理化学研究所職員の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「理化学研究所職員」とは
自然科学系に関する研究を専門に行う
理化学研究所は、文部科学省所管の独立行政法人で、日本国内では唯一の自然科学系総合研究所です。
研究分野は物理学、化学、工学、生物学、医科学など幅広く、基礎研究から応用研究までを行っており、大学や企業との共同研究も多く行うなど日本でもトップクラスの研究機関です。
埼玉県和光市にある本部をはじめ全国各地に拠点を構え、海外にも拠点がおかれています。
理化学研究所は各拠点に研究組織を持っているのが特徴で、幅広い分野での研究を進めています。
2020年の常勤職員は3,502人で、その85%にあたる2,973人が研究系職員です。
全常勤職員のうち女性が37%、研究系職員では37%、研究職員では15%、研究管理職では8%を占めています。
また、世界各国から研究者や技術者、学生を積極的に受け入れており、外国籍の研究系スタッフは、2019年では822人です。
そのうち、研究員(非常勤を含む)として451人が在籍しており、非常に多種多様な人たちがそれぞれの研究を進めています。
各センターごとの人員数は大きく差があり、数百人単位で働いているところもあれば、わずか数人というところもあり、研究内容によって人員の募集も大きく異なります。
「理化学研究所職員」の仕事紹介
理化学研究所職員の仕事内容
研究に関するものだけではない
理化学研究所職員の大きな仕事は、各分野の研究開発を行いその成果を出すことです。
国内唯一の自然科学系の研究所として、高度なレベルでの研究を行い、その成果を発表し、国内外のさまざまな場所で生かせるようにします。
研究機関として、研究者を育成・輩出することも大きな仕事のひとつです。
理化学研究所では、若手の研究者や優れた成績を残した研究者を国内外問わずに積極的に登用し、研究体制を整備しようという取り組みを行っています。
また、大学生や大学院生を積極的に受け入れたり、海外の研究機関と連携したりして、研究の基盤の形成や運営を戦略的に行うこともしています。
それ以外の仕事としては、民間企業や大学では行えない新たな研究領域を創設したり、革新的な研究開発を行ったりすることもあります。
研究に関する仕事は主に研究部門が担っており、理系の学問を修め優秀な成績を残した人を中心として採用されています。
こうした研究を支えているのが事務系総合職で、一般企業と同様に総務や人事、経理、広報などの仕事を担います。
理化学研究所特有の仕事として、知財・外部資金等の組織運営に係る業務や、国際協力に関する業務、研究開発の補助的業務などがあり、理系の知識が求められることもあります。
そのほか施設部門や安全管理部門という業務もあり、研究施設の機械や電気の保守など施設の管理を行う仕事です。
理化学研究所職員になるには
研究部門であれば理工系の学びをが必須
理科学研究所職員の求人には、毎年一斉採用されるものと、随時募集されるものがあります。
求人の内容によって条件に違いがありますが、2022年の事務系総合職の採用情報を見ると、「高専(専攻科)・大学(院)を卒業(修了)見込」とされています。
また「2019年3月以降に高専(専攻科)・大学(院)を卒業(修了)された第二新卒(就業経験の有無は不問)」ともあり、卒業してから一定期間社会に出た人も対象とされています。
まずはこうした条件をクリアするために、高専や大学などを卒業する必要があります。
一部の部署については、理工系の学科・専攻の学生のみ採用するところもあるため、進路を考える際から意識をしておいた方がよいでしょう。
理化学研究所は特に国内トップクラスの学生が殺到しますし、海外の大学に留学経験がある、学会で発表経験があるなど優秀な学生が多く集まります。
非常に狭き門となるので、理化学研究所の職員、特に研究部門の職員を目指すのであれば、まずは学生のうちからしっかりと対策をしておくことが大切です。
なお、事務系総合職の場合は文系の学生でも応募が可能で、採用される可能性も十分にあります。
ただし、職務上どうしても科学の知識が必要となる部署に配属になることもあるため、一定以上の知識を身に付けておいた方がよいでしょう。
一方、理系出身者が、法律や経済の知識が必要となる部署に配属になることもあるため注意が必要です。
理化学研究所職員の学校・学費
連携する大学や大学院への進学も
理科学研究所の採用試験では高専または大卒以上の学歴が必要とされます。
理科学研究所は非常に人気のある就職先であり、多くの研究者が研究職を目指すため、大学院まで進学する人も少なくありません。
なお、理科学研究所は、複数の大学との間で研究協力を行っており、大学から研修生を受入れることも積極的に行っています。
とくに埼玉大学とは連携して連携大学院を開設しており、そのほかにも全国にある多数の大学院や海外にある大学・大学院とも連携を行っています。
こうした大学や大学院への進学を目指す人もいますが、ここに進学したからといって必ず採用されるとは限らないため、あくまで「学びを深めたい」という意思で進学先を決める必要があります。
理化学研究所職員の資格・試験の難易度
研究分野に関わらず語学力は必須
理科学研究所へ就職の際、一部の研究職を除き特別な資格が求められることはほとんどありません。
