海運会社社員の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「海運会社社員」とは
海を利用し、船で石油や石炭、機械、食料品、日用品などのあらゆるモノを輸送する。
海運会社とは、石油や石炭、金属、セメント、化学薬品、自動車などの機械、さらには生鮮食料品や日用品といったありとあらゆるものを、「海」を利用して、必要な場所へと運ぶ会社です。
日本国内の港と港を結んで行う国内貨物の海上運送を「内航海運」というのに対し、世界各国の港と港を結ぶ海上輸送は「外交海運」といいます。
365日24時間、貨物の品質を保ちながら、貨物を必要な場所へ安全かつ効率的に運ぶことが海運会社の使命です。
海運会社の仕事は大きく、事務職や技術職に就く「陸上総合職」と、航海士や機関士として船に乗る「海上職」の2つの職種に分けられます。
海運会社の平均年収は700万円~800万円前後がボリュームゾーンとなっており、業界全体として給与水準は高めといわれていますが、大手とそれ以外の企業ではだいぶ差が出ます。
現在、世界中で運ばれる貨物の約97%を海運が担うなど、海運会社は重要な使命を担っていますが、良くも悪くも世界動向の影響を受けやすく、景気次第では会社の存続が危ぶまれる可能性もあります。
「海運会社社員」の仕事紹介
海運会社社員の仕事内容
あらゆる貨物の海上物流を手掛ける仕事
世界中の海を駆け巡るグローバルな仕事
海運会社は、船を利用して、石油や石炭、金属、セメント、化学薬品、自動車などの機械、さらには生鮮食料品や日用品まで、ありとあらゆるものを輸送する物流会社です。
輸送する貨物によって、コンテナ船やバラ積み船、オイルタンカーなど、さまざまな専用船を使い分けます。
自社で所有する船を使用する場合もあれば、「船主」から借り受ける場合もあります。
海上にも、陸や空と同じように、安全に船を運航させるための「海上輸送法」という法律が定められており、海運会社社員の仕事には操船スキルだけでなく法律知識も求められます。
また、海上での輸送は、日本国内の輸送を手掛ける「内航海運」と、国際的な輸出入を行う「外交海運」に大別できますが、外交海運は各国の領海をまたぐ分、業務はより難しくなります。
荷主や船主だけでなく、世界各国の港湾局や港湾関係会社など、多くの人と連携しながら船を運航させる、グローバルな仕事です。
陸上職と海上職
貨運会社には、陸上で事務作業や技術仕事を担う「陸上職」と、実際に海に出て働く「海上職」があります。
「陸上職(事務系)」には、営業、運航管理、企画、法務、人事、財務・経理、システム開発など、さまざまな仕事があります。
「陸上職(技術系)」は、技術部門で、新たに船を造る際のテクニカルな業務を行うことになります。
「海上職」は主に航海士や機関士として働き、陸上職とは別ルートで採用されます。
海運会社社員になるには
職種に応じた試験を受ける
陸上職と海上職で採用が分かれる
海運会社社員として働くには、各社が実施する採用試験を受ける必要がありますが、募集職種は、大きく「陸上総合職」と「海上職」の2つに分けられます。
陸上総合職は、さらに営業や船舶調達、運航管理、財務などの「事務系」と、造船計画や設計、技術開発などの「技術系」に分かれていることが一般的です。
海上職は、航海士や機関士など、乗船業務を行う職種で、船員教育機関で学んでいる人を対象とするコースと自社養成コースに分けて採用が実施されます。
採用枠は少なく、特定の企業に人気が集中
海運業界は、市場規模自体は大きいものの、昔から少ない人数でビジネスを動かしている業界であり、大手であっても従業員数は1000人以下の会社がほとんどです。
そのため、大手であっても新卒採用の人数は毎年50人程度であり、他の業界から比べると採用枠は少なめです。
とくに「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の3社は、「三大海運会社」とも呼ばれ、巨大なシェアと業績を誇っており、採用倍率が特に高く、就職は狭き門となります。
一方で、中小の海運会社などにはなかなか人が集まらず採用倍率が低めの企業も少なくはありません。
また世界を相手にビジネスを行う海運業界は、景気や世界経済の動向に左右されやすい業界で、景気が悪ければ求人数も急激に減る年もあります。
今後も景気悪化により求人数が減る可能性があるため、採用情報はこまめにチェックする必要があるでしょう。
海運会社社員の学校・学費
基本的に大卒以上の学歴が求められる
陸上総合職または海上職(自社養成コース)を志望する場合、ほとんどの企業で4年制大学卒業以上の学歴が必要になります。
陸上職(事務系)は新卒採用では全学部が対象のため、学部や学科は問われることはありません。
