航空整備士の需要・現状と将来性

航空整備士の現状

団塊の世代が大量退職、人手不足が加速

大手航空会社では、昭和40年代ごろから50年代にかけてジャンボジェットが急速に普及するのに伴い、大量に航空整備士の採用を行っていた時代がありました。

そのような背景もあり、現在の航空整備士の年齢構成は、50代~60代の「団塊の世代」といわれる割合が非常に高くなっている傾向です。

団塊の世代の定年退職はすでに始まっており、今後は大量のベテラン整備士たちがすっぽりといなくなる危機が迫っています。

一方で、少子化などの影響で若者の母数自体が減ってきていることもあり、整備士を目指す若者はかつてよりも少なくなってきています。

このまま進むと、将来的に日本の空運が機能しなくなる恐れもあるため、整備士を目指す人材を確保し、かつ技術継承し育成していくことが、航空業界だけでなく国としての急務となっています。

航空整備士の需要は拡大、2030年には2倍に

グローバル化が進み、訪日外国人や海外旅行者も増えるなか、航空需要は世界的に増加傾向です。

航空需要増加に比例して整備士の需要も増加していくと予想されており、とくに路線拡大が進む「LCC(格安航空会社)」においては、今後より多くの整備士が必要になると注目されています。

具体的なデータとしては、国土交通省が公表する「乗員政策等に係る検討について」によれば、「世界的な航空整備士の需要について、2030年には2010年の約2倍にまで拡大する」との見通しが立てられています。

さらにアジア/太平洋地域に限定すると、「2030年には2010年の約3.5倍にまで整備士需要が拡大する」との見通しが立てられているようです。

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航空整備士の需要

求人は多いが、市場のニーズは経験者

航空整備士は人手不足が進んでいることもあり、現在、航空業界の各会社が積極的に若手整備士を求めています。

航空整備士向けの求人も全体的に増加傾向にあり、とくに近年はLLC系の航空会社、航空整備会社の求人が目立ちます。

しかし、航空整備士は高度な専門技術が必要な仕事である分、一人前の整備士に育て上げるには、教育に多くの時間やコストが必要です。

それもあってか、いくら人手不足とはいっても、まったくの未経験者向けの求人というのは少なく、その大半は「経験者向け」や「航空整備士資格保有者向け」、もしくは「航空整備分野を学んだ学生向け」の求人が占めています。

市場のニーズは経験者に重きを置いており、すでに経験のある人材であれば、転職先などは見つけやすい状況です。

未経験向けの求人の状況

割合としては少ないものの、中小やベンチャーの航空整備会社などであれば、「未経験者OK」「未資格者OK」といったように、採用のハードルを低めにした求人を出している会社もあります。

ただし、未経験で採用された場合、基本的に整備の「補助作業」が中心です。

航空機の整備を本格的に行うには、「一等航空整備士」や「二等航空整備士」の国家資格が必要となるため、未経験で就職した場合には、補助作業をしながら実務経験を積み、まずは資格取得を目指す必要があります。

新卒採用の状況

「JAL」や「ANA」といった大手航空会社は、技術系の総合職として、毎年50名程度の新卒学生を採用しています。

技術系の総合職として採用され、整備部門などに配属されると、航空会社に席を置きつつ、航空機の整備に携わることができる場合があります。

なお、航空会社の技術系総合職の場合、「4年制大学または大学院の理系学部・学科で学んだ学生」を対象にしている会社が多く、短大や専門学校の学生ではエントリーできないことがあるため注意が必要です。

一方、「JALエンジニアリング」「ANAラインメンテナンステクニクス」といった航空整備会社では、「航空整備士職」として、毎年80名程度の新卒学生を採用しています。

