左官の仕事とは? わかりやすく仕事内容を紹介
左官の仕事とは
左官とは、鏝(こて)を用いた「塗り」の技術を駆使して、建物の壁や床、天井、塀などをつくる職人です。
土、漆喰(しっくい)、珪藻土などを塗って壁を仕上げたり、レンガやブロックを積んでセメントで固めるのがおもな仕事です。
左官が手掛ける仕事の多くは、建築工事のなかでも、内装など目に見える部分の造作作業です。
そのため、手先の器用さや集中力、デザインセンスなどが求められる難しい仕事といえます。
また、左官は1000年以上の歴史をもつ由緒ある職業です。
近代建築を手掛ける職人であると同時に、日本の伝統技術の継承者という側面も持ち合わせています。
近年は、自然素材がもつ機能性の高さや、職人の手仕事による芸術性などが評価されていることもあって、左官の活躍の場も従来の日本建築の枠を超えて広がっています。
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左官の業務の内容
塗り壁業務
左官の仕事で最も代表的なものは、建物の「塗り壁」です。
住宅などの建築現場において、モルタルやセメントなどの下地材を塗ったり、土や漆喰、珪藻土などの仕上げ材を塗ったりします。
中塗り鏝、仕上げ鏝、レンガ鏝、目地鏝など、数十種類にも及ぶ鏝を駆使しながら、手先の感覚だけを頼りに、ムラなく均一に、美しく塗り拡げていきます。
とくに自然素材を用いた仕上げ作業では、手先の器用さに加えて、丁寧さや根気強さ、芸術的センスも求められます。
また、塗料は、気温や湿度などの影響を強く受けるため、左官は、その日の気候条件をふまえて、現場で塗料を細かく調合しなければなりません。
左官は、長年の経験と勘が必要な仕事です。
こうした一連の基本の塗り技術を習得するだけでも、およそ3年かかるとされており、一人前の左官になるには長期間にわたる修業が必要です。
塗り壁以外の業務
左官は、塗り壁以外にも、建築工事に関するさまざまな仕事を手掛けます。
塗り壁以外の仕事は、レンガ積みやブロック積み、「土間打ち」と呼ばれるコンクリート打設後の床ならし、タイル貼りなどです。
これらの業務は、塗り壁ほどではないものの、均等かつ見栄えよく、あるいは平面に滑らかになるよう仕上げなければならず、職人としてのスキルが問われる難しい作業です。
また、浴室などの水回りの床は、水はけを良くするために排水口に向かって微妙な傾斜をつけるなど、非常に繊細な作業が求められることもあります。
左官は、こうした仕事と同時並行で、セメント袋やタイルなどの重量物を運んだり、攪拌機(かくはんき)で素材と水を練り合わせたりします。
腕力や握力が必要になる力仕事も、多数こなさなければなりません。
左官の役割
建築現場における左官の役割は、大工などのほかの職人と協力しながら、ひとつの建物を完成させることです。
しかし、文化的な観点から見たとき、左官は単なる建築業界における一職人という以上の役割を担っています。
左官の歴史は非常に古く、律令制が敷かれていた平安時代にさかのぼります。
宮殿の建設や修繕を手掛けていた職人に対して与えられていた「属(さかん)」という官位が、現在まで続く職業名の由来になったといわれています。
左官は、和室の土壁(つちかべ)をはじめとする日本家屋を得意としていることからもわかるように、日本の伝統的技術を今日まで受け継ぐ、文化の担い手という側面も持ち合わせているといえます。
その一方で、洋式の近代建築においても、左官職人が求められるケースが増えています。
和式建築で使用される漆喰(しっくい)などの自然素材は湿度調節機能や、消臭機能をもちます。
この和式建築の素材が様式建築にも取り入れられるようになったため、様式建築でも左官職人が活躍する余地が出てきました。
左官は、連綿と続く伝統技術の継承者であるとともに、新しい建築様式の旗手としての役割もになっているといえるでしょう。
