います。
卒業学科別にみると、生物学・動物関連学科が4割、臨床検査・衛生技術関連学科が4割という割合です。
一般的には、医療系の資格を持つ人が病院のART培養室や病理検査部で働きながら技術を習得し、認定資格を得ることが多いようです。
胚培養士の養成機関も少しずつ出来ていて、卒業すると認定資格試験の受験資格を得ることが出来ます。
学費の例として、岡山大学生殖補助医療キャリア養成特別コースは4年間で約250万円です。
胚培養士の給料・年収
※
職務実績により昇給の機会も
病院・クリニック勤務の胚培養士の初任給は、だいたい20万円〜25万円、平均的な年収は300万円〜400万円程度です。
多くの勤務先では昇給年1回ですが、成果次第で、さらに昇給できることもあります。
また、パート勤務では時給1300円〜1500円程度になります。
研究機関からの求人は少ないですが、時給1600円〜2000円、ひと月当たり25万円〜28万円くらいになります。
研究機関に勤務するときは契約社員や派遣社員になることが多いため、昇給はあまりありません。
胚培養士のやりがい、楽しさ、魅力
望まれて赤ちゃんが生まれる喜び
体外受精や顕微授精の成功率は決して高くないですが、それだけに自分の努力が実ったときの喜びは大きいものがあります。
患者さんが待望の赤ちゃんを授かることに貢献できるのは、胚培養士にとってのやりがいにつながります。
体外受精によって授かった赤ちゃんを無事に出産した患者さんが、お礼の手紙やお子さんの写真を送ってくれたりすることもあります。
そんな時に、胚培養士になって良かったと感じるのは想像にかたくないでしょう。
胚培養士のつらいこと、大変なこと
成功率1割の厳しさに耐える
ARTの成功率は、患者さんの年齢や健康状態によりばらつきはありますが、約5%から10%と言われており、いまだに難しい技術です。
また、ARTや人工授精は患者さんの体に少なからず負担をかけなければいけません。
そのようにして胚細胞を採取し、慎重に慎重を重ねてしても、受精が上手くいかないことも多いのです。
患者さんの悲しむ顔を見ることは、胚培養士にとっても悲しく、つらいことです。
しかし、自分の努力がたとえ実らなくても、諦めずに努力していかなければならないのが胚培養士の厳しい側面です。
胚培養士に向いている人・適性
慎重さ、細やかさが必須の仕事
胚培養士の仕事は顕微鏡を使った細かい作業が続きます。
また、採取した卵子・精子や受精卵は患者さんにとって何にも代えがたいものであり、細心の注意を払って取り扱わなければなりません。
そういった意味では、別の医療機関で細胞診の実務経験を積んだ人には適性があるといえます。
細かく繊細な作業を続けても徒労に終わってしまうことが多々ある仕事ですが、それをいとわず努力できることも大切です。
また、不妊治療を続ける患者さんの心はデリケートであり、ときに傷つきやすいものです。
そんな患者さんの気持ちに寄り添って仕事のできる人や、業務の性質上しっかりとした倫理観・責任感が求められます。
胚培養士の志望動機・目指すきっかけ
人づてに知って目指す人が多い
胚培養士という職種は、まだあまり知名度の高くない職種です。
始めから胚培養士を目指す人は少なく、学校の先輩に胚培養士になった人がいたり、臨床検査技師として細胞診をしていて、たまたま求人を見て知ることなどが多いようです。
また、獣医学・生物学の分野で動物の人工繁殖に関わり、その経験を人のために役立てたいという理由で、胚培養士に転身する人もいます。
「デリケートな問題を抱えた患者さんのためになりたい」という思いを持って胚培養士の道を選ぶ人が多くみられます。
胚培養士の雇用形態・働き方
女性が多く、子育て中のパート職員も
病院・クリニック勤務の胚培養士は、正職員として働く人がほとんどですが、パート勤務の人もいます。
正職員になると収入は安定しますが、日曜出勤や時間外勤務もこなさなければなりません。
胚培養士は女性が圧倒的に多いので、子育てをしながらパート職員として胚培養士の仕事をするという道もあり、パート求人もたくさんあります。
学術研究機関などでは、ほとんどの場合が3~5年の契約社員、または派遣社員となります。
研究職になった場合、契約期間内に一定の研究の成果を上げることが出来れば、雇用期間の更新を許可されることもあります。
ただ、研究の成果を上げるためには、夜遅くまでラボで実験を続けなければいけないときもあり、根気が要求されます。
胚培養士の勤務時間・休日・生活
細胞管理のためときどき休日出勤がある
胚培養士の勤務時間は7:30〜19:00くらいの間で、実勤は約7時間、時間外勤務が10時間〜15時間程度の職場が多いです。
胚培養士は、培養室の温度管理や、細胞の成熟具合によって培養液を調整したりしなくてはいけないため、持ち回りで休日出勤をする職場がほとんどです。
ただし、休日出勤したときは平日が振替休日になる職場がほとんどなので、勤務時間が大幅に増えるといったことはないでしょう。
変形労働時間制を導入しているクリニックもあり、そういった職場では1日に8時間以上の労働が課されることもありますが、労働時間が週40時間以上になることはありません。
胚培養士の求人・就職状況・需要
求人は増加傾向にある
初産年齢が高齢化し、不妊治療を行う患者さんが増加するにつれ、胚培養士の求人は年々増えています。
胚培養士として就職するためには、定まった学歴も資格も必要ありません。
しかし、不妊というデリケートな状況下にいる患者さんと接したり、患者さんにとって「赤ちゃんの源」とも呼べる大切な細胞を取り扱うため、人選は慎重に行われると考えられます。
病院によっては、臨床検査技師の資格取得者や、生物・獣医学出身の者のみに絞って募集をかけたりもします。
胚培養士の転職状況・未経験採用
転職先は多い。未経験なら30歳までに
胚培養士は技術が高くなればなるほど重宝されます。
胚培養士として経験を積んだ後なら、条件の良い他の職場に転職することはそう難しくありません。
ですが、場所によっては、若い胚培養士を育成していくため、あえて年齢制限をもうけている求人もあります。
異業種からの転職の場合、繊細な技術を必要とする職種のため、遅くとも30歳までに転職するのがよいでしょう。
臨床検査技師の資格を持っていたり、動物の人工繁殖、細胞培養士などを経験していると大変有利です。
胚培養士の現状と将来性・今後の見通し
ますます増える胚培養士の需要
女性の社会進出にともない、晩婚化・初産年齢の上昇が進む中で、不妊に悩む人は年々増加しています。
ARTを希望する夫婦も増えており、日本産婦人科学会に登録されている体外受精の施設は、2017年の時点で607施設にのぼります。
そのため胚培養士のニーズは高まってきていますが、人工授精の成功率はまだまだ低いのが現状です。
しかし、医学技術の進歩にともない、より高度で成功率の高い方法が生み出される可能性があります。
「少子化」という国家レベルの問題に解決策をもたらす職種として、胚培養士は今後ますます活躍が期待されます。