左官になるには
左官になるまでの道のり
左官になるにあたって、どこかの学校に通って技術を身につけたり、資格取得に励んだりする必要はありません。
左官業を営む企業に就職すれば、すぐ左官になることができます。
求人数もかなり多く、未経験者にも広く門戸は開かれているため、左官としてのキャリアをスタートさせるのは難しくないでしょう。
しかしスタートラインに立つことは簡単でも、一人前の左官職人になるまでの道のりは、非常に長く、また険しいものがあります。
左官は、高度な技術を要する専門性の高い仕事であり、とりあえず一通りのことを身につけるだけでも3年、一人前とみなされるようになるにはおよそ10年ほどの修業が必要とされています。
見習いとして雑用をこなしながら、辛抱強く長い歳月をかけて、コツコツと腕をみがかなければなりません。
ただ、近年の左官職人は急速に高齢化が進んでおり、業界全体で後継者不足が課題となっています。
古くから受け継がれてきた伝統技術を途絶えさせたくないという目的もあって、どこの企業も後進の育成には非常に積極的です。
謙虚な姿勢さえ忘れなければ、根気強く、ていねいに指導してもらえるでしょう。
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左官の資格・難易度
左官になるにあたって必要な資格はとくにありませんが、関連する資格は複数あります。
最も代表的なものは「左官技能士」という国家資格であり、職人としての技術レベルをはかる技能検定制度の一種です。
左官技能士には、難易度が異なる「1級」と「2級」の資格があります。
1級を取得できれば、一人前の左官職人としての証明になるでしょう。
ほかにも親方として独立する際に必要となる「登録左官基幹技能者」や、左官仕事と関係性の深い研磨に関する「切削工具研削(せっさくこうぐけんさく)技能士」、高いところの壁を塗るのに役立つ「高所作業車免許」などの資格があります。
資格を取得すればするほど、できる仕事の幅が広がり、自身のスキルアップ、キャリアアップにつながります。
左官技能士
左官技能士資格の概要
左官技能士は、厚生労働省が主管する技能検定の一種です。
資格には、上級者を対象とした1級と、中級者を対象とした2級、初級者を対象とした3級があります。
1級を受験するには7年以上、2級を受験するには2年以上の実務経験が必要です。
3級は職業訓練を受けている人でも受けられるなど、受験資格は厳しくありません。
試験は年2回実施され、試験に合格することで「1級左官技能士」または「2級左官技能士」を名乗ることができるようになります。
左官技能士は、左官にとって最もオーソドックスな資格であり、多くの職人が1級資格取得を目標としています。
左官技能士資格があると、職業訓練校で指導員となるための試験の一部が免除されるため、資格を生かして指導員となり、後進の育成にあたることも可能です。
左官技能士検定の試験内容
左官技能士検定試験は、学科試験と実技試験に分けて実施され、双方をパスすると資格認定となります。
学科試験では、施工方法や材料、意匠図案、建築構造、製図、関係法規、安全衛生などに関する知識問題や、左官工事に関する積算や見積りの作成といった実務に則した問題が出題されます。
実技試験では、墨出し・材料調合・下塗り・中塗り・上塗り・引き型製作・型抜き模様製作など、おもに「塗り」に関する技能が総合的に問われます。
2級の実技試験は壁のみですが、1級ではさらに天井への施工も追加されるうえ、「樹脂プラスター仕上げ塗り工法」や「かき落し粗面仕上げ工法」などの高度な左官工法も求められるため、難易度は格段に上がります。
1級資格まで取得できれば、自他共に認める一人前の左官職人になったといえるでしょう。
登録左官基幹技能者
登録左官基幹技能者は、国土交通省が主管する国家資格であり、指定された機関において一定の講習を受講し、修了試験に合格することで資格が取得できます。
登録左官基幹技能者は、施工方法についてクライアントに提案したり、ほかの職種の職人と工程を調整したり、部下を指導したりすることがおもな役割です。
一職人として働くうちは、この資格はとくに必要ありませんが、職長など、ほかのスタッフを束ねるポジションにまで昇格したり、あるいは独立して親方になる場合などには非常に役に立つでしょう。
登録左官基幹技能者資格があれば、国土交通省による経営事項審査でも加点評価されるため、仕事を受注しやすくなる点も大きなメリットです。
この資格は、一定の能力水準を保持し、最新の法改正などにもきちんと対応するため、運転免許などと同じ更新制となっており、5年ごとに更新講習を受講したうえで修了試験に合格することが必要です。
それ以外のおすすめ資格
