山岳ガイドの仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「山岳ガイド」とは

山岳ガイドの仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

山の事故を防ぎ登山客の安全を確保する

山岳ガイドは、山での事故を防ぐために、登山客を安全に目的地まで案内するのが仕事です。

近年登山人口は急激に増えていますが、一歩間違えば滑落や遭難など命に係わる恐れもあります。

山岳ガイドは、登山客の命を預かる責任ある仕事であり、もちろん自分の安全も確保しなくてはならないため、山に対する知識や登山の実績が必須です。

働き方としては、主に旅行会社、一般企業や協会などに所属して働く山岳ガイドと、フリーランスで働いている山岳ガイドにわけられます。

フリーランスの山岳ガイドのなかには、難関とされるルートや特殊なルートのガイドを行える優秀な登山家も多く、山の付近で山小屋スタッフなどとして働きながらガイドをする人もいます。

山岳ガイドになるには、まず企業が募集する山岳ガイドとして採用され、ハイキングなどの簡単なガイドから経験を積んでいく方法、また登山家として活動しながら仕事を請け負う方法があります。

また、山岳ガイドになるためには、公益社団法人日本山岳ガイド協会などが実施する資格検定試験を受け、ステージごとの資格が必要です。

なお、資格を必要としないガイドは「山岳ガイド」ではなく「登山ガイド」と呼ばれるのが一般的です。

「山岳ガイド」の仕事紹介

山岳ガイドの仕事内容

登山客の安全を守るプロフェッショナル

山岳ガイドの仕事は、登山客が安全に登山を楽しめるようにガイドすることです。

豊富な経験や知識から登山をリードしたり、危険な箇所を教えたりします。

そのほか、山や自然の知識を伝えたり、登山客を会話で盛り上げたりすることも大きな役割です。

そのほかの仕事としては、山小屋が少ない地域でポーター(荷物運び)やテントキーパーとして働いたり、自治体や団体、大学などの調査に同行して、山を案内したりすることもあります。

