書道家の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「書道家」とは
書道の道を究め、書道の作品を世の中に発表したり、書道教室の師範として活動する。
書道家は、 書道の道を極め、書道の作品を提供する、あるいは書道を教える人 のことを言います。
作品だけを売って生計を立てられる人はまれで、多くの書道家は自分の書道教室を持ちながら自分の活動を行っています。
書道教室で書道を教える場合は、流派に所属して師範と認められる必要があり、学校など教育現場で書道を教える場合は、学校の教員免許を取得しなくてはなりません。
一方、芸術家としての書道家を目指す場合は、師事したい流派に所属し、先生の教えを受け継いで技術を高めていきます。
現在は、ネットで注文を受け、筆を使ってロゴや看板をデザインしたり、また、音楽家や画家などとコラボレーションしたりして、書道の新たな可能性を切り開く書道家もたくさん出てくるようになりました。
また、書道家は、男性に限らず女性も多く活躍しており、女性ならではの感性を活かしている女流書道家も目立ちます。
安定した収入が得られにくい職業ではありますが、古くから伝わる日本の文化を継承し、人の感覚や人生に働きかける重要な役割を果たします。
「書道家」の仕事紹介
書道家の仕事内容
書道の作品を生み出したり、人々に書道を教えたりする人
書道を専門に仕事をする
書道家とは、 書道の道を極め、書道の作品を生み出す人、もしくは人々に書道を教える人のこと を言い、「書家」と呼ばれることもあります。
芸術の一つの分野として「書」への注目が集まっているものの、作品だけで生計を立てられる人はまれで、多くの書道家は書道教室を持ちながら、自分の創作活動を行っています。
書道を広く世界に知ってもらい、書の道を後世に伝えるという使命感を持って取り組む人が多いです。
書道家としての働き方は特別な制限がなく、自由である反面、スケジュールや締め切りを自分で管理しながら作品をつくらなくてはなりません。
書道家の働き方
書道家には、以下のようにさまざまな働き方があります。
・展示会に出展したり、個展を開いたりして芸術性を追究する書道家
・企業やお店から依頼を受け、ロゴやメニューなどを書く商業書道家
・自宅やスクールで生徒に書道を教え、後進を育てる書道家
・寺社仏閣やホテルなどで使われる掲示物や、冠婚葬祭の場などで代筆を行う書道家
・テレビ番組や広告などに題字を提供し、デザインまで手掛ける書道家
・ステージなどでパフォーマンスを行いながら作品をつくる書道家
書道にはさまざまな流派があり、それぞれの流派に所属するのが一般的ですが、近年ではこれまでの概念にとらわれない作品も多く、洗練された芸術性が求められます。
書道家になるには
どのような書道家になりたいかによって変わる
書道家としてどのような活動がしたいかによって、なるための道は変わってきます。
書道教室で書道を教える場合は、必須となる資格はありませんが、通常は流派に所属して「師範」として認められた人が書道の先生として働くことが一般的です。
まずは 書道家として教えられるだけの技術を身につけ、生徒に教えられる空間を確保する 必要があります。
学校など教育現場で書道を教える場合は、大学に進学し教員免許を取得することが必要となります。
中学校で書道を教えるには「中学国語」の教員免許、高校で選択科目としての書道を教える場合は「高校書道」の教員免許を取得しなくてはなりません。
一方、芸術家としての書道家を目指す場合は、師事したい流派に所属し、先生の教えを受け継いで技術を高めていくケースがほとんどです。
まずは自分が師事したいと思える先生に出会うために、展覧会や個展などに積極的に出かけ自分の方向性ややりたいことを見つけていく必要があります。
実力が認められるようになれば、個展の開催や展覧会への出品などもしやすくなり、芸術家として活躍するチャンスが徐々に増えていきます。
このように書道家としての活躍の仕方で進むべき道が変わるので、あらかじめしっかりと考えておく必要があるでしょう。
なお、まったくの独学で書道家になったという人もいますが、独学では癖や間違いを指摘される機会が少なく、方向性が偏りやすいというデメリットがあります。
書道家の学校・学費