上記以外のおすすめの資格としては、左官技能士と同じ技能検定制度の一種である「切削工具研削技能士」や「研削といし取替試運転作業者」など、「研ぎ」に関するものが挙げられます。
左官は、カナリヤ石や白サンゴ石、大理石など、「種石」と呼ばれる人造石を混ぜ込んた仕上げ材を使用することもよくあります。
研ぎ出し技術を自分自身でもっていれば、高級仕上げもできるワンランク上の左官職人として、活躍の場をひろげられるでしょう。
左官は、住宅の外壁など高い場所で作業することもあるため「高所作業車免許」も持っていると役に立ちます。
参考:社団法人安全衛生マネジメント協会 自由研削といし取替試運転作業者特別教育 講習会のご案内
左官になるための学校の種類
左官を目指せる学校としては、建築系専門学校の建築大工科や伝統建築科、工芸デザイン科などがあります。
左官は学歴不問の職業であり、学校に通うことは必須ではありません。
ただ、専門学校で基礎的な知識や技術をあらかじめ身につければ、スムーズに左官の仕事に就けるため、進学も選択肢のひとつの方法です。
また、全国各地には、○○大学校、○○職業能力開発センターなどの職業訓練校があります。
現役の左官職人から実践的な技術を学べる職業訓練校への入学は、左官職人を目指す人にとって魅力的です。
ただし、職業訓練校は社会人を対象とした施設であり、文部科学省の管轄する一般的な学校ではありません。
大学や専門学校などの教育機関と、職業訓練校を混同しないように注意しましょう。
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左官に向いている人
左官は、非常に繊細で高度な技能を要する専門職であり、たゆまない努力を続けなければなりません。
左官には、ひとつのことを地道にコツコツと続けられる、粘り強い性格の人が向いているでしょう。
逆に、好奇心旺盛でさまざまなことに興味がある、どちらかというと移り気で飽きっぽい性格の人は、あまり左官として向いていないかもしれません。
自分自身と静かに向き合って、技術の向上に喜びを見出せる、内向的なタイプのほうが、左官職人として大成しやすいでしょう。
左官のキャリアプラン・キャリアパス
左官のキャリアは、左官工事会社などに就職して、親方や先輩職人に弟子入りするところから始まります。
まずは材料や水を混ぜ合わせる作業から始まり、段階的に塗りの技術を学んでいきます。
「目で見て技術を盗め」という方針のところが多く、とにかくほかの職人の仕事をよく観察して覚え、それを反復することが大切です。
会社によっては、映像教材を視聴しながら学ぶというケースもあるようです。
数年ほどの修業を経て、一通りの技術を身につけたあとは、左官技能士などの資格取得に励む人もいますし、職長などに昇進して後輩を指導する立場にまわる人もいます。
左官のなかには、独立して親方となり、自身の工務店を経営する人もいます。
なお、一人前の左官職人になってからも、勉強会に出席したり、研修を受けたりと、自己研鑽の日々は生涯続きます。
左官を目指せる年齢は?
左官は、学歴や資格、経験と同じように、年齢についても不問の職業です。
しかし、左官の仕事のなかにはかなりハードな肉体労働もあるため、健康的にも体力的にも充実していることが絶対条件です。
また、一人前の左官になるには長い修業が必要で、一通りの技術を覚えるだけでも数年はかかります。
あまり年を取ってからでは、現役として働ける年数が短くなってしまいます。
左官を目指すなら、できる限り若い方が望ましく、未経験者については35歳くらいが上限となるでしょう。
ただし、近年は左官のなり手が不足しているため、40歳くらいまで年齢制限が引き上げられている場合もあります。
地域や企業によりますが、年齢的な不安があっても熱意があれば採用されるチャンスはあります。
左官は女性でもなれる?
目覚ましい勢いで男女の平等化が進む現代社会においても、建築業界全般の職業は、今も変わらず男性主体である職場が目立ちます。
しかし、左官は例外的であり、女性の左官職人は決してめずらしい存在ではありません。
体力や筋力も必要ですが、それよりもはるかに技術のほうが優先されること、屋外よりも屋内での作業が多く、女性でも働きやすいことなどが要因です。
手先の器用さや繊細さ、丁寧さなど、女性ならではの資質が生きるケースも多く、女性としての感性が、ほかの男性職人とは一線を画した新しい価値を創造することもあります。
材料のなかに口紅を練り込んで仕上げた色付きの塗り壁は、その典型的な事例といえるでしょう。
近年は材料や工具類の軽量化も進んでおり、女性の左官職人のますますの活躍が期待されます。
左官の求人・採用募集状況
左官の就職先にはどんなところがある?
