海上保安官になるには
各学校では入学できる年齢などが定められているので、海上保安官になりたいと考えているる人は、事前に情報をよく確認しておきましょう。
この記事では、海上保安官になるまでの道のりや、なってからのキャリアパス・キャリアプランなどを詳しくまとめています。
海上保安官になるまでの道のり
海上保安官になるためには、やや特殊なルートを歩む必要があります。
最初のステップは「海上保安大学校」または「海上保安学校」へ入学することです。
各学校で所定の基礎教育を受けて卒業すると、海上保安官として採用されます。
どちらの学校も中卒での入学はできないため、学歴としては高等学校または中等教育学校(中高一貫校)の卒業が必要です。
また、各学校では受験できる期間が定められています。
海上保安大学校の受験資格は、以下の通りです。
【本科】
(1)試験年度の4月1日において高等学校又は中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して2年を経過していない者及び試験年度3月までに高等学校又は中等教育学校を卒業する見込みの者
(2)高等専門学校の第3学年の課程を修了した者であって、試験年度4月1日において当該課程を修了した日の翌日から起算して2年を経過していない等人事院が(1)に揚げる者と同等の資格があるとみとめる者
【初任科】
(1)試験年度の4月1日における年齢が30歳未満の者かつ大学を卒業した者
(2)試験年度の4月1日における年齢が30歳未満の者かつ試験年度3月までに大学卒業見込みの者
参考:海上保安大学校
海上保安大学校は本科が4年で、その後は専攻科を6か月、国際業務課程を3か月修習し、計4年9か月となっています。
また、大学卒業者を対象とした初任科の教育期間は1年間で、その後は特修科に編入し、さらに1年間の教育を受けます。
海上保安学校の受験資格は、以下の通りです。
【4月入校】
(1)試験年度の4月1日において高等学校又は中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して12年を経過していない者及び試験年度3月までに高等学校又は中等教育学校を卒業する見込みの者
(2)高等専門学校の第3学年の課程を修了しており、試験年度4月1日において当該課程を修了した日の翌日から起算して12年を経過していない等人事院が(1)に揚げる者と同等の資格があるとみとめる者
【10月入校】
(1)試験年度4月1日において高等学校又は中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して13年を経過していない者及び試験年度9月までに高等学校又は中等教育学校を卒業する見込みの者
(2)高等専門学校の第3学年の課程を修了した者であって、試験年度4月1日において当該課程を修了した日の翌日から起算して13年を経過していない等人事院が(1)に揚げる者と同等の資格があるとみとめる者
参考:海上保安学校
海上保安学校の教育期間は1~2年です。
卒業後は海上保安官として全国の基地に配属され、巡視船などの乗員として経験を積んでいきます。
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海上保安官の資格・難易度
職種ごとに必要な資格の種類が異なる
海上保安官の試験を受ける前に取得しておかなくてはならない資格はありません。
ただし、海上保安官になってからは、職種ごとに求められるさまざまな資格取得を目指す必要があります。
たとえば巡視船で働く場合、航海科職員は「5級海技士(航海)」以上、機関科職員は「5級海技士(機関)」以上、通信科職員は「1級または2級総合無線通信士」などが必要です。
航空基地で働く場合、飛行科職員(パイロット)は「事業用操縦士の資格以上の技能証明書」や「航空無線通信士」、通信科職員は「航空無線通信士」または「第1級、第2級総合無線通信士」などの資格が必要です。
いずれも国家資格で、海上保安大学校または海上保安学校で訓練を行いながら、これらの資格取得に向けた勉強も行います。
海上保安大学校・海上保安学校の入学倍率
海上保安大学校(本科)では毎年600人前後の受験者に対して合格者は80人前後で、倍率は約6~8倍となっています。
一方、海上保安学校は複数課程があり、各課程で応募人数・倍率が大きく異なります。
海上保安学校の倍率目安
- 船舶運航システム課程:合格者は約545人で倍率は約5.8倍
- 航空課程:合格者は約7人で倍率は約35.9倍
- 情報システム課程:合格者は約43人で倍率は約3.6倍
- 海洋科学課程:合格者は約25人で倍率は約4.2倍
なお、毎年5月に第一次試験が行われる海上保安学校学生採用試験(特別)の倍率は約10倍です。
海上保安大学校の難易度・合格率・倍率
海上保安学校の難易度・合格率・倍率
海上保安官になるための学校の種類
海上保安大学校
海上保安大学校は、海上保安庁の幹部候補を教育する学校です。
海上保安大学校の入学区分は「本科」と「初任科」があります。
本科
本科に入ると、幹部に必要な学術や技能を4年、そして専攻科6か月、国際業務課程3か月の計4年9か月のカリキュラムで身につけます。
