アカデミアとビジネスの世界をつなげ、学問の面白さを伝えたい!

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編集者山本 舞衣さん

2008年早稲田大学商学部卒業。同年、株式会社東洋経済新報社入社。3年半データベースの仕事につき、書籍編集出版局に異動。現在、教科書、専門書の編集を主に行っている。好きな言葉は「比較優位」。
座右の銘:明日死ぬつもりで生きなさい。永遠に生きるつもりで学びなさい。

編集者の仕事の内容について教えて下さい。

経済学の専門書、教科書の編集を主にしています。書籍編集の仕事は企画を立てるところから始まります。どのような本をつくっていくか、社内での企画会議や著者の方との打ち合わせを重ねて、それをもとに執筆をお願いします。

原稿が上がってきてからは原稿整理・校正作業です。頻出語句の表記を統一したり、参考文献のあらわし方を整えたり、誤字脱字に赤字を入れたり、読んで気になった部分や更に深掘りしてもらいたいところにコメントをつけたりして著者の方にお送りします。

加筆・修正をしていただいたら、それに対して私もまたコメントして……という作業の繰り返しです。その繰り返しの中で、だんだんと良い原稿になっていきます。

原稿の編集以外の仕事もありますか?

本になったときの文字の大きさやページの体裁、カバー・帯をどのようなものにするか、そういったことを考えるのも編集者の仕事です。デザイナーさんのところに伺って、本の内容を説明し、自分がどのような本にしたいと思っているか、イメージをしっかりお伝えしてデザインをお願いします。本のつくりからも、魅力が伝わるようにするためです。

宣伝・販売のしかたに関しても、どんな人に向けられた本なのか、関心を持ってもらうにはどうすれば良いのか、編集者自身しっかりと考えをもっておくことが大切です。

宣伝・販売に携わる営業職の方は多くの書店さんの情報を持ち、あらゆる本のトレンドに通じています。そんな営業のプロの見方と、その本に一番長く関わってきた担当編集者の考えを合わせた上で、どのように販売していくのか、と認識を共有します。編集者が書店営業にくっついていくこともありますよ。

一日の流れはどのように進みますか?

最近は9時ぐらいに出社しています。10時半までに出社すればよいことになっていますが、朝は電話があまり鳴らず静かなので、早めに出社して原稿を読んだり、集中しなければできない作業をしています。

その後は会議に出席したり、社外で著者の方やデザイナーさんと打ち合わせをしたりしています。丸一日会社に引きこもって黙々と原稿を読んでいる日もありますね。お昼ごはんは外に食べに行きます。食後は読みたい本を読んだり、近所の本屋さんをブラブラしたり、と気分転換の時間です。

帰りは早ければ19時くらい、遅い日は22時を過ぎますが、忙しいときでも徹夜したことはないですね。仮眠室はありますが、今のところ利用したことはありません。

出版社を目指そうと思ったきっかけはありますか?

小学生のころから本が好きで、将来は出版社で働きたいと思っていました。生来飽きっぽい性格で、いろいろなことにすぐ見切りをつけてしまうのですが、本にだけは、今に至るまで飽きたことがありません。

出版社は狭き門と言われていますが、努力したことなどはありますか?

特別何かをしたということはなく、日々本を読んでいました。大学生の頃に少し株式投資をしていたことがあって、面接ではそんな話もしました。それが評価されたかどうかはわかりませんが、この会社との相性のよさは何となく感じていました。

その年の新卒採用人数は6人と多めだったのですが、出版社の採用人数は少ない場合も多いので、最後には運や相性のような要素は大きいと思います。ただ、私の場合、編集職ではなくデータベース職での採用でした。

データベース部門から書籍の編集部門に移ったのですか?

