獣医師の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「獣医師」とは
ペットや家畜の診察・治療を行う動物のお医者さん。食肉検査や野生動物保護に携わる人も。
獣医師は「動物のお医者さん」として、犬や猫などのペットなどの診察・治療を行う仕事です。
動物病院でペットを診るほかにも、さまざまな仕事があります。
たとえば、畜産業の牛・馬・豚・鶏といった家畜の診療や病気の予防、食肉の安全性の検査、動物園の動物の診療、野生動物の保護、管理など、獣医師の活動する領域は多岐にわたります。
獣医師として働くためには獣医師国家試験に合格することが必要で、大学の獣医学部で6年間勉強し、獣医学の課程を修了することで国家試験の受験資格が得られます。
獣医学部の入試の難易度は高く、学費も高額です。
獣医師は動物病院を中心に、地方自治体や農協、医薬・製薬関連企業など、多様な場所で活躍しています。
幅広い動物の生態や病気に関する知識をもち、動物の命や、私たちの健康的な生活を支えるための多種多様な仕事に携わっています。
「獣医師」の仕事紹介
獣医師の仕事内容
ペットを含め、人間以外の動物の命を広くを扱う仕事
獣医師は、人間以外の「動物」に対して、病気やケガの診察・治療にあたる仕事です。
動物病院で犬・猫・ウサギ・鳥といった小動物の診療を行う獣医師は「小動物臨床獣医師」といい、最もイメージしやすい獣医師の仕事といえるでしょう。
ただ、それ以外にも、以下のような仕事をする獣医師もいます。
・動物園や水族館で暮らす大型動物の健康管理、診察
・家畜動物など農林水産分野での保健衛生
・動物用医薬品の研究開発
・捨て犬・捨て猫などの動物愛護
・動物と人間に共通する感染症対策
このように、獣医師がカバーする仕事の領域は多岐にわたります。
専門分野を突き詰めて働く獣医師が多い
獣医師の仕事では、人間が通う病院のように「内科」「外科」「皮膚科」といった診療科目が分かれていません。
また、動物の種類はさまざまなため、獣医師になるためには動物全般に関する豊富な知識を身につける必要があります。
いざ獣医師になってからは、小型動物専門の病院で働く人もいれば、家畜動物に特化した仕事にあたる人もおり、おのおのの獣医師が、自身の得意分野や専門分野を生かして、さまざまな場で働いています。
獣医師になるには
獣医学部で6年間学び、国家試験を受ける
獣医師として働くには、国家資格である獣医師免許の取得が必要です。
高校卒業後、獣医師養成課程のある大学(6年制)に進み、必要な課程を修了して、獣医師国家試験の受験資格を得ます。
国家試験に合格すると、動物病院に就職、あるいは公務員試験を受けて国や自治体の職員となり、獣医師として働くことができます。
獣医学部は、医学部に並んで成績優秀であることが必要とされるため、高校在学中からしっかりと勉学に励むことが大切です。
入学試験では数学、生物、化学、英語の得点を重視されることが多いため、これらの科目はとく重点的に学んでおくとよいでしょう。
年齢制限はないが獣医師になるまでに時間がかかる
獣医師免許を取るための年齢制限はありません。
20代を超えてから獣医学部に入り、獣医師を目指すことも可能です。
ただし、公務員の獣医師を目指す場合は、採用試験で年齢制限が設けられることが多いです。
30歳を超えると受けられない試験が増えるため、できるだけ若いうちに獣医師免許取得を目指すほうがよいでしょう。
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獣医師の学校・学費
獣医学が学べる大学は数が限られている
獣医師になるには、獣医学を学べる大学(獣医学部など)において、最低でも6年間のカリキュラムを修了する必要があります。
獣医系大学は国公立合わせても全国で20校もなく、その難易度は医学部に匹敵するともいわれています。
また、大学在籍期間が6年におよぶことに加え、実習の費用が高額であることなどから、かかる学費も高額になる傾向です。
国立大学の場合、入学年度にもよりますが卒業までの6年間で350万円程度、私立大学は1300万円~1500万円程度は必要になるとされています。
