救急搬送した方からの「ありがとう」の声が、大きな力になる

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救急救命士鈴木 尚子さん

1979年生まれ。神奈川県出身。高校卒業後、民間企業での勤務を経て、東京消防庁職員採用試験(一般職)に合格後、入庁。平成14年から消防吏員となり、現職は丸の内消防署警防課救急係主任。階級は消防司令補。
座右の銘:継続は力なり

現在の仕事内容を教えてください。

丸の内消防署の「救急隊」で救急救命士として隊長を務めているほか、災害現場での情報収集や各隊への伝令を行う「指揮隊」としての業務も行っています。

救急隊長として救急車に乗っている時は、傷病者に対して適切な処置を行って迅速に医療機関へ搬送すると共に、各隊員を指揮することが主な役割となります。

鈴木さんが救急救命士になるまでのご経歴を簡単に教えてください。

高校卒業後、一度は民間企業へ就職したのですが、昔から「公務員になりたい」という思いがあり、どうしても諦めきれずに会社を退職しました。

その後、公務員志望者向けの学校で一年間学び、東京消防庁へは事務職として採用され、入庁しました。

数ある公務員の中で東京消防庁を志した理由は、受験生時代に消防署へ願書を取りに行った際、そちらで働く方々の印象がとても良く、自分も同じところで働きたいと思ったからです。

事務職として2年間働いたのち、消防吏員、いわゆる消防官に切り替えるための試験を受けて合格しました。消防官としては2013年で11年目になり、救急救命士になったのは2年半ほど前のことです。

一般的に、消防署で働く救急救命士にはどのようにすればなれるのですか?

救急救命士は国家資格で、なるためには主に2通りの方法があります。1つは高校卒業後、救急救命士の養成校で学び、国家資格を得たのちに消防官採用試験を受験し、消防官になる方法。所定の研修を受け終えたのち、救急救命士として活躍できます。

もう1つは先に消防官となり、入庁後、救急救命士になる前段階の資格を取得したのち、2000時間もしくは5年の実務経験を経ることで、救急救命士の受験資格を得る方法です。

近年は、先に救急救命士の資格を取る人も増えていると感じます。ただし、いくら救急救命士の国家試験に早く合格したとしても、消防官の採用試験にも合格しなければ、消防署で働くことはできません。

鈴木さんは、どのような理由で事務職から消防吏員へと切り替えたのでしょうか?

事務職は福利厚生や経理など、消防署で働く「職員」に対しての仕事が多くなります。

消防組織を縁の下で支える上では欠かせない立場ですが、私は仕事を続けるにつれて、都民の方へ防災意識を訴えかけたり、人々を災害から守る業務に直接携わりたいと思うようになったため、消防吏員を目指しました。

事務職から消防吏員になるケースは多いのですか?

決して珍しいケースではないと思います。私と一緒に事務職として入った同期生22人のうち、5人が消防吏員に切り替えていますから。

しかし、誰でも希望が叶うわけではありません。切り替えの試験は年に一度行われるのですが、消防官職員採用試験と同じ内容の試験を受けなければならず、年齢制限もあります。

きちんと勉強しなければ、合格は難しいと思います。

救急救命士としての勤務サイクルを教えてください。

「交替制勤務」として、3日に一度、24時間働くサイクルになっています。部隊は1部、2部、3部に分かれており、それぞれが交替で出勤(1日目)→非番(2日目)→週休(3日目)を繰り返します。

救急救命士の仕事は、土日が休みというわけではありません。ただし、3週間に1回は土日休みと日勤の日が入ります。日勤の日は、8時30分~17時15分という時間で勤務します。

消防吏員になったことで、どのようなやりがいを感じましたか?

都民の方と接することが多いため、「ありがとう」と言葉で反応を返していただける機会が多く、そこに大きなやりがいを感じています。

たとえば、医療機関へ搬送した方やそのご家族の方から後日、体調の経過とあわせて感謝のお手紙をいただくことがあります。そのようなときは「助けることができて良かった!」と達成感が味わえますし、それが仕事の励みとなります。

人の命に関わる仕事ですからプレッシャーは大きいですが、その分やりがいは計り知れません。

一方、厳しさや大変さを感じるのはどんなことですか?

救急車に乗る場合、どうしても食事の時間や睡眠時間が不規則となって体調を崩しやすくなります。また、常に手袋を装着するため、どうしても手が荒れがちです。

救急救命士は、深夜の仮眠中でも指令の無線が入れば即座に出動しなければなりません。忙しい日は署に戻らず、現場を次から次へと移動して徹夜状態になることもあります。

このような多忙な仕事ですから、日々の体調管理がとても大切です。

私の場合は山で軽い登山を楽しんだり、ミュージカルを鑑賞することでリフレッシュしています。

救急隊は、どのような場合に出動されることが多いのですか?

