宇宙飛行士になるのは難しい? 必要な学歴や資格はある?
その魅力に惹かれ、多くの人が宇宙飛行士を目指していますが、その門をくぐるには厳しい試練が待ち受けています。
学力や体力だけでなく、精神的な強さやチームワークも求められます。
この記事では、宇宙飛行士への道のりと、採用条件について解説します。
宇宙飛行士になるまでの道のり
宇宙飛行士選抜試験を受けるには実務経験が必要
日本人が宇宙飛行士になるためには、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が行う「宇宙飛行士選抜試験」に合格する必要があります。
しかし、宇宙飛行士に必要なスキルは非常に高度であり、大学を卒業したばかりのレベルでは難しいです。
試験に応募する際には、研究開発や設計、または専門職としての実務経験が求められますので、その点を考慮しておくことが大切です。
つまり、宇宙飛行士になるためには、最初に別の職業で経験を積むことが必要とされています。
これまでの合格者の前職の一例は以下のようになっています。
以前の宇宙飛行士選抜試験では、「理系大学卒」が条件とされていました。そのため、多くの宇宙飛行士は理系の背景を持つ人々が占めていました。
しかし、2021年に行われた選抜試験では、この条件はなくなりました。
今後は、文系出身の宇宙飛行士も増える可能性があります。
試験の条件には、実務経験の他にも身長や体重、血圧、視力、聴力、色覚などの身体要件が含まれます。
また、「虫歯があると宇宙飛行士になれない」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、虫歯は治療していれば問題ありません。
ただし、宇宙服を着て船外活動を行う際には、空気圧が0.3気圧ほどに低下するため、詰め物があると圧力差で空気が入り込む可能性があります。
そのため、宇宙への飛行前には歯科医師の診断を受けなくてはなりません。
必要な条件を満たし、選抜試験に合格すると、JAXAの職員として採用され、宇宙飛行士としてのキャリアをスタートさせることができます。
選抜試験に受かってからは訓練を受ける
宇宙飛行士として選ばれると、過酷な宇宙環境でのミッションを遂行するために、さまざまな訓練を受けることになります。
一般的に、日本の宇宙飛行士はNASAの宇宙飛行士候補者と同じ「アスキャンクラス」と呼ばれるクラスで学びます。
この訓練は、アメリカのヒューストンにあるジョンソン宇宙センターで行われ、アメリカ人と一緒に英語で講義を受けることになります。
新人宇宙飛行士は、最初に基礎研修と呼ばれるカリキュラムを約1600時間かけて受けます。
この研修では、自然科学や宇宙に関する専門知識、さまざまなシステムの操作方法、航空機の操縦技術、英語やロシア語などを学びます。
基礎研修を約1年半かけて終えると、宇宙飛行士認定書を受け取り、正式な宇宙飛行士として認められます。
その後は、アドバンスト訓練と呼ばれる上級プログラムに進みます。
この訓練では、ロボットアームの操作訓練や水中での宇宙服着用訓練、冬山や海上での野外訓練などが含まれます。
これによって、スキルや体力、チームワークを向上させます。
アドバンスト訓練は、アメリカだけでなく、ロシアやヨーロッパなど、世界中の場所で行われます。
さまざまな厳しい訓練を受けながら、宇宙飛行に向けて準備を進めていきます。
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宇宙飛行士選抜試験の難易度は非常に高い
2021年12月、JAXA宇宙飛行士候補者の募集が13年ぶりにスタートし、書類選抜から第3次選抜までトータル5段階の選考を経て2023年春に宇宙飛行士候補者が決定しました。
今回の宇宙飛行士選抜試験は、倍率2000倍を超える難関でした。
まず応募者から書類選考で候補者を選び、その後、1年以上という長期間にわたって、三つのステージに分けて試験が行われました。
応募者数は4127名でしたが、各ステージを通過できるのは全体の5分の1から4分の1程度です。
最終的には三次試験をクリアした2人が宇宙飛行士に選ばれました。
46歳の諏訪理(まこと)さんの場合、世界銀行で級防災専門官としての勤務を通じて気象変動対策などの仕事に関与しながら、2度目の挑戦で史上最年長の合格を勝ち取りました。
対照的に、28歳の米田あゆさんは、女性の合格者は山崎直子さん以来、24年ぶりの女性候補者です。
28歳での合格は若田光一さん、山崎直子さんと並ぶ、最年少での選抜となりました。
日本赤十字社医療センターで外科医として勤務し日常業務をこなしながら、宇宙飛行士を目指す熱意を持っていたことが多くの人の胸を打ちました。
詳細な結果は以下の通りです。
宇宙飛行士になるための学校に制限はない