動物の解剖やレポート作成、試験勉強などに追われるため、気力と体力も必要です。
強い意志をもって学生生活を乗り切る準備をしておきましょう。
獣医師の資格・試験の難易度
6年間しっかりと勉強をしていれば合格可能
獣医師の国家試験は、所定の大学で6年間の履修課程を修めた人でないと受験することができません。
在学中の6年間の間に学ぶ内容は、動物すべての命に関わる内容で、幅広く、かつ専門的なものになります。
獣医師国家試験の合格率は8割程度となっており、6年間のカリキュラムをきちんと学んでいれば、合格できる可能性は十分にあります。
獣医師国家試験よりも、倍率の高い大学受験を突破するほうが難しいともいわれるほどです。
とはいえ、決して難易度が易しいわけではありませんし、国家試験前はひたすら追い込んで勉強をしている人が多いです。
既卒者の合格率は低め
獣医師国家試験は、新卒のタイミングで不合格になってしまうと、その後はなかなか合格が難しくなるのが現実のようです。
その証拠に、既卒者の合格率は低いときは30%ほどにまで落ち込んでいるため、在学中に1回で合格できるように集中して勉強するほうがよいでしょう。
獣医師の給料・年収
一般的な会社員の平均年収よりもやや高め
獣医師は就職先が多岐にわたるため、給与水準もさまざまです。
厚生労働省の調査(令和元年度賃金構造基本統計調査)によれば、獣医師の平均年収は40.5歳で約572万円です。
専門性と難易度が高い仕事である分、一般的な会社員の平均年収に比べると、給与水準はやや高めとなっています。
就職先として最も多いのは動物病院で、獣医師のうち半数程度の人がここに勤務します。
動物病院は規模や地域がさまざまであり、収入は人によって大きく異なってくるでしょう。
公務員として働く獣医師の給料・年収
都道府県や市区町村など、自治体の施設や機関で働く獣医師も多くいます。
その場合の身分は地方公務員になるため、各自治体が定める給料表にもとづく給与が支給されます。
基本的に年功序列のため、若いうちから飛びぬけて高い収入を望むのは難しいですが、長く働けば確実に収入はアップします。
また、年に2回のボーナスの支給が必ずありますし、各種手当や福利厚生が充実しているため、安定した働き方ができるでしょう。
獣医師の現状と将来性・今後の見通し
動物と関わり合いのある多方面で活躍できる仕事
獣医師は高い専門性が求められ、また免許取得までに時間や費用もかかることから、社会的地位の高い仕事として位置づけられています。
獣医師といえば、動物病院で臨床にあたる姿が想像されがちですが、ほかにも伝染病予防のための検疫業務や動物用医療品・食品の研究開発など、さまざまな場で獣医師のニーズが高まっています。
また、昨今のペットブームの影で不遇な扱いを余儀なくされる動物たちもおり、動物愛護の啓蒙に力を入れている獣医師もいます。
この仕事に就くのは一筋縄ではいきませんが、高い専門性を備えた意識の高い人材は、自身の目標に応じて多方面で活躍できるでしょう。
一度、獣医師免許を取得すれば、日本全国さまざまな場で働けることも強みといえます。
獣医師の就職先・活躍の場
動物に関わるさまざまな場で活躍する
獣医師のおもな就職先として、まず挙げられるのが「小動物臨床分野(動物病院の獣医師)」です。
個人経営の動物病院のほか、企業が運営するペットショップに併設する動物病院で勤務する獣医師もいます。
その他にも、獣医師の活動範囲は広く、活躍の場も多数あります。
・検疫官として感染症の検疫業務をする
・実験用動物を、動物愛護の観点から適正に飼養管理する
・発展途上国へ赴き、家畜動物その他の衛生管理の指導をする
・動物園などで希少動物の人工授精をしたり、野生復帰に携わる
・牛・豚・馬・鶏など家畜の飼養管理、防疫業務にあたる
所属先や身分としては、農業協同組合や製薬企業などの「民間団体職員」、農林畜産・公衆衛生の行政機関や検査センターで働く「都道府県職員」および「市町村職員」などがあります。
動物がいる場所すべてに獣医師が関わるといっても過言ではないでしょう。
獣医師の1日