航空整備会社の場合は、4年制大学や大学院に限定せず、短大や専門学校で学んだ学生も採用対象にしている会社が多いです。

ただし航空整備会社の場合は、航空整備士としての専門職採用となりますので、基本的には航空系の学校にて航空整備について学んだ学生が対象となってきます。

航空整備士の将来性

当面は航空整備士の需要あり

前述したように、航空整備士の需要は2030年の段階で2010年の約2倍にまで拡大するとの見通しが国土交通省によって立てられています。

とくにLLC(格安航空会社)に対しては、規制緩和や空港の受け入れ体制の拡大など、国をあげての成長戦略が練られており、今後はよりLLCの便数が増え、航空整備士の数もさらに必要となる可能性があります。

また、大量の人数を誇る団塊の世代もこれから随時定年退職していき、席自体はどんどんと空いていくことになるため、今後も当面の間は、航空整備士の売り手市場が継続すると考えられます。

IT化による効率化が進む

航空整備士の人手不足が進む一方で、ITを使った効率化対策も始まっています。

近年の航空機には、エンジンや機体のあらゆる箇所にセンサーが設置されており、不具合が起こりそうな箇所や整備が必要な箇所をコンピュータが管理してくれています。

航空整備士はそれらのデータ情報をもとに整備を進められるため、以前よりも作業の効率化が図られています。

他にも、たとえば大手航空会社の「JAL」は、航空整備士向けのiOSアプリをIBMと協力して開発し、タブレットやスマホを用いて整備業務の効率化を図っています。

アプリ上で、フライト情報・燃料情報・整備履歴など航空機関連のさまざまな情報を観覧できるシステムであり、多くの整備士が作業する航空整備の現場のタスク管理において、大きな恩恵となっているようです。

このようにITを用いた効率化が図られていけば、将来的にITによって人手不足がある程度解消される可能性もあります。

そうなると航空整備士にとっては、便利で仕事がスムーズになる反面、人手が足りてしまい売り手市場ではなくなってしまうリスクもあります。

今後は、そのようなITツールを使いこなす力も、現場の航空整備士に求められてくるでしょう。

人工知能によって仕事が奪われる可能性

現在、人口知能(AI)やロボットなどの開発が進んでおり、近い将来、今ある多くの職業は人工知能やロボットに奪われると危惧されています。

これは航空整備士も、例外ではありません。

とはいっても、想定外に壊れたものを正しい状態にする整備作業はそう単純ではなく、その時々の機体の状態に応じて臨機応変に対応する、高度な思考や判断も必要になります。

それを人口知能に任せていいのかという問題もあり、たとえ人口知能が登場したとしても、簡単な作業部分のみしか対応はできないという声もあるようです。

ただし、人口知能がどこまで進化するかは未知数でもあり、2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)を迎え、人口知能が人間のあらゆる能力を越えるともいわれています。

まだ遠い先の話ではありますが、もしも人口知能が人間を越えるほどの思考回路や作業スキルを身に付けた場合は、航空整備の仕事が奪われる恐れもあり得るでしょう。

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航空整備士の今後の活躍の場

活躍の場1:航空機関連メーカー

「航空機関連メーカー」とは、航空機本体や航空機のパーツを開発・製造するメーカー企業を指します。

大手であれば「三菱重工業」や「川崎重工業」などが代表的です。

航空機関連メーカー側も、近年は技術者の人手不足が進んでおり、専門技術を持った働き手を求めています。

そのため、同業界の技術職である航空整備士を迎い入れる航空機関連メーカーも増えてきているようです。

航空整備士が航空機関連メーカーに転職すると、メーカーが製造する完成品の航空機の整備などに携わることができます。

さらに、メーカーの開発チームに加わり、航空機の開発に携われるケースもあるようです。

活躍の場2:自動車整備士

航空整備士としての整備経験を生かし、同じ整備職である「自動車整備士」に転身する道もあります。

この2つの職業には資格としての関連性もあり、航空整備士の資格を所持していると、自動車整備士試験が受験しやすくなる特典があります。

具体的には、「一等航空整備士」の資格を所持していると、「2級自動車整備士試験」および「3級自動車整備士試験」の受験資格として必要となる実務経験期間が短縮されます。

自動車整備業界も人手不足が進んでいる業界であり、同じ整備士として業務に共通する部分もあるため、異業界であっても比較的活躍しやすいでしょう。