職業指導員の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「職業指導員」とは
障害を持つ人への技術指導や就職サポート
職業指導員とは、障害を持った人が職業に就くための技術を指導する仕事で「就労支援員」とも呼ばれます。
障害を持つ人はそれぞれ障害の度合いや身体能力に違いがあるため、適性や本人の希望に合わせた技術を指導していきます。
具体的には、パソコン、印刷、木工、農業、園芸、食品などの製造加工、飲食サービスなどがあり、こうした技術を指導し、訓練のサポートを行います。
また、実際に就労を目指す際には職場実習や就業体験を行ったり、就職活動の支援をしたりします。
そのほか、実習先や就職先を見つけたり、就業した際には継続的な訪問や相談したりするなど、就職先と障害者の双方が安心して長く働けるようサポートしていくことも大切な仕事です。
主な活躍の場は障害者の就労支援を行う施設で、就労移行支援や就労継続支援を行う障害者関連施設・事業所、職業指導を行っている児童福祉施設などです。
職業指導員になるためには、特別な資格は必要がありませんが、国家資格である「社会福祉士」や「介護福祉士」などの資格を取得しておくと就職に有利です。
また、技術指導を行う際には一定の経験や技能が求められるため、実際の求人では、社会福祉主事任用資格(児童福祉施設では児童指導員任用資格)が求められるケースが多いです。
「職業指導員」の仕事紹介
職業指導員の仕事内容
障害がある人に対する就労訓練とサポート
職業指導員の仕事は、障害がある人に対し、適切な職業に就けるようサポートし、職業訓練を行うことです。
障害といっても、身体的な障害、精神的な障害、知的障害など人によってさまざまな症状があり、一人ひとりの身体能力や障害の度合いには大きな差があります。
そのため障害者一人ひとりの適性や能力、希望や好みを判断しながら、個別の作業プログラムを考えていきます。
具体的な作業内容には、パソコン、木工、陶芸、織物、農作業、食品などの製造、飲食サービスなどがあり、主に軽作業が中心です。
これらを通し障害者の労働のモチベーションをアップさせることで、日常生活の自立や社会参加を目指すという大きな役割もあります。
障害者の労働は、私たちが普段行っているようにスムーズにはいかないことも多いため、効率を上げるために道具や設備を整えたり、安全でよりやりやすい方法を一緒に考えたりもします。
また障害があってもその人の力が発揮できるよう、職業訓練のプログラムを作成したり、指導方法を考えたりするのも大切な仕事です。
作業を指導する際には障害がある方でも理解ができるよう、わかりやすく繰り返し教えることができる指導力や、安心安全に作業に取り組めるよう配慮する思いやりなどが求められます。
さらに障害者一人ひとりに十分な理解を示し、利用者と真摯な姿勢で向き合える人、思慮深さも重要だといえます。
職業指導員になるには
大学や専門学校で障害者福祉や介護について学ぶ
職業指導員になるには、大学・短大・専門学校などで福祉学、社会福祉、介護福祉、介護学などを学ぶのが近道です。
大学や短大では「社会福祉主事任用資格」を取得することができます。
これは公立の施設勤務でなくても知的障害者福祉施設、身体障害者福祉施設で働く際に求められることが多いため、学生時代にぜひ取得しておきましょう。
なお児童福祉施設で職業指導員になるためには、「児童指導員任用資格」が求められることが多いため、幅広く学んでおくとより道が開けるでしょう。
実際に就職する際には、国家資格である「社会福祉士」や「介護福祉士」などの資格が求められたり、指導する作業についての実務経験が求められたりすることもあります。
厚生労働省のガイドラインにおいても「技術指導分野において実務経験を2年以上有していること」とされています。
ただし、学生時代のボランティアなどの経験があれば新卒での就職が可能な場合もあり、近年では未経験可としている求人もあるため、就職先を探す際には広く情報を集めておくとよいでしょう。
また、障害児施設の公営の授産施設をはじめ、各自治体で運営している障害者施設などで働くには、地方公務員採用試験に合格する必要があるため、進路が変わってきます。