カリキュラム自体は学校教育法の大学設置基準によるもので、卒業すると日本で唯一の「学士(海上保安)」の学士が与えられます。
初任科
「初任科」は、大学卒業者を対象とした、海上保安庁の「幹部」となる職員を養成する目的の課程です。
初任科は令和2年度から新設されたもので、1年間教育を受けたのちに特修科に編入し、さらに1年間の教育を受けることになります。
特修科では海技免状の取得に向けた科目を履修しながら、 幹部海上保安官として必要な高度な専門能力を身につけます。
合計2年間の課程を卒業すると、初級幹部にあたる「三等海上保安正」の階級に就くことができます。
なお、海上保安大学校在学中は、基本的に全員が寮生活を送ります。
「学生」とはいいますが、入学と同時に国家公務員の扱いになるため、給与が支給されます。学費はかかりません。
海上保安学校
海上保安学校は、海上保安庁で活躍する専門職員を育成する学校です。
以下5つの課程に分かれています。
- 船舶運航システム課程(1年)
- 航空課程(1年)
- 管制課程(2年)
- 情報システム課程(2年)
- 海洋科学課程(1年)
各課程では、海上保安官として必要な共通科目に加え、それぞれに応じた専門科目を学びます。
海上保安大学校と同じく、在学中は寮生活が基本となります。
また、こちらも国家公務員として給与が支給され、学費も無料です。
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海上保安官に向いている人
協調性
海上保安官は、集団での行動をする機会が非常に多い職業です。
海上保安大学校や海上保安学校は寮生活ですし、巡視船に配属されてからも、他の専門知識・技能をもつ職員と協力しながら船を航行させます。
潜水士や飛行職員も同様で、常に仲間と行動を共にします。
ときに危険な場面に遭遇することも多い海上保安官にとって、協調性は非常に重要な適性といえるでしょう。
基礎体力と健康な体
過酷な訓練と現場を乗り切るには健康的な体が必要です。
一度巡視船に乗れば2週間も帰ってこれないこともあり、航海中は常に注意を払わなければなりません。
なお、海難救助の際は安全を確保しつつ、救助者と一緒に移動しながら二次災害を起こさないような動きも必要です。
一人で行動するよりも何倍もの体力が必要になります。
すぐに体調を崩していては仕事になりませんし、仲間にも迷惑がかかるため、常日頃から基礎体力の向上を目指しながら健康的な生活を送りましょう。
強い精神力
救助は必ず成功するとも限らないのが現実です。
残念な結果になったとしても、事故は待ってくれないため、気持ちをすぐに切り替えて反省点を次につなげられる強い精神力が必要になります。
また、巡視船では長期間限られた空間で集団生活を送るため、少なからずストレスも抱えるでしょう。
ストレスやプレッシャーに強い人のほうが望ましいといえます。
海上保安官のキャリアプラン・キャリアパス
海上保安官にはさまざまなキャリアプランが考えられます。
海上保安大学校を卒業した人は、まず初級幹部職員として、巡視船の主任航海士に配属されます。
その後は本庁勤務、PC型巡視艦船長、本庁係長、外務省出向、PL型巡視船船長など、海上勤務と陸上勤務を繰り返し、幹部職員としての経験を積んでいきます。
大卒者を対象とした初任科では、卒業後ただちに初級幹部にあたる「三等海上保安正」からキャリアをスタートできることが特徴です。
一方、海上保安学校を卒業した海上保安官は、一般的に現場のスペシャリストとしてのキャリアアップを目指します。
たとえば航海士専門として経験を積みキャリアアップしたり、航海士を経て潜水士を目指し、特殊救難隊を目指す道もあるでしょう。
ここで紹介したのはあくまでも一例ですが、能力や適性に応じて多様なキャリアパスがあることは海上保安官の特徴です。
海上保安官を目指せる年齢は?
かつて、海上保安官になるための「海上保安学校」へ入学できる年齢は、23歳(高卒後5年)が上限となっていました。
しかし、2020年に海上保安大学校では「初任科」という新たな採用制度がスタートし、海上保安官を目指せる年齢は「30歳未満」に引き上げられました。
また、現在は海上保安学校の受験資格も「30歳未満(高卒後13年/12年)」になっており、海上保安官を目指せる年齢上限は以前と比べてだいぶ高くなっています。
決められた期間が過ぎないように注意して、採用試験を受けましょう。
海上保安官は女性でもなれる?
1979年から女性の海上保安官採用がはじまり、令和2年4月1日時点で1,066名の女性が海上保安官として働いています。
以下の図は、海上保安官の男女比を表したものです。割合としては全体の8%程度ですから、まだまだ大きな数字とはいえないでしょう。
しかし、海上保安庁としても今後も積極的な女性の採用を行うため、職場環境の整備を進めています。
これまでに、女性海上保安官は、国際捜査官や鑑識官、運用管制官、さらには航空機のパイロットや巡視船船長などとして幅広く活躍しています。
2017年には女性初の海上保安部長も誕生しました。今後は、ますます女性の活躍が拡大するものと考えられます。