化学者の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「化学者」とは
物質を原子・分子レベルで研究し、新しい物質を考えだす
化学者とは、さまざまな物質の構造や性質、物質と物質の間で起きる変化や反応について研究する人のことです。
化学は「ばけがく」とも呼ばれ、地球上または宇宙に存在する物質の構造や性質を調べる学問です。
物質の構造や性質を研究することで、物質が変化する条件やメカニズムを発見し、未知の物質の性質や、新たな物質を作りだすことを目標としています。
化学には「無機化学」「有機化学」「物理化学」「分析化学」といった分類があり、それぞれが理論を学ぶだけでなく、実験や実習を通じて仮説が正しいかどうかを調べていきます。
物質同士によって起きる変化や反応を調べるため、実験や実習が最も多い学問のひとつとされています。
化学者になるには、大学に残って研究を続けるほか、総合化学メーカーや化粧品開発会社、製薬会社、農薬開発会社などの研究職になる方法があります。
なかには大学院修了者しか採用しない企業も多く、大学院に進んでより深く化学を学び、専門的な研究をすすめる人が大半です。
化学はクリーンエネルギーや医療への活用、ファインケミカルなど、私たちの生活に身近なものに利用されていることも多いため、研究開発が進んでいる分野です。
近年はとくに地球環境保全に力を入れる大学や企業が増えており、こうした観点からも、世界的に優秀な人材の確保に力を入れているところが増えています。
「化学者」の仕事紹介
化学者の仕事内容
物質に関する研究で社会に貢献する
化学者とは、地球または宇宙にある物質の構造や性質、物質と物質の間で起きる変化や反応について研究する仕事です。
世界には数多くの物質が存在しますが、自然界に存在するあらゆる物質はすべて原子によって構成されています。
現在元素の種類は92種類、人間によって作り出された元素を合わせて109種類があり、こうした元素の組み合わせから、私たちの生活に必要なさまざまな物質が作られているのです。
化学者は原子や元素についての研究を行い、新しい性質や物質を作り出します。
その成果から日用品や電子機器が作られることも多く、社会に大いに貢献できる仕事です。
化学には、金属やガラスなどについて研究する「無機化学」、アミノ酸などについて研究する「有機化学」、物理学の観点からアプローチする「物理化学」、物質の分析を行う「分析化学」があります。
化学者の仕事としては、大きく文献調査と実験レポートの2つがあります。
文献調査は過去の論文を読むことを通じて得た知識をまとめて報告するもので、一方、実験レポートは実験の過程や結果をまとめ、考察を報告します。
化学は基礎科学にあたり、物理学や工学、薬学など他の学問領域へと応用・発展されることも多く、実験や実習を繰り返しながら、それぞれの専門分野で研究を進めていきます。
化学者になるためには、修士課程や博士課程へと進むのが一般的で、学部での4年間と修士課程を含めた6年間を終えたのち、就職するケースが最も多いです。
化学者になるには
大学や大学院を卒業し、就職先を選択する
化学者になるには、大学に残るか、それ以外に就職先を見つけるかのどちらかの道を選択します。
まずは大学で工学や理学など化学に関連する学科を卒業し、さらに大学院まで進むのが一般的です。
大学に残って研究するには、この間に論文を書くなど成果を出す必要があります。
正規職員になるまでの道は長く、「博士研究員」や「ポスドク」として経験を積み、助教授や講師、准教授を経て教授になるのが一般的なルートです。
メーカー等の民間の研究職になる場合は、新卒採用は基本的に毎年実施されているため、採用試験を受け合格しなくてはなりません。
一般職や総合職とは別に「研究職」や「開発職」「技術系」などという名前で募集されており、それぞれに応じた学部・学科の卒業が応募条件とされています。
各社は事業内容に合わせた人材を求めているため、入社を希望するところがあれば、対象となる分野は事前に調べておきましょう。
大学を通じた推薦応募もよく行われており、大学の研究室や教授とつながりがある企業は、優秀な学生を採用するために直接求人を出すことも珍しくありません。
さらに狭き門ではありますが、国家公務員採用試験や地方公務員採用試験を受け、化学系の公務員として研究・技術者になる道もあります。
また研究者とは言い切れない部分もありますが、中学理科や高校化学の教員になり、生徒を指導しながら化学の研究をするという人もいます。
化学者の学校・学費
理学部や理工学部で化学を学ぶ
化学を学びたいと思った場合は、理学部に進学するのが一般的です。
また理工学部で化学を学べるところもあります。
学科は「化学科」としている大学が大半ですが、「応用科学科」としているところもあり、応用科学科は、より新しい物質を発見、実用化しようという研究に取り組むことが多くなっています。
化学には、有機化学、無機化学、高分子化学、化学工学、などさまざまな分野があるため、自分がどんな研究に取り組みたいのか、それができる大学や研究室はどこかを考えておきましょう。