特定の資格や語学レベルが求められることもありますが、それよりも大学や大学院で、学生時代から評価されるような活躍をしておくことが大切です。
学会や研究会などに参加したり、論文を発表したり、海外へ留学したりして実績を積み重ねることが必要です。
なお、理科学研究所で研究をする上で、分野に限らず共通していえるのは、語学力は必須だということです。
研究を進める上では、英語で論文を書いたり読んだりすることは必要不可欠ですし、海外の研究者と協力して研究をすすめることもあります。
TOEICなどにチャレンジして語学力のレベルを示すことは自己アピールにつながるでしょう。
理化学研究所職員の給料・年収
事務・研究部門ともに年収は高め
理科学研究所の求人情報を見てみると、2020年度の若手研究員募集(基礎科学特別研究員)での給与は、年俸制で毎月48.7万円(社会保険料、税込み)となっています。
さらに、通勤手当や住宅手当など加算され、研究費が一年間に100万円割り当てられます。
一般的な事務系総合職の初任給は以下のようになっており、賞与は年2回、4.45カ月分支払われています。
学部卒:月給202,300円
修士了:月給233,700円
高専卒:月給184,300円
高専専攻科卒:月給191,800円
理化学研究所で公開されている情報によると、事務系職員については、平均年齢43.8歳で平均年収が876.4万円です。
これは一般的な国家公務員の水準よりも高めとなっています。
研究職となるとさらに給料が高くなり、役職がつくようになると900万円から1000ほどとなることも珍しくありません。
民間の研究者や研究職と比べても、かなり高めの給与となっていることがわかりますが、日本でトップクラスの研究機関だということを踏まえると納得のいく額かもしれません。
なお、理化学研究所には研究室や研究グループ、ユニットは約350あり、おのおのの研究テーマによって研究費の使い方は所属する主任研究員にゆだねられています。
それぞれ数百万から1000万円ほどの研究費があたえられ、研究に必要な機器や道具の準備、技術員を雇うための人件費などがここから賄われます。
理化学研究所職員の現状と将来性・今後の見通し
理科学研究所のあり方が問われる
かつて世界をけん引する科学大国と言われた日本ですが、近年急速にそのレベルが落ち始めています。
これは中国が巨額の資金を投じて科学に力をいれていることや、不景気などから潤沢な研究費用がなく、海外で研究をしようとしている若手研究者が増えているためです。
また、2014年に発覚した「STAP論文事件」では、研究不正が発覚し、世界からの信頼を大きく失ってしまう結果となりました。
文部科学省所管の国立研究開発法人であり、この先もなくなることは考えられませんが、優秀な人材をつなぎとめ世界レベルの研究を維持するために、工夫をしなくてはならない時期にきています。
理化学研究所職員の就職先・活躍の場
理化学研究所への就職
理科学研究所に就職するには、いくつかのステップがあります。
事務系総合職の場合は、Web上で行われる適性検査、グループ面接、個別面接を2回行い、約1カ月半程度かけて行われます。
事務系職員の多くは本部のある埼玉県和光市で働きますが、理科学研究所は都内をはじめ、茨城県、神奈川県、大阪府、兵庫県、宮城県などさまざまな拠点があり、勤務地の変更を伴う異動があります。
とくに研究部門の場合は将来的に海外拠点で勤務するケースも多く見られます。
事務系総合職の場合は毎年定期的に採用が行われていますが、募集は基本的に若干名で、実際採用されるのも例年5名程度と、非常に狭き門であることを注意しておきましょう。
理化学研究所職員の1日
研究職の一部は裁量労働制を採用
理科学研究所職員は、一般的な事務職員や一部の研究職は9:00~17:20(休憩12:00~12:50)と勤務時間が定められています。
一方、一部の研究職では裁量労働制が適用されており、1日7時間30分就業したものとして計算されています。
実験や研究の内容によっては昼夜関係なく仕事を行うこともあるため、柔軟に対応できるようになっています。
理化学研究所職員のやりがい、楽しさ
トップレベルの研究に関われる
理科学研究所の仕事のやりがいは、国内トップレベルの研究に関わることができる点です。
国の研究機関だけあって、民間や大学に比べると研究の質は高く、実験に必要な機器やシステムも圧倒的に充実しています。
世界最先端の研究を行っているグループも多く、恵まれた環境で研究に専念できること、それらを支えることは職員にとっての大きなやりがいです。
また、理科学研究所には大学生や院生、留学生、若手研究員などさまざまな人が働いており、世界中から優秀な人材が集まります。
部署を超えて職員同士が協力し合うことも珍しくなく、さまざまな国の研究や文化に触れることができる刺激的な毎日を過ごすことができるでしょう。
理化学研究所職員のつらいこと、大変なこと
研究が成功する保証はない
理科学研究所で行われる研究はどれも高度なレベルのもので、まだ世界的にも実証されていないものや、誰も成功していない実験なども多くあります。
簡単に成果を出すことは難しく、何度も調査や分析を繰り返し、失敗をしながら研究を続けなくてはなりません。