初めは会社四季報にも載る大株主情報のデータベースを作る仕事をしていました。編集志望でしたので、書籍編集の部署に異動したい気持ちはずっとあり、折に触れ直属の上司や書籍の部署の方に異動希望の意思を伝えていました。書籍の企画会議に参加させていただけるよう直談判したこともありましたね。

もちろんデータベースの仕事はしっかりやりたいと思っていました。大株主データベースの責任者として、メンバー30人の仕事をより効率的にするためのシステム構築、プログラミングなどしていました。

その部署でしか学べないことも多く、しっかり身につければ、先でやりたい仕事ができるようになったときの糧になると考えていました。それに人間関係がとても良かったので、周りの人の役に立ちたいという気持ちがあったんです。自分の作ったシステムで作業効率が向上してみんなの帰社時間がちょっと早くなったときは嬉しかったです。

3年半ほどはそのような仕事をして、1年前に希望が叶い出版局という本を作る部署へ異動しました。今は「週刊東洋経済」の連載なども担当させていただいています。

どのような連載をしているのですか?

『学問の現場から2012』という連載で、若手研究者の方に、専門家ならではの視点からコラムをご執筆いただいています。経済学、経営学政治学歴史学の先生方がそれぞれ月に1回ずつ、4人での輪番連載です。実現するまでには、とても長い持間がかかりましたね。厳しいコメント、ダメ出しされるばかりの日々で、企画を何度も練り直しました。

ベンチャー企業の若い社長を取り上げることはちらほらとある一方で、若い研究者が誌面に登場する機会は少ないように感じたのが企画の始まりでした。

日夜仕事に打ち込むビジネスマンも、研究の最前線にいる気鋭の先生方も、目の前にある課題に真摯に向き合っている点では同じです。学問の世界とビジネスの世界は一見遠いように見えますが、深く関わりあい、尊敬しあい、高めあうものなのだと私は信じています。

一般向けの雑誌に記事が載ることは先生方の研究業績にはなりません。お忙しい中、執筆のお時間をいただくからには、尽力します。

編集の仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?

企画が実現へと向かっていく、その過程がなにより幸せです。

もちろん誌面や本になったときには得がたい喜び、やりがいを感じます。でも、進めていく中でどんどん内容が深まっていったり、これが刷り上ったら読んでくださった方にどんな風に受け止めてもらえるかなと想像しているときは本当に楽しくて、より良いかたちで印刷所に送れるよう、ギリギリまで、できる限りのことをと考えています。

逆に仕事の苦労や悩みはありますか?

人が相手の仕事なので、どんなに誠意を尽くしてもうまくいかないことはあります。企画を進めている段階で折り合わず、手を尽くしても結局そのまま立ち消えになってしまったり……。

著者の方とトラブルになったときは、申し訳なさと自分の情けなさに、悶々と悩み続けたこともありました。

社内の雰囲気はどうですか?

とても自由です。「週刊東洋経済」も実は違う局の仕事なのですが、やりたいと手を挙げて連載を企画し、担当させていただいています。

前の部署の上司も今の部署への異動を、とても応援してくれたんです。「嫌になったら帰ってきてもいいよ」と言ってもらえたことは、冗談だと思いますが、とても嬉しくて。私のなによりの強さは人に恵まれていることだなと思います。

違う社の編集者の方と繋がりがあったりしますか?

出版業界は大きな業界ではなく、一社あたりの人数は少なめです。出版社に新卒で入る人を合計しても大企業一社の新入社員数に満たないかもしれません。

同業他社の方とお会いする機会は多く、繋がりはできやすいように感じますね。飲みに行ったり、情報交換などもよくしています。

編集者に向いている人はどういう人だと思いますか?

当たり前すぎるかもしれませんが、やはり本が好きであることは大事だと思います。これから出版業界、本のありようがどう変わるかはわかりませんが、今出版業界にいる人たちの大多数は紙の本への愛情を持って仕事をしてきた人たちです。

何か新しいことを始めたり、大きな変化を起こすにも、その先輩方と共同で進めるケースが多いのではないかと思います。紙の本への理解と尊重を前提に、出版業界にとって新鮮な見方を取り入れられれば、編集者として良い仕事をできそうな気がします。

性格については、周りの編集者をぐるっと見ただけでも、それぞれに個性的です。物静かな人もいますし、とても社交的な人もいます。ですので、どんな性格の人が向いている、と一概には言えません。

でも、誰か面白い人やもの、多くの人に知ってもらいたい現実や物語、研究などに出会ったときに、「この人のために頑張りたい」「この人と一緒に良いものを作りたい」「これを世の中に広めたい」と強く思い、それを実現するまで裏方としての地道な努力を続けられるなら、きっと編集者としての仕事を楽しめると思います。

男性編集者と女性編集者の仕事の違いはありますか?