また、化学者を目指したい場合には、大学院があるかどうか、その大学出身の化学者はいるかどうかなども重要なポイントです。
化学者の資格・試験の難易度
語学力を身に付けておくと有利
化学者になる際に、特別必要な資格はなく、研究をする上で必要に応じて取得を目指していくのが一般的です。
就職の際も、資格よりも各分野の専門知識や、大学で行っていた研究内容の方が重視される傾向にあります。
ただし、研究を進める際には英語で論文を書いたり海外の論文を読んだりする機会も多く、海外の研究者とやり取りをするためにも語学力が必要です。
メーカーの研究職の場合も、海外出張や海外スタッフとやり取りする機会も多いため、学生の内からTOEICなどで語学力を示すようにしておくと、有利になるでしょう。
実際に大手化学メーカーのキャリア採用にはTOEIC600点以上を条件としているところもあります。
化学者の給料・年収
化学に関する業界は安定した収入を得られる
化学者の給料は、勤務先や立場によって多少の違いはありますが、化学業界は日本の産業を支える大切な分野であり、経済的にも技術的にも期待されていることから、高収入がのぞめます。
大学で研究をする場合は、化学者として働きはじめてから教授になるまでの道のりは長く、正規職員となり安定した収入を得られるまでには時間がかかります。
アルバイトをしながら生活を支えることも多いですが、経験を積み教授になれば年収800~1000万円程度が支給されます。
このほかに研究費なども支援されるため、安定した環境で研究に打ち込むことができるでしょう。
メーカーや企業に就職する場合も、研究職を採用するところはたいてい規模が大きく、経営も安定しているところばかりです。
各企業が独自性や専門性を持っているので競争も少なく、不景気であっても経営が左右されることはありません。
そのため化学業界は比較的待遇がよく、給与水準も高めとなっています。
専門知識を有した人材が採用の中心となっているため、修士、博士など学歴でなどで初任給が変わり、初任給は25~29万円ほどと、ほかの業界と比べても高い水準です。
メーカーによっては、博士卒の場合初任給で月収30万円を超えている企業もあります。
とくに化学メーカーなどは、給料面や福利厚生の充実、安定したイメージがあることから、学生の就職先としても非常に人気が高くなっています。
化学者の現状と将来性・今後の見通し
日本の産業の一翼を担っていく
日本は資源に乏しいため、昔から化学に力を入れ新しいものづくりをしてきました。
とくに大学や化学メーカーでは研究に力を入れ、最先端の技術を生み出し、世界をけん引してきました。
化学は日本の産業を支える大切な分野であり、今後もさらに発展が続くといえます。
また、化学を研究することで地球の温暖化問題や太陽エネルギーの活用などについても関わっていくことができます。
環境問題やエネルギー課題などが世界的な課題となるなか、今後こうした問題に本格的に取り組む研究機関はさらに増えると考えられ、化学者の需要も増えていくでしょう。
こうした流れを受け化学を志望する学生も増えつつあり、優秀な仲間たちと切磋琢磨していく覚悟が必要です。
化学者の就職先・活躍の場
民間企業で働く研究者も多い
化学者となりたい場合は、大学や国公立の研究機関などで研究をするのが一般的ですが、民間で働く研究者も非常に多いです。
総合化学メーカーや化粧品開発会社、製薬会社、農薬開発会社などでは研究所や研究室を構えているところも多く、こうしたところで研究職や開発職として研究開発に取り組む人も少なくありません。
私たちの生活に密接している学問でもあるため、研究テーマにもよりますが、化学の知識を活かして活躍できるフィールドは数多くあるといえるでしょう。
また、教員免許を取得して中学理科や高校化学の教員となり、化学の指導をしながら趣味で研究をするという人もいます。
化学者の1日
勤務先に応じたスケジュール
化学者はほかの研究職や学者に比べるとさまざまな活躍の場があり、それぞれ勤務先に応じた一日を過ごしています。
ここでは化学メーカーで働く研究職のある一日を紹介していきます。
化学者のやりがい、楽しさ
新たな発見を通して社会に貢献する
化学者として研究をする上で一番のやりがいは、今までにない新しい物質を発見したり、これまでわからなかった分子や原子の構造を解き明かしたりしたときです。
こうした成果をあげることができれば、歴史的な発見になるほか、これまでにない新しい素材や部材を作り出すことができるようになります。
研究の成果を生かして新しい製品がつくられ社会に貢献できることは、化学者の大きなやりがいです。
また、化学者をはじめ研究職は各分野のプロフェッショナルが集まっており、ときには海外の研究者や研究室とやり取りをすることも珍しくありません。
高いレベルの人たちと協力したり競い合ったりすることでお互い切磋琢磨していくことで、自分自身を成長させていくことができるでしょう。
化学者のつらいこと、大変なこと
研究の成果を出し続ける大変さ