ガイドの仕方には主に2種類あります。

ひとつは、自分の得意なエリアや住んでいる特定のエリアに限定してガイドする方法です。

長年仕事をしていると経験も知識も豊富となりますが、何度も同じ山に登る人は少ないためリピーターは少なく、季節によって仕事量が増減するため多くの収入を得づらいです。

もうひとつは、国内、海外問わずあらゆる山をガイドする方法です。

リピーターも多く、多くの収入を得やすいですが、世界中の山を案内するとなると相当の経験と知識が必要で、0からはじめようとなると多額の旅費もかかります。

なお、登山ガイドと混同されることもありますが、厳密には登山ガイドと山岳ガイドは違う職業です。

登山ガイドは一般的な夏山の登山道をガイドする人ですが、山岳ガイドはロープを使って登山するような比較的難易度の高い山やルートをガイドする人のことです。

登山ガイドには特別な資格がありませんが、山岳ガイドにはグレードごとに決められた必要な資格があります。

山岳ガイドになるには

企業等に所属するか、フリーランスで働くか

山岳ガイドになるためには、いくつかの方法があります。

まずは、旅行会社や団体などに採用され、簡単なツアーガイドをしながら経験を積んでいく方法です。

旅行会社の場合、全国各地の山でさまざまな登山ツアーを行うため、コースやルートを覚え経験を積むには非常によいでしょう。

もうひとつは、登山家として活動し実績を積んだことを生かし、フリーランスとして山岳ガイドの仕事をする方法です。

しかしガイドを本業とする場合は、まったくのフリーランスではなく、ガイド協会やガイドクラブに所属し、そこから仕事をもらうことが多くなっています。

どの協会も、入会には資格取得が必須であり、とくに有名なのは「日本山岳ガイド協会」です。

旅行会社などで働く場合も「資格保持者を優遇する」というところが大半であるため、資格取得を視野にいれておくとよいでしょう。

なお、山岳ガイドはただ登山客をガイドするだけでなく、天候や環境、登山客の体力や体調に配慮しなくてはなりませんし、万一の際には臨機応変な対応が求められる仕事です。

そのため、これまでどれだけ登山をしたかという長い登山経験がなくてはできない仕事です。

自らが登山を経験し、山の楽しさや魅力を理解するとともに、山の厳しさや危険についても経験し、登山客に伝えられる人であることが望ましいです。

山岳ガイドの学校・学費

民間スクールや講座などがある

登山や山岳ガイドについて専門的に学べる学校は非常に少ないですが、大学の山岳部などで経験を積む方法があります。

なお新潟県にある国際自然環境アウトドア専門学校では、山岳プロ学科(3年制)があり、登山ガイド(ステージⅡ)レベルの技術取得を目指すカリキュラムとなっています。

民間では一般向けにトレッキングスクールや登山学校などがあり、期間や費用はさまざまですが、プロの山岳ガイドや現役のスタッフ等から講習が受けられます。

旅行会社や登山用品を扱っている会社でも、ガイドの養成講習会やレベルに合わせた登山の講座などを行っている場合があるので、調べてみるとよいでしょう。

登山の技術は独学で学ぶ人も多いため本格的に山岳ガイドとして働きたいという人は、積極的に受講するとよいでしょう。

山岳ガイドの資格・試験の難易度

公益社団法人日本山岳ガイド協会の資格が必要

公益社団法人日本山岳ガイド協会では、ガイド資格制度を設けており、多くの山岳ガイドはこの資格を得て仕事を行っています。

日本山岳ガイド協会の登山における資格は以下の4つに分けられています。
・自然ガイド(ステージⅠ・Ⅱ)
・登山ガイド(ステージⅠ・Ⅱ・Ⅲ)
・山岳ガイド(ステージⅠ・Ⅱ)
・国際ガイド

参考:公益社団法人日本山岳ガイド協会

なお、登山ガイドは一般的な登山道を案内するための資格で、山岳ガイドは登山道以外にも岩稜や谷・壁なども案内することができます。

山岳ガイドステージⅠは、満20歳以上で健康で体力があり、日本山岳ガイド協会の定める登山経験・技術基準表」の登山経験・技術基準を満たす者が受験できます。

内容は書類審査、体力・適性試験、筆記試験(基礎的知識、ガイド業務関連知識、専門知識、安全管理、小論文)で、その他に講習を受ける必要があります。

書類審査に5,000円、体力・適性試験に15,000円、筆記試験に15,000円ほどの費用がかかり、そのほか講習等で合計510,000円ほどの費用が必要です。

山岳ガイドステージⅡは、満20歳以上で健康で体力があり、「山岳ガイドステージⅠ」資格を有し、正会員入会後6ヶ月以上のガイド経験があれば受験できます。

書類審査に5,000円かかり、講習等を合計すると495,000円ほどの費用がかかります。

これらの資格は一度に取得するのではなく、各科目の有効期間が3年あるため、複数年にわたり受講する人が多いです。

ただし、日数がかかり、受講費や受講のための交通宿泊費などが高額であること、ガイド資格は3年で更新しなければならないことなど負担も大きく、山岳ガイドを本気で目指す人でなければ取得は難しいです。

山岳ガイドの給料・年収

給料や仕事量に差があり不安定

登山ガイドの収入は、仕事量によって大きく異なります。

ガイドをする際には、人数やコースの難易度などによって料金は大きく異なり、本格的な山岳ガイドを1日雇う場合、日給は30,000円前後が基準とされています。

1日30,000円というと非常に高額なように思えますが、山岳ガイドは非常に不安定な仕事です。

天候によって仕事がすべてキャンセルになってしまうことは少なくありませんし、ガイド以外にも営業や広報、ツアー工程の作成などの仕事を行わなくてはなりません。

山岳ガイド自身の登山道具や衣類は基本的に自腹ですので、こうした装備を揃える必要もあり、収支を総合すると赤字になってしまうという人も少なくありません。

さらに、フリーランスの場合は仕事を増やすために登山客とつながる必要があります。

どのように情報を発信し、顧客を開拓していくかは山岳ガイドの大きな悩みで、SNSを利用したり、パンフレットを作成したりと各々がさまざまな工夫をしています。

旅行会社などに所属して働く場合は、比較的安定した収入を得ることができ、コース作成や営業などの仕事も減りますが、安定して仕事をもらえるまでには長い時間がかかります。

