獣医師の仕事内容とは? 公務員の獣医師の仕事とは?
ペット以外に、家畜動物や動物園で暮らす動物、野生動物の保護・管理などにも関わる人もいます。
ここでは、獣医師の仕事内容や役割などについて詳しく解説します。
獣医師の仕事とは
獣医師の主な仕事は、病気や怪我を抱えている動物の診療を行ったり、水族館や動物園などで動物・生物たちの体調を管理したりすることです。
獣医師と聞くと、犬や猫などペットの治療を行う「動物病院のお医者さん」といったイメージを抱く人も多いでしょう。
しかし、それ以外にも下記のように獣医師はさまざまな仕事をしています。
- 牛、馬、豚、鶏など家畜の診療や病気の予防、食肉の安全検査をして畜産業を支える
- 動物園で動物の診療や健康管理、繁殖活動をサポートする
- 野生動物の保護や管理を行う
働く場所も動物病院をはじめ、動物園、民間企業、自治体など多岐にわたります。
ひとくちに獣医師といっても活動領域は幅広く、動物の命や私たちの健康的な生活を支えるための多種多様な仕事に携わっています。
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獣医師の業務の内容
獣医師の種類や働き方を大きく分けると、以下の4つが挙げられます。
それぞれについて詳しく紹介します。
小動物臨床獣医師
小動物臨床獣医師は、いわゆる動物病院でペットの診療を行う獣医師です。
獣医師を目指す人の多くは、この「小動物臨床獣医師」を希望しています。
「犬」「猫」など特定の動物だけを診る病院もありますが、多くの動物ではさまざまな動物を総合的に診断するのが一般的です。
また同じ犬や猫といっても、さまざまな種類があるため、一人だけで犬や猫を診断できるまでには2年以上は必要だといわれています。
とくに近年は、ペットブームからウサギやハムスターなどの診察ニーズも増えており、幅広い動物の知識が求められます。
産業動物臨床獣医師
産業動物臨床獣医師は、大型の動物を対象とする獣医師です。
レースに出る競走馬がいる競馬の関連施設や、水族館や動物園といった動物が多く暮らす施設で活躍しています。
主な仕事内容は、動物の体調管理や出産などのケア、応急処置など、その施設にいる大動物を診察することです。
国家公務員としての獣医師
「国家公務員」としての獣医師は、厚生労働省や農林水産省で働いています。
海外からやってくる食品・動物などの病原菌や、毒物を国内に流出しないように防止することが主な仕事です。
「BSE」や「口蹄疫」などの感染やその拡大を防ぐための重要な役割を担っています。
動物の診療のみならず、検査に関しても専門知識をもつ必要があり、まさに「獣医師のエキスパート」とも呼べるでしょう。
地方公務員としての獣医師
都道府県の施設などで「地方公務員」として活躍する獣医師もおり、その仕事内容は検査がメインです。
たとえば家畜の食肉衛生検査では、家畜が健康に育つように病気の予防や治療を行うことで、家畜の発育や繁殖などを助けます。
これらは畜産農家の経営を支えるとともに、消費者が安心して食肉を口にできるようなサポートにつながります。
また「家の前で猫が倒れている」「近所のペットショップの動物がぞんざいに扱われている」といった住民トラブルへの対応、狂犬病予防の予防接種なども行っています。
自治体で管理している動物施設、動物園や水族館などに配属されることもあります。
獣医師の役割
さまざまな動物の診療を行う
獣医師の役割は、人間以外の動物の診療を行うことです。
- 犬や猫などの身近なペット
- 牛、豚、鶏などの家畜動物
- 動物園や水族館で暮らす生き物
- 競馬に出馬する競走馬
- 保護が必要な野生動物
獣医師免許を持たない人が「獣医師」と名乗ったり、獣医師として仕事をすることは法律で禁じられており、人を診察する医師と同じように国家試験を受けて「獣医師免許」の取得が求められる仕事です。
家畜や私たちの健康を支える
獣医師のなかには、家畜動物を相手にし、農林水産分野で活躍する獣医師もいます。
獣医師には「動物の診療や保健衛生指導などを通して、動物の保健衛生、畜産業の発展、公衆衛生の向上に寄与すること」という大きな使命があり、その原点ともいえる仕事です。
もし家畜動物が伝染病にかかってしまったら、畜産で生計を成り立たせている農家さんたちは致命傷を負い、人間にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
私たちが今当たり前に口にしている牛肉や豚肉は、どれも健康な牛や豚からできあがったものです。
伝染病を未然に防ぐためにも、家畜衛生分野に精通する獣医師の存在が不可欠です。
