細胞検査士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「細胞検査士」とは
医療機関で、がん細胞の早期発見など細胞病理検査を専門的に行う。
細胞検査士とは、病院をはじめとする医療機関にて「細胞病理検査」を担当する医療専門職です。
細胞病理検査とは、医師が採取した人体の細胞の一部を顕微鏡で観察し、がん細胞を早期発見することです。
細胞検査士になるための一般的なルートは、まず「臨床検査技師」の養成機関で学び、臨床検査技師の国家資格を取得した後に1年以上の勤務を継続し、「細胞検査士」の認定資格取得を目指す方法です。
主な就職先は、がん専門病院や大学病院、一般病院のほか、民間の検査センター、大学や民間企業の研究機関などがあり、正社員のほか契約社員やパートとして働く人もいます。
医療業界を支える重要な職種ではあるものの、細胞検査士の前提キャリアとみなされる「臨床検査技師」自体の求人がさほど多くないため、細胞検査士になるための道のりはやや険しいと考えておいたほうがよいでしょう。
「細胞検査士」の仕事紹介
細胞検査士の仕事内容
人体の異常な細胞がないか、顕微鏡で調べる医療専門職
細胞検査士とは、人体の細胞の一部を顕微鏡で観察し、異常な細胞がないかどうかを発見する「細胞病理検査(細胞診)」を専門的に担当する職業です。
主に医療機関の病理検査室や、民間の検査センターなどで活躍し、医師からの依頼によって検査を行います。
細胞診では、医師が採取した患者さんの組織を専用の液で染色したのち、顕微鏡で観察して、異常な細胞がないか検査します。
細胞診により、がん細胞や異型細胞、異形成細胞(前がん細胞)などを発見することで、悪性疾患、とくに「がん」の発見に貢献する職業です。
細胞検査士の具体的な業務内容
細胞検査士の業務内容は、病理検体の受付や登録にはじまり、標本の作製・染色・管理・保存、細胞診、さらに検査結果の精度管理などとなっています。
細胞診で異常な細胞が見つからなければ「陰性」として報告、もし「異常」と思われる細胞が見つかった場合には、より経験豊富な「細胞診専門医」に見てもらい、報告書を作成します。
細胞検査士や細胞診専門医の出した検査結果は医師のもとに送られ、医師により最終的な診断が下されます。
細胞検査士になるには
まずは「臨床検査技師」の国家資格取得を目指す
細胞検査士は、人体のさまざまな検査を行う「臨床検査技師」の上位認定資格と位置づけられています。
そのため、これから細胞検査士を目指す人は、まず臨床検査技師の国家資格を取得することを目指しましょう。
高校卒業後、臨床検査技師養成課程のある専門学校または短期大学(3年)、もしくは4年制大学を修了し、臨床検査技師の国家試験を受け、合格することで臨床検査技師の資格が得られます。
臨床検査技師の資格を得たら、大学病院や総合病院の病理検査室、あるいは検査センターなどに就職するのが、細胞検査士を目指す人がたどる一般的なルートです。
臨床検査技師から細胞検査士になるまで
医療機関などで1年以上の細胞診検査の実務経験を積んでいくと、日本臨床細胞学会主催の「細胞検査士試験」を受けられるようになります。
あるいは、細胞検査士養成機関に定められている学校で所定のカリキュラムを修了することでも細胞検査士試験が受けられます。
細胞検査士は臨床検査技師とは異なり、国家資格ではありません。
認定試験は筆記試験と実技試験で構成され、合格率は約25%~30%と、やや難易度が高いものになっています。
細胞検査士の学校・学費
臨床検査技師の養成学校へ進学
細胞検査士として働くには、まず「臨床検査技師」の国家資格を取得する必要があります。
臨床検査技師養成課程のある学校は、4年制大学、または3年制の短期大学や専門学校があります。
学費は専門学校で300万円~400万円ほど、大学は国公立で300万円ほど、私立では600万円以上かかることもあります。
なお、数は多くないものの、「細胞検査士コース」のある大学に通えば、修了と同時に臨床検査技師と細胞検査士のダブルライセンス取得も目指せます。
臨床検査技師になってから細胞検査士の認定試験を受けるためには、さらに日本臨床細胞学会認定の細胞検査士養成所に通うか、医療機関などで1年以上実務経験を積む必要があります。
細胞検査士の資格・試験の難易度
高度な専門知識が求められる認定資格
細胞検査士は、国家資格である「臨床検査技師」の上位認定資格と位置づけられています。
臨床検査技師になるにも、その先に細胞検査士を目指すにも、医学や人体、臨床検査に関する専門的な勉強をしなくてはなりません。
細胞検査士試験は、認定試験のなかでは難易度がやや高めといわれており、合格率は例年30%くらいで推移しています。
専門的な学びを続けている人ばかりが受ける試験と考えると、難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
細胞検査士の資格を取得すれば、細胞診の専門家であることを証明でき、就職や転職の際に評価される可能性が高いです。
臨床検査技師として活躍している人が、ステップアップを目的として細胞検査士を目指す例はしばしば見られます。
細胞検査士の給料・年収
大きな医療機関では比較的よい収入が見込める
細胞検査士の前提資格とみなされる「臨床検査技師」の平均年収は、国の調査(令和2年度賃金構造基本統計調査)を基にすると、490万円ほどと考えられます。
細胞検査士の年収も同等か、勤務先やキャリアによっては専門性が評価されてそれ以上となるでしょう。
長く臨床検査や細胞診の経験を積んでいる40代以の人は、年収500万円~600万円以上に達する例も見られます。
なお、勤務先によっても給与水準には差が出やすく、大学病院など規模の大きな医療機関、または大規模な検査センターであれば比較的高収入が期待できます。
細胞検査士が収入アップするためには?