左官の就職先は、左官工事を請け負っている工務店や建設会社などです。
その大半は、事務職などのスタッフを合わせても総勢10名前後の小所帯であり、なかには親方1人というところもめずらしくありません。
組織としても、小規模な会社や個人経営といった形態のほうが多く見られます。
就職先自体は、都市部でも地方でも幅広くありますが、中小以下の零細企業が多いため、給料面や福利厚生面などは注意して確認したほうがよいでしょう。
一部の職場では労働時間や労働環境に対する感覚がルーズで、法律に反するようなケースもまだあるようです。
就職先を探す際は、求人情報だけを信用せず、職場見学などにより確認することが大切です。
左官の求人の状況
左官に限らず、建築業界の企業は、人手不足に悩まされているところがほとんどです。
近年は、少子化によって働き盛りの人口が年々減少しているうえ、建築関係の職業は、危険、きつい、汚いという、いわゆる「3K」の古いイメージが強く、若い世代からの人気は高くありません。
既存の職人も、高齢化によって引退する人が相次いでおり、左官は、その技術の継承すら危ぶまれている状況です。
このため、どこの企業も求人活動にはきわめて積極的であり、未経験でも、多少年齢が高くても、やる気があれば歓迎してもらえるでしょう。
「数少ない次世代の職人を大切に育てたい」という方針の企業も多く、かつてのような厳しいスパルタ方式ではなく、やさしく指導してくれるところも増えています。
これから左官職人を目指す人にとっては、かなりめぐまれた環境でしょう。
左官の就職先の選び方
教育体制で選ぶ
左官は、仕事の手順から道具類の扱い方、塗りの技術、職人としての心構えまで、先輩や親方から現場で教わることになります。
「どのように指導してもらえるか」によって、左官職人としてのその後のキャリアが決まってしまいます。
左官の就職先を選ぶ際には、給料面などではなく、職場の教育体制をまずは最優先して考えてみるべきです。
どこの企業も、おおむね新人に対して熱心に指導してくれるとはいえ、人員の数や代表者の意向などによって、教育体制にはかなりの差があります。
見習いとしての研修期間ひとつとっても、1ヵ月ほどで終わる職場もあれば、数か月の時間をかけて基礎から指導してくれるところもあります。
各企業をじっくりと比較しましょう。
独立に役立つ先を選ぶ
左官は、一人前となると、独立開業することも可能な職業です。
独立したい気持ちがある人は、雇われているうちに、できる限り高い技術を身につけたほうがよいでしょう。
高い技術を教えてもらうには、名のある親方に弟子入りするのもひとつの方法です。
腕の立つ親方の仕事ぶりを間近で見られることは、何よりも価値のある経験となるでしょう。
修業期間の生活は、金銭的にも、また精神的にもかなり苦しいかもしれませんが、あくまで長い職人人生のなかの一時のことだと思えば、割り切って耐えられるはずです。
残業時間の少なさで選ぶ
左官は、建築関係の職業のなかでは例外的に、残業もある職業です。
屋内での仕事がメインであり、また騒音や振動が発生する作業も少ないためです。
立ちっぱなしで重いものを運んだりする長時間の肉体労働は、心身ともに非常にハードであり、とくに慣れないうちは大変です。
左官の就職先のなかには、人材を確保する目的もあって「残業時間ゼロ」「毎日5時帰宅可能」をうたっているところもあります。
ムリなくマイペースに働きたい人は、そのような就職先を選ぶとよいでしょう。
仕事だけでなく、家事や育児、介護など、家庭生活との両立が必要な場合は、残業時間の少ない企業で働くメリットは非常に大きいといえます。
左官の志望動機・面接
左官の志望動機については、あまり深く思い悩む必要はなく、どうして左官に興味をもったのか、どうして数あるなかからその志望先を選んだのかという2点に絞って、簡潔に述べてみましょう。
「手に職をつけ、一流の職人になりたいから、資格取得の支援制度がある御社で働きたい」というように、左官を目指した理由と志望先の特色が一致しているのが望ましいでしょう。
「海外でも活躍したい」「寺社などの伝統建築まで手掛けられるようになりたい」「独立して経営者になりたい」など、将来のビジョンまであわせて語ると、印象がぐっと良くなります。
面接においても、礼儀正しく、明るくハキハキとした態度を心がけることが大切です。
明確な目標や志望動機をアピールし、企業にとって有望な人材と思ってもらえれば、採用されやすくなります。
就職先はどのように探したらいい?
左官の求人情報は現状かなり豊富にあり、一般の求人情報誌や求人サイト、建築関係専門の求人サイト、転職サイトなどで簡単に見つけられます。
左官の求人は、正社員採用もあればアルバイト採用もありますし、給料も日給制のところもあれば月給制のところもあり、かなりバラエティに富んでいます。
左官業を営む企業のなかには、社会保険が整備されていない会社もあるため注意しましょう。
最初の一歩でつまずかないためにも、就職先選びは慎重に行いましょう。