動物と人間が安心して生きられる社会づくり
動物と人間が安心して生きられる社会づくりを行うことも獣医師の大きな役割で、おもに「公衆衛生獣医師」と呼ばれます。
- 流通する食肉に問題がないか検査
- 捨て犬・捨て猫などの動物愛護
- 狂犬病などの動物と人間に共通する感染症対策
また動物園や水族館などで動物の健康チェックや治療にも獣医師が活躍していますし、NPO法人などで希少な野生動物の保護に携わる獣医師もいます。
獣医師はただペットの病気を治すだけではなく、私たち人間が地球上でさまざまな動物と共存、共生できるように、社会を作っているといえるでしょう。
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獣医師の勤務先の種類・活躍の場
獣医師の勤務先
獣医師の勤務先は、動物病院などの個人診療施設を筆頭に、企業や公務員など幅広い選択肢があるといえます。
令和2年時点において、獣医師の勤務先として最も多いのは、個人診療所(個人の動物病院など)の18,401人でした。割合にすると51.3%になります。
- 個人の動物病院などで働く「個人診療施設」:18,401人
- 農業協同組合や製薬企業などに勤める「民間団体職員」:7,825人
- 農林畜産・公衆衛生の行政機関や検査センターで働く「都道府県職員」:6,889人
- 「市町村職員」:2,067人
- 「国家公務員」:525人
以下のように、勤務先によって仕事内容もさまざまです。
・動物病院の獣医師として小動物臨床分野を極める
・検疫官として感染症の検疫業務をする
・実験用動物を、動物愛護の観点から適正に飼養管理する
・発展途上国へ赴き、家畜動物その他の衛生管理の指導をする
・動物園などで希少動物の人工授精をしたり、野生復帰にたずさわる
・牛、豚、馬、鶏など家畜の飼養管理、防疫
など。
動物の命が影響する場所すべてにおいて、獣医師が関わるといっても過言ではないでしょう。
動物病院で働く獣医師
動物病院でペットの診療を行う獣医師は、一般的に「臨床獣医師」と呼ばれています。
獣医師の勤務先のなかでも、個人診療施設で働く獣医師が最も多いため、ポピュラーな就職先といえるでしょう。
動物病院では、犬や猫はもちろん、鳥、ウサギ、ハムスター、魚類など、小動物を中心とするさまざまな動物の診療にあたります。
幅広い動物に対する知識が必要になることや、少人数で働く職場が多いこと、また病院によっては入院対応や夜間診療も行うため、勤務時間は長くなりがちで体力的にはきつい職場です。
ただし地域の動物や飼い主と深い結びつきを感じられたり、感謝の笑顔を直にもらえるというやりがいがあります。
動物病院にずっと雇われて働く人がいる一方、将来の独立・開業を目指して経験を積んでいる人もいます。
動物が暮らす施設で働く獣医師
民間の動物園や水族館、家畜となる牛や豚を育てる養牛場や養豚場、あるいは競馬で走る競走馬の育成施設など、動物が暮らすさまざまな施設で勤務する獣医師もいます。
こちらも「臨床獣医師」の部類に入りますが、動物病院で小型のペットを診るのとは異なり、基本的に大型動物の診察や管理を行い、馬専門といったように専門分野を生かして働く人も多いのが特徴です。
ここではお金が稼げる動物、いわゆる「生産動物」を対象に業務を行います。
そのため自分が大切に面倒をみてきた動物であっても「生産性がない」という評価になれば、その動物は殺処分されてしまうことも受け入れなければいけません。
民間企業で働く獣医師
製薬会社や食品会社、飼料関連会社などの民間企業に所属して、いわゆる会社員として働く獣医師もいます。
製薬会社であれば、薬の研究開発過程で必要な実験動物を行ったり、開発した動物用医薬品や関連製品を農家や家畜診療所に営業することが仕事です。
また乳業や食肉などの関連企業では品質管理に携わるなど、仕事内容は働く企業や戦略によって異なります。
民間企業で働く場合は、どちらかといえば研究職が強かったり、営業やマーケティングなど、ビジネス寄りの知識が求められるのが特徴です。
そのためペットの臨床業務に携わる動物病院で働く獣医師とは、かなり毛色の違った業務内容といえるでしょう。
公務員として働く獣医師
獣医師は公務員として働くこともでき、大きく分けると「国家公務員」または「地方公務員」の2種類の身分になります。
国家公務員は「農林水産省」と「厚生労働省」で技術系職員として採用が行われ、全国の空港や海港にある検疫所や動物検疫所などで働きます。
仕事内容は、外国から輸入される食品が食品衛生法に適合されているかや、人体に悪影響な微生物が付着していないかなどを検査・監督指導することがメインです。