大学や部活、書道教室など学ぶ場所はいろいろある
書道を専門に学ぶことのできる大学や専門学校は、全国にいくつもあります。
それぞれの大学で流派や個性がありますので、インターネットなどで活動や学生の作品を調べてみるとよいでしょう。
また、書道が学べる学校では部活やサークルとしても書道を学べるところが多いです。
一方、こうした学校に進学しなくても、書道を学べる教室やカルチャースクールもたくさんあります。
ただし、 師事する流派や先生によって学ぶ書道には違いが でてきます。
型にはまったきれいな字を習いたいのか、書道を芸術として広めたいのか、作品を作って販売したいのか、あるいは書道を人に教えたいのか、自分のなりたい方向性を考えておくことが大切です。
書道家の資格・試験の難易度
師範の資格があると書道教室を開く際に有利
書道家の民間資格には、「師範」という資格があります。
これは、各流派の団体において、その道の書を教えるに相応しい力がある人と認められた人が取得できる地位です。
師範免許は、 各流派に所属し、昇段試験を受けながら段位を上げ、一番上級の段位になった 時に与えられます。
必ずしも書道教室を開く場合に必要ではありませんが、師範の資格を取得していると同派の人から教室の場を紹介してもらいやすいなどのメリットがあります。
そのほか、書道家の公的資格には、「毛筆書写検定」「硬筆書写検定」などがあり、自分のスキルを証明するものとしては効力があります。
また、学校など教育現場で書道を教えたい場合は、大学に進学し教員免許を取得することが必要です。
書道家の給料・年収
仕事内容や仕事の仕方によってばらばら
書道家の年収は人によって非常に差があり、年収数万円しか稼げない人もいれば、数千万円を稼いでいる人もいます。
仕事の内容や仕方についても変わりますし、書道家としての知名度によっても大きく変わります。
書道教室で指導する書道家
書道教室で指導する場合、教室に通う生徒からの月謝が収入源となります。
月謝は教室の知名度や地域によって差がありますが、一か月数千円から一万円というところが一般的です。
ただし、得た収入が直接給料となるわけではなく、その 月謝から場所代や教材費、消耗品代などを捻出 しなければなりません。
書道教室で常勤として雇われることは難しく、自分で教室を開くのでなければ、はじめはアルバイトやパートからとなることが多いのが現状です。
自分の作品を売る書道家
自分の作品を売る場合は、1点あたり数万円~数千万円とかなりの差があり、 書道家の力量や知名度によって大きな差 があります。
書道も絵などと同じく芸術作品の一種といえるため、一筆いくらといった明確な基準はありません。
ほかの芸術家と同様、その作品にどれだけの価値を見出してもらえるかがカギとなるため、実力が認められれば金額単価が上がりますし、認められなければいつまでも無収入になります。
そのため、作品を売りながら書道教室をする人も少なくなく、定期的な収入を得ながら、自分の好きな作品や依頼された作品を提供して生計を立てています。
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書道家の現状と将来性・今後の見通し
伝統文化を継承し、世界や後世に書道を伝える役割
パソコンやスマートフォンが普及したからといって、手書きの文字がまったくなくなることはありません。
文字をきれいに書きたい、書道を極めたいという人々は減りつつあるものの、需要は一定数あり続けます。
日常的に書に親しむ人の数が減っているように思われますが、 海外では日本文化の一つとして書道への注目 が集まっています。
海外で書道を教えたり、外国人観光客を相手に書道を教えたりする書道家も多いです。
また、機械で印刷された文字ではなく、強い思いが込められた書が欲しいというニーズもさまざまなところにあります。
時代と共に書道家のあり方は少々変わりつつありますが、今後も日本の大事な文化を守り、後世に受け継ぐ存在として、大切な職業であるといえるでしょう。
書道家の就職先・活躍の場
書道家の働く場所はさまざま
書道家として 自分の作品を売ったり、書の技術を提供できたりする場があれば、そこが書道家の職場 となります。
主婦やサラリーマンをしているかたわらで、部屋の一室を使って書道教室を開く人は多いです。