大学に勤めるにしろ、企業の研究職となるにしろ、常に一定の成果を出し続けなくてはならないのは、化学者の大変なところです。
年単位で取り組む研究も少なくないため、実験を何度も繰り返したり、何か月もかけて調査をしたりしても、思うような結果が出ないときもあります。
とくに企業の研究職として働く場合は、企業の利益となる研究をしなくてはならないため、成果をあげられなければ苦しい立場となってしまいます。
研究に使うことができる時間や予算は限られているため、そのなかで成果を出し評価し続けなければならないということは、大変なプレッシャーです。
化学者に向いている人・適性
化学全般に対して興味関心がある人
化学者に必要なことは、まず化学全般に興味関心があることです。
化学は他の分野とも深くかかわりがあるため、専門性のある一分野だけではなく、化学に関する幅広い知識が必要です。
また、新しい物質を発見したり物質の構造を解き明かしたりする際には、好奇心が旺盛で自由な発想ができることが大切です。
これまでにない斬新な発想や、独創的な考え方から新しい発見があることは非常に多くなっています。
化学を研究する上では、ほかの研究者と共同で研究をしたり、複数の研究者が協力してプロジェクトチームを組んだりすることも多いため、コミュニケーション能力や協調性も求められます。
化学者志望動機・目指すきっかけ
ものづくりへの興味関心
化学を志す人に多い理由は、日本の化学技術の高さに感動し興味を持ったというものが多いです。
スマートフォンなどの電化製品をはじめ、私たちの身の回りの製品には化学を生かしたものが多くあり、その技術を知って興味を持ったという人は少なくありません。
化学はものづくりと密接なかかわりがあり、新しい物質を作り出してよりよい製品を生み出したい、最先端の技術で新しい素材を作りたいなど、ものづくりへの興味から化学を研究する人もいます。
また、ノーベル化学賞を受賞した人の本を読んだり、学校で化学を学んだりするにつれて興味を持ち、化学を深く知りもっと勉強したいと考える人も多くなっています。
化学者の雇用形態・働き方
雇用形態は比較的安定している
化学者は、たいていの場合大学などの研究機関、または民間企業の研究職として働きます。
技術系の職種は専門性が高く、理系学科の卒業が最低条件といえます。
どちらの場合も、専門性が高いため学生のうちに化学を中心に理系の学科を履修し、知識や技術を磨いておきましょう。
化学分野の就職先はほかの分野と比べると比較的多く、毎年新卒採用があり雇用も安定しているほか、企業に就職する場合は研究職として安定して働くことができます。
しかし、大学で研究を続ける場合は不安定な身分で研究を続けることになることもあるため注意が必要です。
大学で研究をするか、民間に就職するかで給与に大きな差が出てしまうことも珍しくありません。
化学者の勤務時間・休日・生活
勤務先によって勤務時間に違いが
化学者は多様な働き方があるため、勤務時間もそれぞれ違いがあります。
大学で働く場合、勤務時間は講義や会議などの予定をこなしながら、時間を調整して研究を進めます。
時間の使い方は比較的自由にできるため、長期休暇などを使って論文を書くことに集中したり、泊り込みで研究をしたりする人もいます。
一方、企業で勤務する場合は一般的な会社員とさほど違いはありません。
フレックスタイム制度や裁量労働制度を取り入れているところも少なくなく、研究に必要な環境が整えられているといえるでしょう。
たいていの場合は完全週休2日制で、土・日・祝日が休日となります。
有名な化学者
ノーベル賞受賞者も多い
日本は化学の分野には非常に力を入れており、近年もノーベル化学賞受賞者が多数輩出されています。
下村脩は、2008年にオワンクラゲという生物の発光からヒントを得た「緑色蛍光タンパク質 GFPの発見と開発」で受賞し、生命科学研究に革命を起こしました。
根岸英一は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」、鈴木章は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」という炭素(C)と炭素をつなげる反応で2010年に受賞しました。
また2019年には、スマートフォンや電気自動車などに使用され、今や私たちの生活に欠かせないリチウムイオン電池(LIB)を開発したことで、吉野彰が受賞しています。
化学者と科学者の違い
化学と科学は呼び方が似ているため混同されやすいですが、明確な違いがあります。
科学は一般的に自然科学のことを表し、学校教科の「理科」にあたるほか、社会科学や人文科学など観察や実験などで実証された学問のことを指します。
一方で、化学は科学のなかの一分野とされ、研究対象は物質に限定されます。
「化」という文字には、「化ける」「影響を及ぼす」と言った意味があり、英語で「chemistry」(錬金術)という意味です。
かつては中近東が科学分野では先進国とされていたため、現在も科学用語はアラビア語由来のものが多いのが特徴です。
ちなみに科学は英語で「science」といい、これはラテン語で「知識」を表す言葉です。