陸上職(技術系)の採用は、船舶工学、機械、電機など、業務に関連性の高い分野を専攻している理系出身のみで制限されることがあるため、進路を考える際には注意が必要です。
海上職の場合は、「船員教育機関」に該当する大学・高専(高等専門学校)・専門学校に進学するのが一般的です。
自社養成コースでない海上職については、海洋大学や商船高等専門学校などの船員教育機関で、「三級海技士」を取得していることが条件となります。
海運会社社員の資格・試験の難易度
必要資格取得のためには乗船経験が必要
海上職に必要となる三級海技士については、筆記試験、口述試験、身体試験が課されます。
筆記試験の難易度はそこまで高くありませんが、口述試験を受けるためには、大学や高専などの船員教育機関において1年間の乗船実習を受けるか、5年間の乗船履歴があることが条件となっています。
就職後に所定の研修を受けて資格を取得する自社養成コースもありますが、海上職への志望が固まっているなら、専門の学部・学科を設けている大学や専門学校に進学することが望ましいでしょう。
一方、陸上職の場合は、必ず取得しなければならない資格というのは特にありません。
就職をする上では有利となる可能性はありますが、各種資格を取得したからといって、昇進が早くなったり、資格手当などが支給されたりすることはありません。
海運会社社員の給料・年収
大手3社とそれ以外で明確な差が出ている
大手三社の給料は非常に高い
海運会社の平均年収は700万円~800万円前後がボリュームゾーンとなっており、かなり高い給与水準といえます。
大手海運会社のなかには100年以上の歴史を持つ企業もあり、安定した事業基盤の下に経営していることから、それらの企業が業界の平均年収を押し上げているともいえます。
また、大手3社といわれる「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」に対し、それ以外の会社では平均年収に数百万円程度の差が出ているところもあります。
大手の社員は年収1,000万円を超える人もいるようですが、世界経済の動向に左右されやすい業界であるため、景気次第では待遇に影響が生じる可能性もあります。
海運会社の給料が高い理由
海運会社の給料が高い理由としては、まず、近年のアジアなどにおける途上国のめざましい発展により、海運業界全体が好景気の中にあることが挙げられます。
また、近年こうした好景気を受けて船員の需要が増加傾向にありますが、船員は高齢の人が多く、世代交代が追い付いていない状況です。
船員の仕事は長期間陸を離れるため、どうしても不便な生活を強いられることになり、若い世代からはきつい仕事というイメージもありあまり人気がありません。
やむなく外国人を多く雇っている企業もあり、各社は深刻な船員不足に陥っています。
そのために業務の効率化や業務環境の改善をしつつ、給料も上げて船員を確保しようと各社が工夫を凝らしているのです。
関連記事海運業界の年収はいくら? 大手海運会社の給料もくわしく解説
海運会社社員の現状と将来性・今後の見通し
世界の動向に左右されやすい仕事
海運の需要は世界的に増加傾向
近年、新興国の発展や新たな地下資源開発によって、海運需要は世界的に増加傾向にあります。
国内に目を向けても、日本企業の海外輸出は堅調に推移しており、海運業は数少ない成長産業の一つに数えられています。
歴史ある大手3社を中心に、海運会社の業績は当面は安定した状況が続くと思われますが、景気の影響を受けやすいビジネスであるだけに、中長期的には不透明感が残ります。
ただしリーマンショックや欧州債務危機時のような世界不況に陥れば、事業環境は一気に悪化します。
好景気には業績を伸ばす企業が多いですが、ひとたび不況ムードが世界を包めば、一気に厳しい状況に追い込まれてしまうため、世界経済や政治情勢をよく注視しておく必要があるでしょう。
業界の再編が進み事業を多角化する傾向に
海運業界では、海運会社同士のM&A(合併、買収)も進んでいます。
日本郵船・商船三井・川崎汽船の国内最大手3社が、共同出資によるコンテナ船事業「OCEN NETWORK EXPRESS社(ONE)」を設立したことで注目が集まっています。
背景には、コンテナ船の運賃低下にともなう収益の悪化や、海外の大手海運会社のM&Aが相次ぎコンテナ船市場のシェア争いが激しくなったことなどが関係しています。
海運業界の勢力図は刻刻と変わっているため、今後も生き残りをかけたM&Aが増える可能性が高いでしょう。
また物流事業や陸運事業、海洋事業やLNG事業に注力する企業も増えつつあり、資本力のある大手の海運会社ほど、事業の多角化に積極的な傾向が見られます。
海運会社社員の就職先・活躍の場
活躍の場は世界中に広がっている
