航空整備士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「航空整備士」とは

航空整備士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

膨大な部品から成り立つ航空機の整備・点検を行い、フライト中の事故を未然に防ぐ。

航空整備士とは、航空機の整備や点検を行う技術者のことです。

航空機は非常に複雑な仕組みでつくられており、また最先端の機器や精密な部品が数多く使われています。

ちょっとした不具合が大事故につながってしまう可能性があるため、整備にはとくに力を入れなくてはなりません。

航空整備士になるには、まず航空整備の専門学校か大学の工学部に進学し、航空整備の知識・技術を身につけて、在学中に整備士の国家資格取得を目指すのがスタンダードな方法です。

卒業後は、航空会社系列の航空整備会社に就職する人が多いですが、航空機やヘリコプターを保有する新聞社やテレビ局、警察や消防などで活躍する人もいます。

現在は大勢のベテラン整備士が定年退職を迎え、熱意ある若手整備士が求められています。

また、もともとは男性が多い職業でしたが、近年は女性整備士の数も増え、また整備作業にITが活用されて効率化が進むなど、さまざまな変化が見られます。

「航空整備士」の仕事紹介

航空整備士の仕事内容

航空機の整備・点検を行う技術者として活躍する

航空整備士とは、航空機の整備や点検を専門に行う技術者で、フライトには欠かせない職種のひとつです。

航空機は、最先端の機器や精密な部品の集合体で、非常に複雑な仕組みでつくられています。

整備にも時間がかかるため、現場ではエンジンを専門にチェックする人、ドッグでの整備を主に担当する人、整備部品を担当する人など、各整備士が専門のチームに分かれて、分担して作業を行います。

確かな整備業務によってトラブルや事故を防ぐ

航空整備士の業務内容は、大きく「ライン整備」「ドック整備」「ショップ整備」に分かれます。

・ライン整備:フライト前の航空機や到着機の整備・点検といった日常的な業務
・ドック整備:格納庫にて行う大掛かりな整備作業
・ショップ整備:エンジン、コンピューター系統、油圧系統といった機体の心臓部を機体から取り外し、さらに精密に整備する業務

航空整備士は、これらの整備業務を組み合わせて実施することで、常に安全なフライトを実現し、トラブルや事故を未然に防ぎます。

航空会社や整備会社以外の場(警察・消防など)に勤務する場合にも、各組織が保有する航空機の整備にあたる点は同じです。

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航空整備士になるには

航空整備について学べる大学・専門学校への進学がおすすめ

航空整備士が扱う航空機は、複雑で高度な機械や部品から成り立っているため、それを整備するには専門的な知識・技術の習得が必要です。

なるためのルートはいくつか考えられますが、中学卒業後に機械・工学・航空学などを学べる高校に進むと、早くから航空整備士としての基礎を固めやすいでしょう。

なお、高校を出て即就職することも不可能ではありませんが、高校新卒者を整備士として採用する会社はそこまで多くありません。

そのため、航空整備士向けの大学や専門学校に通い、より専門的な知識と技術を蓄えてから、航空会社や航空整備会社に就職するのが一般的なルートです。

在学中に整備士の国家資格を取得できる学校も

航空整備士として機体整備に携わるには、航空整備士の国家資格が必要です。

国土交通大臣による「指定航空従事者養成施設」や「航空機整備訓練課程」として指定されている大学や専門学校に通えば、在学中に基礎的なレベルの国家資格取得を目指せます。

大手の整備会社では、このように大学や専門学校でしっかりと航空整備について学び、基礎資格を得た人を優先的に採用する傾向が見られます。

なお、航空整備以外の一般の大学を卒業した場合は、航空会社の「総合技術職」などの職種に応募することになるでしょう。

ただしこの場合、品質保証や機体計画といった整備業務以外の職種に配属されたり、技術部門を管理する役割を期待されたりすることも多いです。

整備士として現場で働き続けたい人は、やはり学校で航空整備の勉強をし、各社へ整備士として応募するのがよいでしょう。

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航空整備士の学校・学費

国から指定されている学校に通うと、在学中に国家資格の取得が可能

航空整備士を目指す人におすすめの学校は、航空に関する勉強ができる大学や専門学校です。

とくに「指定航空従事者養成施設」や「航空機整備訓練課程」として定められている学校に通うと、在学中に試験に合格することで、中小航空機の整備に携われる「二等航空整備士」や「二等航空運航整備士」の国家資格が取得できます。

加えて、近年ではJALやANAと提携することで、より上の資格である「一等航空運航整備士」が取得できる学科・コースも誕生しています。

航空整備士の資格を取得しておけば、整備会社等への就職時にも大きく有利になります。

高校卒業までに航空整備士を目指したいと考えているのであれば、国から指定されている学校に通うとよいでしょう。

一般的な大学から航空整備士になれる?