また自分で貸室を借りて教室を開く人もいれば、カルチャーセンターなどの講師として自ら各地に出向き、書道を教える人もいます。
一方、企業のロゴやお店の看板などを書く書道家は、自宅や作業場で作品を制作し、完成後にクライアントのところへ出向く、という形をとることが多いようです。
また、イベントやフリーマーケットに出店して自分でブースを作成して売ったり、インターネットを通して作品を販売したりするという働き方もあります。
書道家の1日
働き方によって一日のスケジュールは異なる
書道家の一日のスケジュールは、仕事内容によってさまざまで、一人一人異なります。
書道教室を開く場合は、生徒が集まりやすい夕方から午後が仕事の中心となります。
<書道教室を開く書道家の1日>
書道家のやりがい、楽しさ
書道の伝統を、次の時代に引き継ぐ責任
書道は日本に古くから伝わる大切な伝統芸能の一つです。
この道のプロフェッショナルである書道家は伝統芸能の担い手という側面も色濃く、これが各々のやりがいにつながっています。
長い時代を越えて、人々に愛され、親しまれてきた 書道の伝統を次の時代に引き継ぐ責任 を、書道家は背負っているのです。
さらに、多くの時間を費やして完成にこぎつけた作品が各種コンクールで賞を受賞したり、展示会で値段がついたりした時はそれまでの苦労が報われる瞬間であるといえるでしょう。
また、書道は真摯に練習に取り組むことで確実に上達できるのが魅力で、教育者として生徒の成長を目の当たりにしたとき喜びを感じ、それを創作活動の糧にしているという人もいます。
書道家のつらいこと、大変なこと
仕事をバランス良く両立することが難しい
自身の作品が評価され、多くの人に知ってもらうことが書道家の目標です。
しかし、それを現実のものにしている書道家はごく少数で、多くの書道家は作品制作の傍らで、副業に時間を割かなければ生計を立てることができません。
作品制作と副業をバランス良く両立することが難しくなる 場合も多く、書道家の道をあきらめる人も少なくありません。
また、書道家として大きな労力を払って書き上げた作品が、必ずしも評価されるとは限りません。
作品を世に出すまで評価がわからず、収入につながるかもわからないという不安を常に抱えて仕事をしなくてはなりません。
努力をしても作品が評価されず、生計を立てるのが難しいために書道家を辞める決断をする人も多くいます。
書道家に向いている人・適性
書道の歴史や文化を重んじることができる人
書を生業とするすべての人にとって、整った美しい文字を正しく書くことのできる書写力は必要不可欠です。
たとえ、芸術肌の書道家になるにしても、基本となる楷書を正しく美しく書くことができなければ、作品制作に影響を及ぼします。
書写の基本をしっかりと学び、習得している人は書道家を目指す上で一歩リードしていると考えてよいでしょう。
加えて、書の道を目指す書道家にとって その歴史や文化を知ることは必要不可欠 であり、書道のもつ長い歴史を理解する過程で、漢文を読んだり書いたりする力も必要です。
また、芸術家にとって最も大切な適性の一つが表現力です。
書道を通し、自分の思いを紙の上に表現できる人こそプロフェッショナルであるといえます。
書道家志望動機・目指すきっかけ
書道が好きで書の道を究めたいという思い
書道家になるきっかけとしてあげられるのは、とにかく書道が好きということです。
幼いころから書道に親しんでいたり、学校で書道を勉強して興味を惹かれたりと、 書道に魅力を感じる人 でなければ書道家は務まりません。
また、「書道を多くの人に知ってほしい」「書道を通じて自分の気持ちを表現したい」と書道家を目指す人もいます。
教育者としての書道家を目指すのか、芸術家としての書道家を目指すのかによって、志望動機の内容は若干変わってくるでしょう。
書道家を目指すうえで志望動機を聞かれることはあまりありませんが、「書道家になりたい」という強い思いがなければ、厳しい世界で生き残っていくのは難しいでしょう。
書道家の雇用形態・働き方
自営業の形をとる人が多い
書道家は基本的にほかの芸術系の仕事と同様に自営業になります。
しかし、 書道一本で安定した収入を得るのは難しいため、さまざまな形で働く人が多い です。
大学を卒業して教員免許を取得し教員となった場合は、公務員として働きながら書作をしていくこととなります。