研究が成功するという確信のないなか、日々の研究が思うようにいかなかったり、予測した結果にならなかったりしたときには絶望感にさいなまれることもあるでしょう。
また、研究職のなかには任期付きのものも多く、一定の成果をあげなくては次のポストがなくなってしまうという不安感を持ちながら研究に当たっている人もいます。
そのため、生活の大部分を研究に費やし、昼夜を問わずに没頭するという人も珍しくありません。
理化学研究所職員に向いている人・適性
失敗してもあきらめない心
研究を進める上では、うまくいかないことももちろん多々あります。
計算上ではあっていたとしても実験が失敗することはよくありますし、予測したような結果にならずに頭を抱えることもあるでしょう。
こうした失敗を繰り返しても「あきらめずにもう一度やってみよう」「原因を考えてみよう」と気持ちの切り替えが早くできる人は、この仕事にむいています。
理科学研究所の仕事に限らず、研究職に挫折や失敗はつきものです。
こうしたときにどうやって乗り越えていくか、失敗を次の成功のためにどのように生かすか、といった視点で物事をとらえ、次に向かって努力できる高いモチベーションは、研究者に必須のものです。
理化学研究所職員志望動機・目指すきっかけ
国内トップレベルの研究機関で働きたい
理科学研究所を志望する理由として多いものは、日本で唯一の自然科学系の研究所で、最先端の研究に携わりたいというものです。
日本で研究職を目指すとなると、民間の研究職や大学などの教育機関といった選択肢もありますが、理科学研究所では公務員とみなされ安定した環境で研究に打ち込むことができます。
さらに、その分野の最先端の研究や国内でもトップレベルの人材が集まることから、研究に専念して成果を残したいという人が多く志望します。
また、理科学研究所は全国の大学や民間の企業などとも共同研究を行っており、学生や社会人の立場からこうした研究に関わることで、本格的に職員の道を志したという人もいます。
理化学研究所職員の雇用形態・働き方
任期付きの職員も多く長期雇用はごくわずか
理科学研究所の職員には、常勤職員と任期付き職員がいます。
理科学研究所で勤務する2,973人の研究系職員のうち、85%にあたる2,389人が任期制職員です
また、研究系常勤職員のうち長期雇用者(無期雇用職員・定年制職員)は584人となっており、多くの人は一年ごとの契約で、長期的に雇用されるのは難しい現状があります。
これは人が入れ替わることで新しい風が入りやすい一方で、優秀な研究者に不安定な働き方を強いられることとなります。
このため理科学研究所では、中長期的に進めるべき分野などを考慮し、長期雇用者の割合を4割程度まで増やすことを目指しています。
このほか、事務系の職員にも常勤職員と任期付きの補助職員がおり、任期付きの場合は基本的に最大3年から5年の範囲で雇用されています。
理化学研究所職員の勤務時間・休日・生活
裁量労働制やフレックスタイム制も採用
理科学研究所では、始業が9:00、終業が17:20、休憩時間は12:00から12:50までの50分と定められています。
ただし、業務上必要があるときは、始業時刻、終業時刻、休憩時間は変更されることがあります。
とくに研究開発及び情報システムの分析・設計に関わっている場合、裁量労働制を適用できると定められており、この場合は約7時間30分間労働した者とみなされます。
また研究に必要な場合はフレックスタイム制も適用でき、柔軟な働き方ができるよう制度が整えられています。
休日については、基本は完全週休二日制で一般的な公務員と同様ですが、研究内容や進捗状況によっては休日出勤をすることもあります。
理化学研究所職員の求人・就職状況・需要
定期採用のほか不定期採用も多い
理科学研究所での新卒採用は、毎年定期的に行われるものの例年若干名の募集となり、倍率は非常に高いです。
ここ数年の採用情報を見ると、事務系総合職の場合は、5名程度の採用です。
一部の研究者や事務系職員を除いて、大抵のものは任期付き職員で1年ごとに研究評価をだされ、基準に満たない場合は解雇されてしまいます。
任期制の職員に退職金はありません。
一方で、年契約を行うことによって流動性が生まれ、優秀な研究者は理研であげた成果を元にステップアップし、他の研究機関に移っていくケースも多く見られます。
任期付研究員については随時募集が行われており、それぞれ研究分野ごとの区分で採用が決定されます。
採用情報は理科学研究所のホームページで公開されていますので、興味のある人は日頃からどのような求人情報があるのかをチェックしてみるとよいでしょう。
理化学研究所職員の転職状況・未経験採用
中途採用されるケースも多い
理科学研究所の職員には、転職でなることもできます。
2022年度の採用条件には「2019年3月以降に高専(専攻科)・大学(院)を卒業(修了)された第二新卒(就業経験の有無は不問)」という記載があり、一度社会に出た人でも応募することが可能です。
また、随時募集されている研究員などの求人も年齢問わずに募集されていることが多いです。
研究職は一定の期間に長く所属するということは少なく、大学や研究機関、民間企業などを転々とする人も多いため、理化学研究所の職員も同様です。
なお「委託研究員」という制度もあり、民間企業からその職員を委託研究員として受入れ、研究または技術の習得を指導することもあります。