学生のうちに自分がどのような場所で働きたいかをあらかじめ考えておく必要があります。
職業指導員の学校・学費
資格が取得できる学校で学ぶと有利
職業指導員になるには、社会福祉主事任用資格や児童指導員任用資格が必要となることが多いです。
社会福祉主事任用資格を取るには大学・短大、または専門学校などで指定科目を履修し卒業しなくてはならないため、こうしたカリキュラムがある学校を選ぶとよいでしょう。
さらに国家資格である「社会福祉士」や「介護福祉士」などの資格を取得しておくと就職に有利となることも多いため、上位の資格取得を目指すのも良い方法です。
また、学生時代から施設などでボランティア活動をしたり、実習に参加したりすることで、就業経験がなかったとしても新卒で採用されることも可能です。
職業指導員の資格・試験の難易度
「社会福祉主事任用資格」または「児童指導員任用資格」が求められる
職業指導員になる際に特別な資格が求められることはありませんが、実際に採用される際には「社会福祉主事任用資格」「児童指導員任用資格」が求められるケースが多いです。
特に公務員として勤務したい場合は必須であるといえます。
「社会福祉主事」とは、社会福祉事務所で社会福祉によるサポートする人です。
社会福祉主事に任用されるための資格を「社会福祉主事任用資格」といい、「任用資格」とは、特定の職業や職位に就く際に必要になる資格のことです。
「任用資格」は取得するだけでは効力を発揮しません。
任用資格を取得し、地方公務員試験に合格し、福祉事務所に配属されてはじめて「社会福祉主事」となることができるのです。
社会福祉主事任用資格を取得するには、大学で指定の科目を履修するなど、いくつかの方法があります。
「児童指導員」も、放課後等デイサービスや児童発達支援センター、児童発達支援施設で勤務する人のことです。
社会福祉主事と同様に、児童指導員として働くための任用資格があり、これは大学や大学院で一定の科目を履修し成績が証明されるか、高校卒業後2年以上児童福祉事業に関わって働くことで得られます。
そのほか、小中高の教員免許や幼稚園教諭の資格を持っている場合も認定されることがありますし、社会福祉士、精神保健福祉士のいずれかを取得している場合も同じように任用資格を得られます。
職業指導員の給料・年収
決して水準が高いとは言えない
厚生労働省が行った平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果によると、就労移行支援施設で働く職業指導員の年収は4,195,198円、月収にすると349,600円です。
また非正規雇用の場合の年収は2,635,887円、月収にすると219,657円です。
勤務先の種類や規模や所持している資格、経験などによって異なりますが、平均すると400万円前後がボリュームゾーンとなるでしょう。
近年は障害者福祉に参入する民間企業が急速に増え、勤務先によって給料や待遇に違いがあり、就職の際にはしっかりと調べておくことが大切です。
また経験がある場合と、まったくない場合とで違いがあり、障害者施設等で勤務経験がある場合、未経験者よりもよい給料で採用されるケースが多いです。
全くの未経験者や新卒の際は、18万円~20万円ほどからのスタートになることもあり、決して高いとは言えない水準です。
いずれにしても、障害者福祉の仕事は全体的に平均給与がやや低めとされることが一般的で、一般の社員・職員では年収500万円以下にとどまる人が多いのが現状です。
この仕事を続ける上で高額な収入を得ることは難しいですが、公務員として勤務したり、職業相談員を経て管理者などへと昇進したりすると昇給も望めます。
公務員として働く場合は、自治体の等級で決められた給料が支払われ、勤続することによって徐々に昇級していきますし、保険や待遇などの面でも安定しています。
職業指導員の現状と将来性・今後の見通し
利用者は増え役割も大きくなっていく
厚生労働省によると、労働が可能な障害者は約390万人いますが、実際に就労できている人口は約54万人しかいません。
