救急救命士の特定行為とは

救急救命士が誕生した経緯・歴史

1987年、当時勢いよく需要を増やしつつ、多様化・複雑化が進んでいた救急活動の医療サービスを向上させるため、「災害救急情報センター」が設置されました。

24時間体制で医師を配置し、救急処置に必要な助言・指導の提供をするためです。

しかし、当時は「救急隊員は医師ではないため医療行為をおこなうことはできない」とする法律があり、救急搬送時の医療行為は一切することができませんでした。

医師の助言があっても医療行為をおこなうことができず、目の前で苦しんでいる傷病者に救いの手を差し伸べることができない状況は世論の反応を呼び、救急救命士の必要性が強く訴えられました。

諸外国と比べて救命率や社会復帰率が低いという実情も後押しをして、1991年にようやく救急救命士が誕生し、救急救命士法が制度化されました。

救急救命士ができること・できないこと

救急救命士は、一刻一秒を争う現場に出動して人の命を救うために力を尽くします。

重体の傷病者の命を救うためには、できる限りの施術をする必要がありますが、どんな処置をおこなってもいいわけではありません。

気管の挿入や薬剤の投与といった医療行為は身体への負担が大きく、医師の診察なく実施すると、逆に症状を悪化させる危険性をはらんでいます。

そうしたことから、医師ではない救急救命士は、原則として医療行為ができません。

ただし、救急救命士が病院の医師と無線で連絡を取り、医師の指示を受けることでおこなうことができる医療行為もいくつかあります。

このように、救急救命士に許されている医療行為のことを「特定行為」といいます。

具体的な「特定行為」とは?

救急救命士法で定められている具体的な「特定行為」には、以下の5点があります。

(1)乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液
(2)医療器具を使用した気道確保
(3)エピネフリン(強心剤)の投与
(4)心肺機能停止前の静動脈確保と輸液
(5)低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与

上に述べた5点のうち、4と5は法律の改正によって、平成26年4月1日に追加されたものです。

救急搬送の数がどんどん増えていることから、特定行為の拡大も期待されているのです。

実際、救命救急士にできることは度重なる法の改正で着実に増えてきています。

なお、救急救命士が特定行為をするためには、その内容によってそれぞれ研修を受けなくてはなりません。

特定行為をめぐる諸問題

特定行為が増えれば、救急救命士の医療行為の範囲も広がります。

しかし、平成26年以前は特定行為が少なかったので、一刻を争う重体の傷病者に薬剤が十分に投与できない、呼吸停止の場合に気管の挿入が十分にできないといったケースがありました。

適切な応急処置を施せないがために、傷病者の死亡率が上がっているのではないかという議論が進められたのです。

また、現場の救急救命士からすると、できる処置が制限されていることで、助けられる命が助けられないということにもなります。

こうした背景のなか、新たに特定行為が拡大され、おおいに話題を集めました。

特定行為については、今後も議論の進展とともに変化していくことが考えられます。

また、「救急救命士の活動範囲を病院などの救急外来へ拡大するか」についても議論がおこなわれています。