一般的な4年制大学を卒業し、航空整備士を目指すことも可能です。

その場合、航空会社の「技術総合職」に就職し、航空整備に携わる道のりが考えられます。

ただし、技術総合職は適性に合わせて配属先が決まり、必ずしも航空整備業務に就けるとは限りません。

また、航空整備士の資格を得るには、就職後に整備業務に携わって一から指定年数の整備経歴を積む必要があるため、航空整備の学校を出た人よりも、整備士としてのスタートはやや遅れます。

航空整備士の資格・試験の難易度

扱う機体の種類や業務範囲に応じた国家資格が複数ある

航空機の整備を行うには、国家試験に合格して航空整備士の国家資格を取得する必要があります。

航空整備士の資格は、扱う航空機の種類や、業務範囲に応じて以下のような種類があります。

・一等航空整備士
・一等航空運航整備士
・二等航空整備士
・二等航空運航整備士
・航空工場整備士

それぞれ「〇〇航空整備士」は整備全般に携わることができる上位資格で、「〇〇運航整備士」はライン整備のような軽微な整備にのみ携わることができる下位の資格です。

空港でジャンボジェット機のような大型旅客機の整備に携わりたい場合には、最終的に「一等航空整備士」を目指す必要があります。

なお、それぞれの資格で受験資格が設けられており、所定の「年齢」と「整備経歴」を満たす必要があります。

たとえば、18歳で高校卒業後、無資格の状態で航空会社や航空整備会社に就職した場合、そこで整備経歴を4年間積むことによって「一等航空整備士」の受験資格を得られます。

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航空整備士の給料・年収

経験を積み、上位の資格取得によって昇給していく

航空整備士は、専門的な技術を駆使して働く職種であるため、経験を重ねて難しい業務に携わるようになり、上級の資格を取得する過程において昇給が望めます。

求人サービス各社の統計データを基にすると、航空整備士の平均年収は450万円~600万円程度が目安と考えられます。

航空専門学校卒業生の初任給は17万円~20万円ほどですが、年功序列の企業も多く、勤続年数を重ねるごとに給料は上がっていきます。

空港で働く航空整備士は夜勤も入ることが多く、夜勤手当が上乗せされて収入の底上げにつながることがあります。

大手航空会社系列の整備会社は比較的待遇がよい

航空整備士の勤務先のなかでも、とくに大手航空会社系列の整備会社は待遇がよく、福利厚生も充実しています。

ボーナスの支給のほか、家族手当や住宅手当などの諸手当も豊富に用意されていることが多いです。

また、航空整備士には「ライン確認主任者」「出発確認主任者」「装備品確認主任者」といったような社内資格も豊富にあり、各資格取得ごとに手当がついたり、給料査定でプラス評価を受けたりすることがあります。

警察・消防などの官公庁で働く場合は、公務員として安定した収入が望めるでしょう。

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航空整備士の現状と将来性・今後の見通し

熱意をもった若手整備士は常に求められている

現在の航空整備士を取り巻く状況は、「団塊の世代」といわれるベテラン整備士が相次いで定年退職を迎えたことや、少子化の影響で整備士希望の若手人材が減っていることなどにより、常に新しい人材が求められています。