それに加え、発達障害などの障害に悩む児童は年々増えており、18歳で学校を卒業すると行き場を失ってしまう人が非常に多いです。
国としても、労働人口の減少などから労働可能な人は就労をし、自立を目指すこととしており、就労支援を必要とする人は今後ますます増加していくでしょう。
一方で施設に通っても就労には至らない、賃金が安いなどの現状が多く、障害者の就労支援の一翼を担う職業として、職業指導員としての役割も大きくなっていくでしょう。
職業指導員の就職先・活躍の場
障害者関連施設や事業所が中心
職業指導員が働いているのは、知的障害者福祉施設、身体障害者福祉施設、児童福祉施設、就労を支援する事業所などです。
公立の施設が多い為、公務員として働いている人が多いですが、民間の事業所で働く人も増えてきています。
なお、国が定めた就労支援には「就労移行支援」と「就労継続支援」の2種類があります。
「就労移行支援」は、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートを行うものです。
「就労継続支援」は、一般企業への就職が困難な方へ働く機会を提供するサービスです。
就労継続支援には、対象者や支援内容により就労継続支援A型(雇用型)と就労継続支援B型(非雇用型)の2つの枠組みがあります。
職業指導員の1日
利用者のいる日中に働く
職業指導員の一日の流れは勤務先によって多少違いはありますが、たいていの場合は利用者のいる時間帯に働くため日勤です。
フルタイムではなく、パートで短時間働く人もいます。
職業指導員のやりがい、楽しさ
利用者の成長を間近に見られる
職業指導員の一番のやりがいは、利用者の成長を感じられることです。
職業指導員は障害の度合いによって一人ひとりの目標や作業プログラムを組みますが、それを達成することができれば、自分自身も非常に嬉しい気持ちになります。
作業内容を見直したり、工夫したりすることで利用者自身から「早く作業ができるようになった」「作業がやりやすくなった」と言われることも、大きな喜びとなるでしょう。
また、利用者が毎日笑顔で施設に通ってくれることや「もっと作業ができるようになりたい」「目標達成のために頑張りたい」という声を聞くことができるのも、仕事をする上で大きなモチベーションになります。
職業指導員のつらいこと、大変なこと
暴力や暴言を目の当たりにすることも
障害者施設を利用する人たちは、さまざまな症状を抱えています。
身体障害だけでなく、精神的、知的障害がある方も多く、感情がうまく伝えることができない人も多いです。
突然暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりすることも珍しくありません。
こうした人たちへの対応は職業指導員だけではなく、ほかのスタッフと連携して話し合いをして対応しますが、すぐに改善が見込めることではなく、職員が我慢をしなくてはならない場面もあります。
何度繰り返してもなかなか自分の思いが伝わらない、作業がうまくできないことにジレンマを感じることも多くあるでしょう。
こうしたケースは少なくなく、職員間の連携や医療との連携を大切にしながら乗り越えていかなくてはなりません。
職業指導員に向いている人・適性
コミュニケーション能力がある人
職業指導員に向いている人は、コミュニケーション能力がある人です。
利用者は障害があるためになかなか自分の気持ちを伝えることができなかったり、言葉にすることが難しかったりする人もいます。
そういう人に対しても傾聴の心を持ち、積極的にコミュニケーションをとろうという気持ちがある人には向いているでしょう。
また、仕事をする上では利用者の家族やほかの職員、行政や医療関係者、利用者の就業先などと接することも多いため、誰とでもすぐ打ち解けられる人は仕事がしやすいといえます。
さらに、障害者施設では季節に合わせたイベントやレクリエーションを行うことも多いため、イベントごとが好きな人も向いています。
職業指導員志望動機・目指すきっかけ
福祉への興味関心や勉強がきっかけ
職業指導員を目指すきっかけで多いものは、高校や大学などで福祉に興味を持って勉強した経験です。
とくに大学や専門学校で福祉を学ぶ場合、さまざまな施設に実習や見学に行く機会があります。