働く場所によってスケジュールにも違いがある
獣医師の1日は、勤務先によって大きく異なります。
公務員や民間企業では、日勤でオフィスワークをする会社員と同じような時間帯で働くことも多いですが、少ない人数で回す動物病院では、開院時間前後に手術をするなど、ハードな1日を過ごす職場もあるでしょう。
どのような職場でも「動物の命」を扱うことには変わりがないため、予測不能な状況にも対応しなければいけません。
ここでは、動物病院に勤務する獣医師の1日を紹介します。
獣医師のやりがい、楽しさ
動物と人間の間に絆をつくる
獣医師を目指す人は、ほとんどが動物好きで、愛護精神に満ちています。
そういった人たちが最もやりがいを感じられるときは、動物を愛し、その命を大切にできたと実感できる瞬間です。
わかりやすい例でいえば、病気やケガで苦しむ動物を治せたときもそうですし、大切なペットが元気になって喜ぶ飼い主さんの姿にも元気づけられます。
また、家畜動物の健康管理に勤しみ、高い品質の肉を流通させるための力になれることにも、やりがいを感じます。
動物と言葉を交わすことはできずとも、人々と動物の絆を強くするような仕事ができるのは、獣医師の魅力であるといえるでしょう。
獣医師のつらいこと、大変なこと
命に触れ、つらい場面に直面すること
動物を愛し、守るための獣医師にも、ときには守れない命もあります。
これは命がいつか消えるものである限り、仕方のないことでもあります。
最善を尽くしても寿命などで治療効果が見込めないこともありますし、これ以上苦しませないために、飼い主に対し安楽死の提案をしなければいけない場面もあります。
飼い主の悲しみはもちろん、獣医師にとっても重く苦しい決断であることは確かでしょう。
また、動物は人と異なり「痛い」「苦しい」などの言葉が離せないため、様子がおかしくても、不調の原因を見つけ出すことに苦労することがあります。
人間を診る医師とは異なる大変さがあるのが、獣医師の仕事です。
獣医師に向いている人・適性
動物に対する愛と覚悟をあわせもつ人
獣医師に向いているのは、動物も人間と同じ命として扱える、「動物に敬愛をもてる人」であることです。
動物愛護の心を広めていくのも獣医師の大切な役割のひとつです。
常に動物の様子を観察して、過ごしやすくしてあげるために力を尽くせる人は、獣医師の適性があるといえるでしょう。
ただし、関わる動物に感情移入し過ぎて、冷静で的確な判断ができなくなるのもよくありません。
勤務先によっては実験に使われる動物と関わらなければいけなかったり、たくさんの動物の最期を看取ることにもなります。
動物を愛しつつも、冷静な距離をもって動物に接することができる人が、獣医師には向いています。
獣医師志望動機・目指すきっかけ
動物に親しんできたことがきっかけに
獣医師を目指す人の立ち位置は一人ひとり微妙に違うものの、志望動機としては、「幼い頃から動物が身近にいて、動物に関わる仕事をしたい」というものが目立ちます。
自分で飼っていた動物が獣医師に助けられた経緯から、自分も同じ道に進みたいと考えるようになったと話す人も多いです。
また、実家や祖父母の家で畜産業を営んでおり、獣医師になって畜産業を盛り立てていきたいという熱意から、獣医師を目指す人もいます。
ひとことで獣医師といっても、獣医師には動物病院でペットを診る臨床獣医師のほか、さまざまな仕事内容、活躍の場があります。
動物とどのようなかたちで関わりたいのかをよく考えて、志望動機を練り上げていくとよいでしょう。
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獣医師の雇用形態・働き方
正社員を中心に派遣やパートで働く人も
獣医師の雇用形態は、正社員や派遣社員、パート勤務など多種多様です。
全体としては、獣医師は国家資格を前提とする専門職であることから、待遇のよい正社員として雇用されるケースが多いです。
ある程度キャリアを積むと独立・開業し、自分の動物病院を経営する獣医師もいます。
派遣社員の場合、自身の経験や希望に応じて、勤務先を選びやすいのがメリットといえるでしょう。
動物病院のほか、研究施設などでも需要があります。