細胞検査士は、雇用形態による収入差もあります。
正社員や正職員であれば月給制で安定した収入が望めますが、パートなど時給制で雇用される場合には、勤務時間数などで収入が変動しやすいでしょう。
また、正規雇用されている場合、長く経験を積むなかで管理職のポストを目指せるチャンスがあります。
また、勤務先によっては細胞検査士以外にも、臨床検査系の認定資格(超音波検査士、緊急臨床検査士など)を複数取得することにより、評価が高まる可能性も考えられます。
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細胞検査士の現状と将来性・今後の見通し
求人数はさほど多くないが、専門性の高い人は活躍しやすい
細胞検査士は、「臨床検査技師」がより専門性を高めようとするなかで取得する認定資格として位置付けられています。
そのため、臨床検査技師として経験を積んできた人が、キャリアアップを目的として細胞検査士になるケースも少なくありません。
しかし、臨床検査技師そのものの求人数がそこまで多くなく、とくに安定した形態で働ける正職員としての就職は狭き門となっています。
検査キットや機械の質向上により、今後も臨床検査技師や細胞検査士のニーズが大きく上がることは考えにくいです。
しかしながら、細胞の微妙な変化を見分けるためには、今のところ人間の目視による検査が必須であり、機械に頼れる段階にはまだまだ遠く及びません。
また、がん検診の啓蒙活動により細胞診の件数は多くなっており、今後も細胞検査士の活躍が期待されるところです。
細胞検査士の就職先・活躍の場
病院の病理検査室、民間の検査センターなど
細胞検査士の主な就職先は、病院の病理検査室や、検査センターです。
「病理検査」とは、その症状がどのようなメカニズムで起きているのかを検査するもので、健康診断のように健康な人を対象とするわけではなく、すでになんらかの症状がある人を対象とします。
規模の大きな病院には病理検査室が存在しますが、診療所では接種した細胞を民間の検査センターに出して、そこに在籍する細胞検査士が検査を実施します。
どちらで働くにしても、細胞検査士は医師から依頼を受けて症状や病変のある人の組織を受け取り、しかるべき染色を施したのち、顕微鏡ですみずみまで観察し、異常な細胞の有無、悪性か良性か、どのくらいの悪性度かなどを調べます。
そのほか、大学や民間企業の研究機関、あるいは製薬会社などに勤務する人もいます。
細胞検査士の1日
検査室で検査業務をする時間がほとんど
細胞検査士は、1日のほとんどの時間を各職場の「検査室」で過ごします。
顕微鏡など専門器具を使い、ひたすら検体の検査業務を行っています。
間違いや見落としがないように、細胞の標本観察中は高い集中力をもって臨まなくてはなりません。
ここでは、検査センター勤務の細胞検査士のある1日の流れを紹介します。
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細胞検査士のやりがい、楽しさ
病気の早期発見にも貢献する重要な役割を担う
細胞検査士は、医師などが採取した「検体」を相手にして、黙々と顕微鏡に向かう日々を送ります。
多くの医療スタッフのように、患者さんと直に顔を合わせることはほとんどありません。
しかし、細胞検査士は常に検体の向こう側にいる患者さんのための検査をしています。
自分が行った検査によって患者さんの病気が正しく診断されるのだと想像すると、きっと大きなやりがいを感じられるでしょう。
細胞診では将来的にがん化する可能性のある細胞を見つけることもできるため、見えないところでも、人の命や健康を守ることに大きく貢献できる仕事といえます。
細胞検査士のつらいこと、大変なこと
見落としやミスが許されない、緻密な仕事が続く
細胞検査士は、検体の前処理や染色、スライスなどを作る以外は、ほぼずっと顕微鏡に向かい続けます。
顕微鏡を長時間使用し続けると同じ姿勢が長く続くことにより、首から腰に掛けて凝り固まってきます。
肉体労働のような疲労はありませんが、目や肩、腰など、全身への負担はやや大きいです。
また、細胞検査士の検査業務は「がん」などの確定診断に関わる重要なものであり、見落としやうっかりミスのようなものは許されません。
すべての検体に対して、注意深く検査をしなければならず、精神的なプレッシャーも少なからずあります。
細胞検査士に向いている人・適性
細かな観察を黙々と続けることを苦にしない人
細胞検査士は、臨床検査のなかでも「細胞」に関する検査を行うプロフェッショナルです。