そのなかで障害者の支援施設や就労支援の仕事に触れ、職業指導員に興味を持ったという人が多いです。
なかには学生時代からこうした施設でボランティアをして、そのままそこに就職したという人もいます。
そのほか、漠然と福祉の仕事や障害者に関わる仕事がしたいと考えるうちに職業指導員の仕事を知り、自分の知識や資格を生かして働きたいと思うようになったという人も少なくありません。
職業指導員の雇用形態・働き方
短時間勤務ができるところも多い
職業指導員は、公立の施設で働く場合は公務員の身分となります。
一方、民間の施設で働く場合はフルタイムではなくパートタイムなど短時間の勤務ができるところも非常に多いです。
就労支援の施設の利用者は9:00~15:00前後に働くことが多いため、この時間帯前後のパート勤務を募集していることが多いようです。
また、施設の利用は平日のみとしているところも多いため、家事や育児などとも両立しやすい仕事で、主婦層が勤務していることも多いです。
経験者はもちろん、未経験者でも働きながら少しずつ仕事を覚えていけるところが多いため、福祉系の学校を卒業後、別の仕事をしていた人が再就職先として選ぶことも多いです。
職業指導員の勤務時間・休日・生活
残業が発生する場合も
職業指導員の勤務時間は、勤務する施設によって違いがあるものの、朝の8時~9時頃から業務を開始し、18時前後で勤務終了となる職場が一般的です。
ただし、利用者やその家族と面談したり、行政や医療関係者と打ち合わせをしたりする場合は、残業となることもあります。
職業指導員は、利用者が施設にいる間は作業の指導に徹するため、事務作業や打ち合わせは、どうしても利用者が帰宅してからの時間帯となり、仕事量が多い日は数時間の残業を行うこともあります。
休日は、土日祝日が完全に休みというところもあれば、土曜日は出勤となる場合もあり、施設によって異なります。
職業指導員の求人・就職状況・需要
今後さらに増えると予想される
職業指導員を必要とする就労支援施設は年々増えつつあり、求人も多く見られます。
就労移行支援のほか、一般企業で働くことが今は難しいものの、支援があれば働ける人に働く場を提供する福祉サービス「就労継続支援」を提供する事業所A型(雇用型)とB型(非雇用型)があります。
さまざまな障害によりこうした施設を利用する人は増え続けており、今後もさらに増加していくと考えられます。
特に近年では身体的な障害を抱える人だけでなく、ADHD、自閉症スペクトラム、学習障害などといった発達障害を持つ人が利用することも増えています。
発達障害のメカニズムが解明され支援が手厚くなるにつれて、より需要も高まっていくと考えられます。
職業指導員の転職状況・未経験採用
転職や再就職も多い仕事
職業指導員の仕事は転職でなることもできますし、再就職でなる人も多いです。
職業指導員の仕事は比較的経歴や資格の有無が問われにくいこと、需要が高い職業であることから、福祉に興味があったり学校で学んだりした経験があれば働きやすい職業です。
実際、一度結婚や子育て、介護等で福祉の仕事から離れたものの、再度経験を生かしたいと職業指導員になる人もいます。
短時間勤務が可能であり、家庭と両立しやすいところも魅力であるといえます。
ただし、公務員として働きたい場合は公務員試験を受け採用されなくてはならないため、募集も少なく非常に狭き門です。
職業指導員と生活支援員の違い
仕事面での支援と生活面での支援の違い
職業指導員は、障害がある人に対し、仕事や作業を教え、技術を向上させるためのサポートをします。
たとえば、その人にはどのような仕事が適しているかを見極め、適切な作業の仕方を指導します。
一方、生活支援員は、障害がある人の生活上の相談を受け、健康管理の指導や生活の仕方の助言をする仕事です。
生活をする上での困りごとを解決したり、より快適に生活ができるよう助言したりするのが主な役割です。
職業指導員は仕事や就労に特化した業務が主で、生活支援員は生活や福祉的なサポートが業務の中心です。
就業の際も、異業種からの転職は職業指導員が多く、介護や福祉系の勤務経験がある場合は生活支援員が多いようです。