地域によって異なりますが、丸の内消防署の救急隊の場合、日中は通勤中や職場での怪我・体調不良による出動指令がほとんどです。特に夏は熱中症、冬はインフルエンザで体調を崩される方が多くなる傾向にあります。

救急救命士が法律に基づき、心肺停止状態の傷病者に対し医師の指示を受けて適切な処置を行うことを「特定行為」といいますが、この処置を実施する数は、地域によって差があります。

住宅地等では、より特定行為を行う機会が増えると思います。

仮眠時間帯中の出動指令はどれくらいありますか?

日によって異なりますが、何件と続いて入る日もあります。現在は23時20分から翌6時までが仮眠時間になっており、基本的には一斉に休みます。出動指令は署内に音声で流れるため、たとえ仮眠についていたとしてもすぐに気付きます。

また、乗車する車の種類や階級によって「通信勤務」や「受付勤務」という業務に、1時間交代で従事します。

この業務は、119番通報を受ける災害救急情報センターというところから流れてくる出場指令や、都民からの問い合わせなどの対応を行うものです。

災害はいつ起こるかわかりませんから、24時間体制を取らなければならないのです。

待機時間中にはどのようなことをしているのですか?

主に資器材(装備)の確認や活動報告書の作成事務処理などを行っています。訓練や体力錬成も行いますが、実際は出動する時間が長く、なかなかそういった時間が割けないことが多いですので、少しの合間を見つけて行っています。

東京消防庁では、女性職員の方も多く活躍していらっしゃるのでしょうか?

はい、女性の活躍も目立ちます。平成25年4月1日現在、東京消防庁の救急隊員総数5,957名のうち、6.5%(387名)が女性です。同様に救急救命士でいうと、2,021名のうち9%(182名)が女性となっています。

ポンプ隊やはしご隊として災害現場へ出動しながら交代制勤務で働く女性消防官もいますし、予防課などに所属して毎日勤務で働く人もいます。以前に比べ、女性ができることはどんどん増えています。

産休や育児休暇の環境は整っていますし、実際に取得している方も多くいらっしゃいます。もちろん休暇後に復帰することも可能です。

消防組織でのキャリアアップはどのようになっていますか?

ある程度の階級までは昇任試験が行われており、採用区分によって必要な経験年数を満たした上で試験に合格しなければ、上の階級になることができません。

筆記試験では、消防に関する全ての業務に関する問題が出題されるため、たとえ救急隊に所属していても、火災予防の知識も問われます。

普段業務で接しない分野はおろそかになりがちですので、休日などを利用して自分で勉強する必要があります。

消防の仕事全体で考えると、救急車に乗るには救急の資格が必要ですし、救急車を運転するにはまた別の資格が求められます。消防車やはしご車を運転する場合も同様で、それぞれに資格が必要です。

また、枠は小さいものの、船舶免許をとって消防艇の操縦士になる人や、ヘリコプターの操縦士免許をとって消防ヘリコプターのパイロットになる人もいます。

入庁後、興味を持ったことに対して一生懸命勉強と訓練を重ねれば、さまざまなポジションに就ける可能性がある職場です。

今後の目標を教えてください。

現在の「消防司令補」という階級になってからまだ日が浅いため、まずは救急隊長としてきちんと指揮をとれるようになることが一番です。

その後は、部下に目標とされるような隊長を目指していきたいと考えています。

救急救命士に向いているのは、どのような人だと思いますか?

救急救命士は、人の生死に関わる仕事です。時につらい思いをすることもあるかもしれませんので、打たれ強さや強い精神力を持っていることは必要だと思います。

何かあった時、引きずってしまって次の仕事に影響が出るのは良くありませんから、気持ちを上手に切り替えることが求められます。

また、たくさんの人々と接するため、思いやりは欠かせません。私自身、どんな時でも都民の方と同じ目線に立って接するように心がけています。

「救急救命士になりたい」「消防組織で働きたい」と考えている人に向けて、メッセージをお願いします。

仕事というものは、自分が心から好きになれないと頑張れないですし、やりがいもなかなか出てこないでしょう。まずは経験してみることで、少しずつその魅力がわかってくるものだと思います。

もし今、みなさんが消防や救急救命士の仕事を「難しそう」と思っていたとしても、少しでも興味があるなら、ぜひ勇気を持って挑戦してみてください。

女性でも、さまざまなことに挑戦できる仕事です。私自身、もともと体力にはあまり自信がありませんでしたが、消防学校で訓練を重ねるうちに体力がついていきました。

仕事のやりがいは保証します。いつか仲間になれることを楽しみにしています。