哲学者の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「哲学者」とは
哲学を研究し、論文の執筆や講演活動をする研究職。大学教授として活躍する人が多数。
哲学とは、人生や世界、事物の根源のあり方、原理などを、客観的、理性的に追求する学問のことで、主に美学・倫理学・認識論という3つのジャンルにわけられます。
哲学の対象となるものは研究者によって実に多種多様で、ときには思想や宗教とも密接に結びつくこともあります。
哲学者は主に大学で講義をしながら、自身の執筆活動、講演活動、そして研究活動を行っています。
研究者としての基礎は大学の哲学科で修得し、大学院に進んで研究を深めていかなくてはなりません。
大学教授になるのは狭き門であり、ほとんどの人がポスドクなど不安定な立場でアルバイトをしながら研究実績を積み、空席を待ちます。
教授職の平均年収は1000万円と高額ですが、着任するまでの不遇の時代が長く、書籍代等自腹を切ることも多いため生涯年収としては特別高いわけではありません。
物事を探究し、多角的な視点で見つめることを信条とする哲学者の思考力は社会人に求められる能力でもあるため、一般企業などでの活躍も期待されています。
「哲学者」の仕事紹介
哲学者の仕事内容
教育機関などで哲学に関する研究を行う
教育機関で研究することが多い
哲学とは、世界や人間についての知恵・原理を探究する学問のことです。
哲学を学んだり、研究したりといった活動を行っている人は皆、哲学者だという解釈も間違いではありません。
ただし現代において、哲学者とは教育機関等で哲学を研究している人間を意味することが多く、哲学を研究し、論文を発表することで業績を築いています。
主な仕事は教育機関での講義で、ときには外部から依頼を受けて講演をしたり執筆活動をしたりすることもあります。
教授職に就くのは狭き門であるため、中学や高校で教師として活躍している哲学者も少なくありません。
研究分野で大きな功績を残し、執筆活動を主たる活動としている人もいますが、それだけで生活できる人はごく少数です。
ほとんどの人がこうした職業に従事する傍らで、合間をぬって自分の研究をすすめています。
研究をすすめ論文を書くのが一番の仕事
哲学者は、哲学を研究した論文を発表することで業績を築いています。
ほとんどが大学院で哲学を学んでいる学生か大学教授であり、研究機関から補助を受けながら研究活動を行っています。
また、大学をはじめとした教育機関での講義を行うことも大切な仕事です。
研究者が教育職に従事することは他の分野でもあることですが、哲学も例外ではありません。
そのほか、自分の研究に関する執筆や講演を行い、研究成果を広く世間に知ってもらったり、哲学についての理解を深めてもらったりするなどの活動に励んでいます。
哲学者になるには
大学院に進み、大学で研究を志す人が多い
大学院に進み学問を修める
哲学者には特別な資格は必要ありませんが、研究を行う上で最低限、論理力や哲学史の基礎知識が必要となってきます。
まずは大学で哲学を専攻し、修得するのが近道です。
卒業後も研究を続けるためにほとんどの人が大学院に進学します。
自身の研究成果を論文として発表し、評価を得ることで実績を重ね、活躍の場を切り開く職業なので根気よく思考活動を続けることが肝要です。
さらに著名な哲学書を原書で読み解かなければならないため、語学力を高める努力もすることになります。
また大学教授として活躍している哲学者は、国内外の一流大学院を修了している人ばかりなので、まずは相応の高い学力が求められます。
哲学を専攻できる大学は限られるため、哲学者を目指している人は、まず高い学力を身に付け大学受験に臨む覚悟が必要といえるでしょう。
教授職に就けるのはごくわずか
哲学者のほとんどが大学や大学院での教授職に就き、研究活動を続けることを目指しますが、就職状況は極めて難しいのが現状です。
常勤として活躍しているのは、一流の大学、あるいは海外の大学の哲学研究室を卒業した優秀な人のみです。
非常勤であっても就職は難しく、学会等でも哲学者の活躍の場の少なさがしばしば指摘されています。
運よく空きが出ても契約期間が短く、単年度契約であることも珍しくありません。
また哲学者の多くが大学や大学院で教員免許を取得しており、それを生かして学校現場に就職する人も少なくありません。
哲学者の学校・学費
大学院の博士課程を目指すのが一般的
哲学者になるためには、大学院へ進学するのが一般的です。
哲学者は常に自身の研究成果を論文として発表し、評価を得ることで実績を重ねていきます。
筋の通った論文を書く力は大学、大学院で培われるため、根気よく研究を重ね、地道に論文を発表し続けることが大切です。
1年や2年で結果が出ることはありませんが、こつこつと実績を積み重ねていくことが、教授職への道を切り開いたり、書籍となって文筆家への道につながったりしていくのです。