これから航空整備士を目指す人にとっても、チャンスは十分にあるといえるでしょう。

しかし、いざ航空整備士になっても、それはキャリアのスタート地点にしか過ぎません。

この職業は自分の腕で勝負する「技術職」であるため、仕事をこなしながら現場経験を積み、上級の資格取得を目指して勉強を続けることで、仕事の幅が広がっていきます。

また、航空整備士の大半は整備会社に勤務しますが、航空機メーカーなど、航空機製造の現場でも航空整備士の参加が求められることがあります。

近年は女性の航空整備士も徐々に増え、管理職になる女性整備士も出てきており、本人の意欲次第では多方面に活躍できる可能性を秘めた職業です。

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航空整備士の就職先・活躍の場

航空機の整備会社を中心に活躍する

航空業界と深いかかわりのある航空整備士ですが、その多くはJALやANAといったエアライン(航空会社)に所属しているわけではありません。

たいていの場合、エアライン系列、もしくは独立系の整備会社に勤め、全国各地の空港を整備の現場として働いています。

航空機を扱う整備会社は全国に大小さまざまなところがあるため、就職時にはよく調べてみましょう。

このほかにも、小型飛行機やヘリコプターを運航する航空機使用事業会社、航空機メーカーや航空機系エンジニアリング会社などの航空機系企業、警察や自衛隊などの官公庁などでも、整備士の求人が出ることがあります。

航空整備士の1日

空港では交代制で勤務するのが一般的

空港での航空機整備は、昼夜問わず24時間体制で行うのが基本で、空港で働く航空整備士は、朝番・遅番・夜勤の「3交替制」のシフト勤務となることが多いです。

一方、官公庁・テレビ局・新聞社など空港以外で働く航空整備士は、朝から夕方までなど、決まった時間帯で毎日働くこともあります。

ここでは、空港で働く航空整備士の1日(ライン整備、早番)を紹介します。

7:30 出社
8:00 業務準備
8:15 航空機の立ち上げ
8:30 ライン整備作業開始
12:00 昼食
13:00 午後のライン整備作業開始
16:30 作業終了、片付け
16:45 次のシフトの担当者へ引き継ぎ
17:00 退社
20:00 帰宅後、資格取得に向けた勉強

以下は、空港で働く航空整備士の1日(ドック整備、夜勤)のスケジュール例です。

22:30 出社
22:45 業務準備
23:00 ドック整備作業開始
1:00 休憩
2:00 作業開始
7:30 作業終了、片付け
7:45 次のシフトの担当者へ引き継ぎ
8:00 退社
9:00 帰宅後は、自由行動

