精神保健福祉士と臨床心理士の違い

精神保健福祉士と臨床心理士の仕事内容の違い

精神保健福祉士と臨床心理士は、どちらも「心の問題」を抱える依頼者からの相談を受け、問題を解決することがおもな仕事です。

大きく違うのはその相談内容であり、精神保健福祉士は、入退院する施設や金銭的なこと、受けられる行政サービス、学業、就労など、日常生活全般に関する相談を受け付けます。

これに対し、臨床心理士が受け付ける相談内容は、それぞれの依頼者が抱える悩みや不安など、個人的な問題が中心です。

そのため、問題へのアプローチ手法も異なり、精神保健福祉士は、各施設の紹介や公的支援制度の案内などの具体的なアドバイスを行ったり、日常生活を自力で送れるようにするための訓練を行ったりします。

一方、臨床心理士は、カウンセリングを通して、対象者が抱える問題や課題を明らかにし、本人が自身の心と向き合って自力で解決していくための心理的サポートを行います。

精神保健福祉士と臨床心理士は、同じ心の専門家でありながら、その仕事内容は大きく違っているといえるでしょう。

臨床心理士の仕事

精神保健福祉士と臨床心理士のなる方法・資格の違い

精神保健福祉士は厚生労働省が主管する国家資格である一方、臨床心理士は「日本臨床心理士資格認定協会」という公益財団法人が認定する民間資格です。

ただ、臨床心理士は数ある心理系資格のなかでも信頼性の高いものであり、民間資格だからといって臨床心理士が国家資格である精神保健福祉士に劣るわけではありません。

なお、現在は心理系の国家資格である「公認心理師」の資格が成立しています。

精神保健福祉士の国家資格を得るには、所定の大学を卒業するルートをはじめ、指定施設において数年単位の実務経験を積む、養成施設で学ぶなど、複数のルートがあります。

これに対し、臨床心理士の資格を得るには、大学卒業後、所定の大学院課程を終了するというひとつのルートしかありません。

また、精神保健福祉士の資格は更新する必要がなく、取得すると一生有効ですが、臨床心理士は、5年ごとの「資格更新審査」が義務付けられています。

精神保健福祉士と臨床心理士の資格の難易度の違い

精神保健福祉士国家試験、臨床心理士試験ともに、その合格率は近年60%前後で推移しており、合格率だけをみると、それほど難しくないように感じられるかもしれません。

しかし、受験者がしっかりと専門知識を学んできた人だけに限定されていることを考えると、どちらを突破するにもかなりの努力が求められることは間違いないでしょう。

双方の試験は、受験資格を得るための条件が異なるうえ、精神保健福祉士試験がマークシート形式の筆記試験のみである一方、臨床心理士試験は筆記試験に加えて口述試験も課されるなど、試験形式も異なっています。

このため、どちらの試験の難易度が高いかは、一概に比較できない部分があります。

ただし、資格取得の難易度としては、受験資格を得るためのルートが複数存在する精神保健福祉士のほうが、院卒の学歴が必須となる臨床心理士よりも、ハードルが低いといえるかもしれません。

精神保健福祉士と臨床心理士の学校・学費の違い

精神保健福祉士を目指せる学校として最も一般的なのは、福祉系の4年制大学であり、国家資格の合格率が100%近いところもあります。

ただ、福祉系の短大卒の人や、一般の大学・短大を出た人、あるいは高卒の人でも、実務経験を積んだり、養成施設で学んだりすることで、国家試験の受験資格が得られます。

精神保健福祉士になるにあたってどの程度学費がかかるかは、自分の進路選択次第です。

一方、臨床心理士になるためには、大学院にまで進学することが必須条件になるため、4年制大学の学費と大学院の学費を合計すると、経済的な負担はかなり重くなるといえます。

なお、精神保健福祉士の学校・臨床心理士の大学院ともに通信制の課程もあるため、学費を抑えたい人や、働きながら資格を取得したいという人にとっては、非常に有効な選択肢となるでしょう。

精神保健福祉士と臨床心理士の給料・待遇の違い

精神保健福祉士の給料は、年収300万円~450万円が相場とされています。

キャリアを積んで役職者となれば、平均年収を上回ることも十分に可能ですが、それでもそこまで高給が得られるというわけではないようです。

ただ、精神保健福祉士の職場は行政施設や福祉施設などの公的機関が多く、月々の給料はそれほど高くなくても、福利厚生面の待遇が充実しているところが目立ちます。

一方、臨床心理士は、フルタイムの常勤として働く人もいれば、アルバイトなどの非常勤で働く人もおり、また謝礼程度でボランティアに近い働き方をする人もいます。

このため、収入事情はさまざまですが、平均年収のボリュームゾーンとしては300万円~500万円ほどといわれています。

精神保健福祉士の給料は比較的安定している一方、臨床心理士は個人差が大きくなりやすいといえるでしょう。

精神保健福祉士と臨床心理士はどっちがおすすめ?

精神保健福祉士に必要なのは、精神医療や福祉行政、日常動作など、私たちの生活に根差した身近な知識やスキルです。

一方、臨床心理士に必要なのは、子どものいじめや登校拒否、大人の無気力やうつ、夫婦間の不和など、個人が抱える悩みや問題を解決するための心理学的知識やアプローチ手法です。

双方の資格は、ともに心を扱う職業とはいえ、求められる知識やスキルの方向性がまったく異なりますので、自身の性格や関心によって、向き不向きもほぼ正反対といえるでしょう。

わかりやすく比較するなら、具体的かつ現実的な考え方や解決策を好む人は精神保健福祉士のほうが、目に見えない「心」という抽象的な概念を扱いたい人は臨床心理士のほうが、それぞれおすすめです。

ただ、どちらの職業についても、心に問題を抱える人に寄り添って、共に粘り強く解決を目指せる優しさや忍耐力を備えていることが、知識の前に根本的に求められる「資質」といえるかもしれません。