海運会社は、国内の港と港、日本の港と海外の港を結ぶだけでなく、日本以外の諸外国から別の国へと荷物を輸送するケースもあり、海運会社社員の活躍の場は世界中に広がっています。
運搬する貨物によって、資源国から工業国へ、あるいは農産品の生産国から消費国へと、さまざまな国で仕事をする機会があるでしょう。
若手のうちから海外出張や海外赴任する人も珍しくなく、グローバル志向の強い人にとって海運会社はうってつけの就職先といえます。
国内では、「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の3社が「三大海運会社」と呼ばれ、「鶴見サンマリン」や「NSユナイテッド海運」などは、内航海運で有名な企業です。
世界的にみると「マースクライン(デンマーク)」「MSC(スイス)」「CMA CGM(フランス)」が大きなシェアを持っています。
海運会社社員の1日
業務を交代しながら船を走らせる
海運会社社員のスケジュールは、陸上勤務か海上勤務かによって大きく異なります。
航海士の場合は、勤務時間は1日8時間程度に定められており、交代で操船や機器の保守点検に当たります。
<外航船で海上勤務する航海士の1日 >
海運会社社員のやりがい、楽しさ
海運会社は世界の物流を支えている実感
海運は、世界中で運ばれる貨物のうち、重量ベースにして実に約97%を占めています。
社会的に重要な役割をになう業界であるため、「世界経済を支える仕事がしたい」、「海外の新興国などの発展に貢献したい」などの目標を持ち、海運会社を志望する人も少なくはありません。
海運会社は、日本だけに留まらず、世界全体の経済発展に広く貢献できることが大きな魅力であり、海運会社社員はグローバルに活躍することができるでしょう。
また、発展途上国や新興国は、経済発展に伴ってその海運需要はいまだ増加傾向にあり、産業としての成長余地がまだまだ残されている点も、他の業界とは一線を画した海運会社ならではのメリットです。
海運会社社員のつらいこと、大変なこと
ビジネスのフィールドが広く、覚えることが多い
海運会社の取引先は世界各国にあり、その国その国における企業や役所などの関係各所と協議しながら仕事を進めなければなりません。
英語などの言語はもちろん、関連する法律や各国に特有の商慣習などもその都度学ぶ必要があり、覚えるべき知識量は膨大です。
また、大手海運会社の総合職として勤める場合、数年単位で各部門をジョブローテーションすることが一般的です。
入社時に営業職に配属された社員でも、何年か後には航路運営や広報、総務など別の部署に回されることもあります。
新しい部署に配属されるたび、業務を一から身につけなくてはならないため、常に新しいことに触れられるメリットはあるものの、初心を忘れず学び続けなればならない苦労もあります。
海運会社社員に向いている人・適性
世界をまたにかけて働きたい人
海運会社の事業は「グローバル」というキーワードがぴったりとあてはまる仕事であり、世界を股にかけて活躍したい人にとっては最適といえる業界の一つです。
部署にもよりますが、メールや電話などの日常業務のなかで英語を使用する頻度は非常に高く、またさまざまな国の取引先担当者や官公庁の役人と交流する機会があります。
さまざまな国を相手にして働くため、世界を舞台にして仕事がしたい人、異文化であってもコミュニケーションが上手く取れる人などが向いています。
特に海外出張の多い営業職、海外の港まで航海をする海上職などにおいては、頻繁に世界各国を飛び回る生活になることもあります。
英語をはじめとした語学に堪能で、フットワークが軽い人は、海運会社社員に向いているでしょう。
関連記事海運会社社員に向いている人とは? 適性や必要な能力を紹介
海運会社社員志望動機・目指すきっかけ
海運会社の特徴をしっかりと把握する
船や海への興味、語学力を生かしたいことがきっかけ
海運会社社員を目指すきっかけとして代表的なものは、船や海が好きだから、といったものや、語学力を生かして世界を相手に働きたいといったものです。
周囲を360度海に囲まれた島国である日本にとって、海運はなくてはならない産業です。
しかし、海運の事業はどちらかというと裏方の仕事であり、規模のわりにはあまり脚光を浴びる機会が多いとはいえません。
ひとくちに海運会社といっても、内航や外航、あるいは船の種類によって、貨物の得意・不得意があり、各社による棲み分けがなされています。
海運会社の志望動機を考える際には、漠然としたイメージに基づくのではなく、しっかりと各企業が営んでいる事業の特徴を掴むことが重要です。
企業の特徴や将来像を盛り込む
採用する側としては、どこの海運会社でもよいという人よりも、自分たちの会社だからこそ入社したいという人を求めています。
志望する海運会社固有の動機も盛り込み、その会社ならではの特徴をよく調べ、その会社でないといけない理由を明確化する必要があるでしょう。