医師が採取した検体から標本を作製して染色し、一日中顕微鏡で観察(スクリーニング)を行います。
肉眼では見ることができないミクロの世界を丹念に観察し、異常な細胞があるかどうかを注意深く確認しなければなりません。
人の命にも関わる重要な検査を担当する以上、見逃しやうっかりミスは許されないため、正確さ、緻密さが求められる地道な作業を淡々と続けることができる人に向いているといえるでしょう。
観察力に優れている人や、細かな変化を見つけることが好きな人にも適性があります。
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細胞検査士志望動機・目指すきっかけ
病理検査で働くうちに目指そうと考える人が多い
細胞検査士は日ごろから病理検査室にこもりきりで検査をするため、なかなか一般の人や、他の医療スタッフにとってもなじみのない職業かもしれません。
しかし、細胞検査士を目指す人の多くは、もともと「臨床検査技師」として病理検査部に所属し、検体検査業務を経験しています。
そこで、認定資格を取得した「細胞検査士」が活躍している姿を見て、自分もさらに専門的な検査をしたいと考え、細胞検査士を目指す人が多いです。
なお、臨床検査技師がスキルアップするための認定資格には、細胞検査士以外にも超音波検査士、緊急臨床検査士、認定輸血検査技師など、さまざまなものがあります。
細胞検査士の雇用形態・働き方
正規雇用が中心だが、パートなど非正規雇用もある
細胞検査士の求人を見てみると、ほとんどの求人は正職員・正社員であることがわかるはずです。
正規雇用される場合、各医療機関や検査センターの従業員として、安定的に働き続けることが可能です。
待遇面についても、基本給に加えて資格手当がついたり、夜勤がある場合は夜勤手当もつくなど充実しています。
長期的にキャリアを築いていきたい人には魅力的でしょう。
このほか、細胞検査士はパートや臨時職員として求人が出ることもあります。
非正規雇用として採用される場合には、細胞検査ではなく細胞培養など一部の業務しか携われないことがあるため、事前に確認しておきましょう。
細胞検査士の勤務時間・休日・生活
日勤が基本だが、まれに夜間を含めたシフト勤務となる
病院や検査センターに正社員として雇用される細胞検査士は、1日7.5時間~8時間程度の勤務時間となります。
日勤中心で規則正しく働けることが多いですが、「臨床検査技師」としての業務を担当する場合、夜勤を含めたシフト制となることがあります。
休日は土日を含めた交代制勤務となり、週休1日~1.5日程度の職場が多いようです。
大学などの研究機関や製薬会社に勤務する正社員の場合は、土日祝の週休2日制、1日8時間労働が基本で、残業はそこまで多くならないことが多いでしょう。
勤務時間外や休日を使って、勉強会や研修会、学会などに積極的に参加する人もいます。
細胞検査士の求人・就職状況・需要
辞める人があまり多くなく、求人数は限られている
検査のオートメーション化に伴う臨床検査技師の就職難により、「細胞検査士」などの上級認定資格を取る人が増えました。
そのため、現在活躍している細胞検査士はほぼ飽和状態であり、求人も決して多いとは言えないのが現状です。
また「細胞検査士」は資格取得後も4年ごとに資格更新が必要で、期間内に実務が伴わなければ資格を失います。
資格を失わないようにするため仕事を続ける人も多く、離職率が低めであることも、求人の少なさの要因となっているようです。
ただし、病院や検査センターで人手が足りないときなどに、細胞検査士を募集するケースはあります。
病理・細胞診検査および細胞診検査実務経験者はとくに歓迎されやすく、「臨床検査技師」の実務経験が豊富な人は、就職に有利になることもあるでしょう。
細胞検査士の転職状況・未経験採用
待遇のよい病院への転職は簡単ではない
細胞検査士として働くには、細胞検査士の認定資格の取得が必要です。
まったくの未経験から目指すには、まず「臨床検査技師」の国家資格を取得して実務経験を積むか、細胞検査士になるための大学などで学ぶかといった方法をとらなくてはならず、かなりハードルは高めです。
また、いざ認定資格を取得しても新人を採用する求人は限られており、転職はやや厳しいと考えておいたほうがよいでしょう。
すでに経験のある人が、より待遇の良い病院への転職を希望する例はしばしば見られますが、規模の大きな病院ほど人気が高くなっています。
まず比較的転職しやすいとされる検査センターで働き、経験を積んでから大きな病院へ転職を目指す人もいるようです。