あまりないと思いますし、今のところ感じたことはないです。どれくらい徹夜ができるとかですかね?(笑)

出産して戻って来られる方も多いですよ。私が指導していただいている先輩もお子さんをおもちですし、女性も働きやすい環境です。家に仕事を持ち帰ることもできますし。

仕事と家庭を両立させている方は、とても時間の使い方がお上手です。驚くほどの短時間でクオリティの高い仕事をされていて、今は尊敬するばかりなのですが、私もそんな風に仕事を進められるようになりたいと思っています。

話は変わりますが、電子書籍についてはどう思いますか?

電子書籍とオンライン媒体は弊社が今、力を入れている分野です。私もオンラインチームに加わってFacebookページの運用や、東洋経済オンラインのコンテンツを担当しています。

タダで得られる情報の多い時代だからこそ、何かにお金を払っていただこうと思ったら、それと違う価値を生み出さなければなりません。これからの出版社がどのような価値を提供できるか、常に考えています。

お忙しい毎日の中で仕事以外の趣味はありますか?

趣味は読書くらいしかなくて……。面白味がなくてすみません。石井好子さんのエッセーは大好きです。太宰治の『女生徒』は昔読んで以来しばしば読み返していたり、あとは子供の頃から気に入っているムーミンシリーズは、最近文庫版を全巻そろえました。

お酒を飲みに行くのも好きですね。他には、書店イベントやセミナーに参加してみたり、秋葉原やコミックマーケットに通っていた時期もありました。

今は「論壇女子部」という部のメンバーでもあります。人文書を多くの人に読んでもらうことを目標に掲げているのですが、主に出版社、そして広告、IT企業……と会社の枠を超えた有志部員で、書店フェアや論客へのインタビュー、イベント取材などの活動をしています。

では、もし学生に戻れるとしたら何をしたいですか?

あまり戻りたいと思いません。クレッシェンドのように年々楽しさが増してきているので。それに、どんな時にもつらいこと、もうあんなに頑張れないなぁと思うこと、やり直したらこう運良くいかないかも…ということがあるので、どこかの時点に戻ってやり直したい気持ちはないですね。

いろいろな方とお会いするなかで、学生時代、もっと激しく勉強しておけば良かったと悔やむことは多いです。でも、戻ったところで自分の行動が変わるかは怪しいですし(笑)
これから勉強するしかないかな、と思っています。

あ、人生やり直し的な意味でなく自由な時間を与えられる、例えば一ヶ月だけ大学生に戻れるという趣旨の質問だとしたら、一人で何にも決めず、ふらふらとヨーロッパ旅行に行ってきます。

夢や目標はありますか?

経済学は一般の人にとって、どう世の中の役に立っているかわかりにくい学問かもしれません。

でも、たとえば今年2012年のノーベル経済学賞を受賞したのは、実際の社会制度の構築に応用することのできるマーケット・デザインの分野でした。

学問は机上の空論ばかりではないこと、そして知れば知るほど面白いものだということを、伝えていきたいと考えています。

専門家とビジネスマンを繋げる媒介になっていきたいです。私が出版局に配属されてから出会ってきたのが、素晴らしい研究者の方ばかりだからそう思えるのかもしれません。

今はまだ学問の世界への片思いのようなものですが、自分にできる限りのことを頑張っていきたいですし、まずは興味を持ってもらうための入口を一つひとつ作っていけたらと思います。

最後になりますが、これから編集者を目指す方にメッセージをお願いします。

出版業界を目指せば、出版不況という言葉が耳に入ってくるかもしれません。実際に売上が下がっているところではありますが、それを悲観していても仕方のないことです。

これからの出版の世界で自分に何ができるのか、前向きに考えてみて、希望が見えてきたら、ぜひ面白いことを一緒にやっていきましょう。

(取材・文:舟崎 泉美)