また新卒社員の場合、採用時の能力やスキルよりも、5年後10年後の成長を期待して採用されるのが基本です。
将来的な目標やビジョンが固まっている人のほうが伸びしろを期待されるでしょう。
「採用後は発展途上国への輸送ルートを確保し世界中に物資を届けたい」、「船長になり多くの船員をまとめられる存在になりたい」など、自分ならではの目標やビジョンを明確化しておくことも大切です。
関連記事海運会社社員の志望動機と例文・面接で気を付けるべきこと
海運会社社員の雇用形態・働き方
海上職は海陸両方の業務をこなす
海運会社では、多くの人が正社員として雇用されています。
海運の仕事には語学力や専門知識を必要とするものが多いため、アルバイトやパートはあまり見られないでしょう。
なお、海上職であっても、働く場は船の上に限らず、多くの企業で海上勤務と陸上勤務を交互に繰り返す勤務体系が取られています。
海上勤務は、航海士や機関士として、数か月単位での乗船オペレーションをこなし、陸上勤務ではおもに自社の運航船舶を支援する仕事を担います。
海陸双方の業務に習熟することで、「海技力」といわれる専門スキルを身につけることができ、船舶や人員を管理する立場であるマネジメント職にキャリアアップする道が拓けます。
海運会社社員の勤務時間・休日・生活
勤務場所によって事情は大きく異なる
海運会社社員の勤務時間や休日は、陸上勤務か海上勤務かによって大きく異なります。
本社や事務所などの陸上勤務の場合は、本社や事業所でのオフィスワークが中心となるため、9:00~18:00くらいの間で勤務し、休日は土日を休みとする週休二日制が一般的です。
陸上職の場合は海外とやり取りをする機会も多いため、柔軟に勤務時間を決められる「フレックスタイム」が利用できる会社も多いです。
一方、海上勤務の場合は、基本的に船は24時間航行していますので、早朝勤務や夜勤、当直などを交代でこなすシフト制で働くことになります。
休日についても、半年程度乗船しては3~4か月程まとまって休むというサイクルを繰り返すケースが多いようです。
海運会社社員の求人・就職状況・需要
海運会社の求人数は少ない
大手海運会社などは毎年定期的に新卒採用を実施していますが、その採用人数は総合職で30名、海上職で20名程度と、他業界の大手企業と比較すると、決して多いとはいえません。
海運会社の特徴として、事業規模のわりに従業員数が少ないことが挙げられ、新卒求人数もどうしても限定的になってしまうようです。
一方、海運会社大手3社は就職先として人気が高く、多くの学生が志望するため、採用倍率は非常に高くなりがちです。
そのうえ、世界的に不況の時期には、採用人数が大幅に削減されたり、まったく採用が行われなかったりする可能性もあります。
海運会社へ就職を希望する際には、大手だけでなく、視野を広げてさまざまな企業の採用情報を集めておく必要があるでしょう。
海運会社社員の転職状況・未経験採用
新卒時より実力重視の傾向が強まる
海運会社では、不定期ながら中途採用も実施しています。
新卒も採用人数は限られていますが、中途採用においてはさらに募集人数は少なくなり、若干名の募集となることが多く、求人募集をほとんど出さない会社もあります
陸上総合職については、欠員状況に合わせて、新卒採用時よりも職種をある程度絞って募集されるケースが一般的です。
ただ、転職市場においても海運会社の人気は高いため、職種に応じた前職での経験があったり、できる限り高い英語力を身につけていたりすることが望ましいでしょう。
海上職についても、即戦力が求められる傾向が強まり、三級海技士よりも難易度の高い「二級海技士」など、よりハイレベルな免状を有していることが必要になるようです。
海運会社で大手といえばどこ?
「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の3社が「三大海運会社」
海運会社の有名企業としては、次のような会社が挙げられます。
・国内大手:日本郵船、商船三井、川崎汽船、飯野海運
・内航海運大手:鶴見サンマリン、NSユナイテッド海運
・海外大手:マースクライン(デンマーク)、MSC(スイス)、CMA CGM(フランス)
これらは企業規模も大きく、内航海運と外航海運の両方を手掛けています。
「鶴見サンマリン」や「NSユナイテッド海運」などは、内航海運で有名な企業です。
また、「〇〇タンカー株式会社」、「〇〇フェリー株式会社」といったように、タンカーやフェリーなど特定の船舶を専門とする海運会社もあります。
世界的にみると「マースクライン(デンマーク)」「MSC(スイス)」「CMA CGM(フランス)」が大きなシェアを持っており、国内においても日本支社として採用を行っています。