また東大の学生を指導しようとすれば、東大卒かそれ以上の学歴が求められるため、就職先の選択肢を増やすためにも、少しでも学力の高い大学に進んでおくことが大切です。
哲学者の給料・年収
専門性の高い職業である反面、潤沢とは言えないことも多い
高い専門性に見合った待遇
大学教授として活躍する哲学者の平均年収は1000万円前後と高額ですが、そもそも常勤になれるのが遅く、平均年齢も50代以上と高いため、生涯年収で考えると意外と多くないこともあります。
哲学は目に見える成果が出づらいこともあり、研究費が十分にもらえていない研究室も多くあります。
研究に必要な資料や書物などは自ら研究費を負担することも珍しくないため、収入が高いからといって決して潤沢とはいえません。
また安定した立場になるまでには、アルバイトをしながら研究を続けるような不遇の時代をほとんどの哲学者が経験しています。
博士課程修了後、運よくポスドクとして研究室に残れてもその平均年収は300万円程度とそれほど高くなく、実績のない若年者の場合は200万円台ということも珍しくありません。
給料をアップさせるには
哲学はほかの分野のように大きな発見をしたり、新たな技術を開発したりすることはまずありません。
そのためどうしても評価されづらく、研究で相当な功績を修めなければ、大幅に給料がアップすることは少ないです。
大学教員として勤務している場合、副業を許されていることが多い傾向にあり、著書の出版をはじめ、各種講演会での講話や、コメンテーターとしてテレビに出演するなどすれば、より収入を伸ばすことが目指せます。
哲学の分野では、このように地道に研究の成果を発表する人が多くなっています。
哲学者の現状と将来性・今後の見通し
哲学者のポストは非常に限られている
哲学の分野は未開の部分が多く、常に見直され、懐疑され続けています。
したがって、後世に残るような新たな哲学の確立が常に期待されているといえるでしょう。
しかし、哲学研究の第一人者である大学教授、助教授のポストは希望者に対して圧倒的に数が足りません。
この現状を懸念する声は学会を中心に上がっていますが、残念ながら先行きは不透明な状況であると言わざるを得ません。
近年は、結果が出やすく見た目にもわかりやすい理系研究職の人気が高まっており、今後もこの傾向が変わることはないでしょう。
その一方で、哲学者の生命倫理に関する探究が医療の現場で生かされるのではないかという声もあります。
生命倫理に詳しく、さらに多角的思考ができる哲学者は、活躍の場を見出すことができるのではと期待されています。
哲学者の就職先・活躍の場
代表的な就職先は大学
一番多いのは哲学科やそれに類する学科のある大学への就職でしょう。
安定した立場になるまでに時間と学費がかかりますが、上手く就職口を見つけることができれば、手厚い待遇のなかで研究を進められます。
書籍の執筆を依頼されたり、講演会に呼ばれたり、テレビ出演をはじめメディアに露出したりする哲学者もいます。
そのほかには、高校教師として倫理の授業を行ったり、一般企業の企画分野に自身の思考活動を活かしたりと活躍はさまざまです。
近年、海外の企業ではビジネスに哲学を生かそうと、企業内哲学者を雇用するところが増えてきています。
企業としてのビジョンや倫理規定を定める際に、哲学を利用しようとしているのです。
ゆくゆくは日本でもこのように企業内で働く哲学者が増えてくるでしょう。
哲学者の1日
大学教授は講義以外にも多くの仕事がある
哲学者の主な仕事は論文の執筆で、一日の大半を哲学に関することを考えて過ごします。
大学で働く場合、講義以外にも多くの仕事があるため実際に論文を書く時間は少なくなりがちで、工夫して時間を捻出しなくてはなりません。
<大学教授として働く哲学者の1日>
哲学者のやりがい、楽しさ
哲学について考えることが仕事になる
世の中の多くの人は一般企業に就職します。
就職活動では自分ならではの意見を求められていたのに、いざ会社勤めをすると、いかに自分の意見が求められていないかを痛感することも多いです。
その点、哲学者は自身の考えをどう深めていくかが仕事に直結しています。
その人だからこそ発信できる考え方があり、優れた論考は後世に引き継がれていきます。
これは哲学者ならではの醍醐味だといえるでしょう。
また、哲学を学んでいると、実にさまざまな価値観や考え方、とらえ方に出会います。
多くの考え方に触れるにつれ、自分にしか考えられない解釈や、自分ならではの解決方法を見つけられるようになります。
こうして経験を積んでいくうちに、自分の考え方に深みが増し、人間としても成長していきます。
哲学者のつらいこと、大変なこと
研究以外の仕事に追われ集中できないことも多い
研究者といえば自身の研究に没頭しているイメージがありますが、実際のところ他の仕事にも多くの時間を割いています。
研究に集中したくても、講義や学生の指導は必ず行わなくてはなりませんし、教授会をはじめ会議や打ち合わせにも駆り出されます。
学者は副業が可能できるほか、講義以外の時間をどう使うかという点で、自由度が高い仕事ではありますが、その分やらねばならないこともとても多いのです。