以前は、宇宙飛行士選抜試験への応募資格として、4年制大学の自然科学系学部(理学部、工学部、医学部、歯学部、薬学部、農学部)を卒業することが求められていました。
過去の合格者の出身大学は、主に東京大学や慶應義塾大学などの超難関大学で、工学部航空学科や機械工学科、理学部、医学部などの学科出身者が多くを占めていました。
しかし、2021年度に開始された選抜試験からは、学部の制限が撤廃され、文系出身者も含めて幅広いバックグラウンドの人々が応募できるようになりました。
この変更により、より多くの人にチャンスが広がりましたが、選抜試験の競争率を考えると、高学歴であり、宇宙開発に関連する学部・学科を選択することが有利とされています。
また、最近では、自衛隊出身の油井亀美也さんや金井宣茂さんなどが宇宙飛行士に選ばれました。
防衛大学校や防衛医科大学校といった経路も、宇宙飛行士の選抜において有力な選択肢とされています。
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宇宙飛行士に向いている人
好奇心旺盛で学ぶことを継続し、努力できる人
宇宙飛行士は、非常に特殊で高度な専門性を要求される職業です。
高い知力、体力、精神力、そして協調性など、さまざまなスキルを高次元で兼ね備えていることが不可欠です。
その中でも、特に重要な資質は知的好奇心です。
宇宙飛行士として求められる幅広い知識を身につけるためには、自身の興味に対する探求心が大切です。
そしてどんな努力も惜しまない意欲を持つことが必要です。
未知のことに対して興味を持ち、理解するための努力を積み重ね、疑問を放置せずに追求する知的好奇心旺盛な人が、宇宙飛行士として適しているといえるでしょう。
宇宙飛行士の仕事や訓練を知り、体験できる場もある
宇宙飛行士になることに興味はあるけれど、本当に自分に向いているのか不安な場合、実際の宇宙飛行士の訓練体験を試してみるのがよいかもしれません。
茨城県つくば市にある「筑波宇宙センター」では、一般の人々に宇宙飛行士の実務を少しでも体験してもらうため、予約制の訓練体験イベントを開催しています。
具体的な模擬訓練の内容は、「宇宙ローバー」という無人探査車の遠隔操作や、緊急時の対処方法、船外活動、閉鎖環境下での適性検査などが含まれます。
これらは宇宙飛行士が実際に行う訓練のほんの一部ですが、これを体験することで、自分の未来に対する具体的なイメージを持つのに役立つでしょう。
自分自身がどれくらいの興味や適性を持っているのか、実際の体験を通じて確かめることができるはずです。
詳細については、以下のリンク先を参照してください。
→参考:宇宙飛行士模擬訓練・体験
宇宙飛行士に向いている人・適性・必要なスキル
宇宙飛行士のキャリアプラン・キャリアパス
宇宙飛行士としてのキャリアの初期の数年間は、上述したようにさまざまな訓練に時間を費やします。
その後、NASAから宇宙での業務を十分に遂行できる能力を認められると、「ISS長期滞在クルー」として任命され、フライトエンジニアなどの役職で、初めての宇宙飛行に挑みます。
約半年間、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、さまざまなミッションを遂行した後、地球へ帰還します。
その後は地上での業務に戻りながら、次回のISS長期滞在クルーに任命される日を待ちます。
宇宙飛行士のキャリア中、何度宇宙に行けるかは個人によって異なります。
古川聡さんのように一度だけのケースもあれば、若田光一さんのように6回も宇宙に行き、船長の役職に就いたりするケースもあります。
宇宙飛行士が引退した後も、その間に得たスキルや経験を活かして、宇宙関連の仕事に従事することがあります。
宇宙飛行士の試験に年齢制限はない
JAXAが行う宇宙飛行士選抜試験には、特定の年齢制限は設けられていません。
ただし、宇宙飛行士のミッションは肉体的にも精神的にも非常に厳しいものであり、平均年齢が34歳であることを考慮すると、合格可能性の高い年齢はその前後といえるでしょう。
同様に、NASAも宇宙飛行士に特定の年齢制限を設けていませんが、ヨーロッパの「欧州宇宙機関」は、27歳から37歳までの範囲での応募を求めています。
宇宙飛行士になるためには、適切な年齢までに大学や大学院を卒業し、広範な知識と専門知識を習得し、実務経験を積むために努力することが重要です。
早い段階から宇宙飛行士を目指し、熱心に努力を重ねることが必要です。
宇宙飛行士は女性でもなれる
日本では、2020年までに向井千秋さんと山崎直子さんの2人の女性が宇宙飛行士に選ばれ、宇宙での任務を経験しています。
男性宇宙飛行士の数は女性よりも多いですが、女性でも宇宙飛行士になることは可能であり、出産や育児に関する環境整備も積極的に進められています。