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航空整備士のやりがい、楽しさ

最先端の航空技術に触れ、チームで仕事を成し遂げる

航空機には、最新の技術や装置が多数搭載されており、まさに「ハイテクの塊」です。

航空整備士は、それらのしくみについて専門的な知識を身につけ、自分の目で確認しながら、一つひとつ整備業務を行っていきます。

「飛行機が大好き!」という人は大勢いますが、一般の人からは目に見えない機体の裏側まで見て、触れられることに、興奮を覚える整備士は多いです。

とくに機械や航空技術に興味がある人にとっては、新鮮で刺激的な日々を送れるでしょう。

また、航空整備士はそれぞれが専門分野を持ち、お互いにプロフェッショナルとして尊敬し合いながら働いています。

大勢の乗客の命を運ぶ航空機の安全は、航空整備士の手にかかっているといっても過言ではありません。

一人ひとりの整備士が誠実に行動することで、航空機の安全は保たれています。

非常に責任重大でプレッシャーはありますが、チームで協力して航空機の安全を守るという誇りを持って働くことができるでしょう。

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航空整備士のつらいこと、大変なこと

人の命にも関わる仕事をする責任の重さ

人の命にも関わる仕事をする責任の重さ

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航空整備士に向いている人・適性

機械や細かな作業が好きで、まじめな性格の人

航空整備士が扱う航空機は、大小合わせて何万という多数の部品から成り立っています。

また、最新鋭の装置もたくさん搭載されており、整備士として活躍するには、それらのしくみや構造を覚えていかなくてはなりません。

もともと機械が好きで、手を動かして細かな作業をするのが得意というタイプの人には、航空整備士の仕事は楽しいものとなるでしょう。

もうひとつ航空整備士にとって大切なのは、責任感がをもって仕事に取り組むことです。

航空機は、ほんの些細な不具合でも、のちのち重大事故につながる恐れがあります。

また、自分の「これくらいなら大丈夫だろう」という慢心や嘘が、大きなトラブルになることも考えられます。

簡単な作業でも一つひとつ確認しながら進めること、そして常に謙虚さと誠実さを持って行動できる人が、航空整備士に向いています。

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航空整備士志望動機・目指すきっかけ

飛行機が好きという気持ちが原点に

航空整備士の志望動機として多いのは、「子どものときから飛行機が好きだったから」というものです。

空港で航空機を見るのが大好きだったり、知らない機種を見つけると興奮して思わず写真に収めてしまったりと、航空機に強い興味関心を抱いていたという人がよくいます。

また、機械いじりが好きで、航空機の高度な技術に憧れを抱き、自分でも触ってみたいといった思いから、航空整備士を目指す人もいます。

もともとは高校や大学で工学や機械学などを広く学んでいた人が、航空テクノロジーについて知るうちに、航空機を専門にしたいと考えるケースもあるようです。

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航空整備士の雇用形態・働き方

多くは正社員として整備会社へ就職する

航空整備士は多くの場合、整備会社などの正社員として雇用されます。

就職先は、民間の航空会社系列の整備会社や、航空会社以外の独立系整備会社などが多く、社員の整備士として現場で実務に携わりながら上位の整備士資格を取得し、キャリアアップを目指します。

人によってはJALやANAといった航空会社の「技術総合職」として入社し、整備部門に配属されることで、航空整備の業務に従事することもあります。

ただし、技術総合職は幹部候補としての役割を期待されることが多く、整備以外の技術的な部門の仕事も経験することが多いです。

人によっては、警察や消防、海上保安庁や航空・陸上自衛隊などの官公庁に入り、公務員として整備業務に従事します。

勤務時間や休日など細かな就業条件は、勤務先によってもまったく異なります。

航空整備士の勤務時間・休日・生活

空港では夜勤を含むシフト制勤務が基本

航空機は早朝から深夜まで離着陸を繰り返すため、空港で働く整備士の場合、24時間を交代制(シフト勤務)で働くのが一般的です。

勤務時間帯は会社によってまちまちですが、たとえば3交代制をとっている会社では、1日目は早番、2日目は遅番、3日目は夜勤、4日は夜勤明け、5・6日目は休みといった形を繰り返して働きます。

1日の労働時間は平均7.5時間〜8時間程度となっています。

日によって残業をすることもありますが、交代制勤務をとっていることから、残業時間はさほど多くない職場が多いようです。

ただし、急を要する整備が入った場合やトラブル時には、夜中に呼び出されることもあります。

官公庁など、一部の職場では日勤を中心とした固定勤務制をとっているところもあります。

関連記事航空整備士の勤務時間・休日

航空整備士の求人・就職状況・需要

積極的な定期新卒採用を行う整備会社は多い

航空業界は、不況や各社間の競争激化によるコスト削減が避けられない問題となっており、各整備会社では、できるだけ優秀な人材を採用したいという思いがますます強くなっています。

そのため、航空整備士を目指す人向けの学校の一部では、JALやANAと提携することで、在学中に「一等航空運行整備士」資格が取得できるコースも登場し、即戦力として働ける人材の育成に乗り出しています。

現場では、ベテラン整備士の定年退職や、航空機の発着数増加により航空整備士の需要は高まっています。

航空整備士の学校には整備会社等からの求人情報が多数届くため、在学中に真剣に学業に取り組んでいれば、希望の就職先に内定を得られるチャンスは十分にあるでしょう。

航空整備士の転職状況・未経験採用

経験者は転職しやすいが、未経験者は年齢も考慮を

大手エアライン系列の整備会社では、航空整備士は新卒採用を中心に実施しています。

ただし、中途採用がまったくないわけではなく、とくに大手エアライン以外の航空会社では、すでに航空整備士の資格を持っている経験者の中途採用を積極的に実施するところも見られます。

中途採用では「一等航空整備士」の資格を持っていれば優遇されるケースが多いですが、なかには「二等航空整備士」の資格でも応募できるところもあります。

航空整備士の人手不足が進んでいることから、経験者にとっては転職もしやすい状況です。

一方、未経験者の場合は、まず航空整備士の学校に通うことを考えなくてはなりません。

資格取得にあたって年齢の上限が設けられている職業ではありませんが、資格取得や一人前になるまでの時間を考慮して、できるだけ早く行動に移すほうがよいでしょう。