また、学問を究めていくことへのプレッシャーはついて回りますし、同業者から手厳しく批判されることもあります。
自身の研究が思うように進まず、苦悩する時期はだれしもが避けられないでしょう。
哲学者に向いている人・適性
考えることを諦めない人
哲学者は、世の中のあらゆることに問いを立てて向き合っています。
「私はなぜここにいるのか」「愛とは何なのか」といったような、誰も気に留めないような事象に疑問を持ち、深く思考できることは哲学者として大切な資質であるといえます。
一般論に流されることなく、思考を深めていかなければならないため、常識、当たり前とされることにも批判的な精神を忘れない姿勢が必要です。
また、これまでに積み重ねられてきた研究や同業者の研究にもアンテナを張り、考えをアップデートしていく必要があるため、常に学びを怠らない姿勢が求められます。
批判精神、発想力、思考力、論理性、向学心などが備わっていなければ目指すことは難しいでしょう。
哲学者志望動機・目指すきっかけ
ささいな疑問を深く考えるうちに哲学への道に
哲学者を志す人は、幼いころから「宇宙の果てはどこなのか?」「世界の始まりはいつなのか?」といった素朴な疑問を持っていたという人が多いです。
また、これまでの人生の中で「勉強をするのはなぜか?」「人はなぜ生きるのか?」といった答えの出ない問いにあたり、深く考えるようになったことから哲学に興味をもったという人もいます。
哲学は人によって解釈や考え方が違い、明確な答えが出ないことも多いため、愛や死といった漠然なことを突き詰めたいという志望動機の人もいます。
哲学者になる際に、志望動機を伝えるということはあまりありません。
ただし、哲学を学べる大学は限られるため、自分がどのような哲学を勉強したいのか、どのような哲学者に師事したいのかをしっかりと考えた上で、進路を選択する必要があります。
哲学者の雇用形態・働き方
雇用が安定するまでは長く厳しい道のり
大学で働くまでにはとても厳しい道のりが待っています。
運よくポストドクター(博士研究員)として大学に残れても、安定した仕事が得られるようになるかといえば、なかなかうまくいかないのが現状です。
非常勤講師をかけもちしても収入は低く、年間300万円ほどです。
これは社会保険や学会にかかる費用が含まれていないため、手取りとはかけ離れており、生活費を稼ぐためにアルバイトをしながら研究を進める人が大半です。
専任になれれば待遇も安定し、年収600万円ほどなのですが、ここまでの立場になれるのは本当に一握りの人間だけです。
そのため就職するタイミングを逃してしまうと、フリーターのような生活が続くというリスクもあります。
哲学者の勤務時間・休日・生活
大学に勤める場合は、学校ごとのスケジュールに合わせて働く
大学に勤める場合、勤務時間は講義などの予定に合わせて組まれます。
どうしても休めない予定を除けば、時間の使い方の自由度は高く、執筆やメディア出演などの副業を行う人も少なくありません。
大学外での仕事を増やし、できるだけ稼いで研究費を補おうとする人も少なくありません。
しかし、だからといって本業をおろそかにすることはできないため、大学教員は多忙な毎日を過ごしている人が多いです。
休日は主に土日など大学の休みに合わせてとり、夏休みや冬休み期間には長期休暇をとることも可能です。
勤務先での拘束時間こそ短いですが、研究者になるようなタイプは、家に帰っても執筆や論文の読み込みなどに取り組む人が多く、公私の区別がつかない生活をしている人も多いです。
哲学者の求人・就職状況・需要
大学での採用枠は減っている
大学で働くのは、現状では非常に厳しい道であると言わざるを得ません。
少子化や不況の影響を受け、大学の補助金は減らされ、学生の数は減り、大学側もコストカットの手を緩められないためです。
また、大学教授や准教授は一般企業と異なり、退職するケースがほぼないため、特定の分野のポストが空くまでに何十年もかかることは珍しくありません。
そのため名の知れた大学院で博士号を取得し、実績を積んできた人も簡単には就職できないのが現状です。
大学で採用されるためには、コネクションがきっかけであることも多いため、同業者と交流を深めたり、学会を通して人脈を広げておいたりすることが必要です。
哲学者の転職状況・未経験採用
リスクが高いため転職には覚悟が必要
哲学を大学で研究したくても、安定した収入を得るまでに多くの時間と学費がかかってしまいます。
そのため転職しようと思ってすぐ目指せるようなものではありません。
たとえば大学卒で民間企業に勤めていて、哲学者をめざすために再び学びなおそうとすれば、大学院からはじめても5年間は学生という立場で過ごすことになります。
そのあとポスドクなどで収入の安定しない状態が続き、下手をすればそのままという可能性もあるのです。
もちろん、まったく目指せないというわけではなく、時間と学費の確保ができ、リスクを覚悟できるのであれば挑戦する価値はあります。