アルバイトやパートの獣医師は、動物病院で働くケースが多いです。
アルバイトやパートであれば、週に数日程度の短時間勤務も可能なため、育児中の女性獣医師などが、この働き方を選択することがあります。
獣医師の勤務時間・休日・生活
融通は利きやすいが夜勤のある職場も
獣医師の勤務体系は、勤務先によって異なります。
最も働く人が多い動物病院では、朝から夕方頃にかけての診察時間を中心に働きますが、入院している動物がいる場合は、見守りのために夜勤・当直も入ります。
民間企業であればある程度決まった時間帯で働くことができる一方、動物病院の獣医師は多忙になりがちです。
家畜の飼育管理や診療、人工授精などの仕事に関わる場合も、不測の事態に備えて休日診療をすることがあります。
雇用形態別でみると、正社員はフルタイム勤務となりますが、パート・アルバイトであれば1日に4時間程度だけ働く人もいます。
獣医師の求人・就職状況・需要
多様な場で求人が出されている
獣医師免許を取得する人材はさほど多くないため、求人数は常に一定数ある状態です。
ただし、主要な勤務先となる動物病院では、あまり募集人数が多くありません。
欠員が出なければ新規採用を行わないことが多いため、自分の希望に見合った求人情報があった場合は、チャンスを逃さないように応募する必要があるでしょう。
動物病院だけでなく、製薬会社や実験動物管理施設といった民間企業、あるいは公務員としての獣医師の需要もあります。
公務員を目指す場合には、各自治体が実施する公務員採用試験を獣医師の枠で受験する必要があります。
勤務先によって対象とする動物の種類や業務内容にも多少違いがあるため、希望する進路をよく考えて、就職先を探しましょう。
獣医師の転職状況・未経験採用
臨床経験を生かして転職する人も
新人獣医師の約半数は、ペットを診る「小動物臨床獣医師」として動物病院に就職しています。
ただし、その後のキャリアは人によってさまざまです。
動物病院から製薬会社などに転職し、臨床経験を生かして新しい薬を開発したり、より専門性の高い動物病院に転職したりする例はあります。
獣医師は高い専門性が求められる仕事で、なるためのハードルも高いため、異業種から新たに獣医師になる人はあまりいません。
獣医師免許を取得していれば、民間企業や研究機関、自治体など、さまざまな分野で獣医師として活躍できるチャンスはあります。
獣医師法とは? 届出が必要?
獣医師免許の保持者は2年に1回の届出が必要
「獣医師法」とは、獣医師の任務をはじめ、獣医師試験や獣医師免許の内容などに関して定めた法律のことです。
獣医師法は、「総則」「免許」「試験」「業務」「獣医事審議会」「罰則」の6つの章で構成され、第1条から第29条に分かれています。
獣医師法第22条の規定では、獣医師は2年ごとに、氏名や住所等を都道府県知事を経由して農林水産大臣に届け出ることが義務づけられています。
この届出の目的は、獣医師としての就業状況や、移動状況を的確に把握することとされています。
もし届出を忘れてしまった場合、免許取り消しや業務の停止命令を出される場合もあるとされるため、獣医師になった人は注意が必要です。
公務員の獣医師の仕事内容
行政の立場で動物の管理や検疫に関わる仕事をする
獣医師は、民間の動物病院や製薬会社などに勤務する以外に、「公務員」として働く人もいます。
公務員の獣医師は、大きく「国家公務員」と「地方公務員」に分かれます。
国家公務員の獣医師
国家公務員の獣医師は「農林水産省」と「厚生労働省」で採用が行われています。
農林水産省は「獣医系技術職員」、厚生労働省では「獣医系技官」と呼ばれ、いずれも獣医師免許を生かし、検疫所などに勤務します。
おもな仕事内容は、外国からの輸入食品が食品衛生法に適合しているかの確認や、人体に悪い影響を及ぼす微生物が付着していないか検査・監督指導、あるいは他国の食品安全情報の収集などです。
地方公務員の獣医師
地方公務員の獣医師は、国家公務員以上に多様な場で活躍しています。
役所や食肉衛生検査所、家畜保健衛生所、畜産・林業・水産試験場、さらには動物園や水族館、保健センターなどに勤務する人もいます。