このような取り組みは、国際的に見ても日本が進んでおり、山崎さんは、子育て期間中の2010年にNASAで保育サービスを利用しながら、国際宇宙ステーション(ISS)へのフライトに参加しました。
また、JAXAでも、職員専用の「ほしのこ保育園」を設立するなど、女性の働きやすい環境を整えるための取り組みが行われています。
2019年には、初めて女性宇宙飛行士だけでの船外活動も行われました。
今後も女性宇宙飛行士の数は増加し、さらに多くの女性が宇宙での活動を行うことが期待されています。
海外における女性宇宙飛行士の現状
NASAでは多くの女性宇宙飛行士が活躍
海外の宇宙機関では、女性宇宙飛行士の参加がますます増えており、その活躍が注目を浴びています。
NASAでは、これまでに合計45名の女性宇宙飛行士が誕生し、現在の宇宙飛行士の中でも、おおよそ2割に当たる女性が活躍しています。
NASAは宇宙飛行士の数が多いことから、その割合が相対的に高いですが、女性宇宙飛行士が一般的な存在といえる状況です。
2019年には、史上初めて女性宇宙飛行士だけでの船外活動が行われ、NASAは「アルテミス計画」として、女性宇宙飛行士を含むクルーを月に送る計画も進めています。
女性が宇宙飛行士になる場合の苦労
宇宙飛行士には強靭な筋力や体力が求められることがあり、その点で女性のほうが不利な場面も存在します。
宇宙開発が始まった頃は、宇宙飛行士に選ばれるのは主に軍人の男性であり、宇宙船や装置も男性を想定して設計されていました。
例えば、宇宙船内でのトイレの仕組みに関しては、重力がない環境での排泄物の処理が難しいため、専用のポンプで尿を吸い取る方法が使われていました。
長らく男性器に合わせた装置しかなかったため、女性用の装置が開発されるまで時間がかかりました。
宇宙服も同様で、国際宇宙ステーション(ISS)では当初、男性用サイズの宇宙服しか用意されていなかったため、女性宇宙飛行士の活動が遅れることがありました。
これらの物理的な制約や生理的な違いにより、女性宇宙飛行士の数は男性よりも圧倒的に少ない状況です。
アメリカ以外の国々でも、女性宇宙飛行士は非常に限られた数しか存在せず、ロシアを含む宇宙開発先進国でも女性宇宙飛行士の数は限られています。
このような制約もあるなかで、国際的に見ると、女性宇宙飛行士の活躍がこれから伸びていく可能性があり、さらなる進展と平等な機会提供が望まれるところです。
女性宇宙飛行士を支援する取り組みが進んでいる
NASAでは、男女平等の機運が強く、女性の社会進出が進んでいるため、比較的早い段階から女性宇宙飛行士の支援体制が整備されています。
NASAの施設内では、公的・私的な保育サービスが提供され、職員の家族に対する支援体制も整えられています。
育児だけでなく、家庭環境全般に関する相談にも対応する専門の部署が設けられています。
山崎直子さんも、このようなサポートを受け、出産や育児期間中にもかかわらず、2010年にISSへのフライトに成功しています。
JAXAもまた、女性スタッフが働きやすい環境づくりに力を入れており、「ほしのこ保育園」の設立や、女性管理職の増加を目指すなど、具体的な取り組みを進めています。
宇宙飛行士の職業も、他の一般的な職業と同様に、女性の就業環境が改善されつつあります。
女性宇宙飛行士の増加や、よりよい支援体制の整備によって、将来的にはより多くの女性が宇宙で活躍することが期待されます。
NASAの宇宙飛行士になるにはアメリカ国籍を取得する
NASAはアメリカの公的機関であり、宇宙飛行士やその他の正規職員はすべてアメリカ国籍を持つ必要があります。
したがって、日本人がNASAの宇宙飛行士になるためには、アメリカ国籍を取得する必要があります。
アメリカ国籍を取得する過程は煩雑で難しいことがあるため、確かに挑戦的な選択となります。
日本人宇宙飛行士は、JAXAの所属として宇宙飛行を行っており、これまでに日本人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)などで活躍しています。
JAXAでは日本人宇宙飛行士を育成し、宇宙飛行に関する研究や技術開発にも取り組んでいます。
また、NASAには正規職員のほかに多くの非正規職員もおり、国籍によらずにNASAで働く道もあります。
宇宙関連の研究機関や企業、大学などでも、宇宙開発に携わる仕事が存在します。
「NASAで働きたい」という夢がある場合、異なるかたちで宇宙関連の仕事に関わる方法を検討することも大切です。
宇宙飛行士になるには?のまとめ
宇宙飛行士の道は挑戦と努力の連続です。
まずは専門分野で高度な実務経験を積み、実績を作る必要があります。
しかし、それだけではなく、協調性やストレス耐性も欠かせません。
身体的な健康状態や仲間とのコミュニケーション能力も重視されます。
非常に競争率は高い職業ですが、情熱と準備があれば、宇宙への夢を追い求める道は開かれています。