音楽療法士の仕事とは? わかりやすく仕事内容を紹介
音楽療法士の仕事とは
音楽療法士は、音楽が持つ力を利用して、心身に障害を持っていたり、悩みを抱える人などのリハビリテーションをする仕事です。
心理療法に関する知識や臨床経験をもとに、病院などの医療施設や福祉施設、学校などで、音楽を用いた心理的な治療を行います。
おもに認知症や自閉症、精神障害がある人の心のケアや癒しのために行われていますが、ケガなどで体を動かすことが難しい人のリハビリテーションの一環として音楽療法が扱われることもあります。
日本における音楽療法はまだ臨床研究が少なく公的な資格はありませんが、海外での活用事例が増えてきており、日本でも医療・福祉領域を中心に、少しずつ広がりをみせています。
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音楽療法とは? どんな効果が期待できる?
音楽療法とは、音楽を活用することで、心身に何かしらの悩みや不安を抱える人や、発達の遅れなどの理由によって他人と上手にコミュニケーションがとれない人などのサポートとケアを行うアプローチ方法のことをいいます。
音楽にはストレスの解放や、精神的な緊張を解きほぐすなどの効果があるとされています。
音楽療法では、この音楽が持つ効果を専門的な観点から分析し、患者さんの状態に合ったプログラムを作り、実践することで、患者さんの状態をより良い方向へと近付けることを目的とします。
具体的には、健康の維持、心身の障害の機能回復、生活の質の向上、問題行動の改善などの効果が期待できるといわれています。
なお、音楽療法はあくまで補助的な治療に用いられるもので、医師が行うような「病気を治す」「けがを治す」といった直接的な効果は見込めません。
心身の両面にアプローチできる
運動効果への期待も
音楽療法では、おもに心の問題を抱える患者さんに対する精神的なケアを目的としていますが、一方で体に対するアプローチ、運動効果も期待できます。
たとえば、ふさぎ込みがちでリハビリをしない患者さんが、好きな歌を一緒に歌ったり、太鼓をたたいたりして汗をかくことを通じて、人と積極的にコミュニケーションをとるようになったり、前向きになれるといった事例があります。
詳しくは後述しますが、クラシック音楽などを聞かせて心身の状態を良くする「受動的音楽療法」に対し、こうした音楽療法の運動効果は「能動的音楽療法」と呼ばれます。
また、歌を歌えば肺活量の増進や記憶力の向上にも役立つとされており、音楽によって体が元気になることもあります。
心身の状態は密接にかかわりあっている
音楽療法を考えるうえで欠かせないものとして、「心身相関」と呼ばれる言葉があります。
これは、心の状態と体の状態は密接にかかわりあっているといった意味です。
たとえば、緊張しているときに額に汗をかいたり、体がこわばったりして、思い通りの動きができなくなるといった経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
精神的なプレッシャーが、体の緊張状態を強めているのです。
そんなときに、身体がリラックスするような音楽を聞くと、自然と緊張がほぐれる可能性があります。
一時期、「ヒーリング音楽」がブームになりましたが、これも音楽を通じて心をリラックスさせるといった効果があるとされています。
また、夜眠る前にきれいなメロディーのクラシック音楽などを聞くと眠りやすくなることも、心身相関の一部です。
普段、私たちが何気なく耳にする音楽には、人の心身の状態を変え得る力があるのです。
音楽療法士の業務の内容
音楽療法士は、自らカウンセリングを行ったり、医師など別の専門スタッフと連携しながら、対象者にふさわしい音楽療法プログラムを検討し、実践します。
音楽療法の手法は、「受動的音楽療法」と「能動的音楽療法」の2つに大きく分かれ、対象者の年齢や状態に合わせて、どちらかの手法で、あるいはそれぞれを組み合わせながら音楽療法を行っていきます。
受動的音楽療法
「受動的音楽療法」では、リラックス効果のある音楽などを患者に聴かせることで、心身ともにリラックスしたり、ストレスを軽減させたりする効果が見込まれます。
クラシック音楽や歌謡曲、患者の好きな曲などを使って、患者の精神的なケアを行うことができます。
誰に対しても使うことのできる手法で、身体に障害のある人や、認知症の高齢者にも効果が見られます。
能動的音楽療法とは異なり、「聴く」ことに重きが置かれた療法となっています。
能動的音楽療法
「能動的音楽療法」は、患者と一緒に歌を歌う、楽器を演奏する、簡単な曲を作る、リズムに乗って踊るなど、患者が自発的に行う音楽療法のことをいいます。