また地方公務員は、各都道府県や市町村で採用され、本省庁や保健所、食肉衛生研究所などで働くことになります。
そのほか畜産・林業・水産試験場、公営の動物園や水族館、動物愛護施設など、さまざまな場所で家畜衛生や公衆衛生の仕事に携わります。
近年ニュースでよく耳にする鳥インフルエンザなどの動物関連の感染症を未然に防いだり、安全性に問題がないか検査・監督する立場にあるため、公務員獣医師のニーズは大きく高まっています。
NPO法人などで働く獣医師
日本には動物に関わる活動を行うNPO法人がたくさん存在しており、獣医師も多く活躍しています。
たとえば人間から被害を受けた野生動物の診療を行ったり、被災地で飼い主を亡くした動物の健康を守ったり、高齢者向けにペットの飼育支援活動を行ったりと、さまざまな方面で力を発揮しているのです。
なかには人とペットが共生するための講演会やシンポジウムを行うNPO法人もあるなど、その活動や仕事内容は多岐にわたります。
病院や公務員の獣医師として働いていた人が、動物と深く関わるうちに「自分の手でもっと多くの動物を守りたい、救いたい」という思いが強くなり、自分が理想とするNPO法人を立ち上げるというケースもあるようです。
独立する獣医師も多い
勤務先のなかでも最も多い動物病院で小動物の臨床にあたる獣医師の場合、将来的に独立し、自分で動物病院を開業するケースも珍しくありません。
ただし動物病院の獣医師は非常に忙しく、急患対応や夜間の手術などで帰宅できるのは日付が変わってから、またほとんど寝る時間がないまま翌朝出勤といった毎日を送る人も多いです。
獣医師は専門知識や技能が求められる仕事だからこそ、「自分一人でやれる」と自信を持てるだけの経験を積むことが必要です。
獣医師として腕を磨き続けるのと同時に、動物や飼い主に愛され、信頼される豊かな信頼性があれば、長く活躍することができるでしょう。
獣医師の仕事の流れ
獣医師は、なるまでに時間がかかる職業です。
獣医師系大学に6年間通い、国家試験に合格して免許を取得すると、現場に入って忙しく仕事をこなしながら、さらなる成長を目指します。
-
1.出勤
ミーティングで当日の予定確認や、連絡事項を共有します。
入院している動物がいる際には、宿直の獣医師から引き継ぎをして、検査や治療にあたります。
-
2.診療
受付時間になると、次々とやってくる体調を崩した動物の診療を続けます。 -
3.手術
診療の合間に手術を行う日もあります。先輩の補佐役として手術に参加します。
昼食は昼休みにとりますが、忙しいとゆっくり休めないことも。
-
4.診療終了
カルテの入力や、院内の清掃・器具の片付けなどを行います。病院を閉めてからも、症例検討など、知識と技術の向上のために勉強することが多いです。
獣医師と関連した職業
動物看護師
獣医師と関連した職業に「動物看護師」があります。
動物看護師は、主に動物病院で獣医師のサポートをする職業です。
手術や治療の手伝いをしたり、検体検査や体温、脈拍の測定を行うなど、獣医師のサポート役を担っています。
獣医師と一緒に仕事をすることが多い職業で、人間を診る「医師」と「看護師」と似たような関係性だといえます。
動物看護師になるために必ず資格は必要ではありませんが、民間資格として動物看護師統一認定機構の「認定動物看護師登録証」を取得を目指す人が多いです。
2019年6月には動物看護師を国家資格とする法律が制定されたため、早ければ2023年に第1回の国家試験が実施される予定になっています。
動物飼育員
「動物飼育員」は、動物園や水族館などで暮らす動物の体調管理や世話を行う職業です。
来園者に元気な動物の姿を見せるために、動物たちが快適に過ごせる環境作りを行います。
動物園や水族館では、獣医師と協力しながら動物たちの健康管理や繁殖活動をサポートする場面も出てくるでしょう。
動物飼育員になるためにとくに資格はいりませんが、獣医師免許や学芸員の資格があると有利になるといわれています。
動物好きな人にとっては憧れの職業として人気が高く、採用されるには高い倍率の試験をくぐり抜けなければいけません。
最近では働きやすい環境が整ってきたことから、女性飼育員の活躍も目立ってきています。
獣医師の仕事内容のまとめ
獣医師は、動物の治療や健康管理だけでなく、動物に関わるさまざまな仕事を担っています。
動物病院以外にも幅広い場所で需要があり、なかには独立・開業する人もいます。
確実なニーズがある職業ですが、なるまでには長い時間がかかるため、強い気持ちを持って勉強を続ける努力が必要です。