自ら書道教室を開く場合は自営業となりますが、カルチャーセンターや市民講座の講師や全国に展開している書道教室の講師となる場合は、企業に雇われて働きます。
そのほか、一般企業などに就職しながら趣味として書道を続け、腕を磨き、一定の評価が得られた段階で書道家一本にするという道をとる人も少なくありません。
書道家の勤務時間・休日・生活
勤務時間や休日は人それぞれで自由に決められる
書道家の勤務日数は、一般的に決められておりません。
書道教室を開いている書道家であれば、書道教室を開く日が勤務日となり、それ以外は休日という扱いになります。
また、作品を売って生計を立てている人は、 締め切りさえ守ることができれば自分で自由にスケジュールを組み立てられます 。
芸術家などと同様に、プライベートの仕事の線引きが難しい仕事であるといえるでしょう。
作品を作りながら書道教室を開いている書道家は、書道教室が閉まっている時間を使って作品を書くことになります。
また、経験を積んでいくと、展示会の審査員をしたり、内弟子に教えたりという時間が増え、平日・土日問わず忙しく働くことになります。
書道家の求人・就職状況・需要
求人は少なく、活躍の場は限られている
教師や講師を含め、 書道家としての求人は決して多くなく 、活躍の場も広いとは言えません。
実際、多くの書道家は創作活動だけでは生計を立てることができません。
教員となって児童生徒に書道を教えたり、カルチャーセンターや市民講座などで講師を務めたりする選択肢もあります。
書道家として作品づくりに専念したい場合は、なかなか自由な活動ができない一方で、人におしえるという仕事は創作活動をする上でもプラスになるといえます。
そのため、生活のために教育者として比較的安定した収入を得たり、副業を持ったりしながらバランスをとって創作活動をする人が大半です。
とくに自分で書道教室を開く場合、ライフスタイルに応じた働き方ができるというメリットがあります。
書道家の転職状況・未経験採用
多くの人は社会人経験を経て独立する
書道家になる人は、 多くが一般企業への就職など社会人経験を経て なります。
これは、書道の師範資格を取得するには時間がかかり、資格を取得したからといってすぐに独り立ちして人に指導できるわけではないからです。
はじめのうちは師範について少しずつ指導を習ったり、仕事を持ちながら余暇で書道の指導をしたりしていくのが一般的です。
また、作品を販売して生計をたてる書道家の場合も、書をはじめてすぐに作品が売れ、安定した収入を得られる人はごくわずかであるため、多くの人は仕事を持ちながら作品づくりをしています。
日本の代表的な書道家として知られる武田双雲も、東京理科大学理工学部卒業後、3年間のNTT勤務を経て独立したことで知られています。
書道の師範とは
各流派での指導者として認定される資格
「師範」とは、各流派での指導者として認定される資格のことで、 流派の中で最もレベルの高い資格 です。
師範のレベルや認定基準、また師範の認定方法も各流派によって異なります。
師範という資格は、書道家のレベルを示す指標となり、技術が高い証明ではありますが、師範の資格がなくても書道家になれるので、取得の必要性は低いです。
師範の資格をとるには、各流派に所属する先生に師事し指導を受けるのが一般的です。
そのほか、流派に所属していなくても、通信教育などで学び試験を受ければ師範の資格が取れる流派もありますし、全国書道教授資格認定試験で第一種から第三種までを段階的に取得するという方法もあります。
書道家と書家の違い
古典作品に根差しているか、独自の解釈を加えているかの違い
書家とは、書における高度な技術と教養を持った専門家のことであり、基本的には古典作品に根差した書を扱う人のことです。
一方、書道家という呼び方は近年になってできたもので、パフォーマンスに重点をおいたり、独自の作風で作品を作ったりする人のことを指すことが多くなっています。
書家は本来古典的な技法に根差した美しさを追求するものであり、書道家はより自分なりの考えや自由な解釈を加えて書に向き合う人が大半です。
ただし、 一般的に「書家」と「書道家」を厳密に区別することは少なく 、実際に活動している人によっても、名乗り方は人それぞれです。