歌や楽器が苦手でも、音を出すことによってストレスの軽減や気分転換促す効果があります。
また、患者同士で合唱をしたり、役割分担をして楽器の演奏をしたりすることで、患者の仲間意識や社会性を高める効果もあります。
皆でカラオケ大会をするのも、立派な能動的音楽療法です。
音楽を楽しみながら、心の状態を安定的に導いていく効果が期待できます。
心の障害だけでなく、実際に体を動かすことで運動機能の回復にも用いられる手法です。
音楽療法の使い分け
能動的音楽療法と受動的音楽療法の2種類を上手に使い分けることで、音楽療法士は患者のケアを行います。
音楽療法では、そのときの患者の気分や感情と同質の音楽に触れるほうが、より治療的効果が得られやすいといわれています。
また、患者が歌ったり演奏をしたりするのが難しい状態の際には受動的音楽療法を取り入れるなど、音楽療法士は日々変化する患者の心の状態をしっかりと見極め、適切な音楽療法をする必要があります。
こうしたことから、この仕事では洞察力、そして音楽療法に関する高度な知識が必要になります。
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音楽療法士の役割
音楽療法士は、音楽を活用することで、心身に何かしらの悩みや不安を抱える人や、発達の遅れなどの理由によって、他人と上手にコミュニケーションがとれない人などのサポートとケアを行います。
医師のように、直接的に病気やケガを治すことはできませんが、音楽が持つ効果を専門的な観点から分析し、対象者の状態に合ったプログラムを作って実践することで、対象者の状態をより良い方向へと近付けることを目指します。
「音楽療法」というと心のケアに注目が集まりがちですが、人間の心と体の状態は密接に関わり合っていることから、心が安らぐことで体も元気になったり、リハビリテーションの効果が高まったりすることも期待されています。
日本ではまだ音楽療法の知名度はそこまで高くないものの、アメリカなど海外では、健常者のカウンセリングに音楽療法が用いられることもあります。
音楽療法士の勤務先の種類
音楽療法士の代表的な勤務先としては、病院、高齢者施設、障害者福祉施設、学校、特別支援学校、企業などが挙げられます。
ただし、音楽療法士を常勤や正社員として募集しているといった求人は決して多いわけではなく、非常勤やパートで働く人も多いのが実情です。
また、看護師や作業療法士、介護職員などが、カウンセリングや患者のケアを行うなかで、音楽療法の知識・スキルを生かして働くケースもよく見られます。
仕事ではなく、ボランティア活動で音楽療法を実践する人もいますが、どのような場で活躍するとしても音楽療法の専門的な勉強は不可欠だといえます。
音楽療法士の仕事の流れ
音楽療法士の仕事には、治療の対象となる患者の状態のヒアリング、治療計画の作成、音楽療法の実施、患者の状態の観察といった一連の流れがあります。
音楽療法を行っていくなかで、音楽療法がどういった効果を患者に与えるのかを見ながら、治療法の変更や改善を行っていきます。
実際に患者の治療を行っている医師や看護師、介護士やリハビリ担当者などと連携し、音楽療法の観点からケアを行います。
ときには音楽療法士が自らカウンセリングを行うこともあり、心理カウンセラーのような一面も持っています。
音楽療法士と関連した職業
音楽療法士と関連した職業として、リハビリテーション職の一種である「作業療法士」が挙げられます。
作業療法士は、患者さんのリハビリテーションの一環として、手工芸や美術、陶芸などのほか、しばしば楽器演奏やコーラスといった音楽活動の療法を実践することがあります。
身体の機能回復をはじめ、社会性を育てるうえでも音楽は役立つといわれており、とくに精神疾患には音楽療法が有効であることがわかっています。
音楽療法士も作業療法士も医療や福祉の現場での需要があり、仕事内容や役割には近いところがあるといえます。
ただし、国家資格が必要となる作業療法士とは異なり、音楽療法士には国家資格や公的な資格がありません。
とはいえ、音楽療法士にも専門性は求められるため、大学や専門学校で音楽療法について学び、音楽療法士の民間資格として有名な「認定音楽療法士」を取得する人が多くなっています。
作業療法士として一定期間以上働いた実績があると、認定音楽療法士の資格取得のために必要な臨床経験として認められることから、作業療法士がスキルアップのために音楽療法を勉強するケースが見られます。
音楽療法士としての知識やスキルを持っていれば、リハビリテーションを行う際に、患者さんに対してより深いアプローチができる可能性が高まるでしょう。