新聞記者の仕事でつらかったこと(体験談)

新聞記者として、さまざまな苦労がありますが、中でも、新人時代に原稿が書けなかったこと、取材のための「夜討ち、朝駆け」で何度も取材を断られたことが苦い思い出として脳裏に残っています。

原稿がうまく書けない

新聞記者は文章が命ですから、大学時代にはそれなりの勉強をしてきたつもりでした。しかし、実際に仕事として、取材をし、それを原稿にする段になると、どうしてもうまく書けません。

何度も書き直し、推敲し、ようやく完成したと思ってデスク(部次長)に見せると、その場で、破り捨てられました。デスクは「お前は何を言いたいのだ。書かなくてよいから、しゃべってみろ」と一喝。

私がしゃべると、デスクはそれを聞きながらすらすらと鉛筆を走らせます。しゃべり終えると、立派な新聞記事が出来上がっているのです。

この時ほど驚いたことはありません。神技を見せられたように打ちのめされ、それからというもの、いくつかのデスクの指摘を肝に銘じ、何ヵ月も文章の練習に励みました。

新聞記事は、時間との勝負です。どんなに優れた文章でも、締め切りに間に合わなければ、意味をなしません。

文章の構成、起承転結は、取材の段階で頭に入れることもデスクから学びました。鉛筆を取った時点では、記事がすべて出来上がっていることも理解しました。そうして、5,6年経った頃には、ようやく一人前の原稿が書けるようになったのです。

夜討ち、朝駆けができない

取材で苦労したのは、夜討ち、朝駆けです。会社のトップ、あるいは、政治家、役所の幹部の自宅に、深夜、早朝に訪れるのは、決して気の進むものではありません。

取材とはいえ、相手の気持ちを考えると、どうしても気が萎えてしまいます。最初は、先輩記者と一緒ですので、それほどでもなかったのですが、いざ一人で自宅を訪問すると、呼び鈴を押せず、そのまま帰ったことも度々です。

ようやく、本人に面会できても、門前払いを食わされたり、場合によっては居留守、就寝を理由に、取材を断られるケースがほとんどでした。そうした時には、新聞記者になった身を後悔することもありました。

しかし、そうした経験を重ねるうち、夜討ち、朝駆けは、昼間の取材が勝負の決め手になることを学びました。つまり、昼間の時間帯に何度も顔を出し、相手に信頼感を得る。そうすると、夜討ち、朝駆けでも、時には、自宅に招き入れられ、じっくり話をしてもらえるケースが多くなるというわけです。

新聞記者は非礼を省みず、相手の懐に土足で踏み込む職業と見られがちです。しかし、その根底には相手との信頼関係がなくてはなりません。

それは、一朝一夕にはできません。誠意と地道な努力によって初めて得られるものです。信頼関係がある場合、いざという時に成果となって現れるものです。