また、企業や団体の取り分があるため、フリーランスで働く山岳ガイドに比べると収入が低くなりがちです。

山岳ガイドの収入面での大きな問題は、冬の閑散期です。

一般に冬山を登山する人はほとんどいませんし、冬山にチャレンジしようとする登山客はある程度の知識と持つ熟練者です。

ガイドの活躍はどうしても減ってしまうため、農家やスキー場などで冬期間アルバイトする人も多いです。

山岳ガイドの現状と将来性・今後の見通し

山岳ガイドとしてのあり方は多様化

フランスやスイスなど、海外では登山ガイドになるための国立養成所や国家試験がある国もありますが、日本では山岳ガイドという職業はそれほど確立されてはいません

山岳ガイドは閑散期にどうしても収入が減ってしまい、ガイドの仕事だけでは十分な収入を得ることができない人が大半です。

近年はSNSを利用して登山をしながら山の魅力を伝えたり、登山の仕方をレクチャーしたりするガイドも増えつつあり、さまざまな個性を打ち出し活動する人が出てくるでしょう。

一方、2009年には北海道のトムラウシ山で山岳ガイドが付いていたにもかかわらず遭難がおこり、雇用していた旅行会社がその責任を問われる事態に発展しました。

正しい知識と経験を持ち客の安全を守る山岳ガイドの需要は、今後より高まっていくでしょう。

山岳ガイドの1日

毎日異なるスケジュールで働く

山岳ガイドの1日は、季節やガイドする人数、ルートによって大きく変わります。

ときには何日もかけて山を縦走することもありますし、逆に悪天候で予定していた仕事がなくなってしまうこともあり、毎日同じスケジュールで過ごすことはほとんどありません。

旅行会社のツアーをガイドする山岳ガイドの1例を紹介します。

8:00 山小屋に出勤
きょうの天気や気温を調べ、危険個所はないかどうか等を確認します。
ほかのガイドと情報を共有します。
9:00 登山準備
衣類や荷物などを確認し登山の準備を開始し、出発します。
9:30 登山口に移動し登山客と集合
ツアーの登山客と集合し、体調や体力などを確認します。
9:45 出発
比較的軽めのルートなので、安全に配慮しながらゆっくり進みます。
11:45 昼食
登山客とともに昼食をとります。
12:30 再開
山頂に向けてガイドを再開します。
13:00 山頂到着
山頂に到着し、記念写真を撮ったり休憩したりします。
疲れが出る下山時には事故が起きやすいため慎重にガイドします。
15:00 下山
全員が無事下山し、見送りをします。
15:30  山小屋に戻る
山小屋に戻り、荷物の片付けや他のガイドとの情報共有を行います。
16:30 勤務終了

山岳ガイドのやりがい、楽しさ

登山客に喜んでもらえること

山岳ガイドとしての喜びは、登山客に喜んでもらえるガイドができたときです。

同じ山で登山をしたとしても、ガイドの仕方によって印象は大きく変わります。

登山を終えてから「とても楽しかった」「またガイドをしてほしい」と声がきかれると、大きなやりがいを感じます。

登山ガイドを利用する人は「好きなガイドに同行してほしい」「このガイドがいるツアーに参加したい」という思いを持つ人が多く、リピーターが非常に多いのが特徴です。

また、多くの山岳ガイドは何度ガイドをしていたとしても、登山をする時には緊張感を持って臨みます。

全員無事に下山できたときには、毎回達成感を感じます。

山岳ガイドのつらいこと、大変なこと

危険と隣り合わせの仕事

危険と隣り合わせの仕事

山岳ガイドに向いている人・適性

山が好きで、その魅力を伝えたい人

山岳ガイドに向いている人は、とにかく山や自然が好きで、毎日山で過ごしたいという人です。

山にいるだけで楽しい、山に登ることで収入を得られる、という人は、山岳ガイドに向いているでしょう。

ただし、すべての登山家が山岳ガイドに向いているかというと、そうではありません。

山岳ガイドは接客業であるため、どれだけ登山の知識があったとしても、それを正しく教えたり、登山客に満足してもらえたりするガイドができなければ、ガイドとしては失格です。