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左官の勤務先・有名な企業
左官の勤務先は、左官業務を扱う工務店や建設会社などです。
○○左官、〇〇工業、〇〇技建、〇〇工建、○○組など、企業名には豊富なバリエーションがあります。
またその事業規模も、法人形態のところから個人経営のところまで大小さまざまです。
有名なのは、左官職人としてただ一人、黄綬褒章(おうじゅほうしょう)を受賞した竹内紀雄さんが在籍する大阪府の「浪花組」です。
また挾土秀平(はさどしゅうへい)さん率いる岐阜県の「秀平組」も、ニューヨークで左官アート展を開催したことから、注目されています。
昨今は、建設業界全体で人手不足にあえいでいることもあって、左官の勤務先は、全国どこでも簡単に見つけることができるでしょう。
しかし、雇用条件や労働環境などは、企業ごとにかなり差があるのが実情です。
就職先を選ぶ際は、たとえ魅力的な求人情報を見つけてもすぐに飛びついたりせず、慎重に吟味しましょう。
左官の仕事の流れ
左官の代名詞といえる塗り壁について、その仕事の流れを見てみましょう。
まずは養生と呼ばれる、施工か所の周辺をテープやビニールでおおう作業から始まります。
養生が不十分だと、本来、塗料をつけたくない場所を汚してしまうことになるので、下準備とはいえ非常に重要な作業といえます。
その次に、電動ミキサーなどを使って、モルタルであればセメントと砂や水を混ぜ合わせるといったように、材料の調合作業を行います。
養生と調合が完了したら、いよいよ鏝と鏝台を持って塗り作業に入ります。
美しく施工するために、下塗り、中塗り、仕上げ塗りと、複数回に分けて段階的に材料を塗っていきます。
ゆっくり作業していると、材料から水分が蒸発してうまく塗料がひろがらなくなり、再び調合作業まで戻らなければなりません。
丁寧さを意識しつつも、手際良く作業することが求められます。
仕上げ塗りまで美しく出来上がったら、乾燥を待って、左官の一連の仕事は完了となります。
左官と関連した職業
大工
大工は、建築現場において、建物の骨組となる柱や梁(はり)、天井、壁、床などの下地を木材でつくる技術職です。
左官と同じく建築業界を代表する職業のひとつであり、左官に対して、大工のことを「右官」と呼んでいた時代もあったようです。
大工が木材でつくった下地のうえに、左官が仕上げ材を塗装することで、建物の内壁や外壁、天井が完成します。
大工の仕事は、おおまかにわけて木材の「加工」と「組立」という2種類の作業がありますが、どちらも精度の高い技術が求められる職人仕事です。
鳶職人
鳶(とび)職人は、建設現場における仕事のなかでも、足場組みや鉄骨組みなど、危険を伴う高所での作業を得意とする技術職です。
鳶職人も長年の修業が必要になる専門的な仕事である点は、左官と似ています。
手先の器用さや芸術的センスなどが左官には求められますが、鳶職人に求められるのは運動神経やバランス感覚などであるという点に違いがあります。
左官職人と鳶職人は、建設業界の専門職という共通項目があるものの、その適性はほぼ正反対であるといえるでしょう。
土木作業員
土木作業員は、建設現場において、穴を掘る、土砂を運搬する、土を盛り固めるなど、土木工事全般を手掛ける職業です。
左官職人や、大工、鳶職人とは違って、土木作業員は数年単位の修業を重ねる必要はなく、いきなり現場の第一線で活躍することができます。
ただし、土木作業員は、それほど高度な技術が必要ない一方、仕事の大半はハードな肉体労働であり、一般的な職業以上に体力と筋力が求められますし、事故やケガなどの危険も伴います。
年齢を重ねて体力が衰えた土木作業員は、通行人を誘導する、免許を取って重機を操縦するなど、力仕事以外の比率が高まる傾向にあります。