ただ山が好きだというだけでなく、接客業が好き、山の魅力をひとりでも多くの人に知ってほしいという思いを持つ人が向いているといえます。

山岳ガイド志望動機・目指すきっかけ

登山経験を生かして働きたい

山岳ガイドになるために登山を始める、という人は非常に少なく、もともと趣味で登山をしていた人が、その経験を生かして仕事をしたいと考えるのが大半です。

山岳ガイドになるためには登山の経験が必要不可欠ですので、できれば一つでも多くの山に登り、知識や経験を積み重ねておくとよいでしょう。

ただし、登山を始めたきっかけや時期はさまざまで、なかには社会人になってから登山をはじめ山岳ガイドを目指すようになったという人もいます。

山岳ガイドは学校を卒業し企業に就職する、といった一般的な職業のような雇用形態とは違うため、社会人になってからでも遅くはありません。

山岳ガイドの雇用形態・働き方

企業に所属するか、フリーランスか

山岳ガイドの働き方には、企業に所属したり契約したりして働くか、またフリーランスで働くかの2つのケースがあります。

企業の社員として働く場合もありますが、山岳ガイドは社員ではなく業務委託契約や日給での契約としているところも少なくありません。

正社員として採用されれば安定した収入を得られますが、契約の場合はガイドをした人数や回数、ツアーやルートの難易度によって給料に大きな差があります。

フリーランスで働く(個人事業主)山岳ガイドも多いですが、何らかの協会や団体に所属している人も多く、まったく一人で活動をしているという人は少ないです。

フリーランスの場合、顧客の確保やツアー工程の制作、事務作業などすべてを自分で行わなくてはならないため、山の知識以外に経営の知識も必要でしょう。

山岳ガイドの勤務時間・休日・生活

勤務時間はさまざま

登山やツアーはさまざまな日程や時間帯、で開催されるため、山岳ガイドの勤務形態は不規則で、決められた勤務時間で毎日過ごす人はほとんどいません。

登山は午前中に出発することが多いですが、ときには何日もかけて登山をしたり、縦走したりすることもあります。

一方で、悪天候によりスケジュール通りに登山ができず、山小屋や登山口まで帰ってこられないために、やむを得ずテントを張って野宿ということもあるでしょう。

仕事量や内容によって毎日異なるスケジュールとなるため、生活リズムを一定に保つのが難しい仕事でもあります。

また、登山は土日祝日や長期休暇に行われることが多いため、山岳ガイドの休日は平日になりがちです。

山岳ガイドの求人・就職状況・需要

「山岳ガイド」という求人はほとんどない

近年では登山をする人が増加する一方、山での事故は絶えません。

とくに登山客は中高年層が多いため、こうした人たちの体力や知識でもしっかりと遂行できるツアーや登山計画をたてられる経験豊富な山岳ガイドが必要です。

登山をする人が居なくならない限り、山岳ガイドの仕事もなくなることはありませんが、「山岳ガイド」として正式に企業で働けるということはほとんどありません。

山岳ガイドになるには、自分で道を切り開き、チャンスをつかむという気持ちがなければならないでしょう。

また、フリーランスの山岳ガイドが増えるにつれ、個性を活かし高品質なガイドを強みにしていく人が増え競争が激化していくと考えられます。

山岳ガイドの転職状況・未経験採用

転職からなる場合が多い

他の職業から山岳ガイドに転職するという人は少なくありません。

もともと趣味で登山をしていた人が、山で働きたいと山岳ガイドの資格をとり、仕事を始めるというケースは比較的多く見られます。

山岳ガイドは学校を卒業したからと言ってなれるものではありませんし、資格を取得するには多くの登山経験と費用が必要です。

社会人になってからも趣味でこつこつと登山の経験を積み、山岳ガイドを目指すことは決して珍しいことではないのです。

一方で、山岳ガイドになったからすぐに安定した収入を得られるとは限らないため、生活資金などについてはしっかりと考えておいた方がよいでしょう。